北の国の女王様
雪が降り続ける北国レミス王国。
道に積もった雪をリーティエンドの魔法で溶かしながら進んでいたルドルフ達は
ついに王国の最北端に位置するレミス城にたどり着いた。
レミス城を囲む城壁は高く、目の前に広がる城門の扉も固く閉ざされていた。
見張りの兵士もおらず、どうやって中に入ったものかとルドルフ達は手をこまねく。
『誰もいないんだな・・・』
「困ったわね・・・城門の扉が開かないと中には入れないわよ。
・・・これは、強引に扉を開けるしかないのかしら?」
「それなら俺に任せろ!」
リーティエンドの言葉にローランが自信満々に前に出て扉の前に立った。
そして扉に両手をつくと力いっぱい扉を押した。
「うおおおおおおおおおお!!」
ローランは雄叫びのような声を上げながら、顔を真っ赤にして扉を押し続けた。
しかし、扉はまったく開く気配を見せず固く閉ざされたままだった。
『ローランの力でも開かないなんて、頑丈な扉だなー・・・』
「・・・あ、の・・・ゆう、しゃさま・・・あれ・・・」
開かない城門の扉に「わぅーん」と感心しているルドルフにマリアナが話しかけてきた。
マリアナは扉から少し離れた壁を指差している。
壁には張り紙がしており、気づいたリーティエンドがそれを読み上げた。
「”レミス城にご用の方はこちらのボタンを押してください。”
って書いてあるわね・・・押してみましょうか。」
リーティエンドに促され、マリアナは壁のボタンを押した。
すると「ピンポーン」という高い音が鳴り響いた後、ギギギギと音を立てて
ボタンの隣の壁が扉のように開いた。
『そこが開くのか!』
「まるで仕掛け扉ね」
「すごい・・・」
ルドルフ達がその光景に驚いていると、一人の兵士が出てきてにこやかに挨拶を始めた。
「レミス城へようこそ。道中寒かったでしょう、どうぞ中にお入りください。」
笑顔でルドルフ達にそう言った兵士は、未だに扉を押し続けるローランに向かって
少し大きな声で衝撃の事実を告げた。
「そちらの扉は飾りですので開きませんよー。入口はこちらになりますー。」
兵士の言葉にローランは固まり、ルドルフとマリアナも「ええ!?」と驚きの声を上げた中
リーティエンドだけは「それで開かなかったのね」と一人納得していた。
扉が飾りで開けられないことを知ったローランは悔しそうに叫んだ。
「それを早く言え!!」
『あれ飾りなの!?』
「はい。よく出来ているのでみんな間違えるんですよ。」
「普通は分からないわよ・・・」
ルドルフもマリアナもリーティエンドの言葉にうんうんと頷いた。
「張り紙してあるんですけどねー。何故かみなさん気付かないんですよ。」
それで前に旅の商人が凍死しかけてたんですよー。と兵士は困ったように言った。
それを聞いたリーティエンドは軽く頭を抱え呆れるように言った。
「場所が場所だから気付かないのよ。直接飾り扉に張った方がいいわ。」
「なるほど、その方が分かりやすいかもしれのせんね。早速そうしましょう。」
自分たちもマリアナが気付かなければ危なかったと思いながら、
兵士が張り紙を飾り扉に張り付けるのをしっかりと見届けてからレミス城の中に入った。
隠し扉のような壁の入口を通り城の中へと入ったルドルフ達を
数人のメイド達が出迎えてくれた。メイド達は「ようこそ」と一礼すると
ルドルフ達に毛布と暖かい飲み物を渡しだした。
「外は寒かったでしょう。こちらをどうぞ。」
「ありがとう・・・随分と手厚いのね。」
「はい。女王様が、訪れた人には最大限のおもてなしをするようにと。」
「この国は女王が治めてるのか。」
「えぇ、とても綺麗な方で私たちの憧れなんです。」
女王の姿を思い浮かべているのか、メイド達は頬を染めてうっとりとしていた。
すっかり自分の世界に入っているメイド達に少し呆れながら
リーティエンドは一番近いメイドに女王に謁見できるかと尋ねた。
「謁見ですか?もちろんできますよ。女王様はとても優しい方ですから。」
メイドはそう告げると、一人ルドルフ達から離れどこかへと行った。
おそらく女王に会いに行ったのだろうと、リーティエンドは飲み物を飲みながら
メイドが戻ってくるのを待った。
しばらくしてメイドが戻ってくると、謁見の準備ができました。と
