激闘!俺VSオーク
さて、これは一体全体どういうことなのだろうか。
なんなんだ。
いや、マジで何なの??
整理しよう。
一旦、状況を整理しよう。
まず、俺はとらの○あなにいた。
そうだろう?
で、何だ今は?
ジャングル? アマゾン?
なぜ森のど真ん中にいるのか。
ダメだわかんねぇ。整理もクソもねぇ。生理もクソもねぇ。
現在、俺こと霊界道零矢は非常に困惑していた。
つい先ほどまで……、本当につい先ほどまでだ。
俺は確かにとらの○あなにいた。
同人誌をねぶるように吟味してしたのだ。
それが急に頭痛に襲われたと思えばこんな所にいる。
しかもなんか涙が止まんねぇ。
頭痛のせいか?
いや、泣くほど酷い頭痛じゃなかった。
そもそも、私服でとらの○あなにいたのに、なぜかボロっちい布切れみたいな服を着てるのはどういうことなんだろうか。
それだけじゃない、俺の腰に下げられたこの剣はなんだ。
いや、剣なのだろうか。
剣とか初めて見る。じゃなくて俺が持ってるはずのリュックはどこにいったの???
それにしてもマジで脳が追いつかねぇ。
頭は相変わらずガンガンと痛むし、なんか腹も痛い。
あれ? これマジで痛い、腹が痛い。
腹痛じゃなくて、ダメージ的な痛み。
いでぇ、いてぇよ。
あまりの激痛に耐えきれず、俺は服を捲って自分の腹を見てみると、そこで驚愕した。
そこには大きなアザ……とかはどうでもよくて、腹筋が、割れていたのだ。
「ええ!? なんだこのマッスル!?」
運動不足で中途半端にだらしなかったはずの俺の体が、引き締まっている。
バトルアニメを見る度に鍛えようと決心するも、結局なんの努力もしなかった。
それが今。
なぜか細マッチョへと変貌を遂げている!
……さて、真面目に考えようか。
まず、おかしい点を挙げよう。
涙、謎の頭痛、腹筋、腹や体にある無数の傷やアザ、服装、ボサボサの髪、剣。
全てが理解の範疇を超えている。
俺の身に何が起こったのか、てんで見当もつかない。
「……」
ダメだ、混乱している。逆にこんな状況にいきなり陥って、混乱しない奴の方がおかしい。
しかしその反面、このファンタジックな出来事に俺は心躍らせているのも事実だった。
だってそうだろう。
訳の分からないことが、起きたんだ。
日頃からこんな非日常に巻き込まれてみたいと思ってたんだよね。
まあそれにしてもなんでこんな冷静なんだろ、俺。
一周回ったのか。
とりあえず俺は、状況整理を諦めて、ここがどこかということを考えることにした。
木々に囲まれ、風が草木を揺らしてサーと音を響かす。
ふとギャー、ギャー、となにかの鳴き声のようなものが聞こえた。
おいおい、今の鳴き声なんだよ……。聞いたことねーぞ……、もしかしてここ日本じゃなかったりしないよな。
辺りをもう一度見渡す。
そこで俺はあることに気づいた。
そう、木がありえないくらい高いのだ。
そこらに生えてる草もいびつなものが多く、見たことがないものばかり。
俺はこの時点でここが日本ではないことを確信した。
その確信は、一気に俺を孤独にする。
おいおい、マジかよ……。
少しおちゃらけ調子だった俺も、ヤバさというかそういうものを感じていた。
夢、ではなさそうだ。
風も、音も、しっかりと捉えられる。
自分の置かれた状況を少し理解したのと同時に、俺の心臓はバクバクと脈打ち始めた。
やばいやばいやばい。
空を見る限り、今は夕暮れ。いや、もう夕暮れ?
