回廊
意味がわからなかった。
なんだこれは。また戻ってきたのか? なんで? ルルは助けたじゃないか。
落ち着け。一旦整理しよう。
二回も同じことが起こればほぼ確定的だ。俺はループしている。
ならこれはどういうループなのか。死んでループするという訳じゃなさそうだ。強制的にループさせられている。
一回目も二回目も大体同じ時間に視界が真っ暗になって、この場所この時間に戻ってきた。
おそらく、決められた時間内をループしているんだ。
確証こそないが、多分あってる。
じゃあどうすれば、ループから抜け出すことが出来るのだろうか。
俺は地に伏したまま考えた。
が、そんなの分かるはずもない。
【……オイ、どうした?】
「いや、なんでもない」
俺はそう言って立ち上がった。前に転んだシャーラにも手を貸す。
「す、すいません……」
「ああ、悪い。怪我はないか?」
「大丈夫です……」
それにしてもループか。
よく考えればそんなに重要な事じゃないな。むしろ歓迎しよう。
俺がどれだけ後悔したか分からない過去を何度でもやり直させてくれるんだろ。
ルルは俺が絶対助けてくれると思ってるんだから、俺はそれを助ける。
それでいい。
何度でもループさせてみろ。何万回でも助けてやる。
今から一度だってルルを死なせることはしない。
何度でも助けてやるぞ。
そうなるとネックになるのが俺が助けに来るまでにルルが苦しむ時間だな。
助けに行くのに一日近く掛かってたらルルが可哀想だ。
……待てよ?
俺は使えないけどティルフィングは確か転移魔法を使えたはずだ。
何度かこの道は往復してるから現在地とかは分かる。
なら共有率を上げて俺が転移魔法を覚えることで、文字通り、今すぐルルを助けに行くことができるではないだろうか。
そう思った時にはすでに口を開いていた。
「ティルフィング、共有率を限界まで上げてくれ」
【あ? 何言ってんだテメェ】
まあ、そうなるだろうな。
このタイミングで共有率を上げろなんて、俺が何を考えてるか分からないだろう。
「お前、転移魔法使えたよな」
【ああ、でもオレの知ってる地形とは違うからまともな転移はできねェぜ】
「俺ができる。だけど転移魔法の使い方が分からないんだよ」
【出来る訳ねェだろ。大人しく休んどけ】
「頼む」
ティルフィングは黙り込む。自分の腰の剣を見つめ続けるシュールな光景になったが、俺は折れなかった。
【……仕方ねェな。
やるだけやってやるけどよォ、どうなっても知らねェからな】
「わかった」
突如、頭がかち割れるような痛みが俺を襲った。
「つぅ……!」
いきなりかよこいつ。やばいな、この感覚だけは慣れない。苦しい。
またループしたら同じことをしないといけないんだろうか。
俺はガンガンと響く頭痛の中でそんなことを考えていた。
頭痛は中々止まない。
あまりの激痛に、俺は嘔吐した。膝をつき、そのまま地面をのたうち回った。
「あぐぅ、……ぁ……!」
「や、やめてくださいティルフィング……! レイヤが死んじゃいます……!」
シャーラの声。
【止めるかァ?】
一瞬止む頭痛。ティルフィングのそんな声は透き通って聞こえた。
しかし俺は息を切らしながらも言う。
「つ、続け、ろ……!」
【分かった】
ーーー
96%。
ティルフィングは容赦なかった。俺が限界まで上げろと言ったから、本当に死の寸前までシェアリングを続けたのだ。
そしてシェアリングの結果、俺が未来から来たことが知識としてティルフィングに渡った。
【おかしくなっちまッたのかと思ったらそういうことだったのか】
「ああ。だから聞いときたいことがある。
共有率が下がった場合、また転移魔法が使えなくなるのか?」
【いや、魔法に限って言えば、何度か使って覚えることでそれは回避できる】
ループする度にこのやり取りをするのも面倒だ、何とかできないんだろうか、と思ったらそれでいいのか。
なら何度か転移魔法を使って覚える必要があるな。
【そんなことよりループから抜け出すことを考えろよ】
シャーラは俺達の会話についていけず、何度か口を開きかけたが、結局何も話さず黙っている。
ティルフィングの言う通り、ループから抜け出す方法を考えるべきなのかもしれない。
「……まあその話はルルを助けてからにしよう」
【そうだな】
「ルルにはこの事を言わないでくれ」
【ああ、分かった】
「シャーラも」
「え? は、はい……」
シャーラは事態を飲み込めてなさそうだけど、一応だ。
さて、転移魔法が使えるようになったことだし、王都まで行くか。
そう思って俺はシャーラを抱き寄せた。
「レ、レイヤ……?」
「ん? どうした?」
「なんで、その……」
「ああ、転移魔法使うから」
「……こ、こんなに近くなくてもいいんじゃないんですか?」
なに照れてんだこいつ。
なんだよ今更、と言い掛けて止まる。
そういや俺は過去に戻って来てるんだった。
すっかり慣れてしまったけど、前はそんなことなかったんだっけ。
シャーラとの過度な密着は控えないと。
そんなことを考えながら俺は地面に魔法陣を展開する。
そして光が俺達を包み、視界を覆う。
光が消えた頃には、俺は王都を視界に収めていた。
丘の上から城下町を眺める。街灯がちらちらと光っているのが見えた。
「シャーラ、ここで待っててくれ」
シャーラには純心を付けるように言って、通例通りここで待っててもらう。
冷えるので毛布を創造して、見えないシャーラに被せてやると、毛布もフッと消えた。
「じゃあ、行ってくる」
「はい」
シャーラの返事を聞くと、俺は駆け出した。




