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新たな目標

『ねえねえご主人、えれべーたーって何?』

「・・・上下に動く箱。」

「間違ってないけど、その説明は分かりにくいよ。」


ルドルフにエレベーターの説明をしたユキに、分かりにくいと言ったジルベルトだったが

いざ自分が説明しようとすると、上手く伝えることができず、ユキと同じ答えになっていた。


「それにしても、天の柱が地上と地下を繋ぐ移動手段だったなんて・・・まだ信じられないわ。」

「無理もない、僕だって実際この目で見るまでは信じられなかったよ。」


自分の理解を越えたものにリーティエンドは苦悩したが、

あとで天の柱をじっくり調べる事を心に決めると、頭を切り替えて話を切り出した。


「ねぇ、魔王サマ、あなたの命令なら、魔族は言うことを聞くわよね?」

「うーん、そうだなぁ・・・あまり無理な命令じゃなければ・・・」

「なら、今すぐ魔族全員に、地下世界に帰るように命令してちょうだい。」


それですべてが終わるわ。と、この面倒な旅を終わりにしたいリーティエンドがそう言うと、

ジルベルトは「まぁ、やってもいいけど・・・」と、なんだかハッキリしない返事を返した。


『これでオイラ達の旅も終わるんだな!』

「ん・・・お、つ・・・かれ・・・さ、ま・・・」


主人にも会え、大陸を取り戻すという勇者としての役目も終わると思ったルドルフは

これでご主人とおうちに帰れると、しっぽを振りながら喜んだ。


「でも、全員が全員、俺の命令を聞くとはかぎらないよ。」

「どういうこと?」


ぴくっと不機嫌な顔になるリーティエンドに一瞬怯えるが、ジルベルトはすぐに

魔族の全員が魔王に忠実なわけではないと伝えた。

それを聞いたリーティエンドの機嫌がますます不機嫌になる。


『魔王の命令は絶対、じゃないのか?』

「ジルはまだ子供だからね・・・幼い魔王というのは、どうしてもあまく見られてしまうんだ。」

「つまり、命令を聞かない魔族もいるってことね。」

「そうなんだよ。だから問題は、そいつらをどうするかってことで・・・」


魔王といってもまだ子供のジルベルトの命令を、素直に聞いてくれる魔族は少ない。

彼らが喜んで命令を聞くのはただ一つ、「戦う」という命令だけだった。

ジルベルトが魔族を帰すのが難しいと語ったのは、それが原因でもある。


しかし、リーティエンドは何か策があるのか「問題ないわ」と言ってローランを見た。

突然自分の方を向いたリーティエンドに驚きながらローランは口を開く。


「なんだ?」

「さっき、戦い足りないって言ってたわよね?」

「そうだが?」

「なら、命令を聞かない魔族は戦って言うことを聞かせる、というのはどうかしら?」

「どういう意味だ?」

「・・・あんた、話聞いてた?」

「いや、まったく。」


ローランの一言に一瞬空気が凍り付き、直後ローランの頭上に激しい雷が落ちた。

その光景を初めて見たユキ、クルウ、ジルベルトの三人は、驚きを隠せず、

一体何が・・・?とルドルフやマリアナに説明を求めた。


ルドルフは「わうー」と少し呆れたような声で鳴いて「気にしないで」と言った。


『いつものことだから・・・』

「随分慣れてるんだね・・・って、いつものこと!?」

「う、ん・・・いつ、も・・・なの・・・」

「クルウ・・・俺、人族怖いわ・・・」

「・・・ルー、苦労したんだね・・・」


リーティエンドの魔法の威力もさることながら、

その魔法の直撃を食らってもケガひとつなくピンピンしているローランに

彼らはもう驚きを通り越して、乾いた笑いを浮かべるのだった。


魔法を放って落ち着きを取り戻したのか、リーティエンドはローランに説明を始めた。

その手には、いつでも魔法が撃てるように魔導書が準備されている。


「いい?魔族たちが全員地下世界に帰れば、この大陸を取り戻したことになるわ。

 けれど、魔王の命令をもってしても全員を帰すことができないの。」

「ふむ・・・」

「命令を聞かない魔族は、あんたと同じように戦いに飢えている連中が多い

 だから、そういう魔族には力ずくで言うことを聞かせようということよ。」

「つまり?」

「・・・あんたに説明は無意味だったわね・・・」


はぁ・・・とため息をつくと、リーティエンドはローランにわかるように一言でまとめた。


「魔族を倒して地下世界に帰す。それが新しい目標よ。」

