魔族の街
クルウの情報から、魔王が西の城ウィルパ城にいることを掴んだルドルフ達。
その情報を信じ城に向かう途中、情報収集と物資調達のため
とある街に立ち寄ることにした。
西の国はすでに魔族の手に落ちており、その街も魔族達であふれていた。
そんな中に人族であるローラン、リーティエンド、マリアナの三人が
無防備に入るのは危険だと感じ、街から離れた場所にある大きな岩の岩陰で
リーティエンドは全員の髪の毛を魔族の髪色である赤色へと染める魔法をかけた。
『・・・なぁ、オイラの毛まで赤く染める必要あるのか?』
こげ茶色の毛を真っ赤に染められたルドルフは「くぅーん」と
落ち着かない様子で自分の体を見ながらリーティエンドに言った。
「気にしないで、ただのミスよ。」
『気にするよ!ていうかミスなの!?』
リーティエンドは自分と残りの二人を同時に染めるため、
三人を包む範囲で魔法をかけていた。その範囲の中にルドルフが入っていたため
ルドルフの毛も一緒に赤く染まってしまったのだ。
さらに、いっぺんに全員の毛を染めたため、誰かの髪色を戻そうとすれば
全員の髪色が戻ってしまうので、ルドルフがどんなに抗議しても
リーティエンドは髪色を戻そうとしなかった。
理由はただひとつ、「面倒だから」である。
全員の髪色を戻した後、再びルドルフ以外の三人の髪の毛を染めなければいけない
その手間をリーティエンドは面倒だと思ったのだった。
「あかい・・・かみ・・・へん、な・・・かんじ・・・」
「赤い犬か・・・なんかうまそうだな。」
『うまそうとか言うな!オイラは食えないよ!!』
ローランの発言に「ギャンギャン」と吠えるルドルフをみて、
何かを思い出したように「そうそう」とリーティエンドは口を開いた。
「勇者サマ、街に入ったら喋ってはダメよ?犬が喋るなんて知られたら
私たちの正体がバレるかもしれないもの。」
『え?あ、うん・・・わかった・・・』
ルドルフは返事をするように「わう」と鳴くと、喋らないように口を閉ざした。
「それじゃあ、行きましょうか。」
こうして、髪の毛を赤く染めたルドルフ達勇者一行は、
魔族が占拠する街へと堂々と入って行った。
やはり人族と魔族の違いが赤い髪しか見当たらず、
魔族たちも髪の色で判断しているのか赤い髪になった三人を怪しむ様子はなかった。
しかし・・・
「ママ見てー、赤いわんちゃんー!」
「あら本当。ママも初めて見たわー。」
正面から歩いてきた魔族の親子らしき女性と少女がルドルフを指差してそう言った。
親子の言葉にルドルフは「初めてなの!?赤い犬っていないの!?」と叫びそうになるのを
ぐっと堪え、すれ違った親子を見つめた。
そんな親子を、街ですれ違う魔族を見ながらリーティエンドがぽつりと呟いた。
「・・・妙ね・・・」
「? どう・・・し、たの・・・?」
「魔族に占領されてるから、てっきり街は荒廃してると思ったのだけど・・・」
周りを見回しても、街の建物が壊されたり荒らされたりした形跡はなく、
まるで最初から彼らの街であるかのように魔族が生活し、商売しているのだ。
行き交う人も、店を出している商人も、ただ髪が赤いだけで人族となんら変わらないのだ。
気がおかしくなりそうだとリーティエンドは思った。
「あ、の・・・だい・・・じょう、ぶ・・・?」
気づけばマリアナが心配そうにリーティエンドを見つめており、
ルドルフも「どうしたんだ?」という顔で寄ってきた。喋れないルドルフは
元気のないリーティエンドにすり寄り「元気出せ」と言わんばかりの表情をした。
「・・・大丈夫よ。さぁ、行きましょう。」
「しかし、どいつもこいつも弱そうだな。」
リーティエンドがルドルフとマリアナに先に進むことを促すのと同時に
ローランが開口一番にそう言った。
ローランの言葉に一瞬の沈黙が訪れ、「この筋肉バカは・・・」と
リーティエンドは頭抱え、「どんだけ戦いたいんだよ・・・」とルドルフは
心の中で呆れるのであった。
「こんな所で騒ぎを起こさないでちょうだい。今日の目的は
あ・く・ま・で買い物と情報収集なんだから。」
買い物はすでに済んでいるのであとは情報収集だけであったが
ここで騒ぎを起こされ正体がバレてしまっては元も子もない。
「わかってるさ。大体、弱いやつを倒したって何の意味もないしな。」
「そう・・・それじゃあ行きましょう・・・」
疲れた表情を浮かべながらリーティエンドが歩き出し、それに続くように
マリアナ、ルドルフ、ローランの順で一列になって歩いた。
ルドルフ達が情報収集のためにやってきたのはこの街の酒場だった。
飲食のできる酒場は人が集まりやすく、様々な話が飛び交うので情報収集には
うってつけの場所であった。
時間は昼少し前、まだ客足は少なそうだったがルドルフ達は酒場に入って行った。
「あ、すみません。ペットの入店はご遠慮ください。」
お店に入ったルドルフ達は、すぐにウェイターと思われる男性にそう言われた。
「ですって。大人しく外で待っててちょうだい。」
「・・・ごめ、ん・・・ね・・・」
ウェイターに言われ、すぐさまルドルフを店の前に待機させると
リーティエンド達は再び酒場の中へ入って行った。
