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きっかけは些細なこと

『・・・オイラ達が悪かったって、なぁ、機嫌直してくれよ・・・』


困ったように「くーん」と鳴きながらルドルフは後ろを見ながら歩いていた。

その視線の先には不機嫌な顔を露骨に浮かべているローランの姿があった。


先頭を歩いていたローランだったが、二度もルドルフ達に引き止められなかったことを

根に持っているのか、今はルドルフ達を睨みながら最後尾を歩いている。

そんなローランに、ルドルフの隣を歩くリーティエンドが呆れたようにため息をつき、

ルドルフとローランの間を歩くマリアナは、前と後ろを交互に見ながら

オロオロした様子で歩いていた。


引き止められず先行していたローランが涙目で戻ってきた時、

ルドルフは何度何度もも謝罪したのだが、それで彼の気が収まることはなく

ローランはルドルフ達の後ろに回りこみ「お前たちが前を歩け!」と言い出して

今の状態になったのであった。


「今は何を言っても無駄よ、放っておきなさい。」


隣を歩くリーティエンドは、謝罪しながら歩いているルドルフにそう言った。


『でも・・・』

「後ろに気を配ってないから、そういう目に合うのよ。自業自得。」


先頭を歩くのなら、常に後ろに気を配るべきだとリーティエンドは言い放つ。

しかし、自分が引き止めなかったせいだと負い目を感じているルドルフは

リーティエンドの言葉に「クーン」と弱々しく鳴くだけだった。


「・・・そんなに気になるのなら、いっその事記憶を消せば?」

『へっ?』

「旅をするのにこの状態は不満なんでしょう?だったら・・・」

『いやいやいや!不満じゃないから!というかどっちの記憶を消す気なんだよ!?』

「・・・この場合、あなたとあれかしら?」

『ギャウン!!』


リーティエンドの記憶を消す発言に、ルドルフは悲鳴のような声を上げて

首を左右に振りながら「ワンワンワンワン」と焦るように吠えだした。

それは言葉になっていなかったが、おそらく「やめろ」と訴えているのだろう。


「・・・冗談よ・・・」


言葉とは裏腹に、リーティエンドはなにやら残念そうな表情を浮かべた。

本気で記憶を消す気だったようだ。

ルドルフは冗談だと言われても信じられず、リーティエンドから距離を置こうと

後ろを歩くマリアナの隣を歩き出した。


マリアナは、ルドルフとリーティエンドのやり取りを見ていて

なにか気になることがあったのか、軽く首を傾げながら口を開いた。


「・・・ま、ほう・・・つかいさ、ま・・・は・・・」

「・・・何かしら?」

「せん、し・・・さま、と・・・なか・・・わるい・・・の、です、か?」


<魔法使い様は、戦士様と仲が悪いのですか?>


マリアナが言ったその言葉に、リーティエンドの足が止まる。

そしてこちらに振り返り、マリアナに満面の笑みを向けてきた。

しかしそれは、どこか恐怖を感じさせる笑顔であった。


そんな黒い笑顔にマリアナが耐えられるはずもなく、びくっと体を強張らせ

震えながら小さな声で謝罪の言葉を口にした。


「・・・別に怒ってないわよ。ただ・・・あれには恨みがあるから・・・」

「・・・うら・・・み・・・?」

『あれってローランの事かよ!扱い酷くないか?』


ちらっとルドルフは後ろを見た。後ろを歩いているローランに聞こえていたら

余計に怒るんじゃないかと思ったようだが、最後尾を歩くローランは

ルドルフ達と距離が少し離れているため会話は聞こえていないようだった。


それに安心したルドルフは前に向き直し、リーティエンドに尋ねた。


『そういや、ローランに恨みがあるって言ってたな。どんな恨みなんだ?』


ルドルフの言葉にリーティエンドは黙り込み、ふいっと背を向けて歩き出した。


「・・・大したことじゃないわ・・・」


そう呟いて、リーティエンドは自分の中でまだ新しい記憶を呼び起こした。


・・・それは、神族が勇者の予言を伝えた日から三日後の事だった。


リーティエンドは故郷の小さな村で、毎日本を読んで過ごしていた。

少し前までは、大きな街で魔法の研究をしたり、古文書の解読をしたりしていたが

魔法も全て覚えてしまったし、古文書の解読も飽きてしまったので

こうして故郷に戻り、のんびりと読書に浸っていた。


