魔族と対面(前編)
ルドルフ達が街の中に入り姿が見えなくなった頃、
地面が黒く焼け焦げた場所にひとつの人影が現れた。
そこは先程までゼリー状の物体と戦闘を行っていた場所だった。
人影はフードを深くかぶったローブ姿で、男か女かさえもわからなかった。
その人物が膝をつき焦げた地面を撫でると、不思議と地面は淡く光を放った。
まるで返事をするかのように。
それを見た人影は悔しそうに下唇を噛んで街の方を睨んだ。
「・・・僕の大事な子供をこんな姿にするなんてね・・・許せないな。」
発せられた声は低く、ローブの人影を男と判断するには十分だった。
ローブの男は立ち上がると、ゆっくりと街の方へ歩き出した。
まるで獲物を見つけた獣のように、その口元に歪んだ笑みを浮かべて。
「僕が直々に相手をしてあげないとね・・・」
そう呟いたローブの男は街の中へと消えていった。
ルドルフ達勇者の一行は、街に着くなり服を売っている店を探した。
寒さに震えるルドルフのために、まず防寒着を買おうという事になったのだ。
服飾店に着いた一行は、まずルドルフが着れる防寒着を探した。
この世界でも動物をペットに飼っている者は多く
レミス王国では、年中寒いこともあり動物用の防寒着もちゃんと売っていた。
ルドルフの防寒着を見つくろった後は、それぞれが自分たちの防寒着を探し始め、
ローランは毛皮のマントを
リーティエンドはコートを
マリアナはケープを
それぞれを手にして会計をしようとした時、ルドルフが口を開いた。
『そういや、ここの代金もソルマン王に払わせるのか?』
首をかしげ「くぅん」と鳴くルドルフに、リーティエンドは「あぁ」と
何かに気付いたように声をもらした。
「そうね、さすがに国が違うから王様に請求するのは悪いわね。」
『じゃあ、どうするんだ?』
「それはもう考えてあるわ。」
そう言うとリーティエンドは店員のもとへ行き話を始めた。
そして、今までの町や村で買った大量の未使用の武具を全て売り払った。
店員も大量の武具に困り果てていたが、それでも全て買い取ってくれた。
『・・・この時のために、あんなに大量に買ってたのか?』
「えぇ、お金はいつ必要になるかわからないもの。これぐらい考えておかないと。」
あきれ顔のルドルフに、当然でしょうという態度でリーティエンドが答える。
大量の武具を売り払ってできたお金で、ルドルフ達は防寒着を揃えることができた。
防寒着を着たルドルフは店を出た瞬間に「おぉ!」と声を上げ
さっきまでのような寒さを感じないことに感動を覚えた。
『全然寒くない!ニンゲンの服はすごいなー!』
白い息を吐きながらはしゃぎ回るルドルフに、マリアナは嬉しそうな顔を浮かべ
リーティエンドは呆れていたが、ローランだけは何かを探すように周りを見ていた。
『どうした?ローラン』
「いや・・・どこからか殺気を感じてな・・・」
『殺気!?』
「敵がいたことを考えれば、近くに魔族がいてもおかしくないわね。」
「・・・ま、ぞく・・・が・・・」
リーティエンドの言葉にマリアナは持っていた杖を強く握りしめた。
その手は少し震えている。
ローランは周囲を警戒し、いつ敵が襲ってきてもいいように腰の剣に手をかける。
ルドルフも周りを見渡すが、怪しそうな人物は見つけることができなかった。
「・・・街を出ましょう。ここで戦えば街に被害がでるわ。」
殺気を放っている敵がいつ襲ってくるかわからない。
だからこそリーティエンドは被害を抑えるために街を出ることを提案した。
もっとも、街に被害が出るとしたら彼女の魔法によって・・・だろうが。
リーティエンドの提案を受け、ルドルフ達は街から移動した。
暴れても被害が出ないように街道から離れた森の中に・・・
「いい加減姿を現したらどうだ!?」
ドスのきいた声でローランが叫ぶと、木の陰からスッと人影は現れた。
