そうだ、カジノに行こう!
北国レミス王国の最北端に位置するレミス城を目指すルドルフ達勇者一行は
レミス城と国境の丁度真ん中に位置する大きな街、ダルクフまで辿り着いた。
しかし大きな街だというのに、出歩いている人はなく静まり返っていた。
『でっかい街だなー。』
「だが人の気配が全然しないぞ?どうなってる?」
「・・・ま、ぞく・・・に・・・おそわ・・・れ、た?」
「大丈夫よ、この街に人の気配がないのはいつものことだから。」
そう言うとリーティエンドは少し前に進んで振り向くと、
重要なお知らせとばかりに口を開いた。
「路銀が尽きそうだからここで稼ぐわよ。」
『は?』
「は?」
リーティエンドの言葉にルドルフばかりか、ローランまでもが間抜けな声を上げた。
間抜けな声を上げたルドルフとローランに大きなため息をつきながら
リーティエンドはもう一度言った。今度はわかりやすく簡潔に
「お金がなくなるからここで稼ぐのよ。」
『・・・あーうん、よくわかった・・・けど・・・』
「どうやって稼ぐ気だ?まさか・・・ここで働くのか?」
「あら、そんなことをしなくても簡単に稼げる方法はあるわよ?」
リーティエンドは不敵に笑うと、街の方に目をやった。
「このダルクフの街はね、地下カジノで有名なのよ。
そこなら短時間でお金を稼ぐ事ができるわ。もちろんリスクもあるけれど・・・ね。」
それでもやらなきゃ、この寒い土地で野宿する羽目になるわよ?
と少々脅迫じみたことを言えば、全員が
それだけは嫌だ!とリーティエンドの提案に乗ることにした。
『・・・ところでカジノってなんだ?』
「えっ・・・えと・・・かけごと・・・を、する・・・とこ・・・?」
「行けばわかるわよ。」
カジノがわからないルドルフは「くぅん」と首を傾げながら
前を歩くリーティエンドを見つめていた。
『その地下カジノって場所、知ってるのか?』
「えぇ。前にも来たことがあるから。」
『へぇー。』
「・・・こっちよ。」
悩むことなくスタスタと歩いていくリーティエンドにルドルフ達はついていく。
大通りから細い路地に入るとそこは住宅街で、さらにそこを抜けていくと
看板の無い建物が並んだ場所に出た。
そしてひとつの建物の前に立つと、リーティエンドは「ここよ」と言って
建物の扉を開けた。扉を開けた先にあったのは暗い地下へと続く階段。
明かりの少ない薄暗い階段は静かで足音だけが響いていた。
階段を降りて突き当るとそこには大きな黒い扉があった。
その扉をゆっくりと開けると、強く眩い光が差し込み賑やかな声が溢れだした。
地下カジノ
そこには天井に飾られたシャンデリアが眩い輝きを放ち、沢山の人で溢れていた。
部屋のあちこちに置かれた大きめのテーブルとそこで賭けを行う人々、
ある者は両手を上げて歓喜し、またある者は絶望の表情を浮かべ崩れ落ちる
そんな様々な感情が渦巻く場所であった。
『ここが・・・地下カジノなのか・・・?』
「ぴか・・・ぴか、す・・・ご、い・・・の・・・」
「街に人の気配がしなかったのは、ここに集まっているからか・・・」
ルドルフ、マリアナ、ローランが初めての地下カジノに驚いていると
先頭を歩いていたリーティエンドが突然振り返り、ローランとマリアナに
小さな布の袋を手渡した。
その中には、決して多くはないがお金が入っていた。
「・・・金?」
「なん・・・で?」
「賭け金がなきゃ稼げないでしょう?各自それを三倍以上にしてね。」
「は?」
「・・・え?」
そう告げたリーティエンドは呆然とするローランとマリアナを置いて
一人カジノの奥へ向かってしまった。
「あ、おい!・・・くそ、人が多すぎて見失った・・・」
『・・・あれ?オイラの分は・・・?』
ルドルフは、自分だけお金を渡されなかったことにショックを受け落ち込んだが、
よくよく考えれば自分は犬だから賭け事なんてできないよな。と一人で納得していた。
「ゆう・・・しゃ、さ、ま・・・これ、つか・・・う?」
気づけばマリアナが座り込んで、お金の入った布袋をルドルフに差し出していた。
ルドルフは、まるで遠慮するようなしぐさで右前脚を上げて「わうん」と告げた。
『いや、それはお前のだからお前が使えばいいよ。
どうせオイラは犬だからお金使えないし。』
「んん・・・じゃ、あ・・・いっしょ・・・に、きて、ほ・・・しい・・・」
『ん?』
マリアナがとても不安そうな顔でルドルフにそう言ってきた。
そんなマリアナにルドルフは首を傾げたが、
すぐに「あぁ」と何かを思い出したように声を上げた。
