表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/39

戦いの果てに

「ここから先は行かせない!」


魔王がいると思われる玉座の部屋を目指していたルドルフ達の前にクルウが立ち塞がった。

クルウは一冊の本を手にしており、それが何の本であるか気づいたリーティエンドは

驚いた声で叫ぶ。


「魔導書!?どうして魔族のあなたがそんなものを持っているのよ!」

「言ったはずだよ。魔族の中にだって頭脳派はいるって・・・」

『お、おい、一体どうしたんだ?』


わけがわからないルドルフは説明を求めてリーティエンドの方を見た。

瞬間、リーティエンドの口が動き呪文が発動した。それはクルウも同じだった

二人の魔法が衝突しドーンという爆発音と白煙がルドルフ達を包む。


『けほっけほっ・・・なにが起きたんだ・・・?』

「私の詠唱についてこれるなんて・・・なかなかやるわね。」

「やはり早いな・・・でも、引くわけにはいかない。」


ルドルフが状況を理解できぬまま、再び魔法の詠唱を始める二人、

しかし、詠唱が終わる前にローランが距離を詰めてクルウに切りかかろうとしていた。


「ガラ空きだ!!」


しかし、ローランの攻撃がクルウに届く直前、何かによって攻撃は弾かれ

ローラン自身もその何かによって突き飛ばされた。

一瞬の出来事に驚いたローランであったが、すぐに態勢を立て直し

自分を突き飛ばしたであろう何かを確認した。

その何かは、クルウ守るようにあった。


いつの間にか人が入れそうなほど大きな木箱がクルウの前に現れていた。

ローランの攻撃を防ぎ弾き返したのはこの木箱なのだろう。

しかし、なぜ木箱が・・・と、そんなことを考えていると、木箱がガタガタ揺れ

木箱の中からくぐもった声がした。


「・・・クルウ様は、俺が・・・守る。」

「なっ・・・この木箱は生きてるのか!?」

「君はバカなのか、そんなわけないだろう!」


動き喋る生きた木箱だと思ったローランは酷く驚いたが、すぐにクルウに否定された。


「彼は僕の部下でね、わけあって木箱の中から援護してもらってるんだ。」


木箱の中に入っている部下というのはアルフレッドである。彼が言うわけあってとは

彼の臆病な性格上、姿をさらすことが無理だったため、木箱に隠れることにした。

というものである。木箱に隠れている間は問題なく戦えるようである。

もっとも、アルフレッド自身戦うことはせず、彼はただクルウを守るだけである。


ローランの攻撃はことごとく木箱に入ったアルフレッドに防がれ、

リーティエンドとクルウも互角の魔法勝負を繰り返していた。


「・・・キリがないわね。」

「そろそろ・・・諦めてくれないかな?」

「こっちもこんな面倒な旅、今すぐ終わりにしたいのよ。早く諦めてくれない?」


お互いに早く諦めてほしいと思っているため、なかなか決着のつかない二人。

そんな戦いを後方で眺めていたルドルフは、様々な匂いが充満するこの場所で

ふと懐かしい匂いがしていることに気が付く。


『あれ?この匂い・・・どこから・・・』

「どう、し、たの・・・?」


きょろきょろと匂いを探すルドルフをマリアナは不思議そうに見ていた。

やがてルドルフは、地面に鼻をつけ、匂いを辿るように歩き出した。


「ちょっ、ちょっと!どこに行くのよ!」

「勇者!そっちには敵が・・・!」


ローランとリーティエンドの脇を通り、木箱に近づくルドルフ。

アルフレッドは木箱の中から「え?え?」と戸惑うが、匂いを嗅ぎながら歩くルドルフは

そのまま木箱の脇を通りすぎ、クルウの所へ歩いていく。


「な、なんだ・・・急に・・・?」


クルウの足元まで来てクンクンと匂いを嗅いだ後、ルドルフは顔を上げて

不思議そうに「くぅぅん?」と鳴いた。


『お前からご主人の匂いがする。』

「え?」


ルドルフの言葉に驚いたのはクルウだけじゃなかった。

ローランもリーティエンドもマリアナも驚いていた。驚かなかったのは

事情を知らないアルフレッドだけで、彼は不思議そうに木箱の中から様子を伺っていた。


戦闘は一時休戦となり、ルドルフの側に三人が駆け寄る。

クルウは腕を組み、ルドルフの言葉にしばらく考え込んだが

やがて理解したように「なるほど」と口を開いた。


「君がユキの探しているルーなんだね。」

『ご主人の名前!やっぱご主人を知ってるのか?』


急かすように「ワンワン」と吠えるルドルフ。

クルウは「わかったから落ち着け」とルドルフを落ち着かせてから話を始めた。


「君の飼い主であろうユキはここにいるよ。魔王の友人としてね。」

『・・・ご主人、すごい人と友達に・・・』

「彼ならこの先の部屋にいるから会いに行くといい。君の事をずっと心配していたからね」

『ご主人~!!』


自分の主人であるユキがこの先にいると聞いたルドルフは、猛スピードで走りだした。

ローランたちもそれに続こうとしたが、クルウが行く手を阻んだ。


「君たち人族は行かせない。魔王を・・・ジルを殺させやしない。」

