表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/39

西の国突入

北の国と西の国の境界線にある砦という名の休憩所を抜け、

ルドルフ達はついに、西の国ウィルパ王国へと足を踏み入れた。


西の国に着いたルドルフ達を待っていたのは、

大勢の魔族の群れとそれを率いるよう立つ魔族のクルウの姿だった。

クルウは嬉しそうに微笑むと口を開いた。


「待っていたよ・・・エリザベスとジョセフーヌの仇、今こそ取らせてもらう!」


まるで合図をするように右手を高く上げてクルウは叫んだ。


「さぁ!ここに集いし同士よ、勇者を倒せ!!」


クルウの言葉に雄叫びのような声を上げ、大勢の魔族が一斉にルドルフ達に襲い掛かる。

その数は軽く見ても百人は超えているだろう。


『ぎゃー!!来たーーー!!』


毛を逆立てて「ギャンギャン」と吠えるルドルフ。

そんな魔族の群れに剣を構えたローランが笑いながら突っ込んでいく。

その表情はまるで血に飢えた獣のように凶悪であった。


バッサバッサと魔族を次々倒していくローラン。

その姿はまるで死神や魔王といった恐ろしい存在のようにも見えることだろう。


敵の攻撃にも怯むことなく剣を振り回すローランに気を取られているからか、

今のところルドルフ達の方に敵が向かって来る気配はなかった。

そんな状況をチャンスと思ったのか、リーティエンドは鞄から本を取り出し、

パラパラとページをめくり始めた。


「マリアナ、下がってなさい。勇者サマも。」

『え?』

「巻き添えになりたいのなら前に出てもいいわよ?」

『下がってます!』

「がん・・・ばって・・・」


ルドルフとマリアナはリーティエンドの後ろに下がった。

その瞬間、リーティエンドは本を掲げ呪文を唱える。

呪文に反応するかのように空に黒い雲が立ち込め始め、

ゴロゴロと雷の音が低く木霊する。


「さぁ、どこまで耐えられるかしら?」


楽しそうに口角を上げ、呪文の最後の一文を紡ぎ終えると

黒い雲から無数の雷が広範囲に降り注いだ。

それはローランを中心に固まって戦っていた魔族の群れに直撃する。

魔族たちの痛みや恐怖の悲鳴が響く。


『・・・ローランも食らってるぞあれ・・・』

「そうね。」


悪びれた様子もなく、元々そのつもりであったようにリーティエンドは

次の魔法を唱え始める。


今度の魔法は魔族たちの周りに小さな光がいくつも現れるものだった。

そしてその光は、リーティエンドが指を鳴らした瞬間大爆発を起こした。


その爆発は凄まじく、魔族の大半を戦闘不能にするほどであった。

さすがのローランにもダメージが大きかったのか膝をついている。


「あ・・・かいふく・・・しま、す・・・」


ローランのダメージに気づいたマリアナは杖を構え、遠く離れたローランに

向かって呪文を唱えた。杖の先端が淡く光り、その光が杖を離れ

ローランの元へと飛んでいく。光はローランを包み傷を癒していく。


傷の癒えたローランは「まだまだぁ!」と叫びながら

再び魔族の群れに突っ込んでいった。


ローランが敵を引き付けるように敵陣に突っ込み、リーティエンドが魔法で一掃

そして、ローランのダメージはマリアナが回復する。

それはそれは見事な連係プレーであった。


そんな連係プレーによって魔族の群れが減っていく様を眺めていたルドルフは

ふと、あることに気づく・・・


『これ・・・オイラがいる意味あるのかな?』


勇者としてフィーリシア大陸に召喚されたルドルフであったが、

ローランのように戦うことも、リーティエンドやマリアナのように

魔法が使えるわけでもない自分は、何のためにここにいるんだろうと

疑問を抱き始めるのだった。


魔族の群れとの戦闘からものの数分、すっかり戦意喪失した魔族達は逃げ出し

残すは戦闘に参加していなかったクルウだけとなった。


『・・・お前はやっぱり戦わないんだな。』

「僕は頭脳派だからね。」

「頭脳派にしては頭の悪い戦法ね。戦いは数じゃないでしょう?」

「君たちの強さが想定外すぎるんだ!!」


クルウからすれば、半数以上は威嚇要員として連れてきたのだが

まさか全員投入しても勝つことができず全滅するとは思わなかったのだ。

しかし現に部隊は全滅、仲間は逃げ出し自分だけが残っている状態である。


『てか、お前は逃げないのか?』

「え?・・・しまった!!」


クルウは自分の置かれている立場を一瞬で理解すると「覚えてろ!」と

捨て台詞を吐き、勇者一行から逃げ出そうとした。

しかし、クルウは突然バランスを崩すように派手に転び顔面を打った。


転んだクルウの右足首に革のベルトのようなものが絡まっており

それはリーティエンドの右手から伸びていた。