ルドルフ達を女王のいる場所まで案内した。
案内されたのは玉座がある大広間、ではなく、ソファーとテーブルが置かれた
客室のような部屋であった。ソファーにはすでに誰かが座っており
そのすぐ側にはメイドが立っていた。
「レミス城へようこそいらっしゃいました。」
ソファーに座っていた誰かが立ち上がりお辞儀をすると
部屋の入口で立ち尽くしているルドルフ達に声をかけた。
立ち上がったのは艶やかな長い黒髪と真っ赤なドレスが特徴的な美女であった。
美女は優しく微笑むとルドルフ達にソファーに座るように促した。
「長旅でお疲れでしょう?どうぞ座ってくつろいでください。」
ルドルフ達は戸惑いながらも言われるがままソファーに移動し、
左からローラン、ルドルフ、マリアナ、リーティエンドの順に座った。
ソファーに座ったルドルフ達に部屋にいたメイドが紅茶とお菓子を配る。
その様子は謁見というよりお茶会のように見えるだろう。
ソファーの上が落ち着かず、ソファーから降りて絨毯に座ったルドルフは
紅茶の代わりに暖かいミルクをもらい「わうー」とお礼を言ってから
向かいのソファーに座る美女に話しかけた。
『あんたがこの国の王様なのか?』
「はい。わたくしがこのレミス城を治める女王サーラと申します。」
『・・・犬が喋ってるのにおどろかないんだな・・・』
「バレッサ王国に現れた勇者のことは、失礼ながら調べさせてもらいましたわ。
その中で、勇者が犬だという情報は得ておりますの。」
ですから驚きませんわ。とルドルフを見つめながら女王サーラは言った。
「それで、皆様はどんなご用件でこちらにいらしたのですか?
わたくしと謁見したいとお聞きしましたが・・・」
『あぁ、それは・・・』
この国の王様に魔族の事を話に来たんだということを思い出したルドルフは
振り向いて仲間たちを見た。
左側に座っているローランは、出された紅茶にもお菓子にも手をつけず
顔を真っ赤に染めたまま微動だにせず座っていた。
真ん中、ルドルフの隣にいるマリアナは疲れていたのか座ったまま眠っていて
右側に座るリーティエンドは、出された紅茶とお菓子を味わっていた。
おそらく全員、今の話を聞いていなかっただろう。
ルドルフと目が合ったリーティエンドは、軽く首を傾げたが
すぐに紅茶の入ったカップをテーブルに置くと女王様に向かった。
「あぁ、女王様に話があってきたのよね。すっかり忘れていたわ。」
『忘れるなよ!』
「話・・・ですか?」
「えぇ、実は・・・」
リーティエンドは出会った魔族の事を話しだした。魔族と人族の見た目が似ている事や
魔族が人族にはない赤い髪をしているという事を言った。
サーラはその話を聞き終えると「そうですか」と少し困ったように言った。
「・・・わたくしの国では今、西の国からの難民を保護しておりますの。
もしかしたら逃げてきた方の中に魔族が紛れているかもしれませんわ・・・」
難民としてやってくる者の大半は目立たぬようにフードを被っていることが多い
そのため、魔族が紛れていても気づかずに受け入れている可能性があった。
「ですから、髪の色で判断ができるというのは大きいですわ。
すぐに魔族が紛れていないか確認いたしますわね。」
魔族の重要な情報を手に入れた女王サーラは、すぐに兵士を呼び
難民の髪の色を確認するように告げた。
兵士はすぐに人数を集め保護した難民の居住区へと向かっていった。
「貴重な情報をありがとうございます。リーティエンド様。」
微笑み感謝するサーラに「どういたしまして」と返したリーティエンドは
再び紅茶とお菓子を堪能しようと手を伸ばした。
この時、ポケットから地図が落ちなければそのままお茶会になっていただろう。
「あ・・・そうそう、これからの進路を相談してもいいかしら?」
「もちろんよろしいですわ。すぐに地図をご用意いたしますわね。」
女王サーラは近くにいたメイドに声をかけ地図を用意させた。
北の国は絶対に女王にしようと決めていた。
そして美人、ロングヘアー、赤いドレス、これは外せない。
お茶会を開くのが趣味という裏設定が生えた。
そういや、犬にホットミルクって大丈夫だったっけ?
・・・ルドルフだから大丈夫。ということにしておきましょうw




