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勇者降臨

天空には神族が、地下には魔族が、そして地上には人族が暮らす世界・フィーリシア大陸。

お互いが他の種族の世界に干渉しないことで争いを避け、三世界は長く平和だった。


しかし、そんな平和はある日脆く崩れ去る。

地下の世界を治める魔族の王・魔王が下僕の魔族を地上に放ち侵略を開始したのだ。

力のない人族はなすすべもなく魔族によって国を、家を、全てを奪われていった。


争いを好まない種族の神族は、そんな地上の姿を天空から見ていた。

決して他種族の世界に降りてはいけないという戒律があるため

神族は人族を助けることは出来なかったが、ひとつの予言を人族に与えた。


『七日後、東の大地バレッサ王国の大神殿にて

フィーリシア大陸を救うべく、異世界から勇者が現れるであろう。』


神族の予言を受け取ったのは地上に生きる全ての人族だった。

彼らは恐怖と絶望の中で勇者という名の希望を手に入れた。


勇者が現れると言われたバレッサ王国では勇者のために鍛冶師が最高の武具を作り、

同時に勇者のお供をさせる優秀な人材が集められた。

闘技場で最強の名を手に入れた屈強な戦士

攻撃魔法をたやすく扱える天才魔法使い

回復魔法なら右に出るものはいない優しき神官

全てを揃え勇者の訪れを待った。


そして、神族が予言した七日後

バレッサ王国の大神殿には国王と神官たちの他に大勢の国民が詰めかけた。

勇者の登場を今か今かと待ちわびる国民たちのざわつく声が大神殿に響く。

そんなざわつきの中、天空より一筋の眩い光の柱が降り注ぎ始めると

人々は一斉に口を閉ざし大神殿は一気に静寂に包まれた。

誰もが息を呑みその光景を見守る。


勇者の降臨


誰もがそう思い光の柱を見つめていると、やがて光の柱は細くなりひとつの影が現れた。

光の柱から現れた勇者に人々は歓喜の声を上げた。誰もが勇者様!と叫び跪く。

その光景を目の当たりにした異世界から来た勇者は、驚いた表情を浮かべ固まっていた。


「よくおいで下さいました勇者様。私はこの大神殿の神官のハーユと申します。」


固まったままの異世界の勇者に、神官がずいっと前に出て話し始めた。

すると、先ほどまで歓喜の声を上げていた国民たちが再び黙り始める。


「神族は予言しました。この日この場所に異世界からフィーリシア大陸を救うために

勇者が現れると・・・貴方は異世界の勇者なのです。」


神官ハーユは言葉を続け異世界の勇者に説明する


「今、我らが住まう大陸フィーリシアは魔王に攻め込まれ危機的状況にございます。

どうか魔王を倒し、この大陸に平和を取り戻して下さい。」


話を聞きながら少しずつ落ち着きを取り戻した勇者はゆっくりと口を開いた。


「ワン?」


異世界から光の柱によってやってきた勇者は、こげ茶色の毛並をした”犬”だった。


「突然のことで混乱していると思いますが、なにとぞお願いいたします。」


神官ハーユは目の前の勇者と呼んだ犬に頭を下げる

勇者と呼ばれた犬はオロオロしながら「クーンクーン」と鳴き声を上げた。


『なんだよコレなんなんだよコレ・・・オイラが勇者?いやいやそんなわけないだろ』


犬は自分の置かれた状況をまったく理解していなかった。

目の前には自分を勇者と呼び頭を下げる男

その後ろには「勇者様」と囁く声と期待に満ちた目をした大勢の人


それはまるで

自分の主人である男がよくやっている”ゲーム”と呼ばれるものによく似ていた。


『そ、そうだ、ご主人!きっと勇者はご主人のことだ!』


犬はきょろきょろと辺りを見回して主人の姿を探した。

しかし主人の姿はどこにもなく、ここにいるのは自分だけで

勇者と呼ばれているのも自分だとようやく理解してそれを認めた。


『・・・オイラが、勇者なのか?』

「さようでございます。」


ぽつりと呟いた犬の一言に、いつの間にか顔を上げていた神官ハーユが答えた。

その返事に犬はひどく驚いて「ギャンギャン」と吠えた。


『オイラの言葉がわかるのか!?』

