インコンプリート
「魔族達の舞踏会を見に行ってみない?」
「いいね」
ということで舞踏会を見に行くことなった。
魔族達の舞踏会なんて見ないと損だと思うんですよね。
魔王の目をも誤魔化せる透明マントが万能過ぎて、俺達にはそんな余裕が出来てしまったわけだ。
もちろんそんなうかつな行動をエクスカリバーは窘めた。
が、エクスカリバーさんも少しは興味があったらしい。
俺達は透明マントを被って舞踏会が行われているであろう3階へ向かった。
あの部屋でしばらく時間を置いたので、もう始まっていてもおかしくないだろう。
料理も運び込まれていたしな。
3回の広場の扉の前に着くと、中からは音楽が漏れてきていた。
マジで舞踏会やってんのかよ……。
「覗いてみよう」
「そうだな」
俺達は扉を少しだけ開けて、中を覗いて見る。
するとそこは優雅に踊る魔族達で溢れていた。
知能が高いとやはり娯楽という物ができるらしい。
魔族達はどれも見た目に差異があって、メスっぽいのも多かった。
基本的な構成は、四肢があって頭があって二足歩行という点では、人間とほとんど変わらないみたいだ。
性別もあるみたいだし。
玉座には片手にワイングラスを持った魔王が座っていた。
ご満悦の様子だけど、お前のクローン全部消し炭になったんだぜ。
お、あそこにある料理旨そうだな……。
そんなことを考えていたそんな時だった。
銀髪の少女が俺の目に止まったのだ。
白いワンピースで着飾っている少女は、バルコニーで風に吹かれている。
俺はその横顔に見惚れてしまっていた。
あれ人間じゃね?
そんな疑問も頭の隅に押しこまれて、俺はその少女に魅入っていたのだ。
いつ以来だろうか。
三次元の女の子にときめくなんて。
二次元を知ってからは興味を持てなかったのに。
心臓の高鳴り。
ぶっちゃけると、一目惚れだった。
一人の魔族が、その少女にダンスを申し込んだ。
少女は愛想笑いを浮かべてそれを断り、また遠くを眺める。
俺の理想だった。
何から何までもが美しい!
可憐だ!
気づけば俺は透明マントなんて脱ぎ捨て、扉を開いていた。
「ちょっ……!」
【な……!】
そして俺は堂々とその少女の元まで向かっていく。
さも当然のように俺が侵入したために、誰も俺という人間に気づいていなかった。
踊りに夢中になっているからというのもあるかもしれない。
俺は歩調を早めた。
バルコニーで空を眺めるあの少女に早く声をかけるためにだ。
なんでこんなことしてるんだろう俺。
そんな疑問が浮かんだが、些細なことに思えた。
なんていうか、俺はあの少女の元に行かないといけない気がしたんだ。
そして、俺は銀髪の少女の背後に立つ。
そんな俺の気配に気付いたのか、少女は振り向いた。
それと同時に俺は片膝を着き、言い放つ。
「Shall we dance?」
「なっ……!」
少女の反応に、俺は眉を寄せた。
アプローチの初撃は失敗したんだろうか。
いや、そんなことはない。
とりあえずここで月次なセリフでも吐いておくとしよう。
「なんだか初めてあった気がしないね、ガール」
「な、なんで……ここにいるんですか……レイヤ……」
え?
知り合い?
「もしかして、俺のこと知ってんの?」
「何……言ってるんですか……?」
「いや、俺記憶喪失でしてね」
俺がそう言った瞬間、銀髪の少女は眉を寄せた。
そんな顔も実にキュートだぜ。
「嘘……ですよね?」
「これがマジなんだよ」
「ティルフィング……、ど、どういうことですか……?」
少女の視線が俺の腰に向かう。
「ああ、こいつは死んだらしいよ。
俺はなんにも覚えてない」
てかティルフィングのことも知っているのか。
俺とはどんな関係だったん?