いつの間に出したのか、リーティエンドは革の鞭で逃げ出そうとしたクルウを

捕まえ転ばせたのだ。


「二度も貴方を逃がすと思って?」

「くっ・・・」

『お前、そんなものも持ってたのかー』

「護身用よ。」


魔法でもかけているのだろう。クルウの右足首に巻き付いていた革の鞭はほどけ

それはシュルシュルとクルウの体に巻き付いていく。

身動きの取れなくなったクルウを見下ろしながらリーティエンドが口を開く。


「さて、貴方には魔王の居場所を吐いてもらうわ。」

「ふん!誰が教えるものか。」

「・・・そう。なら、教えたくなるようにするだけよ。」

「拷問なら任せろ。」

「ひっ!?」

「筋肉バカは引っ込んでなさい。」


バキバキと指を鳴らし拷問をする気満々なローランに

バッと手のひらを向けてリーティエンドは呪文を唱えた。

直後、突然ローランは地面に倒れ込んだ。


『ローラン!?』


突然のことに驚き「ワンワン」と鳴きながら声をかけると

ローランから大きないびきが聞こえてきた。どうやら眠っているだけのようだ。

リーティエンドは相手を眠らせる魔法をローランに向かって唱えたらしい。


あまりにも鮮やかな手際にクルウは感心し、ルドルフとマリアナは

ぽかーんと口を開けてその光景を眺めていた。


「私はこの大陸に残されている魔法の全てを覚えているわ。」

「何が言いたい?」

「今では失われてしまった古代魔法の中に、生物を洗脳して意のままに操れる

 そんな魔法があるの。そして私はその魔法を使えるわ。」

「そんなはったり、僕には通じないぞ。」

「この魔法の欠点は、洗脳した相手を元に戻せない事。魔法が切れた相手は死ぬ。

 ・・・もっとも、試したのは動物だけ・・・魔族ならどうかしら?」


リーティエンドの言葉に黙り込むクルウ。リーティエンドの言ったこと、

その全てが真実というわけではないだろう。

しかしクルウは、彼女から言い知れぬ恐怖を感じ生唾を飲み込む。


「素直に魔王の居場所を吐くか、それとも洗脳されて死ぬか、選びなさい。」


ここで居場所を教えれば魔王ジルベルトの身が危険にさらされるだろう。

しかし、洗脳されてもし本当に死んでしまったら・・・

それこそジルベルトを守ることができない・・・

どうあがいてもクルウが選べる道はひとつしかなかった。


「・・・この国の城だ。」

「ウィルパ城に?魔王はすでに地上に来てるのね。手間が省けるわ。」

「だけど、君たちに魔王は倒させない!来い、アルフレッド!」


クルウの呼び声に答えるように鳥のような声が響くと同時に

突風がルドルフ達を襲った。その突風は何かが通り抜けたものであり

風が収まった時にはもう、クルウの姿はどこにもなかった。


「・・・逃げられたわね・・・あの鞭、結構高かったのに。」


縛りつけていた鞭ごとクルウに逃げられてしまったリーティエンドは

ソルマン王に奪われた鞭を弁償させようと心に決めた。


「まぁ、魔王の居場所は判明したし、すぐに出発しましょう。」

『ほんとにそこに魔王がいるのか?』

「さぁ?嘘は言ってないようだけど、どうかしらね・・・」

「・・・せん、し・・・さま、おき・・・て・・・」


マリアナはローランを起こそうと揺するが全く起きる気配がなかった。

未だいびきをかきながら眠っているローランをリーティエンドは

思い切り蹴とばした。


「いつまで寝てるのよ!さっさと起きなさい!」

『それ、お前が眠らせたんじゃ・・・』

「あ、まほう・・・で、おこ・・・す・・・ます・・・」


マリアナの魔法で目を覚ましたローランは、とても清々しい笑顔で

先頭を歩き出した。魔族と戦いさんざん暴れてすっきりしたのだろう。


向かうは魔王がいるであろうウィルパ城。

魔王を倒しフィーリシア大陸に平和を取り戻すためにルドルフ達は歩き出した。




『・・・ところで、オイラっている意味あるのかな?』

「勇者なんているだけでいいのよ。必要なのは肩書。」

『そういうもんなのか?』

「・・・いて、くれれ、ば・・・それ、で、いい・・・」

「俺は魔族と戦えればいいから、どうでもいいな。」

『あー・・・うん。悩んだオイラがバカだった・・・』


ローランは魔族との戦闘中、どっちが敵かわからなくなるくらい

凶悪な顔をしてましたw狂戦士ローラン・・・


リーティエンドが話した洗脳魔法を試した動物というのは

畑を荒らす野生動物です。畑を荒らさないように洗脳するも

効果時間はせいぜい数時間で、それが切れると糸が切れた人形のように

死んでしまった。ということです。

なのでクルウに話したのは全部真実だったのですよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