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ルドルフがんばる。

西の国ウィルパに行くため、山越えルートを選んだルドルフ達は

山頂の村<コルンナ>にて、絶体絶命の危機を迎えていた。


なんと、ローラン、リーティエンド、マリアナの三人が

熱を出して倒れてしまったのだ。


宿屋のベッドで高熱にうなされる三人。

村に在住している医者によると「ただの風邪」で「薬を飲めばすぐ治る」とのこと。

しかし、問題はこの後に起こった。

薬を出そうと鞄を探っていた医者の手が止まり、考えるように顎に手をあてる。


「おや?薬がありませんね・・・あぁ、先日使い切ったのでしたね。」

『えぇ!?じゃあ、治らないのか?』

「いえいえ、3日後なら新しい薬が届くので、それまで待ってもらえれば・・・」

『3日!?そんなに待てないよ!』

「しかしですねぇ、この村の薬は7日に1回ふもとの村から運ばれてくるだけなので

 3日後でないと薬は手に入らないんですよ。」

『そんな・・・』


医者の言葉に「くぅーん」と困ったように鳴くルドルフ。

苦しんでいる3人をなんとかしてやりたいと、ルドルフは知恵を絞った。

考えて考えて、ひとつの案を思いつく。


『さっき、薬はふもとの村から来るって言ってたよな?』

「えぇ、薬以外にも食べ物や雑貨なども運ばれてきますよ。」

『なら、その村になら薬はあるんだな?』

「あると思いますが・・・」

『じゃあ、オイラが薬を取ってくるよ!』


ルドルフが思いついたのは、自分が薬を取りに行くことだった。

しかし、薬を取りに行くと言いだしたルドルフを医者は猛反対した。


「いけません、危険すぎます。」

『ここに来るまで何もなかったし、大丈夫だよ。』

「いいえ。先程この宿屋に来る途中、私は雪狼を見ました。」

『ゆきおおかみ・・・』


ルドルフはレミス城で女王サーラに言われたことを思い出した。


【雪狼を見かけたら、決して建物から外へ出てはいけませんわよ。】

【雪狼は吹雪を連れてきますので

 雪狼が現れたら吹雪をしのげる場所にすぐにかくれるのですよ?】


「すぐに村は・・・この山は吹雪に見舞われるでしょう。

 そんな時に外に出るなんて自殺行為ですよ?」

『・・・オイラは・・・オイラはそれでもあいつらを助けたいよ!』


ルドルフは医者を真っ直ぐ見つめた。その瞳には決意のような強さを宿していた。

医者はしばらく口を閉ざしていたが、ルドルフの強い想いに負けたのか

大きなため息をつくと「わかりました」と言って、なにやら手紙を書き始める。


「これを、ふもとの村の商人にみせなさい。薬を運んでくるのは彼ですから

 きっと薬の場所も彼が知ってる事でしょう・・・」

『わかった。ありがとな。』


ルドルフの着ている服にはポケットがなかったため

医者は書いた手紙を布でくるみ、それをルドルフの首に巻いた。


「吹雪まであまり時間はないでしょう。どうかお気を付けて。」

『うん、行ってくる。』


そう言ってルドルフは勢いよく宿屋を飛び出し、ふもとの村に向かって走り出した。

空には黒い雲が広がり雪が降り始めていた。



ルドルフは三人のために走った。

走って走って、走り続けて・・・そして迷子になっていた。


『・・・ここ、どこだ・・・?村は・・・どこだ・・・?』


きょろきょろと辺りを見回すが、雪原が広がっているだけで他には何もなかった。

ルドルフは慌てて「ワオーン!」と吠えるが、その鳴き声も空しく響くだけだった。


『ど、どうしよう、オイラ・・・どうしよう・・・』


雪が道を覆い隠してしまったからか、ルドルフは

ふもとの村に行く道も、コルンナ村へ帰る道もわからなくなっていた。


『誰か・・・誰かいかないか?誰か・・・』


泣きそうな声でルドルフは叫んだ。