ルドルフは寂しそうに「くーん」と鳴くと三人が戻ってくるまで
大人しくお座りして待つことにした。
さっき出会った魔族の親子が言うように赤い犬は珍しいようで
酒場の前で待っていると、通り過ぎる通行人が驚いたような表情をしながら
ルドルフを見ていた。立ち止る魔族も現れ、ぞろぞろと人が集まりだした。
集まった魔族の口からは「赤い犬だ」「珍しいな」「初めて見た」
などの言葉が飛び交い、やはり赤い犬は珍しいのだとルドルフは思い、
さらに人だかりの視線が全て自分に向いていることに恥ずかしさを感じると
ルドルフは心の中で(早く帰ってきてくれー!!)と叫ぶのであった。
場所は変わり酒場に入ったローラン、リーティエンド、マリアナの三人は
酒場のマスターが立っているカウンターへ向かった。もちろんマスターも魔族だ。
ローラン達に気づいたマスターがカウンター越しに話しかけてくる。
「いらっしゃい。見かけない顔だけど、新しい移住者かい?」
「移住者?」
「そうなのよ、まだこっちに来たばかりで分からない事が多いの、
色々教えてもらえないかしら?」
移住者という言葉に首を傾げたローランだったが、
リーティエンドは機転を利かし酒場のマスターから話を聞きだそうとした。
「そうかい、見た感じ夫婦・・・いや、親子かい?」
「誰がこんなやつとふっぐぅ・・・!!」
余計なことを言いかけたローランの足にリーティエンドのヒールが食い込む。
酒場のマスターは驚いた表情を浮かべ二人を見ていたが
リーティエンドが笑顔で「この人ったら照れちゃってー」と告げると
納得したようにうんうんと頷き、三人に席につくように促した。
先程のリーティエンドの態度はは彼女を知ってるものなら
「誰だお前!」と言わんばかりであり、彼女の演技力の高さに脱帽するだろう。
そんな光景を見ていたマリアナはぽかーんとしている。
カウンター席に三人が座ると、マスターは飲み物を配り話を始めた。
「移住なら、まず城に行って手続きするんだ。城の場所はわかるかい?
ここから南西にあるんだが・・・ここからだと3日ぐらいはかかるかな。」
マスターはカウンターに地図を広げ、親切に城までの道のりを教えてくれた。
さらに、道中立ち寄ることになる街の情報まで事細かに説明され、
その親切さに3人は驚き戸惑ってしまう。
「城には魔王様とその右腕のクルゥ様がいらっしゃるから、移住したいことを告げれば
クルウ様が住む街と家を提供してくれるはずだ。」
「クルウ・・・サマ、ね・・・」
クルウを様付けで呼んでいたマスターにも驚いたが、
彼が魔王の右腕という立場にも驚き、3人は言葉を失っていた。
「ただ、今の状態じゃ移住は難しいかもしれないな。」
「難しい?なぜ?」
「魔族全員が移住するには街も家も足りないからさ。今俺たちが住めるのは
西の国と呼ばれてるこの国だけなんだ。」
「・・・つまり、南の国はまだ・・・」
「あぁ、まだ手に入ってないらしい。」
マスターの話から、南の国はまだ魔族の手に落ちていない事を知った
リーティエンドは「さっさと魔王を倒した方がよさそうね」と
ウィルパ城までの最短ルートを計算し頭に入れた。
「聞いた話じゃ、一人の人族に部隊が全滅させられたらしいぞ。」
「オヤジ、その話詳しく聞かせろ。」
部隊を全滅させた人族に興味を持ったのか、ローランの目がキラリと光った。
「詳しくと言われてもなぁ・・・人づてに聞いた話だから
その人族が南の国の王だって事しかわからないんだ。」
「十分だ!」
「行かないわよ。」
ガタっと勢いよく席を立ったローランに間髪入れずにリーティエンドが口を開く。
勢いをそがれたローランは「ぐぅ・・・」と悔しそうにリーティエンドを見た。
「まあまあ、城では戦士も集めているから腕に覚えがあるなら行ってみるといい。」
「城・・・強いやつは城にいるのか・・・」
「そうするわ。ありがとうマスター。」
ローランが変なことを口走る前に出た方がいいと思ったリーティエンドは
マスターに礼を言って早々に酒場を後にした。
酒場を出た途端、人だかりに囲まれ半泣き状態のルドルフに飛びつかれ
少々目立ってしまったが、それでも人族だと気づかれることなく
無事に魔族の街を向けることができたのであった。
*おまけ*
ルドルフ「今回、オイラとマリアナは全然喋ってないな。」
マリアナ「ん・・・ミルク・・・おいし、かった・・・チーズ・・・も」
ルドルフ「って、食ってたんかーい!」
ローラン「ちなみに、オレとこいつは酒をもらったぜ。」
リーティエンド「まぁ、酒場ですのも、お酒が出て当然よね。」
ルドルフ「ほー・・・じゃあ、二人とも二十歳を過ぎてるのかー。」
ローラン「そうだが?」
リーティエンド「・・・・・・」(目をそらす)
ルドルフ「どうした?」
リーティエンド「なんでもないわ。」
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お酒は二十歳になってから。
リーティエンドの演技力は「まさに別人」レベルらしいw
そして、南の国には魔族の部隊を一人で全滅させる王様が・・・
ローラン並のバケモノが一人増えたw




