イケメン力
べバリーの話は「あの後大変だったんだぜ」から始まった。
話を聞くと、マジで大変だったらしい。
まず、俺達の関係は魔法学園のクラスメイトだったようだ。
魔法学園とはまた楽しそうなことを俺はやってたみたいだが、実際はそうじゃなかったらしい。
というのは、俺達のクラスが底辺だったからだ。
しかもクラス人数俺含め四人。
笑わせんなって感じである。
まあそれはともかく、俺は世界的に指名手配されていたらしい。
このことを聞いた瞬間「!?」だったが、なぜ指名手配されていたかを、べバリーも詳しくしらなかった。
反逆罪とかなんとか。
だがまあ今はその指名手配も取り下げられている。
なんか指名手配出してた王国が滅びたらしい。元々潰れかけの国だったのかな?
そしてある時、学園で俺が犯罪者であることがバレるという事案が発生したらしい。正確には国の強い人達が俺を捕まえに来たそうだ。
その時に、べバリー含む俺のクラスメイトと担任は、俺の肩を持ってしまったために散々な目に合ったらしい。
それで、担任やべバリー達はそれぞれ実家などに逃げ帰ったのだ。
つまり、ここはべバリーの実家。
聞いてみると、妹と二人暮しらしい。
その他にもべバリーから色々なことを聞いた。
俺のなんかすごい力だとかアトラクトだとか、俺の彼女?の話だとか。
てか俺に彼女がいたとか本当だろうか。しかし、あいにく今の俺は二次元にしか興味ないのであまり気にはならなかった。
さて、色々と聞いてわかったことは「こいつ俺のことあんま知らねぇ」だ。
知ってる風で、知らない。
何かを追求して聞くと「それは知らん」と返してくる。
それもそのはず、べバリー達と俺は二週間も一緒にいなかったらしいじゃないか。
さらに、べバリーと俺が別れてから現在まで、半年近くの時が経過してるという。
つまり、消えた俺の記憶の大部分は未だに謎……というか9割以上が不明のままなわけだ。
なんていうか、「お互いに知ってることを話そう」とか言って、ほぼ何も知らなかったこいつを非常に殴り飛ばしたい。
冗談だ。
こいつがいてかなり助かったのが事実。
まあそんな俺が開示した情報も、「なんかいきなり森の中にいて、それで2日飲まず食わずでここまで歩いてきた」ということだけなんだが。
べバリーはため息をついたが、情報を照らし合わせたところ、記憶喪失であることはもう確定的である。
「すげぇ!! いやこれマジすげぇよ!」
俺の声が部屋に響く。
「ちょ! よせ! やめろ! やめろって掃除大変だろ!」
現在、俺はこんにゃくを大量生産していた。
べバリーの話によると、俺は色んな物を創り出せたらしい。
試しにやってみると、それはもうでるでる。こんにゃくがね。
でもなんかこれ楽しいわ。
こんにゃくしか創り出せないけど、なんか楽しい。
なんでこんな能力持ってんの俺。
俺は絨毯やらベッドなども創ったりしてたらしいが、それはどうやるかわかんねー。
ベッド出ろ! と念じてもこんにゃくがでる。
なんでこんにゃくなのか。
まあベッドとかもなんとかすれば出すこともできるみたいだから、また色々試してみよう。
「いい加減にしろ!」
べバリーが俺の頭をバシっと叩く。その攻撃はオークの一撃より痛かった。
「いたいな」
「そりゃ身体強化使ったからな」
「ああ、さっき言ってたアトラクトとかする奴か」
「そうそう」
凄い技術らしい。
べバリーはドヤ顔で「もう使いこなしてるけどな」と言った。
魔法も使ってみたいから教えてもらおうかな。
そんなことを考えていると、べバリーは声のトーンをまた落として聞いてきた。
「で、これからどうするんだよ?」
思わずため息をつく。
俺はこんなに楽しそうな状況に身をおいてしまってるんだから、やることは一つだろう。
「そんなのね、記憶探しの旅に決まってんじゃん」
「……言い忘れてたけど今戦争中なんだぜ?