「勇者を通したなら、その仲間である俺たちも通すべきだろ。」

「筋肉バカが正論を・・・明日は嵐かしら・・・」


クルウは魔導書を広げ、呪文の詠唱を始めた。

しかし、クルウが詠唱を終え魔法を発動する前に

リーティエンドが魔法を発動し、クルウを吹き飛ばした。


「なっ・・・がはっ・・・なぜ・・・」

「クルウ様!!」


倒れたクルウの側にやってきたリーティエンドは見下ろしながら微笑む。


「ごめんなさいね。本気を出せばこの程度は造作もないの。」

「ははっ・・・ほんとに君たちは・・・すごいな・・・」


リーティエンドの本気を垣間見たクルウは自らの敗北を悟った。

そして同時に、自分が負けたことで魔王を守るものがいなくなってしまったと

悔しそうに顔を歪め「ごめん・・・ジル・・・」と義弟おとうとの名を呟いた。

そんなクルウを見下ろしながらリーティエンドはため息交じりに口を開いた。


「別に、魔王の命まで奪う必要はないのよね。」

「・・・何を言っている?」

「私たちの目的はあくまで<大陸を取り戻す事>であって、魔王倒す事じゃないってこと。」

「しかし、君たちは勇者で・・・」

「たしかに王様には魔王を倒せとは言われたわ。でも、神族の予言には

 <魔王を倒す>なんて言葉はなかったわ・・・つまり、倒さなくてもいいってことよ。」


そう言ってからローランに目線を移した。

ローランは木箱の中に入ったアルフレッドと激しい戦いを繰り広げている。


「・・・あれは倒す事しか考えていないでしょうけれど、私は違うわ。」

「本当に・・・魔王を・・・ジルを殺さないでいてくれるのか・・・?」

「正直もう戦いたくないのよ。話し合いで解決するならその方が楽だわ。」

「・・・そうだな・・・あの子が傷つかないで済むなら、その方がいい・・・」

「あ、・・・あの・・・か・・・か、いふ、く・・・し、ます・・・」


いつの間にかマリアナがクルウとリーティエンドの側にやってきていた。

話を聞いていたのだろう、マリアナは杖を掲げ回復魔法でクルウの傷を癒してあげた。


「どうして僕を?」

「・・・わる、い・・・ひと、に、は・・・・みえな、か、た・・・から・・・」


助けた理由を尋ねられて、しどろもどろに「悪い人には見えなかった」と

答えたマリアナにクルウは「ありがとう」と感謝の言葉を述べるのであった。


「そろそろ感動の再会が終わった頃かしら?私たちも行きましょうか。」

「・・・あれはほっといていいのか?」


ルドルフを追って歩き出したリーティエンドに、クルウは未だにアルフレッドと

戦い続けているローランを指差して言った。


「あれが来るとややこしくなるわよ?」

「仲間をあれ呼ばわり・・・まぁ、ほっといていいならいいが・・・」

「あ・・・はこ・・・」


マリアナがそう言った時にはもう遅く、

ローランの攻撃がアルフレッドの隠れていた木箱を破壊していた。

隠れる木箱を失い姿を現したアルフレッドは悲鳴のような声を上げながら

まるで風のような素早さで逃走した。


敵前逃亡したアルフレッドに、ぽかーんと呆気にとられるローラン。


「今のはなに?」

「・・・僕の部下のアルフレッド・・・その、とても臆病な青年で・・・」

「・・・それで木箱に?」


リーティエンドの問いに気まずそうに頷くクルウ。

戦う相手がいなくなったローランは剣を鞘におさめこちらに振り返った。


「・・・なんだ?その魔族は倒せなかったのか?俺が代わりに倒してやろうか?」

「ひいぃ!!」


クルウがまだピンピンしていることに気づいたローランは

にやにやしながら指をならす。そんなデジャブにクルウは悲鳴を上げた。


「やめなさい、戦う必要はもうないわ。ほら、さっさと行くわよ。」

「は?どういうことだそれ?魔族を全滅させるんじゃないのか?」

「恐ろしいことを言うな・・・」

「・・・ホントにこの筋肉バカは・・・」


状況がまったく呑み込めていないローランは、リーティエンドに説明を求めたが

彼女はそれに答えることなく歩いていく。

そんな様子を見ながらクルウはマリアナに「大変だね・・・」と呟くのだった。


*おまけ*


リーテ「そういえば、その魔導書はどこで手に入れたの?」

クルウ「これかい?これはこの城の地下の物置にあったんだ。」

リーテ「へぇ・・・ここの王様は魔法に詳しいのかしら?」

クルウ「多分違うと思うよ。見つけた時、この本は埃かぶってたし・・・」

リーテ「貴重な魔導書を放置して埃まみれにするなんて・・・お仕置きが必要かしら?」

クルウ「・・・君の仲間の戦士も物騒だけど、君も結構物騒だね・・・」


*****


魔導書は魔法が書き記されている本で、ページにそれぞれの魔法陣が書かれているため

その本を持っていれば簡単に魔法が使えるという優れもの。

遥か昔、神族が人族に魔法を教えるために作られたものだと言われており

その数は限られている。魔法の資質がないものにはただのボロい本でしかない。

(後付け設定w)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