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魔族と対面(後編)

魔族クルウをいきなり殴り飛ばしたローランは、吹っ飛んだクルウを見て呟いた。


「なんだ?魔族のくせに弱いな・・・期待外れだ。」

「人の話は最後まで聞けー!というか・・・」


吹っ飛ばされたクルウは、飛ばされた距離を走って戻ってくると

ローランを指差して叫んだ。


「勇者が不意打ちするなぁーーーーー!!」


ありえない!といったような表情でそう叫んだクルウの目には涙が溜まっていた。

どうやら相当痛かったようだ。

しかし、その涙も次のローランの言葉で引っ込むことになる。


「いや、俺は勇者じゃないし。」

「へっ?」


ローランは勇者ではなく戦士である。

もっとも、戦士なら不意打ちしていいのかと言えばそんなこともないのだが・・・


「勇者じゃない?・・・じゃあ、そっちの・・・」


クルウはローランの後ろに控えている、リーティエンドとマリアナの方を指さした。

どっちが勇者だ?と尋ねる前に、二人は首を振って否定した。


「私も勇者じゃないわよ?」

「・・・ち、が・・・い、ます・・・」

「えぇ!?」


魔族クルウは三人に否定され混乱する。

彼らが人族が噂している勇者の一行に間違いないと思っていたからだ。

だが、勇者ではないと否定された今、クルウの頭の中は真っ白になってしまった。


「お、お前たちは、人族が噂している勇者一行ではないのか?」

「ほお、魔族側にも俺たちの噂が届いてるのか。」

「え?」

「勇者の一行ではあるけど、私たちは勇者じゃないわ。」

「な、なら、勇者はどこに!?」

「・・・こ、こ・・・」


クルウは、ここだと言ったマリアナが立っている場所を見た。

そこには勇者じゃないと否定したマリアナと、その隣には犬が立っていた。


まさか、とクルウは目を疑った。


「え・・・まさか・・・この犬が勇者?」

『うん。オイラが勇者だよ。』


ルドルフは「わん」と返事をするようにクルウに答えた。

その言葉を聞いてクルウは目を見開き、そして硬直してしまった。



「・・・ありえない・・・ありえない・・・」


硬直が解けたクルウは頭を抱え、ありえないと何度も呟いていた。

クルウにとって勇者が犬という事が信じられないようだ。


「ありえない・・・勇者が・・・勇者が犬?ありえない・・・」

「事実よ、受け入れなさい。」

『やっぱり犬が勇者っていうのはおかしいんだな・・・』

「そん、な・・・こと・・・」


フィーリシア大陸に住む人々が、犬が勇者であることを普通に受け入れていたため

すっかり忘れていたが、ルドルフが最初にフィーリシア大陸に来た時は

勇者は人だと思っていたソルマン王から、人間用に作られた武具を渡されたのだ。

むしろ、魔族クルウの反応が普通なのであろう。


そんなことを考えながら「くーん」と鳴いたルドルフは、

ふと思い出したかのように、そういえば・・・と口を開いた。


『そういえばお前、さっきなんか言いかけてたよな?』


ルドルフの言葉に何かを思い出したのか、クルウはハッと顔を上げると

ビシッとルドルフ達の方を指差してこう言った。


「そうだっだ。君たちよくも、僕の可愛いジョセフィーヌをやってくれたな!」

『・・・ジョセフィーヌ?』


聞き覚えのない名前にルドルフは首を傾げた。

リーティエンドもマリアナもその名前に思い当たる人物が思いつかず首を傾げる。

ローランはすでに魔族クルウに興味がないのか、大きなあくびをしていた。


「忘れたとは言わせないぞ!僕の最高傑作にして最愛の子ジョセフィーヌだ。

 プルプルすべすべの肌は触り心地最高でその踊るような動きはとても愛らしく・・・」


高揚した表情を浮かべながら熱く語りだすクルウ。

放っておけば延々としゃべり続けそうな雰囲気の中、リーティエンドは

彼の言った特徴に当てはまるものが一つだけあることに気付いた。


「もしかしてアレのことかしら?」

『なにが?』

「彼が言ってるのって、私たちが街の前で焼き尽くしたアレのことじゃないかしら?」

「・・・ゼリー・・・みたいな・・・あれ?」

「そう。特徴も一致するし・・・おそらくね。」

「思い出したようだね!」


ジョセフィーヌの愛らしさを熱く語っていたクルウが、ルドルフ達を睨みつける。

その瞳には恨みの炎が燃えていた。


「よくもジョセフィーヌをあんな姿にしてくれたな、僕直々に相手をしてやる!」

