縛られない男
もう何回ルルを助けただろう。数えてない。
ループは終わらなかった。
俺が何をしようと、ループは終わらない。
何をしても繰り返されるループ。いい加減うんざりしていたが、俺は少しも折れてなかった。
ループの区切りは、日が完全に落ちる少し前。
ルルを助けた後の俺達の行動は毎回違っていた。遊んだり、一日中眠りこけたり、違う町に行ってみたり、色々した。
しかし何をしようと、時はここに戻ってくるのだ。
激しく脈打つ心臓。切れた息。
そう、俺はまたいつもの地面と抱擁を交わしていた。
【オイ、お前一回ここで休め。町からはもう大分離れてる。休め】
「いや、大丈夫」
息を整えてから、俺はそう言った。
そしてスクっと立ち上がり、シャーラを抱き起こすと、いつも通り魔法陣を展開する。
【転移魔法……! 共有されてたのかよ!】
「ああ、今思いついた」
【ナイスアイデアじゃねェか! 道はわかるのかァ!?】
「多分な」
【オイオイ! 変な所に転移しちまったら洒落に……】
すでに王都は目の前にあった。
【マジかよ!】
最初こそ自慢げに振る舞ってやったが、ティルフィングのこの反応にももう飽きた。
いつも通り、シャーラに純心を付けるように言ってから、俺は王都に向けて駆け出す。
【よォ、お前急にどうしたんだよ! いきなりキレキレじゃねェか!】
「だろ?」
ティルフィングに適当な返事をすると、俺はこの時間、ルルが囚われている牢屋に向かった。
ルルを助け出すのにかかる時間は、平均5分。
その上で、何度かルルをさらった奴を殺そうとしたのだが、ルルをさらった奴はルルを王都に差し出すとすぐに消えてしまうらしいので、俺がループする時間じゃそいつを捕らえることはできないのだ。目撃者であるシャーラも、フードを被っていてその顔は見えなかったらしい。
……まあ、それはいい。
一番近いルート。城の反対側の外壁を飛び越えて、そのまま城の窓から城内へと侵入すると、俺は地下牢への階段を降りて、ルルが囚われている地下牢へ辿り着く。
ルルの牢屋は、この廊の突き当り左。
そしてここからは見えないが、ルルの牢屋の前には炎帝がいる。
俺は気配を殺して進み、炎帝の背後に忍び寄る。
炎帝の向かい側の牢の扉は開かれており、そこにはさるぐつわを咥えさせられたルルがいた。
俺はそのルルにウィンクしてから、炎帝を横から蹴り飛ばした。
吹っ飛んで、壁にめり込む炎帝をよそに、俺はルルの元へと進む。
「助けに来たぞ」
これも毎回言ってるセリフだ。
俺はルルのさるぐつわを外してやり、そのまま抱きかかえる。
「は、はやかったね」
確かに今回は記録更新したかもしれない。それくらい早かった。
「そりゃあ急いで来たからな。さぁ、行こう」
【……】
俺はルルを抱きかかえて今度は階段を上がった。向かうはシャーラのいる丘の上。
王都は面倒なので毎回潰してない。
ループから脱したら潰しておこうかなぁ、くらいだ。
ルルはもう確実に助けられるので、俺の気分はそれなりに晴れていた。かと言って油断することはない。
なんにせよ後はループを抜け出すだけだ。
しかしこの一歩が進まないのだった。
丘の上に辿り着くと、消えていたシャーラが姿を現す。
「は、はやいですね……」
こんなに早く帰ってくるとは思ってなかったらしく、反応は微妙な感じだった。
まあシャーラからしてみればルルが攫われてから、しばらく間を開けて再会しただけなので、なんの感動もないだろう。
しかし俺からしてみれば、助けられなかった時のことを思うと、こんなにあっさり救出できても目頭が熱くなる。
何度目か分からないけど、俺はシャーラとルルをまとめて抱きしめた。
そして思いっきり二人に頬ずりしてやった。
「なっ、どうしたんですか……!」
「ど、どうしたのレイヤ?」
「シャーラ成分とルル成分を補充してるんだよ」
キャーキャー言う二人をしばらく堪能すると、俺は二人を解放して、その場にベッドを創造した。
そして靴を脱ぎ、ティルフィングを地面に突き刺すと、ベッドに寝転がる。
「よし、寝よう」
「こ、ここで寝るんですか?」
「文句あんのか? 開放感ある場所で寝るのもいいだろ。とにかく眠いんだよ」
安全なのは確証済みだし、ティルフィングが見張りをしてくれる。
「ありますよ……」
「私はいいよっ」
そう言ってベッドに飛び込んで来たルル。
「……」
シャーラはそれを見ると、渋々といった様子でベッドに潜り込んできた。
三人で空を眺める。
丘の上で眠るなんて中々ロマンチックではなかろうか。俺は何度もここで眠ってるけど。
「星、綺麗ですね」
「ほんとだ……」
こいつらは毎度同じ反応をするな。
お前らの方が綺麗だよ、とでも言えばいいんだろうか。
起きたら何をしよう。
風呂に入りたいな。ああ、ループはいつ終わるんだろうか。
二人に挟まれて、俺の意識は段々と遠のいていく。
シャーラとルルの寝息が聞こえてきた。
寝るの早すぎだろ。
そんな何度思ったか分からないことを最後の思考にして、俺はいつしか眠りに落ちていた。
【起きろ】
ティルフィングの声で俺は目を覚ました。
少し混乱している。ルルを助けた後は大抵ここで眠るのだけど、まだ日も登らないうちにティルフィングに起こされるなんて初めてだ。
俺はその変化に眉をひそめつつも、体を倒したまま返事をした。
「なんだよ」
【ちょっと聞きたいことがある。相当考えた挙句、やっぱり聞くことにしたぜ】
黙り込む。
ティルフィングの言葉の続きを待った。
一体どんなことを聞かれるのやら。
不規則な行動を起こしたティルフィングに俺は少しわくわくしていた。
が、次のティルフィングの言葉で俺は絶句することになる。
【お前、これで何回目だ?】
 




