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一人ぼっちの戦争

 俺が道を切り開いたおかげで、1万弱の兵達はほぼ全て海面に上がることに成功した。

 そして、そこから2つの勢力は衝突する。

 人間側は陣を組んで魔法障壁を形成し、飛来する魔法を対処した。

 単独で接近した魔族は俺や接近特化の奴が狩る。


 しかし到達できない距離で練られた最上級魔法が飛んでくると、魔法障壁を崩して回避するしかなくなる。

 そこを叩かれると後衛陣は簡単に崩壊するのだ。


 魔族と人間だと単体DPSが桁違いなのである。

 つまり、現状押されている。


「さて、ティルフィング。ちょっと無理するわ」


【ああ! 付き合うぜ!】


 枷を限界まで外し、よく分からない宝具で応戦しているラインの隣に立つ。


「ライン、あの大群、俺一人でやる」


「ごめん、もう一回言ってくれないかな!」


 魔法の迎撃と応戦で手一杯らしいラインには今の言葉は聞き取れなかったらしい。

 俺は少し口調を強めて言う。


「俺が1人で抑えるから魔界に侵入してとっとと地形調べてこい。

 ここを切り抜けたとしてもどうせ満身創痍だ。一度帰って立て直せ」


「でも……!」


「いいから。道は俺が開く」


「そんなこと……できるのかい!?」


【やるんだよォ!】


「時間がない。兵達に伝えることはできるか?」


「できる……!」


「ああ、なら早くしろ」


「でもレイヤは……」


「ぶっちゃけ俺の後ろでバタバタ死んでもらうのは困るんだよ。

 気分が良くないし、集中できない」


 足手まといってことだ。

 だからライン達には帰ってもらいたい。

 というより俺が好き放題やるためには、こいつらは邪魔なんだ。

 巻き添えを食らってしまうからな。



 俺のすぐ隣に火球が水飛沫を上げて沈んだ。

 ラインの直線上に飛来する光の槍を俺は斬撃で撃ち落とす。



「レイヤ、恩に切るよ。俺は一度帰って体勢を立て直す。

 そしてまた進軍する」


「おう」


 なんか俺を囮にして逃げたラインが懐かしいな。


 魔法の雨の中、ラインは後衛へと退いていった。


「じゃ、やりますか」


 アトラクト。

 足元に広がる魔法陣の光が俺を下から照らす。

 そして、魔法陣が消えた時、俺を中心に風が巻き起こった。


 風装。

 レスタさんが使っていたアレだ。



 これで俺の機動力は跳ね上がる。


 が、今はあの魔族共を抑えるのが目的だ。

 こうしている間にも兵達は倒れていく。


 俺はティルフィングを低く構え、その刀身に風をまとわせる。


 そして放った。


「オラァ!」


 放たれた斬撃は魔族の集団へと向かっていく。

 見える魔族は一本角、二本角とまちまちだ。


 この距離で放たれた斬撃は当たらなかった。

 魔法で相殺されたのだ。


 が、一撃で終らせるはずもない。


 切り上げて、切っ先が天に向いたティルフィングを今度は下に振り下ろす。

 上下縦横。

 休まず繰り出される斬撃は魔族達の動きを拘束した。


 海面を走って魔界へと向かい始める兵達。

 そこに向かう魔法は俺の斬撃が撃墜する。


「ハァッ……! ハァッ……!」


 しかしこれだけの数を抑えるというのも中々の苦労だ。


 兵達が魔界に上陸し始めるのが見えた。

 もちろんそれを阻止すべく集団から飛び出す魔族もいる。

 しかし集団から逸れて単独になった魔族は完全に的で、そいつを撃墜するのは簡単だった。


 結果的に魔族達は俺を先に潰す所から始めなければならない。


 案の定、魔族が6体斬撃を潜り抜けて向かってきやがった。


 200……、いや、魔族の数もそれなりに減って150くらいか。

 後衛の援護射撃を捌きながら、こいつらを相手にするのは正直キツイ。

 とりあえず目の前までやってきた魔族二体の目にこんにゃくをペーストし、その首を纏めて切り通す。