「魔族を倒す・・・あぁ!まかせろ。」


再び戦えることを嬉しく思ったローランは、気合十分で返事をした。


「なんか、色々勝手に決まってるけど・・・俺達おいてけぼり?」

『いつものことだよ・・・』


リーティエンドの中で勝手に話が進んでいることに気づいたジルベルトは、

なんでそんな話になってるんだろう?と不思議に思ったが

ルドルフの諦めが混じった鳴き声を聞き「あぁ・・・」と何かを悟るのだった。


「さぁ、勇者サマに魔王サマ、魔族どもを説得たおしに行くわよ。」

「えっ!?俺も行くの?」


リーティエンドの言葉の裏で、なにやら物騒なルビが振られたような気がしたユキは

この人の方が魔王っぽいな・・・と心の中で思うのであった。


「そういうことなら名簿を取ってくるよ。

 この国に移住した魔族は全員記録してあるからね、役に立つはずだよ。」

「そんな事務的なこともするなんて意外ね・・・でも助かるわ。」


そう言ってクルウは名簿を取りに部屋を出て行った。

残されたジルベルトは、自分に選択権はないんだろうかと考えていた。

できればそんな疲れること、面倒なことはしたくないので、なんとか断れないかと

リーティエンドの方に視線を移し、手に準備されたままの魔導書を見て悟った。


「無理だな。」

『なにが?』

「いや、なんでもない。」

「・・・まぁ、がんばれ・・・」

『他人事!?』

「だって俺、カンケーないし。」

『た、たしかに・・・』


勇者でもなければ魔王でもない、ただの一般市民であるユキは同行する必要がなかった。

そんな彼を、ルドルフもジルベルトも羨ましく思った。


やがてクルウ戻ってくると、本の厚さほどありそうな名簿をリーティエンドに手渡した。


「これに魔族の名前、住まい、家族構成が記してあるから・・・と、文字は読めるかい?」

「・・・問題なく読めるわ。でもこれは・・・古代文字ね。」

「僕らの字はこれなんだけどね。人族の文字は違うのかい?」

「違うわね・・・でも、色々興味深くなってきたわ。」


地上世界ではもう誰も使うことのない古代文字。

魔族がそれを使っていることに興味を抱いたリーティエンドは

彼ら魔族の歴史や知識を手に入れるという、新しい目標ができたのであった。


「天の柱を通って地下世界に戻るから、まずは天の柱にみんなを集めないとね。

 ・・・それとジル、出発する前にユキを家に帰してあげるんだよ。」

「え、なんで?」

「一緒に連れて行く気か?何かあったらユキの家族が心配するだろう?」

「むー・・・わかったよ・・・」


あからさまに不機嫌な顔を浮かべ、ジルベルトはユキの手を取った。


『あっ!ご主人が帰るならオイラも!』


その様子を見て、また離れ離れになると思ったルドルフは、慌てて追いかけようとした。

しかし、後ろからぎゅっ!と誰かに体をつかまれて身動きが取れなくなってしまう。

振り向くとそこには、ルドルフの体にしがみつくマリアナの姿があった。


「・・・いっちゃ・・・やだ・・・」


小さな声でそう言ったマリアナに、振り落とすこともできずルドルフは困惑した。

そんなルドルフに、主であるユキの声が届く。


「じゃ、頑張ってねー、ルー。」

『あぁ、待ってご主人・・・ご主人ーーーー!!』


ルドルフの叫びも空しく、ユキとジルベルトはまばゆい光に包まれて消えていった。


しばらくして、ユキをちゃんと家に送ったジルベルトが戻ってきた。


戻ってきたジルベルトは、まるで世界の終わりのような落ち込み方をした

ルドルフの姿を目にし、酷く驚くと同時に、出会った当時のユキを思い出すのだった。


『ごしゅじん~・・・・』



魔王が仲間になった。(チャラーン♪)


*おまけ*


ルドルフ『ご主人の人でなしー!なんでオイラを置いていくんだよー!』

ユキ「だって俺、明日学校だし。」

ルドルフ『いや、そうじゃなくて・・・一緒に連れ帰ってほしかったんだよ。』

ユキ「だって、ルーを連れ帰ったら話が進まないじゃん。」

ルドルフ『メタいよ!?』

ユキ「それに、ルーはフラグ立ててたじゃん。」

ルドルフ『フラグ?』

ユキ「3つくらい前のおまけコーナーで言ってた。」

ルドルフ『・・・えぇっ!?あれが原因!?』

ユキ「・・・まぁ、がんばれ。」

ルドルフ『うぅー・・・』


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