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ユキとルドルフ

補足回

その日は日曜日だった。


学校は休みで、いつものように飼い犬のルドルフと散歩に行って

その帰りにゲームショップに寄ってゲームを買って家に戻る。


それがいつものコースであった。けれど・・・


この日はいつもと違っていた。


いつもと同じように買い物を済ませた少年がゲームショップを出ると

店の前のガードレールにリードを繋いで待たせていた

ルドルフの姿がどこにもなかった。



ガードレールには繋がれたままのリードと首輪だけが残されいていた。

首輪は外された形跡はなく、また抜けるほど緩くもなかった。


「ルー?」


少年はキョロキョロと辺りを見回すが犬の影は見当たらず、

近くにはいないようだった。


ルドルフは勝手にどこかに行くような犬ではなかった。

少年はそれをよく知っていたため、この状況を異常に感じた。


少年はリードと首輪を回収すると、ルドルフを探しに走り出した。





少年とルドルフの出会いは1年前、

彼がまだランドセルを背負う小学生だったころに、その出会いは訪れた。


少年・・・<早川ハヤカワ ユキ>は

目を覆い隠すほどの長い前髪から表情が読み取りにくく、

あまり人付き合いの少ない子供だった。


友達と呼べる子も少なく、図書室で本を読んだり家でゲームをすることが多かった。


読書やゲームに明け暮れる彼は、寝ることをあまり好まない子であり

睡眠時間が2時間程度の短時間のため慢性的な寝不足となっていた。

彼の目を覆い隠す長い前髪は、目の下のクマを隠す役割もしている。


そんな彼だったが学校に遅刻することはなかった。

もちろん授業中に眠るということもなく、普通に毎日を過ごしていた。


ある日、ユキがいつものように下校時刻ギリギリまで図書室で読書をして

誰もいない静かな通学路を一人で歩いていると、公園の前にさしかかった辺りで

か弱い鳴き声を耳にした。


普段なら素通りする公園であったが、鳴き声が気になったユキは公園の中へ入り

鳴き声の正体を確かめに行った。


小さな公園の片隅、小さなダンボールの中にそれはいた。


震えながら悲しそうに鳴くこげ茶色の小さな子犬が、鳴き声の正体だった。


犬ならば近所で飼っている人も多く、よく見かけていた。

しかし、こんなに小さな、まだ子供だとわかる子犬は初めて見ただろう。

ユキはしばらくその子犬を見下ろしていた。


そして、このまま放っておくわけにもいかないと思ったユキは

ランドセルの中身を整理し、その中へ子犬を入れると家まで走り出した。



家に帰ってきた少年を出迎えたのはユキの母親であった。

彼女は少々思い込みの激しい所があり、ユキの帰りが遅かったのは

友達と遊んでいたからだろうと勝手に思い込んでいた。


ユキ自身、訂正が面倒なのか否定しないため勘違いしたままである。


居間にはすでに帰宅している父親がいた。

ユキはさっそくランドセルから子犬を取り出しテーブルの上に置いた。

その光景に父親は驚いて声を上げ、その声に母親もやってきた。


子犬を連れ帰ってきたユキに父親は怒った。

動物を飼うという責任の重さを考えさせるためだったのだろう。

しかし、それがユキの耳に届くことはなかった。


帰り道に走ったからだろうか?

いつもなら来るはずもない眠気が突然襲ってきたのだ。

ユキの意識は遠ざかり、父親の言葉をほとんど認識できなくなっていた。


それでもただひとつ、はっきりと認識できた言葉があった


「捨ててくるんだ。」


この言葉に、父親は何を捨てろと言ったのだろう?とユキは考えた。

そして、自分の腕の中に何かがあることに気づくが

意識がはっきりしていないユキは、それが子犬だということを忘れていた。


これを捨てろと言ったのか・・・そう思い込んだユキはゴミ箱まで移動し

腕に抱いていた何かをゴミ箱の中に落とした。


ゴミ箱に落ちた何かが叫ぶように「ギャンギャン」と悲痛な鳴き声を上げ

その声にハッと我に返ったユキは自分のしたことに驚き同時に後悔した。


子犬は母親によってゴミ箱から救出され、母親の提案と説得により

「保護」という形で子犬を飼うことを許された。

ユキは胸をなで下ろし母に感謝した。


ユキによってルドルフと名付けられた子犬はこの日から早川家の家族となった。


ルドルフはゴミ箱に捨てられた恐怖からか、ユキを酷く恐れていた。

そんなルドルフと仲良くなりたいユキは様々な努力をし

時間をかけてゆっくりとルドルフの警戒心を解いていった。


警戒心と共に恐怖も薄れていったのか、数か月後には

まるで兄弟のように寝る時もゲームする時も一緒に過ごすようになり、

今では一緒にいることが当たり前の存在となっていた。





だからこそ、ルドルフの消えた今日この時、ユキは動揺を隠せなかった。


「ルー・・・」


走り回ったユキの呼吸は乱れ顔色は悪くなっていた。ぐるぐると世界が回る感覚と

まるで違う世界にいるような錯覚におかしくなりそうだった。


そんなユキの背中に突然、ドン!と何かがぶつかった。


「うわっ!悪い、大丈夫か!?」

「・・・大丈夫」


ぶつかった何かは人だったらしい。

振り向いたユキの目に入ったのは、真っ赤な髪と青い目をした

同い年ぐらいの少年だった。


「顔色悪いぞ?大丈夫か?」

「・・・茶色い犬・・・知らない?」


心配する赤い髪の少年にユキはルドルフの特徴を伝え、見ていないか尋ねた。

少年は首を振り「見ていない」と返すと、限界だったのだろう

ユキはその場に倒れ込んでしまった。


「おい!しっかりしろ!!」


倒れたユキを心配し赤い髪の少年は声をかけるが返事が返ってくることはなく

顔色も悪いままだった。このまま放っておいたら危険だと感じるほどに。


少年はしばらく考えた後、

倒れたユキを助けるために自分の世界へ連れて行くことを決めるのだった。


少年の名前はジルベルト。


フィーリシア大陸の地下世界に君臨する魔族の王その人であった。


倒れたユキを抱えフィーリシア大陸へ飛ぶジルベルト。

地面には倒れた時に落としたのか、ルドルフの首輪とリードだけが残っていた。


この出会いは偶然か、それとも・・・



ユキが魔王の所にいた理由がこれです。なんという補足回・・・


年齢ははっきりさせてないけど、ユキは13歳(中学生)、

ジルベルトは12歳ぐらいのイメージでw


この後、勝手に異世界の人間を連れてきたことをクルウに叱られ、

ユキの荷物の中にあった携帯ゲーム機に興味を抱き、

年が近いユキとジルベルトはゲームの話から仲良くなって、

ユキの都合のいい日に一緒に遊ぶようになったという流れ。


ちなみに、ルドルフの首輪とリードは帰りにちゃんと回収してますw

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