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厳戒態勢

魔族たちの本拠地であるウィルパ城。

勇者ルドルフたちとの交戦後、戻ってきたクルウは兵士を集め、

城の守りを厳重にし、勇者一行を迎え撃つ準備を整えた。


守備を固めたクルウは、次に勇者と対峙する魔王の見た目を考えた。

まだ子供のジルベルトに重たい鎧は着せられない。ならば・・・と

クルウは肌触りがよく綺麗な装飾品のついた高価そうな服を持ち、

未だ自分の部屋に閉じこもっている魔王ジルベルトの所へ向かった。


「あ、ユキ。丁度いい、ジルの様子はどうだい?」

「様子・・・?」


部屋の近くまで来た時、ちょうど部屋から出てきたユキと鉢合わせたクルウは

ユキにジルベルトの様子を尋ねた。今現在、ジルベルトと一緒にいるのは彼だけである。


「・・・ゲームやってる。」

「いつも通りだな。いや、それはそれで困るか・・・」


ジルベルトはここ毎日ゲームばかりしていた。それについて怒る気はもうないが

食事や睡眠はちゃんと取ってほしいとクルウはいつも心配していた。


「ちゃんと食べてるし寝てる。そこまで心配ない・・・」

「そういうことじゃないんだ、今回ばかりは。」

「・・・?何かあった?」

「勇者がこの城に攻め込んでくる。」

「へぇー・・・ラストダンジョン突入、エンディングまでもう少しって感じか・・・」


まるで興味がないようにそんなことを言うと、ユキはクルウに「お腹空いた」と伝えた。

食べるものが欲しくて部屋から出てきたようだ。

クルウは「あとで運ばせる」と伝えると大きく息を吐いてから言った。


「とにかく、ジルに伝えてくれないか?この服を着て玉座に座るようにと。」

「やだめんどい。」

「即答しなでくれ。というか、魔王は玉座で勇者を待つものなのだろう?

