仲間を増やさず次の町へ
魔王退治。
本来勇者の役目であるはずのそれを、俺がすることになった。
あの後、俺はなぜか盛り上がったギルドでごちそうになって、現在べバリーの家に帰ってきている。
「魔王退治かぁ……」
べバリー家リビングのイスに深く座り、天井を見上げて俺は言った。
「え? お前本当にやるつもりなのか?」
べバリーが驚いた顔で言った。
俺はやれやれといった顔で答える。
「言っちゃったしな。
前の俺は相当強かったんだろ? ということは可能性ある」
「お前な……」
「あとさ、勇者探すことにするわ」
それでもってパーティに入れてもらおう。
そしたら魔王の所にいけるっしょ。
しかし魔王ねぇ。
行けるなら今から会いに行ってもいいくらいなんだけどやっぱり禍々しい奴なのかなぁ。
いやでも、魔王って言っても話せば分かるかもしれない。
それに魔王ってどんなのかみたいし、ロリ魔王って可能性も捨て切れないし。
でも王道で行くなら倒した方がいいか。
それにしても勇者探しってなんかドラポンクエストⅤみたいだな。
そんなわりとどうでもいいことを考えつつ、俺は立ち上がった。
「よし、行くか」
「うん? どこに?」
「町を出る」
「はぁ!? もう!?」
「うん。しばらくここで世話になるつもりだったけどさ。やっぱりもう行くわ」
「なんでだよ!」
「え? 今すぐ旅したいから」
「は、はぁ?」
確かに、今すぐ外に出るのは危険だろう。
でもね、なんとかなりそうな気もするんだよ。
危機が迫る度になんかイベントが発生して、ちょちょいのちょいで全部解決していく。
そんな感じで。
今度はべバリーがやれやれといった顔で肩を竦めた。
「止めても行きそうだな……」
「もちろんお前は連れてかねーからな」
一人は寂しいかもしれないけど、楽しそうだとも思うんだよな。
餓死しかけたけど、ここに来るまでの二日間もそれなりだったと思うし。いや、それは助かったから言えることか。
「じゃあ私連れてって貰おうかな」
台所にいたカルラがいきなり会話に入ってきた。
「無理無理」
俺はにべもなく断る。
「えー、なんで?」
「だって足手まといになるし。それに女の子連れて歩く度胸もないからな」
もしなんかあったら責任も持てない。
そして俺はべバリーに首を差し出さなきゃならないことになるだろう。
「そうなの。なら仕方ないわ。
でも、今晩くらいはウチのご飯食べってってよ。
明日の朝出発でも別にいいでしょ?」
「……ああ、そうしようかな」
あっさりと断ったカルラにちょっと戸惑って、俺は流されるまま晩御飯を食べさせて貰うことになった。
ーーー
翌朝、俺は町の入り口に立っていた。
「はい、これお弁当」
「サンキュー」
「本当に一人で行くのか?」
朝日が眩しい中、べバリーは言った。
「あたぼうよ」
俺はカルラに貰ったちょっとオシャレな帽子を深く被って笑う。
そういえば服もべバリーから貰ったのを着ている。
少しサイズがデカイけど、デザインは悪くないので気にしない。
「ま、魔王退治終わったらまた来てやるよ。記憶の方もなんとかしてな」
「ああ、待ってるぜ」
「私も待ってるわ」
二人の返事を聞いてから、俺は背を向ける。
「それじゃ」
俺はゆっくりと歩きだした。
どこに向かうかはちょっとまだ決まってないけど、とりあえず前方にある高い山を超えてみよう。
地図もカバンに仕舞ったし、そこで進路を決めるとするか。
そう思って、しばらく歩いて振り返ると、べバリーとカルラはまだ手を振っていた。
それに答えてから俺はまた歩きだす。
ーーー
山頂に着いた。
山頂と言っても、ガチな山頂だ。草木のないハゲ頭の山頂だ。
山を越えるのに、ここまで来る必要はなかった。
標高は高く、太陽が近い。しかし溶けていない雪と、薄い空気。
「景色やべぇ……」
目の前に広がる景色に、声を出さずにはいられなかった。
絶景。
これを見られたのだから、ここまで来た意味はあるのかもしれない。
しかし寒いなここ。
ありえないくらい寒い。こんな軽装で来る場所じゃない。
そんなことを考えながら、行き先を早く決めるべく地図を開く。
ここから近いのは……、この町か。
近いって言っても結構距離あるなこれ。
いや、今の俺ならこんな距離ないも同然だろう。
ここまで走ってきたけど、俺かなり速い。
新幹線くらいは速い。それは言い過ぎか。
まあとにかく、速いのには違いない。
べバリー達の町からここに着いた時間を考えて、一日もあれば着くだろう。
ふふ、次の町が楽しみだ。
そう思って俺は走り出す。
結局、俺がその町に着いたのは、それから一週間後の話だった。
遭難しちまったらどうしようもないよね。
ーーー
町に入って、俺は早々嫌な物を見てしまった。
そう、奴隷商売だ。戦争中なのに、こういうことは行われているらしい。
一週間近く遭難して、やっとこの町に着いた俺に追い打ちをかけるような光景だ。
老若男女問わず、市に並ばされる裸の人達。その誰もが絶望の表情を見せていた。
そして奴隷達の意志と反して盛り上がる市場は、俺の気分を非常に萎えさせた。
正直「異世界に来たなら奴隷とか欲しいな! 買っちゃおうかな!」とか考えてたことは認めよう。
だけど、実際目の当たりにするとあまりにそれは生々しく残酷だった。
泣いてるまだ10歳にも満たないような少女だって、裸にひん剥かれて立たされている。
商人たちは高い声で奴隷を売り捌こうと必死になっていた。
だが、俺はその場を早急に去ろうとしていた。
なんとかしてやりたい。そんな気持ちは腐るほどあるさ。
だからと言って全員買い取れる財力も俺にはないし、奴隷商人を根絶やしにすることも、俺にはできやしない。
これは異世界の文化であって、どうすることもできないことなんだ。
俺にできることなんてない。
ここで「やめろォ!」なんて叫んで暴れることなら出来るが、解決にはならないし、俺が悪になるだけだ。
悪になって済むことなら俺は暴れてみせよう。
ただルールと、社会、ってもんがどこにでもあるんだ。
可哀想だが、ここは目をつむって自分のことをしないと。
俺はいろんな言い訳を並べて、その奴隷市場に背を向けた。
その時。
そんなブルーになった俺は、ちょっと笑ってしまったんだ。
混乱もした。一瞬意味がわからなかった。
でも、仕方ないだろう?
いくらなんでも、流石に笑ってしまうって、こんなの。
「さぁぁて! 本日の目玉商品! 勇者だァァァ!!!」
なんて声が、背後から聞こえてきたんだから。




