魔王は職業
魔王のいる玉座の間は重く大きな扉の先にあった。
固く閉ざされた扉の前までやってきたルドルフ達は、その扉の大きさに驚いた。
『でっかい扉だなー!』
「そうだね。」
『・・・開けないのか?』
「重そうだからやだ、ルー開けて。」
『オイラも無理だよ!?』
「なら、壊してしまいましょうか?」
「なんで壊そうとするんだい!?素直に開ければいいだけじゃないか。」
「クルウ、ここの扉なんで閉めたの?」
「そりゃあ・・・演出的にいいかと・・・」
『それだけの理由!?」
閉ざしたままの扉の前で、ルドルフ達がワイワイとどうでもいい話をしていると、
突然扉の向こうでドンッ!と扉を叩くような音がした。
『今の音は・・・?』
「・・・ジル?そこにいるの?」
「どうしたんだ、どこか痛いのか!?」
「・・・ユキ?・・・クルウもいるのか・・・」
扉の向こうから聞こえてきた声は、魔王という雰囲気はまったくなく
どこにでもいそうな少年の声だった。
ユキとクルウはその声が魔王ジルベルトの声とわかっていたため、
彼の突然の行動にどうしたんだろうと疑問を抱き理由を尋ねた。
「・・・扉を開けてほしいんだ・・・俺の力じゃ開けられなくて・・・」
魔王の言葉にその場にいた誰もが「どうして扉を閉めたんだ?」と
クルウの無駄な演出に呆れるのだった。
『魔王が開けられないんじゃ、オイラたちにも無理なんじゃ・・・?』
「あぁ、大丈夫。ルーには脳筋がいるから。」
そう言って後ろの方でむすっとしているローランを見た。
ルドルフもユキの視線を追ってローランを見つけると「あっ!」と声を上げた。
『そっか、ローランならこの扉を開けられるかも!頼むローラン。』
「断る!」
『なんで!?』
「魔王と戦えないなら、扉を開けても意味がないだろ。」
「ホントに戦いしか興味ないんだな・・・脳筋と狂戦士を足して2で割った感じ?」
『なんで2で割るの!?・・・じゃない!どうしようご主人~。』
扉を開けることをローランに拒まれ、一同はどうやって扉を開けたものか考えた。
一番の策は、全員で扉を押す事だろう。全員の力を合わせれば扉を開くことができるだろうと
クルウはそう話したが、ユキとリーティエンドに全力で断られてしまった。
「なら、どうやって開ける気なんだい?これ以上の策は僕には思いつかないよ?」
「そうね・・・やっぱり壊すのが手っ取り早いと思うわ。」
「中にいるジルがケガをするから駄目だ!」
『・・・決まりそうにないな。』
「そうだね。」
扉を開ける方法で言い合いをしているクルウとリーティエンドをしり目に
ルドルフとユキがどうしたものかと考えていると、おずおずとマリアナがやってきた。
『どうした、マリアナ?』
「・・・あ、あの・・・と、びら・・・あ、ける・・の・・・」
「・・・何か方法が?」
「は、い・・・せん、し・・・さま、に・・・おね、がい・・・し、て・・・」
『でも断られたよ?』
「その・・・せ、んし・・・さま・・・は・・・ほめる・・・といい・・・」
『・・・褒める?』
「あー・・・脳筋の正しい使い方・・・」
『何の話!?』
「ルー、今から言う言葉をそのまま脳筋に言って。」
『・・・ご主人・・・名前で呼んであげて・・・』
ユキからローランに伝える言葉を教わったルドルフは、壁に寄りかかり
不機嫌な顔をしたままのローランに近づき、「ワン!」と力いっぱい吠えると
一字一句間違いのないように伝えた。
『ローラン、オイラ達じゃあの扉を開けることはできない。
これは、能力が高くて筋肉質な頼れる仲間であるお前にしかできないんだ!』
ルドルフが真剣な表情で「頼む!」というと、ローランの表情が少し変わり
考えるような素振りを見せた。様子を眺めていたユキは、もう一息か、と思った。
『オイラたちは、お前に頼るしかないんだ!!』
もう一度ルドルフが「頼む!」とお願いしたところで、ローランは「仕方ないな」と呟いた。
その顔は緩み切っていて、ご機嫌を取るのに成功したのだと一目でわかった。
ローランが固く閉ざされた重い扉を力いっぱい押すと、扉はズズズ・・・と音を立てて
ゆっくりと開いていった。扉をすべて開くと「どうだ!?」と言わんばかりの顔で振り向いた。
『すごい!開いたぞ!ありがとなーローラン。』
