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竜騎士レイヤース

 それは俺が闘技場っぽい場所に着く数時間前の出来事。

 


 心臓を貫かれ、口と胸から大量の血が溢れ出る。槍は俺を貫いたと同時に消えていた。


 俺はまだ意識があることに驚きつつ、失神しそうなくらいの激痛に耐えた。

 ヤバい。死ぬ。なんとかしないと。


 そんな俺が苦しみの中思いついたのはあの呪文だった。


 俺は頼むから成功してくれよと願いながら、苦し紛れに創造する。


 そしてかすれた声でなんとか呪文を唱えた。



「ベ  ポ  マ」



 全回復である。


「あ、あぶねぇ……」


 それにしても今のはホントに死ぬかと思った。


 やってくれたな騎士長の奴。外壁を飛び越えると予想して待ち伏せしてたのか。

 んだよあの槍、危険度高すぎだろ。


 グングニルとか言ってたからもしかすると宝具とやらだろうか?


 グングニルっていったら主神オーディーンが持つ勝利の槍として有名だ。神話通りの能力ならさっきの威力も頷ける。


 心臓貫いたら消えたってところをみると、やはり今頃持ち主である騎士長の処に戻ったのだろうか。


 それにしても今のベポマで創造のMP的なのがごっそり持ってかれた。


 すごい疲労感だ。


 だけど、俺はここでじっとしているわけにもいかない。そう、シャーラを助けに行かないといけないのだ。

 とにかく騎士長の野郎はどうしてくれよう。めちゃくちゃ痛かったし一発殴るだけでは気が済まないぞ。絶対泣かす。


 さて、いったいどれくらい飛ばされたのだろうか。町に戻るのにかなり時間が掛かりそうなのは明確だ。


 そうなるとシャーラは殺されてしまうことはなくても酷い目に合わされるかもしれない。


 考えてる時間も勿体ないのでとりあえずは町に戻ることにする。


 そう思って俺が走り出そうとした時だった。

 不意に後ろからうめき声のような物が聞こえたのだ。


 いきなりでホラー的だったのでちょっとビビったが、俺は振り向く。


 すると、そこには巨大なドラゴンが横たわっているでないか。

 ずっと岩かなんかと思っていたが、それはドラゴンだったのだ。俺がぶつかったのもこのドラゴンだろう。


 そしてそのドラゴン、よく見ると傷だらけで体のそこら中から血が流れている。簡単に言うと死にかけていた。


 矢が刺さっていたり、剣で切られたような傷もあり、あきらかに人間による手傷だと思われる。


 空の支配者とも言える竜が地上に落ちてそんな姿を晒しているのを見て俺はいたたまれなくなって、俺は思わず声をかけてしまう。


「おい、大丈夫か?」


 沈黙。そもそも言葉が通じるはずがない。


 俺がドラゴンの頭の方にまで移動すると、その両眼には剣が突き刺さっており、視力がない状態だ。


『……そこにいるのは人間か』


 いきなりドラゴンが喋った。

 こいつ喋れるタイプのドラゴンかよ。


「ああ、そうだけども」


『やはり人間か……。だが他のとは少し臭いが違う。

 それに竜の言葉を話せる人間に会うのも数百年振りだ』


 竜の言葉? 俺はそんなの話せないし、知りすらしない。

 はて、いつの間に俺はそんな言葉を扱えるようになったのだろう。

 

