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ロード

 前を歩くラインの背中と、足元に気をつけながら、洞窟の中をシャーラと手をつないで歩いていた。

 洞窟の中はなぜか明るい。いや、薄暗いが、視界が悪いってレベルではなかった。

 しかしこの洞窟は前回のような遺跡とは全く違っている。前の遺跡は人工的に造られたような造形だったが、今回のはそんな感じではない。完全に自然に出来ていた。


 ラインの完全武装っぷりからしてここの遺跡は相当危険なようだ。


 ラインは言った。

 過去に遡ることができる宝具、それがこの遺跡に隠されているかもしれない、と。

 そしてラインはこうも言った。真の目的は魔王退治だと。


 ラインが魔王退治なんてしようと思ってる理由は、昔、トレジャーハントを一緒にしていた父が、魔王に殺されたかららしい。

 ラインはそれ以来ずっと魔王に復讐しようと思っていたのだそうだ。だから宝具を集めていた。


 魔王退治を俺が手伝うことになるにしろ、ぶっちゃけそんなことは俺にとってどうでもいい。

 しかしルルを救えるかもしれないという可能性をチラつかされたら、俺はもうどうしようもない。やるしかないのだ。

 俺は行かなければならない。

 ルルを助けたい。



「レイヤ、シャーラちゃんストップ」


 その声で俺は足を止める。


「どうした?」


「これを見てくれ」


 ラインが指差した先には岩があった。

 それをよく見てみると、その岩には色んな謎のマークが大量に刻んである。


 俺はそれらが何か知っていた。

 トレジャーハンター達が先客を表す為のマークだ。

 石に刻まれたマークの数は100は下らない。それぐらいびっしりだった。探せば他の場所にも刻まれていることだろう。


「一番新しいので一ヶ月くらい前か。みんな失敗して死んでるっぽいね」


 それだけ言うとラインはまた歩きだした。

 遺跡の危険性を伝えたかったのだろうか。

 シャーラの手を握る力が強まる。


 歩いていくと、次第に洞窟の幅が狭くなってきた。今では人一人通れるくらいのスペースだ。窮屈な空間に少し息苦しくなる。


「この手の道には水攻めが驚くほど多いんだ。落ちてる石も丸いし。

 だから、これ飲んどいて」


 ラインは俺とシャーラに小さな小瓶を手渡した。おそらく人魚の涙だろう。

 まずは俺が飲んで本物か確認してからシャーラに飲ませた。

 それと同時に後方から水音が響いきてきた。振り向くと、すごい勢いで水が迫ってきている。


「ほらね。ま、焦らずいこう」


 水流に飲まれてもラインは変わらず歩いて行った。

 俺は流されそうになるシャーラを受け止めながらそれについていく。


 そうしてしばらく歩いていくと、道が2つに別れた。


「別れ道だけど、どうする?」


「やっぱり正解とかあんの?」


「そりゃあね。トレジャーハンターには運も試される。まあ序盤ならどんな罠が来ても回避できる自信があるからミスルートを選んでしまっても問題ないよ」


「じゃあ」


 俺が指をさした方向は右の道。


 ラインが頷いて先を歩く。俺は振り返って一度シャーラの顔を見た。

 シャーラは少し眉を寄せていてあまり余裕のある顔とは言えなかった。怖いのだろう。


 遺跡の中を歩くにつれて、最初ボコボコだった足元は段々とまともになってきていた。

 あきらかにここから何者かの手が加わっている。


「どうやら正解だったようだね」


 道、呼べるような地面になった時にはもう膝下まで水が引いていた。

 いつのまにか道幅も広くなっている。

 俺はなんとなく天井を見上げた。するとそこで気持ち悪いものを見つけてしまう。というより天井いっぱいに広がっていた。


「……ライン、アレはなんだよ」


 顔。無数の顔が天井に彫り込まれていた。シャーラもそれを見てしまって小さく悲鳴を上げた。


「ああ、アレは……なんだろうね。

 遺跡で死んだ人達だったりして」


 ラインにも分からないようだ。


「ま、気にすることでもないと思うよ」


「そうか」


 しかし気味が悪いのでライン含む俺達は歩を早めた。

 道は広くなったり狭くなったりを繰り返す。いくつか罠もあったりしたが、ラインが先に見破ってくれるので楽に回避できた。


 少一時間ほど道を進むと、行き止まり、ではなく目の前に巨大な扉が現れた。

 そしてラインが「ちょっと待ってて」と言って扉を調べ始めてからもうかなり経っている。


「何か分かったか?」


「多分、なんの仕掛けもない普通に押し開けるタイプの扉だと思う。レイヤ、頼んだ」


 それを聞くと俺はシャーラの手を離して、枷を外し、身体強化を使った。

 そして扉を押していく。

 扉は案外すんなり開いた。


 目の前に広がったのは、一つの空間。

 空間の真ん中には水色の結晶状の柱が立っていた。

 そこでラインが一言呟いた。


「ああ、ハズレか」


「どういうことだよ?」


「地面を見てごらん」


 言われた通り地面を見てみると、無数の骨が落ちていた。


「あの柱、多分宝具だけど持ち帰れないタイプのやつだね。地面の骨を見るにあれを使ったら死ぬのかな」


「じゃあ……、過去にはいけないのか?」


「分からない。遺跡には宝具の使い方がどこかに記されてるはずなんだ。ちょっと調べてみるよ」


 ラインは扉の先に進んでいく。

 何となく俺もシャーラを引いてラインの後についていった。

