魔王と一緒
全ての魔族を地下世界に帰すため、魔族達を説得しようと魔王と一緒に出発したルドルフ達。
クルウは、城にいた魔族達を先に地下世界に戻し、説得して天の柱まで来た魔族達を送るため
そのまま天の柱の前で待機することになった。その為、クルウはジルベルトに同行できず
勇者たちに彼を任せたのだった。
魔族というのはとても頑丈にできているようで、
リーティエンドが破壊した城壁の下敷きになった魔族も、魔法で黒焦げになった魔族も
誰一人死者は出ておらず、「勇者達に負けた」という事実に渋々地下世界へと帰って行った。
「ねぇ、魔王サマ、それは何かしら?」
「魔王じゃなくて、名前で呼んでくれないかな?俺はもう魔王をやめたいし・・・」
「それで魔王サマ、それは一体何なのかしら?」
「・・・人の話聞いてたか?」
魔王ではなく名前で呼んでほしいと言ったジルベルトを無視し、リーティエンドは
ジルベルトの顔を指差した。彼女は出発した時からずっと気になっていたことがあった。
いや、リーティエンドだけではない。ルドルフもローランもマリアナも全員が気になっていた。
『なんでそんな恰好をしてるんだ?・・・えぇと、ジルベベト?』
「・・・こ、わい・・・の・・・」
不思議そうに「わうん?」と鳴きながらルドルフが尋ねると、ジルベルトは「これか?」と
自分の頭を触った。全員が「うん」と頷き、ジルベルトの返答を待った。
ウィルパ城から外に出たジルベルトは、ずっと頭に大きな被り物をしていた。
頭から首までををすっぽりと覆っている大きな被り物は、どこか不格好でもあった。
でこぼこして歪んだ形状と、そこに描かれている顔は、ハッキリ言って恐怖である。
色合いもさることながら、その色、ペンキのようなものが溶けて流れたような跡が
さらに恐怖を引き立てていた。
「俺たち魔族はずっと地下にいたからさ、太陽の光が眩しいんだよね。
だから、こうやって被り物をかぶって日差しを避けてるんだ。」
「まさか全員?」
「そうだよ、これはみんな自分たちで作るんだ。ちなみにこれは、クルウの手作り。」
『不器用すぎる!!』
ジルベルトの話を聞いて、リーティエンドは「もしかして」と何かに気づき
確証を得るためにジルベルトに尋ねた。
「初めてこの地上世界に来た時も、それをかぶっていたの?」
「あぁ、みんなかぶってたぞ。色んな形や顔があるって面白いな!」
「・・・この国を攻めた時も?」
「? そうだけど?それがどうかしたのか?」
やっぱり・・・と、一人頭を抱えるリーティエンド。
その様子に「どうしたんだ?」とルドルフは心配そうに顔を覗く。
「人族と同じ姿をしているのに、どうしてそれが魔族だってわかったのか、
ずっと疑問に思っていたんだけれど・・・謎が解けたわ・・・」
被り物をして攻めてこられたら、自分たちと同じ姿だなんて気づかないだろう。
さらに、そんな怖い見た目をした被り物だったらなおさら恐怖を感じる。
ある意味、魔族側に騙されたとも言えるだろう。
『ずっとかぶってるのか?それ』
「太陽に慣れるまで・・・かな?
あと、戦闘中とかは、敵味方の区別がつくようにかぶってるんだって。」
人族が被り物してたらどうする気なんだろう?と軽い疑問を抱きつつ
ルドルフはふと、不思議に思って「あれ?」と口を開いた。
『でもさ、ジルベレト?は、オイラ達の世界に行ってるんだよね?