外は危ないぞ」
「戦争?」
「ああ、魔王軍が活発だから外の魔物も活性化してる。だからみんな遠出は出来ないんだよ。俺がお前を見つけたのはたまたまだ」
魔王!?
やっぱりいんのか魔王が!
「てことは勇者とかもいたりすんのかね?」
「いるぜ。行方不明らしいがな。
だけどもう人間はダメそうだな。なんか魔族になんて勝てる気がしねーよ。魔物ですらあんなに強いのに」
そんなにか。
まあ確かにオークは怖かったもんな。強いとは思わなかったけど。
それにしても勇者かぁ。あってみたいわぁ。
「ま、俺には関係ないことっすわ。
あー、記憶探しの旅とかオラワクワクすっぞ」
「……」
べバリーはオラを見て黙り込む。
「……俺も手伝ってやるよ」
「え? いや別にいいよ」
唐突な提案を俺があっさりと断って、妙な沈黙が生まれたその時、部屋の扉がガチャリと開いた。
「兄貴!」
女の子の声。
視線をそちらに向けると、そこには可愛らしい栗色髪の少女が立っていた。可愛らしいといっても年齢はあまり変わらなさそうだ。
その少女と目があって、少女はなぜかオロオロしだす。
「え、あ……」
とりあえず確認をしておこう。
「えっと、お前の妹とか言わないでくれよ?」
「……いや、俺の妹だよ。カルラって名前だ」
「似てねぇぇぇ!! てか、ありえねぇぇ!!」
あの娘がこいつの妹ぉ??
だめだろ!! こいつの妹はもっとジ〇イ子的でなければならないんだ!!
「あ、兄貴、ちょっと来て!」
カルラはべバリーの元に近寄って来ると、その胸ぐらを掴んだ。
そして部屋の外へと引っ張っていく。
「ちょ、引っ張るなって……」
部屋の外へと連行されていくべバリー。
俺はその様子を黙ってみていた。
なんか仲いいなこいつら。
ああ、俺も妹欲しいなぁ。
そんなことを考えてると、ドアの向こう側からヒソヒソ声が聞こえてきた。
(あ、あのカッコイイ人誰?)
(ああ、俺の元クラスメイトだ。つーかお前、店は?)
(し、閉めてきたわよ。またあいつらが来たから……)
(……そうか)
(そ、そんなことよりあの人紹介してよ)
(なんでだよ……)
(いいでしょ? おねがい)
(別にいいけどよ……)
(やったっ)
丸聞こえのヒソヒソ声に、俺は疑問を抱かざるを得なかった。
カッコイイ人って俺のこと?
まあブサイクではないと思っているが、さすがにイケメンの部類には入れないと思うんだけど……。
ふと部屋の片隅に三面鏡を見つけた。
立ち上がってその鏡の前に立ってみる。
すると、そこにはたくましい青年が映っていた。
確かに俺だ。
俺だけどガッシリとした体に、顔も少し痩せてちょっとカッコよくなってる。
別人とまでは言わないが、何をしたらこんなことになるんだろうか。
どうやら記憶喪失前の俺は相当大変だったらしい。
複雑な気分で唸っていると、扉が再び開いてカルラとべバリーが入ってきた。
カルラとべバリーは三面鏡の前に立つ俺の前に立った。
「俺の妹のカルラだ」
いや、さっき聞いたし……。
「カ、カカカルラですっ」
ああ! 俺は一人の女性の人生を狂わせてしまったのか!
だけどごめん! 俺にはお嫁さんがいっぱいいるんだ!
しかしそんなことを考えながらも、俺は膝を着きカルラの手を取った。
そしてその手に軽く唇をあてる。
今の俺ならこんなことも許されるはずだ!
見ろ! これでカルラのハートも鷲掴み……ッ!
そう思って顔を上げると、そこにはドン引きと言った様子で顔を引きつらせていたカルラがいた。
「うわぁ……、理想と違う……」
YOUの理想を押し付けるなYO!
だけど、そうだよね。
いきなりあんなことされたらキモいよね。
俺は一人のガールの人生を守ったことに満足した。