 ジルの友人として、君も手伝ってくれないか?」

「やだめんど・・・」

「いいから手伝うんだ。戦えとまでは言わないが、多少の時間稼ぎはしてほしい。」

「えー・・・」


強引に腕を引っ張られ、部屋の中に連れて行かれるユキ、部屋の中では真剣な表情の

ジルベルトが携帯ゲーム機とにらめっこをしていた。

クルウはジルベルトに近づくと、先程ユキに言った言葉をそのまま伝えた。


「・・・今いい所なんだ、後にしてくれ。」


こちらに視線を動かすことなくゲーム画面を見つめているジルベルト。

そんな姿にため息をこぼし呆れるクルウ。クルウは「わかった」と言うと

突然ジルベルトの服を脱がし始めた。


「そのままゲームはしてていい。こっちで勝手に着替えさせる。」


ゲームを始めたらどんなに言ってもやめないとわかっていたクルウは、勝手に

ジルベルトのパジャマのような服を脱がし、中世の貴族が着てそうな服を着せた。

さらにマントをつけたその姿は、魔王というよりどこかの貴族のようであった。

ゲーム機を持ったままのジルベルトを着替えさせたクルウのその手際の良さに

ユキは「なんて器用な・・・」と呟いた。


着替えが終わり、髪型を整えられたジルベルトはそのまま玉座のある大広間へ

連れて行かれた。もちろんゲーム機も一緒に。

そして、玉座に座りゲームをやりながら勇者一行を待つ魔王の姿が完成した。


「いいのかあれで?」

「魔王として玉座で待つことは大事だからな・・・いいんだよ。」


ユキの言葉に「多分」とつけて自信なさげに言うクルウに「あっそ」と

短く答えると、大広間を出て、長い通路の先の部屋でユキは待機させられた。


「君にはここで時間を稼いでもらいたい。」

「どれくらい?」

「ジルのゲームが終わるまで。」

「長いな・・・」

「長いのか!?」


ジルベルトがどんなゲームをしているのかはクルウは知らなかった。

そのため、どれくらいでクリアできるのかさえも把握していなかったのだ。


「まぁ、君は黒髪で人族っぽいから、すぐに襲われることはないだろうし・・・」

「問答無用で襲ってくるのか、ここの勇者は・・・」

「いや、勇者は襲ってこない。襲ってくるのは戦士の方で・・・」


と、クルウは今までに知った勇者一行の情報をユキに伝えた。


「なにそれチートすぎだろ・・・勝てる気がしない・・・」

「ところでユキ、君の持っているゲームの中に犬が勇者なものはあるかい?」


人間離れしたような戦士や魔法使いの情報にブツブツ言っていたユキは

突然のクルウの言葉に「は?」と聞き返した。


「犬が勇者のゲームだ。」

「ん・・・ないな。犬の世界が舞台ならありそうだけど・・・」

「そうか・・・。やはりゲームと現実は違うんだな・・・」


なにかを悟るような遠い目をしたクルウにユキは不思議そうな顔をしたが

もしかして・・・と一つの考えがよぎった。


「ここの勇者は犬なのか?」

「そうだ・・・信じられないだろう?勇者が犬なんて・・・」

「どんな犬だった?」

「え?え、どんなって言われても・・・こげ茶色の犬だったとしか・・・」

「こげ茶・・・」


ユキは考えた。

このフィーリシア大陸でも向こうの世界でも、ずっとルーを探していたが

何一つ手掛かりは掴めず、もう何か月も行方不明のままだった。

だけど・・・もしもルーが、ルドルフがこの世界に勇者として来ているのだとしたら

見つからないのも納得できる・・・と。


「いいよ・・・その時間稼ぎ、やるよ。」

「お?急にやる気になったね・・・何かあったかい?」

「その犬勇者が気になる。」

「そうか・・・じゃあ僕はもう少し見回ってくるから、ここは任せたよ。」

「ん・・・あ、待った」

「うん?」

「お腹空いた。」


空腹のユキのために彼の待機場所に食事を運ばせたクルウは

城の中を見回りを開始した。決戦間近ということもあってか、城内は殺気立ったように

ピリピリした空気が包んでいた。


そんな空気の中を歩いていると背後から「クルウ様」という声に呼び止められる。


「外の様子を見てきましたが、勇者一行はまだ現れてないようです。」

「そうか・・・ありがとうアルフレッド、引き続き外の警戒を・・・」


報告してきた者と顔を合わせようとクルウが振り返ると、そこには誰もいなかった。

頭を抱えため息交じりにクルウは「またか・・・」とこぼした。


「アルフレッド・・・そうやってすぐに隠れる癖はどうにかならないか?」

「す・・・すみません・・・」


クルウが立っていた通路には大きな花瓶が置いてあり、その陰からゆっくりと

長身の魔族が姿を現した。気弱そうな目がなんとも特徴的である。


アルフレッドと呼ばれた魔族はとても背が高く、力があり、身軽であった。

しかし、同時にとても臆病で、すぐに物陰に隠れる癖があった。

あの日、勇者一行を迎撃する部隊の中にも選ばれていたが、臆病ゆえに

クルウに呼ばれるまでずっと木の陰に隠れていた。

彼がクルウを抱えこの城まで走り抜けたため、二人は無事だったのである。


「まぁ、君のその臆病さに僕は救われたからね・・・悪くはないけど、

 でも、ちゃんと隠れずに話は聞いてほしいかな。」

「はい・・・」


そう言ってアルフレッドの正面に立つクルウ。

アルフレッドはクルウよりも身長が高いため並び立つと

自然とアルフレッドが見下ろしクルウが見上げる形となる。

誰かと接するのは苦手なのか、アルフレッドはカタカタと体を震わし

気弱そうな目を泳がせている。

そんなアルフレッドにクルウは「大丈夫だ」と声をかけ、

短く要点だけを伝えることにした。


「おそらく勇者たちは、もうすぐこの城にたどり着くだろう。

 こちらが先手を打てるように、引き続き外の警戒に当たってくれ。」

「っはい。」


返事を返したアルフレッドは間を空けることなくクルウの脇を

ひゅんっと風が通り抜けるような勢いで走り去っていった。

その素早さに感心しながらクルウも見回りを再開する。


「・・・絶対にジルを・・・守ってみせる・・・」


ぐっと拳を固く握りしめ決意を口にするクルウ。

決戦の時は確実に近づいていた。勇者一行は、もうそこまで来ているのだ。




玉座に座りながらゲームを続けている魔王、ジルベルト。

そんな彼の指が突然ピタリと止まり、かすかに体が震えだす・・・


「・・・これって・・・そんな・・・」


ゲーム画面を凝視し、動かなくなるジルベルト。

しかし、そんな彼の異変に気づくものは誰もいない。


この大広間には今、玉座に座る彼しかいないのだから・・・。


*おまけ*


ジル「いや~今回はユキがよく喋ってるな~。」

ユキ「逆にジルが喋ってない。」

クルウ「ユキが普通に喋るようになったから、僕らも話しやすいよ。」

ユキ「別に無口設定ってわけじゃないんだけど・・・喋るのがメンドーなだけで・・・」

ジル「だから余計に、今回はよく喋ってるように見えるんだな。」

ユキ「あぁ、今回ジルが喋らないから・・・」

ジル「ゲームに夢中でそれどころじゃなかったもんなー。」

クルウ「そういえば、ジルに貸したゲームはどんなやつなんだ?」

ユキ「ん・・・王道RPG。」

ジル「クリアしたらクルウにも貸してやるから、楽しみに待ってろよ。」

クルウ「僕はゲームやらないんだけどなぁ・・・」


*****


アルフレッドの正体に延々悩みました・・・クルウの創った生物にするか

大黒鳥のような大きな動物にするか・・・と。結局、クルウの部下に落ち着いたw


アルフレッド・・・完全に名前負けしてますw

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