 首をひねっていると俺はティンときた。例のこんにゃくの力だ。


「それにしてもお前、ボロボロだな」


『人間達に寝込みを襲われこのザマだ、情けない。

 なんとかここまで逃げて来たが、俺はもうダメだろう』


 目も見えないしな、そうドラゴンは付け足す。

 人間達、ギルドから討伐依頼でも出ていたのだろうか。それとも純粋なハンティングか。


 双方、どんな理由があっても俺にはそれの良し悪しを判断することなんてできない。あまりにもこの世界を知らなすぎるからだ。


『いつからか竜種は狩られる存在となっていた。俺達は一度だって人を殺めたことなどないというのに』


「そうか、それは災難だったな」


『同情してくれるか人間よ。

 嗚呼、せめてもう一度だけ風を切って大空を駆け巡りたかった』


 はぁ、今急いでるって言うのになんつーイベントだよ。

 だけどここまで聞いておいて放って置くわけにもいかない。ドラポンクエストⅥではドンラゴさんにもお世話になったしな。


 そう思って俺はドラゴンの目に刺さっている剣を抜いた。


『グゥゥゥ……!』


 ドラゴンがうめき声を上げるが、構わず反対側の方も抜く。


『ッ……! おお人間よ! 竜の言葉を話すお前すらもこの俺を苦しめるというのか!』


 そして、ドラゴンのでかい声に耳を塞ぎながら、俺は創造した。


「ベポマ!」


 俺がその呪文を唱えると、ドラゴンの傷はみるみる消えていき、最終的に傷一つない雄々しいドラゴンの姿に戻った。


『!? なんだこれは!?』


「ほら、治してやったからいくらでも飛べよ」



 俺がそう言うとドラゴンはその巨体を起こし、翼を広げて咆哮した。



『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』



 その方向は今いる森の中に響き渡り、そして木霊した。鳥達が驚いて飛んでいく。


『この喜びを表現する言葉を俺は持ち合わせていないぞ人間!』


「そうか、それは良かった」


 ドラゴンに対する返事が適当なのは、猛烈に襲ってきた疲労感倦怠感嘔吐感に耐えているからだ。



 グワングワンと視界が揺れる。目眩だ。どうやら今の創造で俺の精神力は尽きてしまったようで、意識が遠のいていく。



 シャーラを助けないといけないのに……。

 思考すら低速していき、やがて俺は意識を手放した。



ーーー



 目を覚ました。どうやら気を失っていたようだ。

 創造の使いすぎか、神様も厄介な制限を付けてくれたものだ。


『目覚めたか人間』


 俺がしばらくボーとしていると、おもむろにドラゴンが俺の顔をのぞき込んだ。


 まだいたのか。


 俺は立ち上がって体を伸ばす。気分はそんなに悪くなかった。精神力の方はだいぶ回復したと思われる。


「俺はどれくらい気を失っていた?」


『日が真上に登るくらいだ』


 ドラゴンがそう言ったので俺は空を見上げる。すると太陽はちょうど真上に来ていた。

 つまり、あれからかなり時間が経っているようだ。


「マジかよ……」


 シャーラがマズイかもしれない。そう思うと気絶なんてしていた俺に少し腹が立った。


 そんな中、ドラゴンが俺に名を問う。


『人間、名を教えてくれ』


「レイヤだ」


 ぶっちゃけこのドラゴンに構っている暇なんてない。早くシャーラを助けに行かないと。


『良い名だ』


 これ良い名か?明らかキラキラ入ってるだろ。


「悪い、俺急いでるからもう行くわ」


 俺がそう言って走り出そうとするとまたしてもドラゴンの邪魔が入る。


『待て!』


「……なに?」


『俺が連れて行ってやる』


 ……オウフ、ナイスアイディア。




ーーー



「すげぇな! お前いつもこんな景色見てたのか!!」


 俺は今、ドラゴンの背中に乗って、風を切って大空を飛翔していた。



『レイヤがいなければ再び飛ぶことなどできなかった! お前を背中に乗せることは俺にとって誇りだ!』


 ゴォォと風を切る音のせいで俺達はかなりデカイ声で話さなければならない。


「そうか! そういや俺はお前の名を知らないぞ!」


『サーペンタイン・ブリッジゲート!!』


 ちょ、名前カッコイイ……。


「ブリッジゲート! スピードを上げろ!」


『承知した!』


 それからのブリッジゲートの飛翔速度は物凄かった。

 俺は吹き飛ばされそうになりながらもその巨体にしがみつく。


 眼を大きく開けているとその風圧で激痛を伴うくらいだ。

 だけど、最高に気持ちよかった。


 ブリッジゲートは翼をはためかせては縮め、急降下。それでどんどん加速していく。


 気づけばもう町が見えてきて、どんどん近づいていった。


 そして俺達は飛び立ってから一分も立たないうちに町の上空へと到着する。


 そのまま速度を落としてブリッジゲートは旋回した。


 俺は立ち上がり、町を見下ろす。



 目を凝らすと、なにか人が集まっている所があった。雰囲気からして闘技場だろうか。真ん中には大きな魔法陣が描かれている。


 その魔法陣を見た瞬間、俺は確信した。

 あれ、勇者召喚やわ。


  気になって俺がさらに目を凝らすと、魔法陣のそばにシャーラが横たわっていた。騎士長もいる。


 騎士長や、他の人間達は上空で旋回するブリッジゲートに気づいたのか、空を見上げた。



『注目の的だな。レイヤは何の用でここに来た?』


「一人、可哀想な奴がいるんだ。そいつを迎えに行く」


 そう言って、俺はブリッジゲートの背から少し身を乗り出す。


 ブリッジゲートは旋回をやめ、そこに留まった。


『なるほど、なら俺も一仕事しよう。耳を塞いでおけ』


 ブリッジゲートがそういうが、俺は耳を塞がない。


 構図的にカッコ悪いかなー、なんて思ったからだ。


 そしてブリッジゲートはスゥと息を大きく吸い込み、咆哮した。



『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!』



 ギィンと鼓膜に響く。かなり驚いたが、俺はそれと同時にブリッジゲートの背中から飛び降りた。



 風を一身に受ける。


 騎士長を見ると、右手には例の槍があって、振りかぶるとそれを俺に投擲した。


「え、ちょ! マジかよ!」


 まさかいきなりグングちゃんが来るとは思ってなかった俺は無駄とは分かっていても体を捻ってなんとか避けようとした。


 するとあら不思議、グングニルは俺の隣を通って何処かに飛んでいってしまった。


 なぜ避けれたのかは知らないが、これはチャンス。

 ちょうど騎士長も呆然としている。



 俺は着地し、その衝撃を殺さずにそのまま突進。


「だらっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そして騎士長の顔面に拳を叩き込んだ。


「ぐぬぅッ……!」


 吹き飛ぶ騎士長、そのまま壁に叩きつけられる。


 ンギモッヂィィィ!!!!この爽快感ッッッ!!!



 俺はトンと地面に足を揃えて体制を整える。


 そしてすぐ隣で涙を浮かべ仰向けに転がっているシャーラを見て言った。



「誰だよ、お前泣かしたの……。

あ、このセリフカッコイイ」



「…………」


 俺のカッコ良さに脱帽したのかシャーラは無言で俺を見つめていた。


「なに? 惚れた?」


「惚れてません」


 ちょっと待って、こいつ今ので俺に惚れないとかありえんの?

 チッ、仕方ねぇ。温めてたこのセリフで勝負だ!


「まあ……、泣くなよ。お前が泣いたら世界中のナイトが立ち上がって俺の出番がなくなるだろ?」


「……酷いセリフですね」


 ですよね。


 俺はボロボロのシャーラに手を差し伸べる。

 そしてシャーラは涙を拭いた後、俺の手をとって立ち上がった。




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