魔族の王
ルドルフ達勇者一行の目的地でもある西の国ウィルパ王国
この国は緑が少なく、荒野と鉱山が多い土地であった。
しかし、その鉱山から採れる宝石はとても価値が高く人気であり
それを求めてこの国に来るものも少なくなかった。
だが、そんなウィルパ王国も今は魔族の手に落ち
宝石を求めるものもそれを採取するものもいなくなっていた。
時は少しさかのぼり、ルドルフ以外の三人がコルンナ村で寝込んでいた頃、
魔族の国と化したここウィルパ王国でひとつの動きがあった。
ウィルパ王国南東にある城、
少々悪趣味と言えそうな派手なデザインをしたウィルパ城。
その城の二階の寝室で、少年はキングサイズのベッドの上ですやすやと眠っていた。
窓には地厚のカーテンが光を遮っており、昼過ぎだと言うのに部屋は薄暗かった。
布団を頭までかぶり、包まった状態で眠っている少年の睡眠を妨げるように
部屋の外からバタバタという足音が響き、寝室の扉が勢いよく開かれた。
「魔王様!一大事です!」
部屋に入ってきたのは、北の国でルドルフ達と交戦した魔族のクルウだった。
魔王と呼ばれた少年はまだ眠っているのか反応はない。
「魔王様、一大事です。」
クルウはベッドに近づき、魔王と呼ぶ少年を揺すりながらもう一度言ったが、
それでも反応はなく起きる気配もしなかった。
何度も揺らし、声をかけ続けていたクルウだったが
まったく起きる気配のない少年に業を煮やし、
少年が包まっている布団を強引に剥いで叫んだ。
「一大事だと言ってるだろ!いい加減起きろジルベルト!」
「ぎゃー!布団を剥ぐなー寒いー!!」
布団が剥がされ、その姿を現した魔王・ジルベルト。
十代前半の幼さを残す小柄な少年で
肩まである血のように真っ赤な髪と対照的な青い瞳が特徴的だった。
「いつまで寝てるつもりなんだ?もう昼は過ぎてるぞ。」
「寝たのはさっきなんだよ・・・もうちょっと眠らせて・・・」
「また徹夜したのか?・・・ゲームとやらもほどほどにしてくれ・・・」
「あれは面白いぞ。お前もやればわかる。」
ジルベルトの言葉にクルウは大きなため息をついた。
彼らが話しているゲームとは、ある日、魔王であるジルベルトが
異世界から連れてきた少年が持っていたものであった。
魔王がそれに興味を示し、のめり込むまでに時間はかからなかった。
「まったく・・・ユキにもきつく言っておかないといけないな。」
「ユキならそこにいるぞ。」
「え?」
ジルベルトは床に座り込み壁に寄りかかりながら携帯ゲームをしている
黒髪の少年を指差した。目を隠すような長い前髪で表情は見えていない。
彼こそ魔王が異世界から連れてきた少年で
フィーリシア大陸に召喚された勇者、ルドルフの飼い主であった。
「ユキ、来ていたのか。今日はガッコウとやらはどうしたんだ?」
「あ、今聞こえていないと思うぞ。イヤホンというのをしてたからな。」
ジルベルトの言葉を聞いて、クルウはユキに近づき目の前で膝をついた。
イヤホンというもが外の音を遮るということを聞いていたから
目の前に座り少年の視界に入ろうとした。
誰かが視界に入ってきたことに気づいたユキと呼ばれた少年は
顔を上げて耳からイヤホンを外した。
「何?」
「ガッコウとやらはどうしたんだ?」
「今日は創立記念日。休みだから来た、泊りで。」
魔王ジルベルトは、生まれつき自由に異世界へ移動できる力を持っていた。
その力で異世界に遊びに行ったジルベルトが、ある日連れ帰ってきたのが
このユキという少年だった。
彼には彼の生活があったので、彼の都合のいい時間に連れてきては
一緒にゲームをするのが日課となっていた。
彼が休みだという日は泊りで、徹夜することもあった。
「そのせいでジルベルトがまた徹夜したみたいなんだが?」
「知らない、自己責任。寝なかった自分が悪い。」
「一緒にゲームしてたんじゃないのか?」
「ソフトは違う、だから別々にいた。」
「・・・君は寝たのか?」
「二時間くらい寝た。」
ユキとの会話にクルウは頭を抱えた。
ジルベルトの徹夜も問題ではあるが、二時間しか寝ていないという
彼にも問題があると思ったからだ。
「・・・君たちは一体何をしてるんだ・・・」
「ゲーム」
「ゲームだな。」
「ハモらなくていい。」
うんざりした表情を浮かべながら、大きなため息をついたクルウは
本来の目的を果たそうと口を開いた。
