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天の柱

魔族の情報を伝えに最北端のレミス城にやってきたルドルフ達は

ここから再び西の国ウィルパに向かうために、レミス王国の女王サーラと

これからの進路を話し合った。


さきほどまでテーブルに置かれていたお茶とお菓子は一旦下げられ

サーラが用意した大きな地図が広げられる。

テーブルの地図を指差しながらリーティエンドが口を開く。


「ここからの最短ルートだと、この山を越えるのが早いかしら。」

「そうですわね・・・最短ならそうなりますが、危険ですわよ?

 ここは、遠回りになってもこちらの道を通る方がいいと思いますわ。」

「時間をかけたくないのよ。・・・できればね。」

「・・・そう、ですわよね・・・

 この国に魔族が現れた以上、ゆっくりはしていられませんわよね・・・」


今回の報告で、この国にも魔族の手が伸びてきていることが判明した。

もし魔族が本気で侵攻してくれば、この国はすぐに侵略されてしまうだろう。

だからこそリーティエンドは、危険をかえりみず最短ルートを選び

解決を早めようとしているのだと、女王サーラはそう思った。


彼女からすれば「面倒だから早く終わらせたい」というだけの理由だが

それを彼女が知ることはないだろう。


そんな二人のやり取りを見ていたルドルフが、ふと地図に目をやると

大陸の中央にある黒く塗りつぶされた大きな円があることに気づき、二人に尋ねた。


『なあなあ、この黒いやつなんだ?』


ルドルフは「わうん」と二人の会話が途切れたタイミングで話かけ

右前足で地図の黒い円をポンと押した。肉球の跡がスタンプのように残り

そのスタンプ跡に「あらかわいい」とサーラは微笑んだ。

リーティエンドは首をかしげ「あら?」と口を開いた。


「・・・説明してなかったかしら?」

『え、オイラ聞いたっけ?』

「・・・聞いてないわね。説明してないもの。」

『だよな。』


聞いた覚えがないとルドルフは思い、リーティエンドも聞かれた覚えがないと思った。

指先でトンと地図の黒い丸を叩くと、リーティエンドはルドルフに向かって言った。


「ここにあるのは天の柱よ。」

『天の、柱?』

「天高く伸びる柱、どこまでも続いているその姿からそう呼ばれているわ。

 文献じゃ、天上世界まで続いているって言われてるけど・・・どうかしらね。」

『へぇ・・・』

「ここからでも見えるんじゃないかしら?」


そう言ってリーティエンドはこの城の主に目をやった。

サーラはすぐに「見えますわよ」と答え、ルドルフを部屋の窓際に案内した。

窓の外にはテラスがあったが、寒い思いをさせるのも悪いと思ったサーラは

部屋の中から窓の外を指差した。


「あそこに見えるのが天の柱ですわ。」


サーラの指差した方角には、黒い柱のようなものが長く真っ直ぐ伸びているのが見えた。

最北端から見ているというのにはっきりと太く見える柱は、ルドルフが知る電柱よりも

はるかに大きなものだということが感じられるだろう。


『・・・もしかして、かなりでかいのか?』

「大きさで見るなら国一つ分ね。本当に巨大な柱よ・・・邪魔なくらいに・・・」

「本当に・・・交易には不便ですので困りますわ・・・」

『ん?』


二人の言葉にルドルフは「わう?」と鳴いて首を傾げた。


「大体なんで西の国に行くのに迂回しなきゃならないわけ?時間がかかるじゃない。

 それに、なんで私の魔法で傷ひとつつかないわけ?絶対おかしいわよ・・・」


ぶつぶつと愚痴をこぼすようにリーティエンドは言葉を続けた。

小声のため、ルドルフ以外には聞こえていないだろう。


ルドルフは首を傾げながら「あの柱は邪魔なのか?」とサーラに尋ねた。


「そうですわね・・・はっきり言ってしまえば邪魔、になるかもしれませんわね。」


少し困ったような表情を浮かべながら、サーラはルドルフに答える。


「天の柱はとても巨大で、この国には太陽の光がほとんど当たらないんですの。

 そのせいかこの国は毎日が雪で、吹雪も訪れるんですのよ。」

『だからここは寒いのかー。』

「それに真っ直ぐ向かいの国、南の国ノーファに行けないのも辛いですわ。

 西か東の国を迂回しなければ行くことができないなんて、不便すぎますの・・・」

『・・・なんか、大変なんだな・・・』