先ほどまではまだ昼すぎだった。
……この際それはもういい。
このままこの森の中で日なんか暮れてしまうと、俺は死んでしまうじゃないか。
とにかく歩いて森から出ないと。
……いや、その前に。
なんかおしっこ漏れそう。
しょんべんしとくか。
そう思った俺はズボンを下げて放尿を始めた。
無防備なこの体勢がやけに怖かった。
今、熊とか現れたらどうしよう。
熊じゃなくても、ゴリラとか。
うん、しょんべん撒き散らしながらでも逃げよう。
そんな時、森の中の茂みがガサガサと動いた。
俺の心臓が飛び跳ねる。
同時に放尿スピードも上がった。
「……っおぅ! ちょ、ちょ……!」
バクバクと脈打つ心臓。
俺は息を切らしながら、音がなった茂みの方を凝視した。
逃げ出したい気持ちに襲われたが、しょんべんは止まらない。
しばらく息を潜めて放尿をしていたが、そこからは何もなかった。
動物かなんかだろうか?
だとしたら驚かせるなよ。ただでさえ訳わからないことになってて混乱してるのに。
つかここ虫多いな。
なんかやばい虫とかいそう。
タランチュラとか。
そんなことを考えながら、なんとなくガサガサと音がした茂みをボーッと眺める。
丁度しょんべんも終わった。
「ふう」
俺はズボンを上げて、一息つく。
すると、パキパキと木の枝が折れるような音が聞こえた。
うん?
それが聞こえてきたのは先程のガサガサポイントからだ。
やっぱりあそこにたぬきかなんかいるのだろうか。
そう思ってその茂みの方にゆっくりと近づいていくと、そこからいきなりオーク的な巨獣が現れた。
「んぇぇ!?!? ちょ!? え!?」
残尿。
俺はそのまま尻もちを着く。
「フンゴォ!」
一方、俺の体格の3倍近くあるオークは邂逅一番突進してきた。
俺は半泣きでそれをただ見ていることしかできない。
なぜなら腰が抜けてしまっているからである。
ついでに足もガクガクだ。
「た、助けて……」
か細い声をあげるが、そんなものは意味をなさなかった。
オークはその巨大な手を振り上げ、俺へと振り下ろす。
当然、俺はその手の下敷きになった。
が、痛くない。
痛くない、というのもおかしな話だ。
あんな怪物に叩き潰されたら普通は即死だろうに。
「あっれ?」
確かに俺はオークの手の下にいるが、オークによって振り下ろされたそれはそこまでのインパクトはなかったのだ。
ちょっと小突かれたくらいの威力。
正直、これがオーク流の挨拶なのかな。もしかしてこのオークは良いオークなのかな。
そう思えるレベルだ。
だが、俺は何が起こっているのかを理解していた。
確かに振り下ろされた手にはそれ相応のパゥワーが込められていたはず。
だが、痛くなかった。
そこから導き出される答えは簡単だ。
そう、このオークが弱いのではない。
俺が、なんか強い。
腹筋が割れているからだろうか。
それもあるだろうな。
オークの攻撃もしっかりと目で捉えることが出来ていたし、俺なんか強くなってる。
なんで?
いや、それは後で考えよう。
とにかく、自分の超人的な力に気づいた俺は、押し付けられたオークの手を軽く押しのけた。
「フゴォ!?」
オーク、驚愕の表情。
まあオークの表情なんて読み取れないんだが。
俺はちょっぴりおしっこを漏らしたことなんてすっかり忘れて、オークへと歩を踏み出していた。
「通背拳!」
某マンガで覚えた中国拳法の技を適当に繰り出すと、オークは茂みの中へと吹っ飛んだ。
「おおすげぇ!!」
テンションが上がった俺は歓喜の声をあげる。
そのまま軽くジャンプしてみると、俺は高い木を越えて、空高く飛び上がった。
「わお!!」
そこから見えた景色は、夕焼けに染まる森と丘。
大自然。
空を飛翔するでかい鳥や、丘をかける見たことのない動物。
確証はないが、その時、俺はここがいわゆる「異世界」ってやつで、なぜか分からないが、異世界トリップってやつをしたんだと理解した。