その時もそんな恰好してるのか?』
「あっちはすごく背の高い建物が日差しを遮ってくれるから、かぶらなくても平気だよ。
あと、俺の名前はジルベルトね。言いにくいならジルって呼んでよ。」
二度も名前を間違えたルドルフに、俺の名前は呼びにくいのか?と
少し不安を覚えたジルベルトは、愛称の<ジル>で呼ぶように伝えた。
「ゆう・・・しゃ、さ・・・ま、の・・・せ、か・・・い・・・」
「興味はあるわね。勇者サマじゃ大した情報は得られないし、貴方から色々聞こうかしら?」
「おい!俺たちの目的を忘れたか?」
ルドルフが住む異世界に興味を持ったリーティエンドとマリアナの二人は、
ジルベルトから話を聞こうと思ったが、すぐにローランから注意されてしまった。
「俺たちの目的は、魔族を倒して地下世界に送り帰すことだ!」
『説得が抜けてる!』
「君さ・・・ほんとに人族?なんか、魔族側な気がするよ?」
『・・・ごめん、オイラ否定できない。』
「むしろ魔族って方がしっくりくるわね。」
「お前ら言いたい放題だな!」
俺は人族だ!!とハッキリと否定したローランは「行くぞ!」とずんずんと歩き出した。
それを見てリーティエンドは「そっちじゃないわよ」とローランとは反対の方向を指差した。
「名簿に記載された順で回るなら、こっちの街が先になるわね・・・
それにしても、細かいうえに丁寧に書かれていて、なんだか腹立つわ・・・」
『なんでだよ!!』
「クルウって結構マメだよねー。ご飯は三食たべろ、とか、夜はちゃんと寝ろ、とか。」
『マメ関係ないよ!?大事なことだよそれ!!』
「そうね・・・説得する魔王に倒られては困るわ。食事と睡眠は欠かさないでちょうだい。」
「・・・早く魔王をやめたい・・・」
はぁ・・・と深いため息をつく魔王ジルベルトに、お互い大変だよな。と
勇者ルドルフは同情するように、ぽんっと右前足でジルベルトの足を軽く叩いた。
そんなジルベルトにリーティエンドは冷たく言い放つ。
「やめるのは、魔族全員が地下世界に戻ってからにしてちょうだい。
今はその魔王という肩書を利用して説得をしていくんだから。」
「はいはい・・・」
そんな二人のやりとりにルドルフは、やっぱジルベルトって魔王って感じじゃないなー。と
思うのと同時に、リーティエンドの方が魔王に向いてそうだなー。などと考えた。
名簿に記載された街を目指し、ローランを先頭にしばらく歩いていると
最後尾を歩いていたジルベルトが「なぁ・・・」と話しかけてきた。
「そろそろ休憩にしないー・・・?」
「さっき休んだばかりじゃない。まだダメよ。」
「体力無いな、それでも魔王なのか!?」
「魔王関係ないし・・・暑い・・・」
『そりゃあ、そんな被り物してたら暑いよな・・・外さないのか?』
膝をついてぜーぜー言うジルベルトに、ルドルフは「わうー」と鳴きながら
被り物を外さないのか?と尋ねると、ジルベルト「イヤだ!」と叫んだ。
「外すくらいなら帰る・・・」
『どんだけイヤなんだよ!』
「もう・・・仕方ないわねぇ・・・日陰を探して休みましょうか。」
「やったー!!」
「ひ、かげ・・・さが・・・す・・・」
『日陰・・・見当たらないなー・・・この辺にはないか?』
「向こうに行けば岩陰がありそうだ。」
西の国は全体的に緑が少なく、荒野の鉱山の国であるため、日差しを遮るものがなく
被り物をしているジルベルトには厳しい環境だった。
さらに彼自身、地上に来てからほとんど外に出ていないため、まだ太陽に慣れていなかったのだ。
岩陰にたどり着き腰を下ろすと、まず水分の補給をした。
被り物を外したジルベルトは、疲れているのかそのまま眠りに落ちてしまった。
『寝た!?』
「ホントに体力ないのね・・・これは、長い旅になりそうね・・・」
ふぅ・・・と、諦めたようにため息をつくリーティエンドに、長い旅になると言われて
ルドルフは遠い目をして「わぅーん」と小さく鳴くのだった。
『オイラはいつになったら帰れるんだろうなぁ・・・』
しゅんとしているルドルフの頭にマリアナの手が乗せられる。
マリアナはルドルフを撫でながら、ゆっくりと「大丈夫」と言った。
「・・・きっと・・・す、ぐに・・・か、え・・・れる・・・」
『・・・うん・・・ありがとな・・・』
ルドルフ達はジルベルトが目覚めるまで、この岩陰で休憩することにした。
彼は夕方までぐっすり眠り、起きた頃には待ちくたびれたみんなが眠っていたため
結局その日は出発できず、そのまま野宿することとなった。
ジルベルトに体力なんてない。
*おまけ*
ジル「俺の被り物はクルウの手作りで、クルウの被り物は俺の手作りなんだ。」
ユキ「へー・・・(興味なし)」
ルドルフ『どんな感じの被り物なんだ?』
ジル「うさたん。」
ユキ「は?」
ジル「うさぎだよ、う・さ・ぎ。しかもピンクの!自信作なんだぜー!!」
ルドルフ『なんでうさぎ?』
ジル「顔は凶暴そうに書いて、見た目の可愛らしさとの差を出してみたんだ。」
ユキ「一言言わせろ、なんでそんなもん作った?」
ルドルフ『・・・凶暴なピンクのうさぎの被り物・・・』
ジル「ちなみにこれだ。」
ユキ「無駄にクオリティが高い!!」
ルドルフ『マリアナに見せたら泣き出しそうだ・・・』
ユキ「とりあえず、クルウがかわいそうな事だけはわかった・・・」
ジル「クルウなら喜んでかぶってくれたぞ?泣いてたし。」
ユキ「泣くほど嬉しかったのか、泣くほど嫌だったのか・・・どっちだ?」
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