そんなリーティエンドのもとに、この日、バレッサ王国の兵士が数人やってきたのだ。

兵士たちは勇者のお供として彼女が選ばれたことを告げ、城への同行を求めたが

リーティエンドが素直に応じるわけがなく、丁重にお断りした挙句

食い下がる兵士たちをボロボロにしたのであった。

もっとも、最終的には村の人たちに諭され渋々ながら城へと同行したのだが・・・


バレッサ王国の城に着いたリーティエンドを待っていたのは、

煌びやかな装飾品を纏った男とローブを着た男、そして筋肉質な大男だった。

その姿からバレッサ王国の国王とその神官であることがうかがえ、

大男の方は、おそらく自分と同じように選ばれた人だと認識した。


よく見れば、神官の陰に小柄な少女の姿もあった。


王様は自己紹介の後、リーティエンド達に説明をした。

四日後に現れる勇者のために、最高の武具と仲間を揃えようとしているのだと。

それに選ばれたのが、リーティエンドたちだと。


「勇者と共に魔王を倒し、この大陸を救ってくれ。」


そう言った王様の言葉にリーティエンドはため息をついて口を開いた。

そんな面倒なことはごめんだと、そう思ったからだ。


「悪いけど、お断り・・・」

「任せてくれ!!」


リーティエンドの声を遮るような大声で大男は言った。


「ちょっと・・・!」

「魔族なんて、俺が全部ぶちのめしてやるぜ!」

「おぉ!頼もしいかぎりだ!」

「まって・・・」


リーティエンドの声などまるで届いていないような様子で

大男と王様がどんどんと話を進めていく。


「では、任せたぞ。」

「あぁ!全部俺に任せろ。」


大男はそう言って自分の胸をドンと叩いた。

断る隙も与えられず、勇者のお供という面倒事に巻き込まれたリーティエンドは

王と神官が部屋を出ていった瞬間に、大男に攻撃魔法をぶつけた。


大きな爆発音が響き、白い煙が城の上空へ立ち昇っていく。

その魔法は部屋を半壊させるほどの威力で、普通ならば大怪我を負うところだろう。

しかし、魔法の直撃を受けたはずの大男はまったくの無傷でピンピンしていた。


一度決定したら、どんなことをしても覆すことができない。


リーティエンドは大男のせいで、勇者のお供として旅に出るはめになってしまった。

それは、リーティエンドがその男・ローランを恨むには十分過ぎる要素であった・・・


「・・・いつか焼き尽くしてやるわ・・・」


あの時の事を思い出し、怒りがふつふつと沸いてきたリーティエンドは

誰にも聞こえないような小さな声でそう呟いた。


しかし、犬であるルドルフにはそれが聞き取れ、黙って歩いていたリーティエンドが

突然物騒なことを言い出したことに驚き「きゃうっ」と声を上げ

隣を歩いているマリアナに不思議そうに見られるのであった。


その後の道中も、特に何事もなく次の街に着いたルドルフ達だったが

ローランの機嫌が相変わらず悪いままで、未だに最後尾を歩いていた。

この先もこのままでは困るからと、リーティエンドはルドルフに耳打ちをした。


『ローラン、先頭を歩いてくれ。』

「断る!」

『やっぱり先頭を歩くのはお前しかいないんだ!お前だけが頼りなんだ。頼む!』

「・・・そ、そうか?・・・俺だけが頼り?・・・そうか、そうだよなー・・・」


ルドルフの言葉に次第に機嫌がよくなっていくローラン。

うんうんと頷きながら「そうだよなー」と繰り返している。


「よし、先頭は俺に任せろ!お前たちも遅れるなよ!」


胸をドンと叩き歩き出すローラン。その表情はとても嬉しそうだった。


『おい、待てって、置いてくなー。』

「まっ、て・・・」


歩いていくローランを必死に追いかけるルドルフとマリアナ、その様子を眺めながら

呆れた表情のリーティエンドがぽつりと呟く。


「単純・・・」


はぁ、とため息をひとつして顔を上げれば、

立ち止って自分を待っているルドルフ達の姿があった。


『おーい、早く来いよー。』

「急げ、置いてくぞ。」


そんな声に「はいはい」と答えながら、面倒くさそうな表情を浮かべつつ

リーティエンドはルドルフ達の方へ歩き出した。


前回、ローランがあまりにも哀れ過ぎたから、フォローのつもりで書いてたのに

気付いたらリーティエンドの恨みの話に・・・あれぇ?


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