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第三勢力レイヤ

 朝起きてシャーラがいないということ。

 それは俺には中々堪える出来事だった。

 そしてブルーダインからシャーラが出ていったことを聞かされて、さらに俺は放心しかけた。


 が、その(かん)も今の俺にとって過去である。




「行くんだな」


「ああ、世話になった」


「シャーラのことはすまん。ワシには引き止められんかった。あんな目をされたらな……」


「それはいいって言ってるだろ。あいつが決めたことだし。

 それになんていうか、何となくこうなる気がしてたしな。

 まあ絶対見つけ出して捕まえてやるけど」



 シャーラが失踪したその二日後である現在。

 俺はすでに海を出る準備をすませ、神殿でブルーダインと向かい合っていた。

 左手にはティルフィング。

 

 勿論、シャーラを探しに行くのだ。


「……シャーラはユーフォスフィリア方面に向かっていた。陸までワシが送ろう」


「そうか。サンクス」


【オレとのラブラブ二人旅になっちまうなァレイヤ!】


「はは、笑えねー」


【笑ってんじゃねーか!】


 ティルフィングを背負うと俺はブルーダインの肩に飛び移る。


 まさかこんなに早く海を出ることになるとは思わなかった。

 地上は面倒なことで溢れてそうだ。

 魔族も人間も、敵だらけの地上。

 そんなところにシャーラは自ら向かったが、大丈夫だろうか。

 ……宝具を持っていっているから大丈夫か。


 シャーラの行く宛。

 孤独とも言えたあいつが赴く先は、俺にはなんとなくわかっていた。

 きっと魔王のところだ。

 魔王とあいつがどんな関係かは詳しく知らないが、人間のところに行くはずはない。

 俺としても魔王のところへ行ってくれたほうが安心だ。

 しかし何を思ったのか。

 何を思って俺から離れたんだ。

 嫌われた。そんなはずはない。

 また面倒なあいつの性格が働いたんだろうな。

 俺の想い人はつくづく面倒である。


 まあいい。

 見つけ出したらおっぱい揉みじゃすませられないぞ。


 あらゆる心配事に目が行かないよう、そんな妄想をしながら俺は人魚の町を後にしたのだった。



ーーー



【さて、どうすんのお前】


 ユーフォスフィリア大陸の沿岸。

 ブルーダインに送ってもらい、上陸したのはいいが、ユーフォスフィリア大陸は戦場になっていた。

 上空を飛びまわる魔族や魔物。

 陸を切って魔界へと向かうであろう人間達は、森の中でキャンプをしていた。

 それも相当な数だ。

 