 落ちた首は遠くに蹴り飛ばし、その体も念のため四等分にしておく。


 が、今の隙に残りの魔族の急接近を許してしまった。


【翔べ!】


 風装を操って、俺は飛翔する。

 後ろから追ってくる魔族と、後衛による追撃魔法の嵐。

 かわしてもかわしても飛んでくる魔法。

 火球、光の槍、なんかレーザーのような黒いやつ。


 いつのまにか前衛の魔族も増えており、俺は防戦一方になっていた。

 矛先が兵達に向くとすかさず攻撃を加える。

 とはいえ、魔族が数体向かったくらいならあいつらだけでも対処できるはずだ。


【ジリ貧だぞこのままじゃ!】


 ああ、このまま行けば確実に死ぬ。

 体力もキツイし、一発でも受けて隙ができたらそこから袋叩きだ。


 俺はチラと兵達の様子を見る。

 順調に魔界を進んでいっている。あの人数でやれば地形把握はあともう少ししたら終わるはずだ。


「チィッ……!」


【どうするよ!】


 風を切り、不規則に空を飛翔しながら俺は考える。

 俺の欠点は敵を一掃できるような技を持ってないことだ。


 風装が解けたら動きが一極化してしまい、その時こそ終わる。

 それまでになんとかしなければ。


 ライン達が無事に逃げられれば全力疾走で撒いて、一度立て直すということもできる。


 何か無いものか。


 そこで俺は閃いた。

 水中戦に持っていけばいいじゃないか。


 アトラクト。

 空を駆けながら霧散した魔力をかき集める。

 そしてどんどん上昇していった。

 出せる限りの全力で、追いかけてくる魔族に、距離をつける。


 雲を超えると、俺はそこで静止する。

 そこで、俺は太陽を隠すほど巨大な魔法陣を展開した。


【なるほどなァ!】


「んじゃ、後で」


 アトラクトによって重くなってしまったティルフィングを俺は手放す。

 海へと落下していくティルフィングと、あと数秒もすれば俺まで辿り着くであろう魔族達を見下ろした。


 俺は限界までアトラクトすると、魔法陣にありったけの魔力を込める。

 そして魔法を展開した。


 最上級魔法。

 ――地天重吸(グラビティロック)



 瞬間。ズシンと体が重くなる。

 魔族達は海へ引きずられるように少しずつ落ちていった。


 俺はその重力に身を任せ、海まで真っ逆さま、身を投げる。

 それを見たのか、魔族達も同じように身を任せ、落下しながらの戦闘が始まった。

 しかし俺に攻撃手段はなく、放たれた魔法を体で受けるのみ。


 しかしそれも数秒の我慢だ。


 俺はそのまま落ちていき、海面へと叩けつけられる。

 魔族たちもまた。


【よォ!】


「久し振り!」


 俺は水中から海面を蹴って、先に海に沈んだティルフィングをキャッチする。


 そして沈んでくる魔族めがけて斬撃を次々に放っていった。

 水中で機動力が落ちた魔族共を駆逐していくのは容易い。


 しかも俺は水中戦が得意と来た。主にデカイおっさんのせいでな。



 とにかく、俺の奇策の成果は凄かった。

 大半を海の藻屑に変えてやったのだ。


 攻撃がピタリと止んだところを見ると、残った魔族はおそらく逃げ帰ったのだろう。

 俺は海から上がり、魔界を進んだライン達を見やる。


 いない。

 ああ、無事転移できたのだろうか。


 俺は冷たい体をなんとか浜に投げ出して、寝転がった。


【さて、オレ達はどうするよ】


「シャーラの所へ行きたい気持ちもあるけど、一旦立て直した方が良いかもな」


【ああ、そうだなァ。

 ……いや、そうはいかないらしい】


 ティルフィングの声色が変わる。

 俺も反射的に立ち上がって空を見上げた。


「……ああ。これはまた……」


 魔界の森の遥か遠方。

 そこから魔族が4体、すごいスピードでこちらに向かってきていた。


 そして、どの魔族も三本の角を有していた。



 俺は浜に転がったティルフィングを掴んで構える。


【こりゃやべェな】


 どうする?