「お前みたいな弱い奴が相手になるわけないだろ。」


クルウの言葉にローランが見下すように言い放つ。

先程ふっとばした時にクルウの強さがどの程度かわかったのだろう、

ローランは剣を構えることなくクルウの前に立った。


「ふっ・・・君たちの相手はこの子だよ、おいでエリザベス!」


クルウが指をパチンと鳴らすと、地面の下からゴゴゴゴゴと音を立てて何かが現れた。

それは大小の石が集まってできた大きな人型をした岩の生命体だった。


「この子はエリザベス、僕の最高傑作にして最愛の子供さ。」

『それさっきも言わなかったか?』

「やれ、エリザベス!ジョセフィーヌの仇を取るんだ。」

『・・・直々に相手するんじゃなかったっけ・・・?』


エリザベスと呼ばれた岩の生命体は、大きな拳を振り上げローランに叩き付けた。

ローランはそれを受け止めるが力が強いのか「ぐうっ」と声をもらす。


「エリザベスはジョセフィーヌのように魔法は効かないよ。君たちに勝ち目はない!」


ジョセフィーヌはゼリー状の体だったために魔法には弱かったが、

エリザベスは魔法に強い鉱物で作られている。

だから負けるはずがない、そうクルウは勝利を確信していた。


しかし・・・


「ふんっ!」


ローランは受け止めていた拳を跳ね返し、間合いを詰めると

岩の生命体の腹部と思われる場所に強烈なパンチを叩き込んだ。


その瞬間、岩の生命体エリザベスは粉々に砕け散った。


「エリザベスーーーーーーーーー!!」


粉々になった岩の生命体を見て、クルウは叫んだ。

ゼリー状のジョセフィーヌとは違い再生能力はないようだ、

砕け散った大小の石ころが散らばったまま動く気配はない。


「よくも・・・よくも僕のエリザベスを・・・」

「こいつも弱いな・・・魔族はこんなにも弱いのか、本当に期待外れだ。」


心底残念そうにローランは言った。

魔族は強いと思っていたためにそのショツクは大きいのだろう。


「・・・魔族にだって僕のように頭脳派はいるさ、みんながみんな肉体派じゃない。」


砕け散ったエリザベスの欠片を拾いながらクルウは涙声で答えた。

その言葉にローランはぴくっと反応した。

肉体派の魔族なら強いかもしれない、そう思ったからだ。


エリザベスの欠片を持てるだけ拾い集めたクルウは、ローランを睨んだ。


「・・・この落とし前は必ずつける。覚えてろーーーーー!!」


まるで悪役のお約束のようにそう叫ぶと、

うわーん!とボロボロと涙を流しながら魔族クルウは走り去って行った。


「雑魚だな。」

「雑魚ね。」


ローランとリーティエンドは、クルウが走り去った方を見ながらそう口にした。

魔族との初戦闘は、ローランがエリザベスを倒した事によってこちらの勝利となった。



魔族クルウがいなくなり、放たれていた殺気もなくなったので

ルドルフ達は街に戻ることにした。その道中でリーティエンドが口を開く。


「それにしても、レミス王国に魔族がいるなんて・・・思ったより侵攻が早いわね。」

「・・・北も、もう・・・お、ちて・・・?」

「それはないわ。さっきの街を見る限りまだ魔族の手には落ちてない。」

『でも魔族ってニンゲンと同じ姿なんだろ?見分けつかないんじゃないか?』


リーティエンドの言葉に「くぅん」と疑問を抱くルドルフ。


「見た目は確かに似てるわ。でも、人族と違う部分もあるわね。」

『そんなのあったか?』

「髪の色よ。私たち人族の髪の色は黒か茶色が多いんだけど、あの魔族の髪の色は

 赤みがかっていたわ。もちろん、全ての魔族が赤い髪とは限らないけど・・・」


少なくとも髪色で魔族と人族を見分けることができるかもしれない。と

リーティエンドは語った。フードをかぶっていたのも髪色を隠すためかもしれないと。


街に戻ったルドルフたちは、この先の進路を話し合った。

そしてレミス王国の国王に会いに行き、魔族の情報を伝えることを決めたのであった。


目指すは最北端のレミス城。

年中雪が降り続く極寒の地に向けてルドルフ達は出発した。



タイトル思いつかなかったので、前後編としました。


最初、ゼリー状のやつの名前はジョセフィーヌじゃなくて

ぷるぷるとかわかりやすいのにしてました。

けど、名前で連想できない方が面白いかと思ってこの名前になりましたw


つくづく自分のネーミングセンスの無さに泣けてくる・・・



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