 お互いに直接敵地に乗り込むことが出来ないから中間のユーフォスフィリア大陸が戦場になったのだろう。

 人間が敵地の地形を把握していたら、戦場は魔界になっていたはずだ。


 それらを、俺は広大な海が見える丘の上から見下ろしていた。



 それはさておき。


「どうしようかね。2日も経ったんだからシャーラは魔王に回収されてそうだし、このまま魔王城乗り込んでやろうか」


 まあ、乗り込んでも返り討ちに合うのが目に見えてるんだが。

 故に俺は「……マジでどうしようかな」と最後に呟いた。


【とりあえずよォ、仲間が必要だろ。一人で魔王城乗り込むなんて無理な話だ。ただでさえ魔界には魔族がゴロゴロいるのに、今は戦争中だからな】


「仲間って言ってもそんな宛ねーよ」


【ラインがいるじゃねェか。約束もあるだろ?】


「あー、そんなのもいましたね」


 そういやラインがいたな。

 宝具で完全武装してるあいつが仲間になれば心強いっちゃあ心強いが、信用ならないという点で、共に行動したくない。

 しかし約束は約束だから連絡があれば俺は約束を果たさなければならない。

 まあ今の俺に失うものはないし、ラインとの共闘にリスクくらいあってもいいか。


【ライン一人増えたところで変わらねーかもしんねェがな】


「つーか何万単位で仲間が必要じゃね?」


【オレなら一人で制圧できらァ】


「それはいいすぎ」


 でも真面目にどうしたらいいのか。

 シャーラが魔王のもとにいないという可能性もあるので、まずは情報を集めたいところだが、どう集めればいいのかも分からない。

 人間の兵士にまじって魔界進行してやろうか。



「お困りのようだね」


【あァ!?】


 ふと後ろから声がかけられた。

 いきなり現れた気配に、俺はすかさず距離を取り、ティルフィングを抜刀。

 そしてクルリと身を翻らせて、声の持ち主の方を向く。


 するとそこに立っていたのはトレジャーハンター、ビンセント・ラインだった。


「やぁレイヤ」


「どっから出てきたんだよてめぇ」


「とりあえずティルフィングをしまってくれないかな。危ない」


 言われた俺はティルフィングを鞘に納める。

 ラインは肩をすくませた。


「宝具って便利だな。俺の居場所がわかったのも宝具の力だろ?」


「うん。ぶっちゃけ今の俺に出来ないことは少ない」


【で、何しに来たんだよ。聞かなくても分かるが】


 ちょうど俺が聞こうとしたことを、ティルフィングが代わりに行ってくれた。

 するとラインは口元を少し釣り上がらせる。


「そう、そろそろ魔王退治に行こうと思ってね。

 というか、シャーラちゃんは?」


【あー……それはなァ】


 ティルフィングは言葉をつまらせる。

 俺に気を遣って言葉を選んでるのだろうか。

 まあ、ショックだったのには違いはないが、今は持ち直してるし、気を遣われると余計惨めな気持ちになる。

 だからここは正直に言おう。


「どっか行った。一人旅でもしたくなったんじゃね?」


「なるほどね、だいたい分かった。

 何があったかは知らないけど、つまりシャーラちゃんはレイヤのことを思って自ら離れて行ったんだね。

 で、勿論それは逆効果で、レイヤはシャーラちゃんを探す旅をしていると」


「マジでだいたい分かってんな。宝具? それ宝具の力?」


「違うよ。まあなんとなく予想できた状況だなぁって感じ」


【違いねェ】


「マジかよ」



 閑話休題。



 ラインには、俺のこの一ヶ月間の話をした。

 まあ一ヶ月ダラダラしてたわけじゃないので、俺もそれなりに強くなっている。

 だけど、成長速度が低迷してるのは自分でも分かっていた。

 それも仕方ない。

 一定以上の領域に来ると、強くなるのに時間がかかるらしいし。


「さて、本題に入るけど、魔王討伐の話だ」


「おけ。二人で魔界進行とかは流石に言わないよな」


「それは流石にないよ。もう少し戦力を整えたいところだし」


 もう少し?