「それはあなた方も同じですわ。

 西の国へ行くためにこの国を迂回しているのですから。」

『あー・・・そういやそうだな。』


ルドルフは、サーラに言われて

自分たちも西の国に行くために北の国を迂回していることを思い出した。

もっとも、ルドルフ自身はついていってるだけという感覚であるため

迂回する意味も大変さもわかってはいなかったが。


「でも最短ルートの山を越えれば、西の国ウィルパは目と鼻の先になるわ。

 さっさと出発して、こんな仕事は早く終わらせましょう。」


気が付けばリーティエンドがルドルフの後ろに立っていた。

サーラは心配そうな表情でリーティエンドを見ている。


「本当にそのルートで行くつもりですの?」

「えぇ、もちろん。」

「・・・わかりましたわ・・・それではせめてもの力添えとして

 出来る限りの支援物資を用意いたしますわね。」


そう言うと女王サーラは一礼し、メイドを連れて部屋を出て行った。

サーラが出て行ったのを確認したリーティエンドは、

未だにソファーで眠っているマリアナを優しく揺り起こした。


「起きて、出発するわよ。」


起こされたマリアナはまだ眠たそうに目をこすりながら「すみません・・・」と

小声で答えながらソファーから降りた。

謝ったのは、眠ってしまったことに対してだろう。


マリアナが離れ、ソファーに座っているのがローランだけだということを確認すると

リーティエンドは下げられた食器からスプーンを一本拝借し、

その先端をローランの右肩に当てた。

ローランはここに来てからずっと固まったまま身動き一つしていない

そんなローランにリーティエンドは不敵な笑みを浮かべ、何やら呟いた。

その瞬間、激しい電流がスプーンから大量に流れ出しローランを襲った。


『えぇっ!?』

「ひっ・・・」


その光景を見ていたルドルフとマリアナは驚き声を上げたが、激しい電撃の音に

かき消されていることだろう。

電流が収まると、ローランからプスプスという音と黒い煙が上がっていた。

さすがのローランもこれはやばいんじゃ・・・と思いルドルフが近づくと、

ローランはカッと目を見開いて飛び起きた。


「はっ!?俺は一体何を!?」

『生きてるし!やっぱバケモンだろお前ー!!』


あれだけの電撃を食らっておきながらピンピンしてるローランに

ルドルフは「ギャンギャン」と驚きと恐怖の混じった声で吠えた。

その声でリーティエンドの舌打ちは誰にも聞こえなかったことだろう。


「女王サマから支援物資をもらったらすぐ出発するわよ。」

「お、おう・・・」


この部屋に来てから電撃を食らう前の記憶があやふやで

何が何やらよくわからないローランだったが、出発と聞いて気を引き締めるのだった。


それからほどなくして、支援物資を用意した女王サーラが戻り

食べ物や飲み物、防寒用の毛布などをルドルフ達に渡した。

支援物資を受け取ったルドルフ達が出発を決め、暖かいレミス城から外に出ると

女王サーラと数人の兵士とメイド達に見送られる。


「どうかお気をつけて。ご武運をお祈りいたしますわ。」

「ありがとう。」

『やっぱ外は寒いな・・・』


ぶるっと震えるルドルフの姿に、思い出したようにサーラは「あ、そうですわ」と

この国におけるとても大切なことを告げた。


「雪狼を見かけたら、決して建物から外へ出てはいけませんわよ。」

『ゆきおおかみ?』

「雪のように真っ白な狼ですの。雪狼は吹雪を連れてきますので

 雪狼が現れたら吹雪をしのげる場所にすぐに隠れるのですよ?」

「・・・雪狼ね・・・情報ありがとう、女王サマ。」

『じゃあ行くかー!』


出発の合図のようにルドルフが「わぉーん」と鳴くと、

「いってらっしゃいませ」というメイド達の声と「ご武運を」という兵士達の声が響いた。

彼らに手を振りながらルドルフ達は西の国へ向かうために再び歩き出していった。



それから数日後、レミス城に難民達の髪の色を調べに行った兵士が戻り

魔族と思われる赤い髪は一人もいなかったという報告をうけ、

女王サーラはほっと胸をなで下ろしたのだった。

東の国から西の国へ行くのにわざわざ迂回した理由がこれです。

ルドルフが全然気づかないから、説明をすっかり忘れてたというね・・・

(ただの言い訳)


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