なんの気配を感じなかったが、それでもルドルフは叫んでいた。


『・・・こんな所で何をしている?人と共に暮らし獣よ。』

『えっ・・・』


気配もなく背後から突然聞こえた声に、後ろを振り返ると

そこには雪のように真っ白な狼が立っていた。


目の前に現れた白い狼に、ルドルフは目を見開き口をパクパクとさせていた。


『あ・・・あ・・・』

『どうした?』

『け、けけけ獣がしゃべったぁーーーーーー!?』


ルドルフは混乱したように「ギャンギャン」と吠えた。

そんなルドルフの姿に、白い狼は呆れたような表情を浮かべながら言った。


『お前も同じ獣だろうが。』

『あ、そういやオイラも犬だった。』

『変なやつだな・・・まぁいい。それで、こんな所で何をしてるんだ?』

『オイラ、ふもとの村に薬を取りに行くところなんだ。』

『ふもとの?・・・ずいぶん道を外れているぞ。』

『そう・・・なのか?やっぱり・・・』


白い狼に言われ、がっくりと落ち込んだ表情になるルドルフ。

そんなルドルフから視線をそらし、白い狼は空を見上げた。

空は昼前だというの薄暗く、風も出てきている。


『・・・時間がない、村まで案内してやるからついてこい。』

『え?あ、おう。』


白い狼は走り出し、ルドルフもその後を追う。

2匹の足は速く、あっという間にふもとの村に到着した。

道を間違えていたとはいえ、ルドルフはふもとの村の近くまで来ていたようだ。


『さぁ、待っててやるから早く行って来い。』

『え、一緒にきてくれないのか?』

『俺は・・・暖かい場所が駄目なんだ。』

『・・・そっか。じゃあ、オイラ行ってくる。』


ルドルフは医者の言っていた商人を探してお店の中へ入って行った。

白い狼は空を見上げ険しい顔をして呟く。


『・・・間に合わないかもしれないな・・・』



若い商人が営む道具屋の店内へやってきたルドルフは、

医者に持たされた手紙を商人に見せた。


「ふむふむ・・・風邪を引いた勇者一行のために薬が欲しい。と・・・」

『それで、薬はあるのか?』

「ん?あぁ、ちゃんとあるから安心していいよ。」


商人は店の奥の棚から液体の入った小瓶を3つ持ってきて

それをカウンターの上に乗せると地厚の布でくるんだ。

どうやらこの液体が薬のようだ。

さらに商人は布でくるんだ小瓶を小さめのバッグに入れて、

そのベルトをルドルフの首にかけた。


「これでよし、気を付けて戻るんだよ。」

『うん、ありがとな!』


薬を受け取ったルドルフは急いで白い狼が待っている場所まで戻った。


『遅い!!』


戻ってきたルドルフに対し、白い狼は第一声でそう言った。

その表情はひどく焦っているように見える。


『ご、ごめん・・・』

『吹雪が来る、急いで戻るぞ!』

『あぁ、待って・・・』


白い狼は言い終わるとすぐに走り出した。

ルドルフは追いかけながら、仲間が待つ村のことを言おうと口を開く。


『オイラ、山頂の村からきたんだ。そこに仲間が・・・』

『知っている。』

『え?』


走る速度を変えることなく白い狼は話し始める。


『お前がコルンナ村から飛び出して行くのを見た。だから知ってる。』

『え、じゃあお前、あの村に住んでる犬なのか?』

『・・・犬じゃない、狼だ。あの村の近くにはいたが住んではいない。』


犬と間違えられたのが気に入らなかったのか、

少し不機嫌そうな声で「狼」と訂正した。

ルドルフは自分と姿が似ているから犬だと思ったのだろう。狼と聞いて少し驚く。


『狼なのかー・・・真っ白で話に聞いた雪狼みたいだな。』

『俺はその雪狼だが?』

『えええええ!?』

『・・・気づいてなかったのか。』


白い狼が雪狼だったということにひどく驚いたルドルフに

気づいていなかったことに呆れる白い狼。


『雪狼は吹雪を連れてくるって聞いたぞ、お前が吹雪を連れてきたのか?』