そう聞こうとしたら、その時にはすでに少女は崩れていた。
「う……あ……、じゃ、じゃあ……私は、何の、ために……」
「え? ちょ……、なんで泣いてる……」
の、というところで俺は後ろから何者かが高速で近づいてきているのを察した。
その時の俺の動きは自分でも仰天レベルだった。
そう、振り向きざまにそいつの顔面を捉えたのだ。
「ふんぬ!」
見てみればそいつというのは魔王でしてね。
俺は魔王の不意打ちを返り討ちにしてやった訳だ。
なぜこんな力がいきなり出たのか。
それは分からないけど、魔王はバッドで打たれたボールのごとく、吹き飛んでいった。
いやいや、そんなことよりこの少女だ。
というより初対面みたいなもんなのに、なぜこんなに積極的になれるんだろうか俺は。
これが恋の力なんですかね。
簡単に泣いちゃうところも可愛いし。
ま、この姿を見るに、俺とは深い関係にあったのは明白でしょう。
つまり、お持ち帰りオッケーということでして……。
「ぶっ……!」
唐突に飛来してきた火球が俺に被弾した。
ジュウと音がなって、俺の肩を焦がす。
「あっつ! あつ!」
気づけば俺は魔王を先頭とした魔族達に囲まれていた。
あ、やばいやつじゃんこれ。
「一人で侵入してくるとはな。
驚いている」
先程俺がふっ飛ばした魔王が俺の前に立った。
俺は銀髪の少女を抱え上げると、バルコニーから飛び降りようとする。
が、振り向いた時には魔王は目の前にいた。
「わーお」
「シャーラ、こっちに来い」
「拒否」
「貴様には聞いていない」
俺は咄嗟に指に嵌めた宝具“黒箱”を発動させる。
虚から現れた黒い箱が、魔王を閉じ込める。
俺はその隙に、逃げ出そうとしたのだが、動けなかった。
足元を見てみると、影から伸びてきていた手に、足をがっしりと掴まれていたのだ。
影から溢れ出した手は俺の体を這っていき、少女を俺から引き離した。
「No!!」
そして俺はそのまま地面に拘束される。
黒箱から魔王が出てきたのも丁度その時だった。
「宝具庫に忍びこんだか、虫けら」
「ぐ……」
魔王は俺の頭に杖を押し付けた。
俺はなすすべもなく悲鳴をあげることしかできない。
やっべ。
殺される……。
走馬灯を見かけた時、魔王の持っていた杖が吹き飛んだ。
「レイヤ!」
「なんだ、勇者か」
魔王の前に躍り出た勇者は、エクスカリバーを抜刀していた。
地に縛られている俺はそれを見上げる。
「エクスカリバー! チェンジだ!」
【任せろ】
「チッ……」
そこからの勇者の動きは別物だった。
いや、チェンジをしたから今はエクスカリバーが勇者の体を使っているのか。
エクスカリバーは目の前の魔王を吹き飛ばし、周りにいた魔族を気合で吹き飛ばすと、地面を強く蹴った。
当然バルコニーは崩れ、俺は解放される。
「レイヤ、逃げるぞ!」
「あの女の子も連れて行ってくれ!」
「そんな余裕はない!」
「ああ! 愛しのハニー!!」
「何を言ってる! 行くぞ!」
エクスカリバーは空中で俺を掴むと、そのまま空を走り出した。
本来ならそれに驚いていただろうが、今はあの銀髪少女のことで頭がいっぱいだ。
なんであの娘は泣いてるんだろうか。
「いかせん!」
ぐわっと伸びてきた影がエクスカリバーを襲う。
魔王の追撃だ。
エクスカリバーはそれをひらひらと舞うように躱していき、地面に着地する。
そして魔法陣を展開した。
転移魔法だろう。
魔王はそれを見て動きを止めた。間に合わないと判断したのだろうか。
俺は魔王を睨みつける。
すると魔王はそばにいた銀髪少女の肩を抱いて見せたではないか!
体を光の膜が覆う中、俺はそれに底知れない苛立ちを感じていた。
なんだあのクソ野郎!
「くそう! 地下の卵なんか全部燃やし尽くしてやったからな! ばーかばーか!!」
最後にそんな悪あがきを勝手に叫んで、俺達は転移したのだった。
もちろん、魔王の顔の歪みを俺は見逃さなかった。