「さすが脳筋・・・」
「よか・・・た・・・」
『マリアナもありがとな!』
「・・・う、ん・・・」
扉が開き、魔王がその姿を現した。
「ユキー!!俺は魔王をやめるぞーーーーーーー!!!」
「なんだいきなり。」
姿を現した魔王ジルベルトは、まだ子供と呼べるほどの幼さを持った少年であった。
魔族の特有赤い髪と、それとは対照的な青い瞳を持ったただの少年。
それが、魔王を初めて見たルドルフ達が抱いた印象であった。
「この子が魔王?ただの子供じゃない。」
「そうだ。ジルはまだ幼い子供だ。」
『そんなやつが、なんで魔王なんだ?』
「まぁ・・・こちらの風習みたいなものでね・・・」
ユキの両肩を掴み、真剣な表情で魔王ジルベルトは口を開いた。
「俺は魔王をやめる!」
「だからなんで?」
「魔王は勇者によって倒されるんだろ!?」
「まぁ、普通は。」
「正しい事をしていても倒されてしまうんだろ!?」
「正しい事をする魔王ってなんだ?」
「俺はまだ死にたくない!だから俺は魔王をやめる!!」
「最初からそう言え。」
言いたいことを言い切った魔王ジルベルトは落ち着きを取り戻り、
ユキとクルウ以外の人物と犬がいることに気づく。
「あれ?そいつらは誰だ?」
「俺の飼い犬のルーと愉快な仲間たち。」
「へぇー、お前がそうなのかー。よくこんな所までこれたなー。」
「ちなみに勇者だ。」
勇者という言葉を聞き、一瞬固まるジルベルト。
すぐに「俺はもう魔王じゃないぞ!」と叫び「殺さないでくれー!」と命乞いをした。
クルウはそんなジルベルトに「大丈夫だ」と声をかけ、事情の説明をしたのだった。
「・・・つまり、俺たち魔族が地下世界に帰れば、俺は死なずに済むってことか。」
「そういうことよ。」
「うーん・・・ちょっと難しいかなぁ・・・」
『なんでだ?』
「だって地上は食べ物おいしいし、住み心地もいいしー・・・というのは冗談だけど。」
『冗談なのか!?』
「ルーうるさい」
『怒られた!?』
主人であるユキに怒られたルドルフは「くーん」と切なく鳴いて落ち込んだ。
それを気にすることなくユキは、ジルベルトに続きを話すように促した。
「俺たち魔族は・・・まぁ、人にもよるけど暴れるのが好きなやつが多いんだ。」
「暴力的、とでも言えばわかりやすいかな。」
「それで、ここだと戦えるからって、すごいみんな生き生きしてるんだよね。」
「人族という自分たちと違う存在と戦えるのが楽しい・・・そんなところだろうね。」
「・・・クルウが説明した方が早くないか?これ。」
「僕は補足してるだけだよ。ほら、まだ話は終わってないだろう。」
むう、とふくれるジルベルトに「わかったわかった」と説明を変わるクルウ。
クルウが話を再開しようとした矢先、リーティエンドが口を開いた。
「その前にひとつ聞いていいかしら?」
「なんだい?」
「どうしてそんな子供が魔王なの?」
「俺がくじ引きで魔王を当てたから。」
『魔王が当たるくじ引きって何!?』
「我々魔族は次代の魔王を決める時、公平になるようにクジで決める風習があるんだ。」
「それでこんな子供に?」
「そうだよ。だからジルの右腕として僕が補佐を行っているんだ。」
『補佐・・・魔王って普段なにしてるんだ?』
「魔王の仕事は、基本的に土地開発や住民の不満解決、あとは新種の野菜の開発とかかな?」
『オイラが想像してる魔王となんか違う・・・』
それはルドルフだけが感じたことではなく、ここにいるクルウとジルベルト以外の全員が
魔王という存在を勘違いしていたことに気づかされたのであった。
脳筋と書いてローランと読む(違います)
ジルベルトが「魔王をやめるぞー!」と叫ぶところは初期段階からあったので
ようやく書けて満足w
*おまけ*
ユキ「あ、それクリアしたんだ?」
ジル「あぁ、クリアした。クリアしたが・・・」
ユキ「何?」
ジル「魔王、酷い言われようだったぞ、最後も酷かったし・・・」
ユキ「ラスボスだし、それが普通。」
ジル「俺はそんなんじゃないー!やっぱ魔王やめるー!」
ユキ「ゲームと現実は違う・・・あ、聞こえてないか。」
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