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アクティビティ俺

記憶探しの旅は、俺のことを知ってる奴を探す所から始めることにした。

 べバリーじゃダメだ。

 しかし、しばらくはこの家にお世話になるだろう。


 色々情報収集をしてから出ていった方が効率的だし、無知のまま町を出るとどこかで野垂れ死にそうだからな。


「さて、ちょっと出掛けてきていい?」


 異世界の町並みとかを見てみたい。

 しかし、そんな俺の願いは叶わなかった。


「あー、今はやめとけ」


 べバリーがちょっと眉を寄せて言った。


「なんで?」


 当然、俺は理由を聞く。

 すると、カルラが事情を話してくれた。


「ギルドの奴らが町を荒らしているのよ」


 ほう、それはそれは。

 イベント発生のにほいがしますな。


「詳しく聞かせてもらおうか」



ーーー



 この町、というかあらゆる町で、ギルドが幅を利かせるようになったらしい。

 戦争が始まって、町の防衛にギルドが不可欠になったからだろう。


 やっぱりギルドというものが異世界に存在していて、ちょっとテンションが上がった俺だが、話を聞くと少し萎えてしまった。



 この町のギルド、白亜の蛇は、町を守ってることをいい事に、好き放題やってるらしい。

 店でタダ飯食ったり、町中の女に手を出したり、本当に好き放題やってるそうだ。

 町の人達もギルドの人達には困ってるのだが、なまじ魔物退治などの面では活躍しているから何も言わないらしい。


 今日もまた、ギルドの奴らが町を好き勝手荒らしてて、絡まれると面倒だから奴らが出てくると町の人達は引きこもるのだそうだ。

 しかし、引きこもるのにもローテーションがあるらしくて、町の人達は順番にギルドメンバーの相手をしている。


 なんとも面倒かつ、困った話だな。

 ギルドに逆らうなんて怖くてできないだろうし。

 まあこれで俺が最初にすることは決まったんだけど。


「俺がなんとかしてやるよ!」


「ハァッ!?」


 俺は窓をバタンと開けて、町の外を眺める。

 町は静かだった。てかここ二階だったのね。


「なんとかするって、どうやって?」


 カルラが首を傾げた。


「そりゃあ実力行使よ」


 沈黙。

 何言ってんだこいつ、的な視線が俺に注がれた。


「ハァ、レイヤ君が勝てるわけないでしょ。相手はプロよ」


「前のお前ならともかく今のお前じゃあなぁ……」


 ちょ、ちょっと待って。

 ああ、確かに言い方が悪かったかもしんね。


「俺一人で挑むわけ無いだろ。みんなでやるんだよ」


「それでも勝てっこないよ。そもそもみんな協力してくれないと思うし」


「お前らそれでいいのかよ!! 足りてねぇよ! 熱さが!」


 俺は思わず声を上げた。その際に喉に痰が絡まったので、俺は咳をいくらかする。


「なんかお前らしいセリフだな」


 べバリーは言う。

 俺は口の中の痰を吐き出すか飲み込むか迷ってから、結局窓の外に吐き出した。

 が、それは失敗だった。


「んだゴラァ!! 誰だ唾落とした奴はァ!! 出てこいゴラァ!!」


「!?!?」


 びっくりした俺は窓の外からこっそりと下を覗いてみる。

 するとそこにはやたらめったらゴツいハゲのおっさんが怒りの形相でこちらを見上げていた。


「あわわわわわ……」


 やっちまった……。

 いやマジでやっちまった……。どうしようどうしようどうしようどうしよう。やばいってあいつは。

 カタギじゃないって。


 俺はちょっとしょんべんチビリつつも、べバリーとカルラの方を向いた。

 二人も顔を蒼白にしている。


「この“いぶし銀”に唾かけるとはなァ!! はやく出てこォォい!! 今なら半殺しで許してやる!! 早く出てこねぇと家ぶっ壊すぞ!!」


 いぶし銀……。二つ名かなんかか?

 ってことはギルメン?

 ……やばいって、あれはマジヤバイって。

 やだよぉ、出て行きたくないよぉ。


 唐突に、割と真面目にビビってる俺に名案が浮かんだ。

 俺はそれをすぐに実行に移す。


「お、おいべバリー!! 早く行けよ!!」


 俺は腹から声を出して言った。そう、ハゲに聞こえるように。


「はぁ!? なんで俺が!!」


 べバリーは目を見開いて言う。カルラもびっくりした顔で俺を見ていた。

 しかし俺は止まらない。


「お前が唾落としたんだろ!! しかも真っ黄色の痰を!!」


「はぁ!? ちょ! えぇ!?」


「お前かアンドルノォ!! 降りてこォい!! もういい!! ぶっ殺してやる!!」


 ドシン! と家が揺れた。

 俺は窓から顔を出してさっきのハゲを探してみるが、そこにはもういない。

 つまり、家に侵入されたのだろう。


「お、お、おおおま……」


「な、なな、なにやってんのよアンタ……!」


 ガクブル兄妹。

 階段をドカドカと上がってくる音が聞こえた。


「なぁ、アンドルノってファミリーネーム?」


「それどころじゃねぇよ!! なんてことしてくれんだよてめぇ!!」


「私達もうダメなんだわ……」


 唾を落としたのはべバリーということになったので、特段危機ではなくなった俺は至って冷静だった。

 近付いてくる足音。

 ギリギリのスリルを楽しんで貰ってから、俺は二人を抱えて窓の外へと飛び出した。


 飛び降りるのではなく、そのまま向かい側の家の屋根の上に着地。

 振り向くと、丁度後ろでは部屋の扉が吹っ飛んでいた。


「逃げんなオラァ!!」


「ヤバ……!」


 ハゲが窓枠に足をかけるのを見て、俺は走り出す。


「どこ行くの!?」


「とりあえずあいつ撒くしかないっしょ!」


「ああ! 俺の家!」


「てかデブ! お前は自分で走れよ!」


 俺は邪魔なべバリーを地面に下ろそうとすると、べバリーはそのでかい体で俺にしがみついた。


「まっ! やめっ! マジやめろ! ちょ、ごめん! ほんとにやめて!」


 気持ち悪いほどがっしりとしがみついてきたべバリー。

 仕方がないな。


「レイヤ君! 来てる!」


「うわ! ヤバイ!」


 奇声を上げながら走ってくるハゲの威圧感。

 その恐怖ときたらもうね。


「どうするの!」


「どうしたらいいっすか!!」


「もう素直に謝れやお前が!!」


「べバリー囮にするか!」


「やめて!」


 そんな時、またしても俺は名案を思いつく。

 そう、こんにゃくだ。


 俺はこんにゃくをハゲが走る屋根に、敷き詰めるように創りだした。

 もちろん、それを踏んで態勢を崩すハゲ。そのまま屋根から地面へと転がり落ちていった。


「よっしゃ!」


 その隙に俺は加速し、なんとかハゲを撒くことに成功した。

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