『そういやお前人見知りだっけ。うん、そうだな。一緒に行こう。』
マリアナが極度の人見知りであることを思い出したルドルフがそう言うと、
ホッとしたような表情を浮かべて「うん」とマリアナは頷いた。
ルドルフはマリアナをエスコートするように寄り添いながら部屋の奥に歩いて行った。
一人入口に残されたローランも、布袋を一瞥してカジノの奥へ歩き出した。
「これを三倍?・・・楽勝だな。」
そんな独り言を呟きながら・・・
かくして彼らの、所持金を増やすためのギャンブルが始まった。
リーティエンドはポーカー、マリアナはルーレット、
ローランはブラックジャックを選択し、それぞれのゲームが開始される。
彼らがゲームを終えて再集合したのは、それから数時間後のことだった。
数時間後
所持金を増やすための賭けを終えて、地下カジノの入口に戻ってきたルドルフ達。
再び集まった仲間を見て、リーティエンドは驚いた。
「あなた・・・よくこんなに稼げたわね。」
リーティエンドの視線の先にはルドルフとマリアナと、
一人では持ち切れないほどの大金が入った大きな袋があった。
『こいつすごいんだよ!言った数字が全部当たるんだ!!』
「・・・そ、そん・・・な・・・こと・・・」
「ビギナーズラックってとこかしら?・・・恐ろしいわね。」
興奮気味に説明するルドルフに戸惑うマリアナ、リーティエンドは
自分よりも大量に稼いだマリアナに驚きつつも感服していた。
そんな隣で、ローランは肩を落としていた。
ローランの手にはリーティエンドに渡された布袋が握られていたが
その中身は空っぽである。
落ち込むローランにリーティエンドは追い打ちをかけるように言い放った。
「最初からアンタに期待してないわ。」
リーティエンドの言葉に、ローランはがくんと膝を落とし手をついた。
その落ち込みようにルドルフとマリアナは驚き、必死になって慰めた。
そんな時、目の前の扉が開き、誰かが地下カジノへ入ってきた。
それは、リーティエンドやマリアナがよく知る<鎧>を身に着けた男だった。
東の国バレッサ王国の紋章が入った灰色の鎧。
地下カジノに入ってきたのは、バレッサ王国の兵士の一人だった。
兵士もルドルフ達に気が付いたのだろう。
顔を青くしては滝のような汗を流し、口をパクパクと動かしている。
『あれ?なんか見覚えあるような・・・?』
「ゆ、ゆゆゆゆ勇者様っ!?」
驚いて叫んだ兵士は勢いよく後ずさり、大金の入った袋を落としてしまう。
その大金の袋には鎧と同じくバレッサ王国の紋章が描かれていた。
「あなた、こんな所で何をしてるの?それにそのお金・・・」
「こ、これはその!・・・つまり・・・」
「それ・・・しる、し・・・ある。・・・くに、の・・・おか・・・ね?」
「・・・・・・も、申訳ございません!!」
言い逃れができないと悟った兵士は、突然土下座をして叫んだ。
ルドルフ達の買い物の請求書から
お金を渡し忘れていた事に気づいたソルマン王の命令で、
何人もの兵士がお金を持ってルドルフ達を追いかけてきている事。
そして、自分はこのお金を使って地下カジノでギャンブルしようとやってきた、と
彼は土下座しながら語った。
「・・・そのお金、いらないわよ。」
「え?」
リーティエンドの言葉に驚き兵士が顔を上げると、
持ち切れないほどの大金が入った大きな袋が目に入った。
「これだけあれば十分だし、もう国が違うんだから請求なんてしないわ。」
「え?・・・じゃあ、我々はなんのために勇者を追いかけて・・・」
『お前も大変なんだな・・・』
慰めるように右前足をポンと兵士の肩に乗せ「わうー」とルドルフは鳴いた。
落ち込む兵士を哀れと思ったのか
リーティエンドは兵士の持っているお金を指差して言った。
「そのお金でギャンブルしていったら?そのために来たんでしょう?」
「そうですね・・・」
『おー、それがいい。あれは面白かったし。』
「が・・・んば、て・・・」
「俺のようにはなるなよ。」
「ははは・・・」
ルドルフ達は思い思いの言葉を告げると、苦笑いを浮かべる兵士を置いて
地下カジノを後にした。
彼のギャンブルがどうなったかは、ここで語ることではないだろう。
今回のタイトル候補
「ビギナーズラック」「賭け事はほどほどに」「お金がない!」
の三つだったのに、気付いたら「そうだ、カジノに行こう!」になってた・・・
お金を持って旅立った兵士とルドルフ達を会わせるために考えた話なので
番外編っぽい内容になってますw
あと、更新がすごく遅くなってしまい申し訳ないです><
次回も間隔が開いちゃうかもです・・・