『それは違う。俺たちが吹雪を連れてくるんじゃない。

 吹雪を求めて俺たちがやってきているだけだ。』

『そうなのか?』


そんな会話をしながらも二匹は走り続けていた。


しかし、やはり吹雪がくる前にコルンナ村に戻ることはできず、

ルドルフと雪狼は山の中腹で吹雪に見舞われてしまった。


『うわっ・・・前が・・・全然見えない・・・』

『やはり間に合わなかったか・・・』


目を開けていられないほどの猛吹雪。

進むことも戻ることもできず、二匹は立ち往生してしまった。


『ねぇ、アニキ・・・どうしよう?』

『アニキ?』

『ゆきおおかみって言いづらいからアニキって呼ぼうと思って。』

『・・・勝手にしろ。』


ルドルフのアニキ呼びに呆れるような表情を浮かべる雪狼。

吹雪のせいで目を開けていられないルドルフは気づかなかったが

この吹雪の中で、雪狼の体が少し大きくなっていた。


『まだ動けるか?』

『うん・・・動けるけど、前が見えないよ・・・』

『俺のすぐ側にいろ。それで吹雪はしのげる。』


雪狼がルドルフのすぐ目の前にやってくると、

自分を襲っていた吹雪がピタリと止み、目を開けられるようになった。


『・・・どうなってるんだ?』

『俺たちは雪そのものだ、だから常に新しい雪を求め食らっている。』

『・・・つまり、アニキがこの吹雪を食ってると?』

『そういうことだ。』

『あ、なんかアニキの体がでかくなってる!』

『これ以上でかくはならないさ。ほら行くぞ、仲間が待ってるんだろ?』

『うん。薬を届けないとな、行こう。』


雪狼のおかげで吹雪の中を進めるようになったルドルフは、

はぐれないように歩きつづけ、ついにコルンナ村に戻ってくることができた。


『ついた・・・戻ってこれた・・・』

『早く行ってやれ。』

『うん!アニキ、ありがとう!!』


ルドルフは雪狼にお礼を言うと、嬉しそうに急いで宿屋へ向かった。

それを見届けた雪狼は、村に背を向け走り去って行った。


いつの間にか吹雪は止んでいた

空に広がっていた黒い雲の隙間から光が差し込みはじめる。


ルドルフが運んできた薬によって三人の熱は下がり、回復へと向かう。

三人の容体に安心したルドルフは雪狼と別れた場所に戻ったが

そこにはもう雪狼はいなかった。


『アニキ・・・』


空にはもう黒い雲はなく、青空が広がっていた。

雪狼は新たな雪、吹雪を求め旅立って行ったのだろう。



翌日、すっかり風邪の治ったローラン、リーティエンド、マリアナの三人は

村の医者に感謝しつつ再び西の国へ出発した。


熱でうなされるルドルフをローランが背負いながら。



初期タイトル「ルドルフ、はじめてのおつかい」

実は番外編だったものだったりする・・・。

平気だったルドルフが最後に熱を出すのはお約束だと思てってるw


*おまけ*


ルドルフ『オイラ、アニキにちゃんとお礼言いたかったな・・・』

雪狼『別に礼を言われたくてやったわけじゃない。』

ルドルフ『でも、なんで待っててくれなかったんだ?

     ふもとの村の時は待っててくれたのに・・・』

雪狼『吹雪が止んだからな。あのまま待ってたら俺、溶けて死ぬぞ。』

ルドルフ『ななな、なんだってーーーー!?』

雪狼『俺たちの設定、雪でできた狼だからな、暖かい場所にいたら溶ける。』

ルドルフ『そういや、俺たちって言ってたけど雪狼はアニキ以外もいるの?』

雪狼『いるぞ。もっとも設定上なだけだから本編には出ないがな。』

ルドルフ『そっかー。アニキ以外にも会ってみたかったなー。』

雪狼『機会があればな・・・。さて、そろそろ終えるか?』

ルドルフ『うん。アニキ、本当にありがとう。』

雪狼『あぁ、がんばれよ。』


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