ローブを纏ったその人物は、深くフードをかぶっている。
「僕の存在によく気付いたね。褒めてあげるよ。」
男だと判断できるぐらいの低い声でローブの人物は言った。
そして、フードをゆっくりと後ろにずらし、その顔をさらした。
「初めまして。僕はクルウ、魔王様に仕える魔族の一人だよ。」
フードを外した男の顔を見て、ルドルフは驚いた。
否、ルドルフだけじゃないその場にいる全員が驚き戸惑った。
フードを外したローブの男の姿は、人族とまったく同じ姿をしていたのだ。
『魔族?ニンゲンじゃないのか!?』
「そんなはず・・・でも・・・まさか人族が・・・いえ、そんな、こと・・・」
この状況に一番驚いているのはリーティエンドだった。
先程の戦闘から考えて、ここで対面するのは魔族だと確信していた。
それは間違っていなかったし予想通りの展開になった。しかし予想外の事が起きた。
魔族だと名乗った男の姿がどう見ても人族なのだ、彼女を混乱させるには十分だろう。
「君たちの想像する魔族っていうのは、化け物のような見た目でもしているのかい?」
まるであざ笑うかのように、ローブの男は歪んだ笑みを浮かべながら言い放った。
人族が魔族と聞いて想像するのは、地下世界という光もない世界で暮らす住人・・・
それは獣のようであったり化け物のようであったりと多種多様であるが、
共通して言えることは、自分たちとは違う姿をしているということだった。
しかし、遥か昔に地下世界に行った魔族の姿など誰も知るはずがなく、
文献や古文書にもその姿は書かれていなかった。
ただひとつ、絵本に描かれた魔族という名の化け物を除いて。
おそらく、子供の頃に見たその絵本の魔族が、今も先入観として残っているのだろう。
だからこそ、目の前にいる人族の姿をした男を魔族だと認識できないでいるのだ。
『おい、大丈夫か?しっかりしろ。』
リーティエンドの耳に「わんわん」と自分を心配するルドルフの声が聞こえた。
そして思い出す。固定観念に囚われていない存在がここにいることを。
勇者が犬という時点で、勇者は人というこちらの固定観念は覆されているのだ。
魔族の見た目が人族と同じであったとしても、そこに囚われる必要はない・・・
「・・・大丈夫よ。感謝するわ、勇者サマ。」
『うん?』
突然感謝されて、わけのわからないルドルフは首を傾げる。
吹っ切れたリーティエンドは不敵な笑みを浮かべて、クルウと名乗った魔族を見た。
「たとえ私たちと同じ姿をしていても、あなたが敵であることには変わりない。」
そうでしょう?とローランとマリアナに言い聞かせるように言った。
その言葉に二人とも吹っ切れたのか、さっきまでの戸惑いの表情は消えていた。
「相手は魔族・・・この時を待ってたぜ・・・」
ローランにいたっては、待望の魔族との戦闘である。自然と口角は上がり
この時をどんなに楽しみにしていたか、とローランの体の中で闘志が燃え滾る。
「どうやら冷静さを取り戻したようだね。じゃあ、僕が直々に来たりゆ・・・へぶっ!?」
話途中であった魔族クルウは、突然ローランに思い切り殴られ吹っ飛んだ。
森の中であったため木に衝突して止まるが、その衝撃は木を倒すほどであった。
げほげほと咳き込み、殴られた左頬をさすりながら涙目でクルウは叫ぶ。
「人の話は最後まで聞けー!というか・・・」
クルウはローランを指差して、信じられないという表情でこう叫んだ。
「勇者が不意打ちするなぁーーーーー!!」
長くなってしまったので、ここで切ります。
最初の街で大量に買った武具の出番がようやく来たw
表現してなかったけど、ずっとローランが運んでました。
人族の絵本には、わかりやすいように
神族は鳥のような姿で描かれ、魔族は化け物のような姿で描かれてます。
これが先入観や固定観念になっちゃったわけですね。