 すると、シャーラが「きゃ」と悲鳴を上げて俺にしがみついてきた。


「どうした?」


「あれ……」


 シャーラは指を指す。その指の先には例の柱があったが、その影には人が立っていた。

 それを見た俺は即座に構えるが、すぐに気づいた。

 死んでるのだ。


 そもそも生きていたら気配で気づくはずだし、そんなことより、その男は白骨化していた。

 よく見れば、柱の周りは少し盛り上がっていて、それらは全て骨と衣服だった。


「この人も宝具を使って死んだみたいだね。なんにせよ少し調べてみるから待ってて」


 ラインがそう言ったのと同時に、俺が開けた巨大な扉が勢い良く閉まった。


「しまった……!」


 ラインが声を上げてこちらに駆けてくる。


「レイヤ、全力で扉を開けてくれ!」


 言われた通り、俺は枷を外し身体強化を使って扉を引いてみる。

 が、今度はビクともしなかった。


「……こんな初歩的な罠に掛かるなんて、迂闊だったよ」


「出られないのか?」


「分からない。経験上、このタイプの仕掛けは簡単に出られるほど甘くない。だから身代わりの保険を作る為に俺は一人であまり遺跡に潜らないんだ」


 なかなか面倒なことになったようだ。そういえばティルフィングなんかは遺跡に埋まってたからこういうのには詳しいんじゃないだろうか。

 聞いてみるか。


「……ティルフィングは遺跡に潜ったりしたことあるのか?」


【ああ、ラインの数十倍は経験値積んでるはずだぜ。一時期ハマってた】


「……じゃあティルフィング、これはどうすればいい?」


【おそらくあの宝具を使わないと出られないんだろうなァ。ここはそういう感じだ】


 なら宝具を使うしかない。

 どうせ最初から使うつもりだったんだ。

 俺は柱のもとまで歩いていく。

 シャーラの手は握っていなかった。


「レイヤ、待ってくれ。せめてこの宝具かどう言うものかを調べさせてほしい」


 ラインが後ろから俺にそう言った。

 俺は振り返って言う。


「調べたってやることは結局同じになりそうだ。何となくわかるんだよ」


「じゃあ宝具を使うのは俺が調べてからにしてくれ。事前に情報があるのとないのとでは全然違うだろ?」


「……」


「分かったらもう少し待ってて」


 シャーラの心配そうな顔が視界に映ったのを見て、俺はラインの言う通り待つことにした。




 よく考えれば、あれが過去に行ける宝具だとすると、今のシャーラ達はどうなるのだろうか。

 そのまま巻戻るだけなのだろうか。

 だとしたらあの宝具を使った奴らの死体が残ってるのはなんなんだ。失敗したから?

 他にもタイムパラドックスの矛盾とかはどうなるのだろうか。


 色々考えたが、どうにもわからない。

 だけど、あれが過去に行ける宝具だとするなら俺はリスクが何であれ絶対に使うだろう。

 ルルは助けなければならないのだ。後のことは後のことである。


「レイヤ……、私はあれを使って欲しくないです……」


「……なんで?」


「だって、レイヤまで死んでしまったら私……」


「大丈夫だって」


 俺はそう言ってシャーラの頭を撫でてやる。大丈夫だという保証はどこにもないし、俺だって大丈夫だと思っていない。

 だけど、言ってしまった。

 後先考えない行動がまた裏目に出るかもしれない。しかしそれだけ俺はあの日を変えたい。


「レイヤ、わかったよ」


 柱を調べていたラインが振り返って言った。

 ラインはそのまま立ち上がってこちらまで歩いてくる。


「この宝具は、噂通り過去に行けるみたいだ。

 だけど、宝具の気まぐれで過去に連れて行ってくれない場合もあるみたいだ。その場合、死ぬ。

 調べてそんなことが分かったんだけど、逆に言うとそれくらいしか分からなかった。今までの遺跡に比べて情報量が少なすぎる。

 これじゃ実際過去に行けるかどうかも怪しいね。俺は使わないことを推奨するけどレイヤはそれでも使う?」


「……」


 ようするに、宝具に気に入られれば良いわけだ。

 自信はない。

 だけど、やるしかない。やるしかないんだ。

 ルルの死を受けいられない、信じられない、許せないから。


「もちろん、やる」


「そうかい」


「レイヤ……」


「大丈夫だ。本当に過去に戻れるならシャーラとはここでお別れだけど」


 シャーラと軽く抱擁すると、俺はティルフィングをシャーラの前に突き刺した。


「ティルフィング、シャーラを頼む」


 ラインは「何もしないよ」と言った調子で肩をすくめた。が、信用ならない。


【剣に何を頼むってんだ】


「お前ならなんとかできるだろ」


【無茶言うな。まあ、いってこいや】


「ああ」


 俺は柱の元まで歩き、それに触れた。

 すると指先がズブっと飲み込まれる。同時に視界が真っ白になった。






 気づけば、俺は地面に伏していた。

 心臓がバクバクと脈打っていて、頭もクラクラする。

 有り体に言うと、かなりしんどかった。

 そして辺りは暗いが、目の前にシャーラが投げ出されているのが見えた。



【オイ、お前一回ここで休め。町からはもう大分離れてる。休め】


 ティルフィングの声。聞いたことのあるようなセリフだ。


 すぐに状況と時を理解した。


 ルルがさらわれたあの日に、俺はタイムリープってやつをしていた。


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