 いや、戦うしかない。

 あれは撒けない。


 4体の魔族の中にはシルディアも見えた。


 数秒後、4体の魔族は俺の前に着地した。

 衝撃が地を揺らし、浜の砂を吹かせる。


「久しぶりだな。人間」


 シルディアの前進に、俺は一歩下がる。

 後ずさったのだ。


「会いたかったぞ。あの時は世話になった」


 心底寒気のする笑みを見せて言ったシルディア。


「俺は会いたくなかったよ、ばいきん!」


 初撃。

 しかし、横からの一閃はシルディアに躱された。

 そして俺の腕はガッと掴まれる。

 シルディアに、ではない。

 シルディアと共にやってきた3本角の魔族たちにだ。


 ガッシリと掴まれた腕。ビクともしない。

 そのままもう一人の魔族に左手も拘束される。


 腕が強い力で握りつぶされそうになる。

 俺はティルフィングを手放してしまった。


「っぐァ……!」


【クソッ……!】



「クハハハ! シャルダンデ、フルストリア、そのまま抑えてていてくれ」


 シャルダンデ、フルストリアと呼ばれた魔族は軽く笑って俺を抑える力を強めた。

 シルディアの後ろに立つ魔族はやれやれ顔で様子を見守っている。



 さて、どうしたことか。


「ゴフゥッ……!」


 思考開始の寸前で、俺はシルディアに拳を叩き込まれた。鳩尾にだ。

 俺を支える二体の魔族ごと大きく後ろに後退する。


 俺は呼吸すらままならなかった。


「……ッ! かハッ……!」


「フハハハハ!! シャルダンデ、フルストリア、しっかり抑えておけと言ったろう!」


 高笑いをしながら歩み寄ってくるシルディア。

 霞む視界で俺は奴の顔を睨んだ。


 ドムッ、という音を立ててまた衝撃。


「ゴホォッ!」


 口から盛大に血を吐く。

 激痛。意識も吹っ飛びかけた。

 が、今度は後退はなかった。


 シルディアの手が俺の腹を突き破っていたのだ。


「このまま内蔵を引きずり出してやってもいいが、それじゃあつまらないな」


 シルディアはズブリと俺の腹から手を抜き、血でまみれた手をペロリと舐めた。


 しかし俺は顔を上げる力も失って、がくんとうなだれる。


【レイヤァァ!! オイゴラァ! 何しやがる糞雑魚テメェ!!】


「うるさい魔剣だ。そこで見ていろ」


 シルディアは俺の穴の空いた腹に手をかざす。

 すると、淡い光を帯びて、傷はどんどん塞がっていった。


「……あ?」


 なんのつもりだ。

 そう思って俺が顔を上げると、再び衝撃。

 またも口から血が溢れ出る。


【糞がテメェ!!】


「ハハハハハハ!! 人間ごときが歯向かった罪を知れ!!」


 シルディアは再び俺の腹に手をかざし、傷を癒やしていく。

 そして完全に治すと、また突き破る。


 拷問じゃねーか。


「……ハァ……、ハァ……」


「無様に命乞いするというのならひと思いに殺してやるぞ!」


 うわ、内臓見えてる。

 自分の内蔵見るなんて……、初めて……ではないか。


 俺は口の中に溜まった血をベチャっとシルディアの顔に吐きつけた。


「……そうか。ならば続けよう」


「うる、さいな、話しかけて……くんなよ……」


 やばいな。これどうしようもないじゃないか。

 隙もないし、反撃の機会なんてあったもんじゃない。

 それにティルフィングがあんなところにあるもんだからチェンジも出来ないと来た。


「貴様が命乞いするまで付き合ってやろう」



ーーー



 日が暮れた、と言えば拷問がどれだけ長く続いたかが分かるだろう。

 俺の精神は疲弊しきっていた。


「いい加減! 命乞いしろ!!」


 シルディアの怒声が響く。

 髪の毛を掴まれ、持ち上げられる。

 顔を何度も殴られたせいで、目が腫れて前が見えなかった。


「シルディア、そろそろ殺したらどうだ」


 いい加減うんざりしたのか、俺の右手を支える魔族がそう言った。


「……だが」


「私達もそろそろ付き合いきれん。こんな遊びをしていては魔王様にもお叱りを受けそうだしな」


「第一、たった一匹の人間にそこまで拘る理由はないだろう」


 仲間に言われて、シルディアはうなる。


「それもそうか。ならば殺すとしよう」


【おいレイヤ! なんとかしろ! なんとかこっちまで来い!!】


 そりゃあ叶わない。

 どうやってもBADEND直進っぽいぜ。

 玉砕覚悟で暴れるって手段くらいか。

 だから万能の回復魔法も温存して、最後の隙を伺っているのだ。

 実際、ボロボロの俺を前にして、こいつらは隙だらけだ。

 だがまだ早い。

 もう少し引きつけないと危険だ。


 重たい首を上げると、シルディアは天に向けて手をかざしていた。


「ハァッ!」


 シルディアの声と同時にその手に黒剣が現れる。


「この剣で串刺しにしてやろう」


 ああ、クソ。

 やるしかない。


「死ね!」


 剣は俺の心臓を貫く……寸前で止まった。

 全力で右サイドの魔族の拘束を破って、俺が止めたのだ。


「ベポマ!」


 体の傷を全て癒やすと、左の魔族も振り切って、そのままシルディアの腹に膝蹴りを入れる。


「クッ……!」


 一瞬の隙。

 ティルフィング向けて走り出す俺。


【急げ! 早く!】


 しかし、ティルフィングまであと少しというところで足に激痛が走る。


「つっ!」


 見ると、そこには黒い槍が刺さっていた。

 槍で釘打たれた俺は動けない。


 あと少し。

 あと少しなのに。


「手間取らせやがって」


 ズシンと、地が響く。

 見れば、俺の体には無数の槍が突き刺さっていた。


 俺はなんとか手を伸ばしてティルフィングに触れる。

 千切れそうになった手は、ティルフィングの柄を確かに掴んだ。


 が、俺はそこで意識を失ってしまった。


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