 もう少しじゃダメだろ。

 もっと、だ。

 こいつは俺を大きく数え過ぎてるんだろうか。それとも自分の戦闘力を評価してるのか。



「あ、話ずれるけどよ。俺の居場所を当てた宝具でシャーラの居場所分からないの?」


「ごめん。あれを使う条件の一つに対象の体の一部が必要なんだ。レイヤのは髪の毛を使わせてもらった」


 いつ俺の髪の毛を入手したんだ。


 逆に言うと、シャーラの髪の毛は持っていないということなので、不問にしておこう。

 たかが俺の髪の毛だし。


 だけど、これで宛が外れたか。


「そうか。なら仕方ないな」


「まあ、俺としても話を聞く限り、シャーラちゃんは魔王のところに向かったと思うよ」


「なんでそう思う?」


「なんとなくだよ。確信のある勘ってやつかな」


「意味わかんねーよ」


【そうか? オレは分かるぞ】



 ちょっとした沈黙。



「話戻そうか」


 ラインは言った。


「ああ、戦力だな」


「もうあと一週間くらいここにとどまれたら大分兵力も整うんだけどね」


【あ? お前何言ってんだ?】


 ラインの不自然な物言いに、ティルフィングが口をはさむ。

 しかし、ラインは続けた。


「いかんせんここに留まるにはリスクが高い。俺だけで魔族の注意をそらすのには限度があるし」


 疑問を解消しないまま話し出したラインを、今度は俺が止める。


「ちょっと待ってくれ。

 兵力って、俺達二人だけだろ」


 俺がそう言うと、ラインはキョトンとした顔をして、すぐにハッとした顔になった。


「ごめんごめん、気づいてると思ってた」


 そう言って、ラインはここから見える森の中の人間のキャンプ地を指差した。

 視覚では認知し辛いが、確かに凄い数の人間があそこに潜んでいる。

 ラインも気づいていたか。




「あの軍の指揮とってるのがさ。

 俺なんだ」



 ラインは簡単に言ってみせた。



ーーー



 ラインはどうやら知らない間に戦力を整えていたらしい。

 どうやったかは知らないが、心に漬け込んでくるような宝具も持ってるんだからそれくらい可能なんだろう。

 現状そうだし。



 まあそれはさておき、俺もラインの軍の一員となった。

 ラインの予定としては、このまま一週間はここでキャンプして増援を待ちたいらしい。

 魔族達の目をごまかすのにも限度があるので、俺がこのタイミングで来てくれたのは嬉しい誤算だったそうだ。

 俺としてもここに混じって戦えるのはありがたい。

 キャンプをざっと見渡しただけでもかなり屈強な兵士達が集まっているみたいだし、これだと楽に魔界を進行できそうだ。

 ラインから話を聞くと、世界中からトップクラスの実力者をかき集めたらしい。

 しかしよくこの短期間で集まったものだ。


 そして、早くも俺はその中に馴染んでいた。



「女に逃げられただぁ?」


 布で張られたテントの中で爆笑が起こる。

 ティルフィングまで笑っている始末だ。


 それなりに広いテントの中にいる人の数は20人ほどで、この他にも簡易テントが森の中にいくつも張られている。

 それぞれのテントの中はどんちゃん騒ぎだった。

 防音魔法こそ使っているらしいが、戦を控えた戦士たちの雰囲気とは思えない。


 このテントの中では俺の話題で盛り上がっていた。


「いや、逃げられたって訳じゃあ……」


「坊主! そりゃあ逃げられたっていうんだ!」


「そんなすぐに離れちまう女のためにてめーは命賭けるのかよ!」


「俺だったらゴメンだね!」


「ギャハハ!」


 言われたい放題である。

 ここまで言われると俺も不安になってくるじゃないか。


「じ、じゃあアンタらはなんの為に戦うんだよ?」


 若干詰まりつつも俺が聞き返すと、一瞬テントの中は静まった。

 そしてすぐに目の前にいた顔に傷のあるガタイのいい男が口を開いた。


「俺ぁ家で待ってる女房の為かな。帰る頃には子どもが生まれる。

 ま、帰れるかは分からないんだが!

 他のみんなも同じなんじゃないか?」


 笑ってそう言った男に俺は疑問をいだかざるを得なかった。


「……死んだらさ、どうすんの?」


「死んだらどうしようもねーよ」


「なら戦わずに逃げればいいのに」


「馬鹿、俺が戦わずに誰が戦うんだよ」


 その言葉に俺は目を見開く。


 マジか。


 驚いて他の奴らの顔も見渡すと、誰もが頷いていた。

 みんなそんな意識でここにいるのかよ。


「ともあれ坊主。女は腐る程いるぞ?」


 ああ、話は戻るのね。


「違う女でも抱いて忘れた方がいい! アマンダとかどうよ!」


「ギャハハ! アマンダはありゃあ女の体じゃねぇ!」


 その後のノリで俺はアマンダさんという人を紹介されたが、想像してたよりアマゾネシーだった。



ーーー



 夜になると、馬鹿騒ぎする奴らはいなくなった。

 もちろん、魔族に見つかって一番危険なのが今の時間帯だからだ。


「お前寝ないの?」


 俺は木の上に登って見張りをしているラインのところまで辿り着くと、そう聞いた。


「レイヤこそ寝なよ。昼間の見張りはレイヤにやってもらうんだから」


 ラインは振り向かずに答える。


「あー、なら寝ようかな」


「そうすべきだね」


「じゃ、寝ますわ」


 結論が出ると、俺は木から飛び降りて、再びテントまで戻った。

 しかし男臭いここで寝るのも嫌なので、自分のベッドを木の麓に創造する。


 そしてティルフィングを地面に突き刺すと、俺はベッドに寝転がった。

 虫の声や羽音がうるさい。

 俺はベッドに蚊帳を被せて、目を瞑る。

 しばらくそうしていた。


「なぁティルフィング」


 なかなか寝付けないので、俺はとうとうティルフィングを話し相手にすることにした。


【あん?】


「なんか面白い話ないの?」


【あァ!?】


「ちょ、静かにしろや」


【ああ、面白い話ねェ】


「うん」


【オレが女に逃げられた話なんてどうだ?】


「ざけんなてめぇ」


 俺は寝た。



ーーー



 魔族の偵察が少ない昼間は、キャンプの兵士達の行動が活発になる。

 主に食料の調達のためだ。


 食料の蓄えはそこそこあるのだが、この先何があるか分からないのでラインの命で節約することになっている。

 それで、俺には信じられないことだが、ここの人達は魔物を狩ってそれを食っているのだ。


 魔物にも食える奴と食えない奴がいるらしく、食える奴でも大抵はマズイらしい。

 らしいというのは、俺には流石に抵抗があるので、魔物を食わず、普通の飯を食わせてもらっているからだ。


 その気になれば創造で飯くらい出すことが出来るが、失敗が続いて体力を消費してしてまう可能性を考慮して、控えている。

 飯の創造はなかなか難しいのだ。


「あと2日くらいで着くらしいよ。予定より2日も早い」


 干し肉を齧っている俺にラインは言った。

 何が着くかと言われれば、増援のことだろう。


 増援はユーフォスフィリア大陸の東端からここまで徒歩で前進してきている。

 予定より早いのは魔族との交戦を上手く回避できたからだろうか。


「てかさ、魔界進行なんだけど、どうやって海渡んの?」


「船で渡ることになるね」


「は? 大丈夫なのかよそれ」


「大丈夫、ある程度は宝具で誤魔化しが効く。まあそれでも多少の戦闘は避けられないだろうけど」


 魔族との海上戦に適応できる奴が何人いるのか。

 まず船をどこから用意するのか。


 ……なんにせよ俺が頑張らないといけないことになりそうだ。

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