「とりあえず、報告することがある。それを聞いたら二人とも寝てくれ・・・」
「なんの報告だ?」
「神族が人族に与えた予言の勇者が現れた。近いうちにこっちに来るだろう。」
「勇者?」
「やつらは僕のジョセフィーヌとエリザベスを倒すぐらい強い。」
「倒されたのか、最高傑作。」
ジルベルトの言葉に一瞬動きを止め瞳に涙を浮かべたクルウだったが、
落ち着かせるように大きなため息をついて言葉を続けた。
「僕はこれから国境付近に子供たちを配置して防衛と迎撃を行う。
他にも力のある魔族の手も借りたいんだが・・・」
「あぁ、なら俺の命令だって言っていいよ。お前は俺の側近だし信じるだろ。」
「そう言ってくれると思ったよ。報告は以上で終わりだ。」
「おー、じゃあ寝るかー。」
そう言ってジルベルトは布団に包まって寝る体制に入った。
そんな様子に呆れながらクルウは言った。
「まったく・・・どうして君のような人が魔王に選ばれちゃったんだろうね。」
「知るか、そんなもんクジ作ったやつに言え。」
地下世界の魔族の王は、毎回クジ引きで決められていた。
王を公平に決めるために考えられたことで、クジの内容は毎回変わり
ジルベルトの時は配られたクッキーの中に一枚だけメダルが入っており
それを引いた者が魔王になるというものだった。
このクジは、地下世界に住む全ての魔族が参加することになっている。
それゆえ、ジルベルトのような子供が魔王に選ばれることもあった。
魔王に選ばれたものはまず、側近を自由に選べる権利が与えられる。
それは魔王を支え、助け、守る存在となるため
信頼をおける者や親族が選ばれることが多く、クルウもその一人であった。
クルウはジルベルトの家の隣に住んでおり、いつも一緒に過ごしていた。
年の離れたクルウはジルベルトにとって兄のような存在であり頼れる人であった
だからこそ、自分が魔王に選ばれた時は真っ先にクルウを側近にしたのだ。
「君のような義弟がいて僕は大変だよ。」
「お前のような義兄がいて俺は心強いよ。」
満面の笑みを浮かべるジルベルトの頭をクルウは優しく撫でると
一礼して部屋から出ると「おやすみ」と言って扉を閉めた。
そして、配置する魔族を選別に行く途中「あ」と思い出したように足を止めた。
「・・・しまった・・・勇者が犬だということを報告し忘れた・・・」
戻って報告すべきかと思ったが、二人を寝かせてやりたいと思ったクルウは
すぐに気持ちを切り替えて再び歩き出した。
「後で報告すればいいか。」
そう言ってクルウは、力ある魔族や自分が作った生命体(子供たち)を
国境付近に配置するべく奔走した。
寝室ではベッドに横になったジルベルトが寝付けないのかまだ起きていた。
思うところがあるのかジルベルトは横になったまま
床に座りベッドに寄りかかりながらゲームをしているユキに話しかけた。
「・・・なぁ、ユキ」
「何?」
「勇者ってなんだ?」
「は?」
「いや、勇者という言葉や存在は知ってる。ただ、勇者とはどんなものなのかな?と」
「こっちの世界に勇者はいない、けど・・・」
ユキはゲーム機を床に置き立ち上がると、壁際に置いてあるリュックの中を探り
ひとつのゲーム機とゲームソフトをジルベルトに渡した。
「勇者が主人公の王道RPG、これやればいいよ。」
「ほー・・・」
「でも今は寝た方がいい。」
「じゃあ今渡すなよ・・・」
ユキに渡されたゲームを始めようとしたジルベルトはまだ眠いことを思い出し
渡されたゲームを枕元に置いて布団に包まって目を閉じた。
「じゃあ起きたらやるわ、おやすみー。」
「・・・おやすみ」
ジルベルトが眠ったことを見届けると、ユキは再び床に座りゲームを再開した。
何かを忘れるようにゲームに没頭する彼の瞳はとてもうつろであった・・・
クジ引きで決める地下世界の魔王wこれはひどいw
そして、ルドルフの飼い主のユキがようやく登場
勇者の王道RPGはあれです、ご想像にお任せします。
*おまけ*
魔王がユキを初めて連れてきた日にあったであろう会話?
魔王「じゃあ、いつなら暇なんだ?」
ユキ「平日は学校あるからこの時間からこの時間まで、土日なら一日。」
魔王「ふむふむ・・・じゃあこの時間になったら迎えに行くな。」
ユキ「ん、わかった。」
クルウ「・・・ジルに友達ができたことを素直に喜べないのは何故だろう?」