「ええ、わかりますよ。」

『犬の言葉がわかるとは・・・お前すごいな。』


犬が発しているのは犬の鳴き声そのもので、言葉が通じないのが普通なのだが

なぜか神官ハーユと、ここにいる全ての人々は異世界の犬の言葉を理解していた。


「いえ、他の犬の言葉はわかりませんので、勇者様が特別なのですよ。」

『なんでオイラが勇者なんだ?勇者ってニンゲンがなるものじゃないのか?』

「先ほども言いましたが、神族の予言で現れたのが貴方だからです。」

『それじゃあ、予言で現れたのがネズミとかでも勇者になるのか?』

「そうですね。」

『恐ろしいなこの世界・・・』

「それだけ神族の予言は絶対なのですよ。」


神族には未来を予知する能力があった。

しかし、意識的に使おうとしなければ知ることが出来ないため

今回の魔族の侵略に気づくことが出来ず、このような状況になってしまった。

だからこそ神族は勇者の予言を人族全てに伝えた。せめてもの償いとして・・・


「どうか我々の大陸をお救いください勇者様。」

『オイラ犬だから何もできないぞ?』

「神族の予言で現れた貴方は勇者、何も出来ないはずありません。」

『だからオイラは犬』

「貴方は勇者です。」

『犬だから・・・』

「勇者です。」

『・・・・・・』

「勇者なのです。」

『・・・だー!もうわかったよ、犬が勇者でいいよ!オイラが勇者でいいよ!』


神官ハーユとの言い合いに負けて、吠えながらも犬は自分が勇者だと宣言した。

その言葉に国民は歓声を上げ手放しで喜んだ。「勇者様万歳」といった声が上がる。

神官ハーユは満足したのかいつの間にか後ろに下がり、入れ替わりにやってきたのは

煌びやかな服と装飾品を身に纏い豪華な王冠を頭にかぶった男だった。


「私はこのバレッサ王国国王、ソルマンだ。そなたの名を聞かせてくれぬか、勇者よ。」

『オイラの名前はルドルフだよ。』

「勇者ルドルフか・・・よき名だ。今からそなたには、この大陸を救うため旅立ってもらうが

我々も協力は惜しまぬつもりだ。そなたのために武具を用意した、使うがよい。」


ソルマン王が合図すると、中年男性二人が大きな木箱を運びルドルフの前に置いた。

その木箱のふたを開けると、中には大きく立派な剣と金色に輝く鎧が入っていた。


「それはこの者たちの最高傑作だ。勇者の名に相応しいだろう。」


木箱を持ってきた中年男性二人は鍛冶師でソルマン王の言葉にうんうん頷いた。

しかし、ルドルフは箱の中身を見つめながら「きゅーん」という鳴き声を出した。


『オイラのこの手でどうやって剣を持てと?くわえるにしても重そうだし・・・

この鎧だってニンゲンが身に付けるようなやつだから、オイラじゃ無理だぞ。』


鍛冶師が作った武具は確かに立派なものだったが、それらは全て

人間が身に付けることを前提に作られたものであった。

たとえ最高傑作だとしても、扱えなければ宝の持ち腐れ・・・


『やっぱり、勇者で来るのはニンゲンだと思ってたんだな。』


ルドルフの言葉にソルマン王も二人の鍛冶師も瞬時に目をそらした。


『そこ、あからさまに目をそらすな。』


呆れるように吠えたルドルフの態度にソルマン王は

ごほん!と大きな咳払いをして半ば強引に話題を変えた。


「そなたのために供を用意した。必ずやそなたの助けとなるだろう。」


そう言ってソルマン王が促すと、鍛冶師の二人はしょんぼりしながら木箱を持って下がり

入れ替わるように三人の男女がルドルフの前にやってきた。

一人は短髪で筋肉質な大男

一人はロングヘアーでスリムな女性

一人はボブで眼鏡をかけた小柄な少女


「さぁ、自己紹介を。」


ソルマン王は少し下がり、三人に自己紹介をするように促す。

三人の男女は顔を見合わせると、ルドルフにお辞儀をして一人ずつ自己紹介を始めた。



*短編版との違い*


・ルドルフのセリフ(鳴き声+訳 → セリフのみ)

・ルドルフの一人称(俺 → オイラ)


その他細々したところ。

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