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光と影

 ユーフォスフィリア大陸の最東端。

 魔界から一番近いその地に着くには朝晩休まず馬車を走らせて一週間掛かった。

 ラインが使う宝具のおかげで魔物もよってこないし夜も突き進む事ができ、難なくここまで来ることができた。しかし、馬の操縦だけは交代でやった。


 ラインは相当数の宝具を所持してるようで、この一週間だけでも見せた宝具は10個はくだらない。

 そして今、ラインが所持してるらしい宝具のほとんど全てが俺の目の前にずらっと陳列していた。

 おびただしい数である。


「うーん。シャーラちゃんにはどれがいいだろう。とりあえずこれは必要だろうし……。あ、レイヤも好きなだけ選んでいいよ」


 俺の背後には遺跡がある。前回のような塔ではなく、普通に洞窟だった。

 人の手が入った様子はないのだが、ここで合っているらしい。


 俺達は遺跡攻略に当たる準備をしていた。

 この大陸で前みたいにシャーラを置いていくのは心配なので、シャーラを守るための宝具をラインが吟味している。


「笑え」


 そう言ってラインが俺に筒のような宝具を向けてきた。

 すると俺の口角が吊り上がる。


「……なんだよこれ」


「人を笑わせる宝具だよ。それにしてもレイヤの笑顔は久し振りだね」


「やめろ」


 ラインはその宝具を下ろす。すると俺の口元も元に戻った。

 訳の分からない宝具もあるもんだ。


 ふとシャーラを見ると、シャーラは泣いていた。

 俺は驚く。


「……なんで泣いてるんだシャーラ」


「え? あ……」


 シャーラは自分の涙に今気づいたようだ。頬をなぞって湿った手を見つめた。

 しかしシャーラの瞳からは涙が止まらない。


「あれ、なんで……」


 シャーラは袖で涙を拭くけどその涙が止まることはなかった。


「レイヤはもっと笑った方がいいよ。辛くてもね。

 いや、だからこそかな」


【……ああ】


 ティルフィングの相槌に俺は驚いた。声を聞くのも久しぶりだったけど、ティルフィングもそう思っていたことに驚いたのだ。

 シャーラが泣いてるのもそういうことなのか。


「こうか?」


「……ふふ」


 俺が少し口元を吊り上げてみせると、シャーラも笑った。

 そういえばあれから笑った覚えがなかった。それがシャーラを不安にさせていたのかもしれない。

 俺も今シャーラが笑うのを久し振りに見たし、これからはなるべく笑うようにしよう。


「そうそう。全然笑ってるように見えないけどね。でもだいぶマシだよ」



 シャーラが泣き止んでから俺達は宝具の選出に戻る。

 ティルフィングとの共有のおかげで俺の知っている宝具も結構あった。


「シャーラちゃんは魔力が多いからとりあえずこれは必須だね」


 そう言ってラインがシャーラに差し出したのは俺の知らない宝具だった。

 形状としては、ただの白い布切れに見える。


「それは?」


「これは女神の加護布って言ってね、魔力を吸いながら使用者の周囲に結界を貼ってくれるんだよ。使用者に害のある物と見なされた攻撃とかは大体弾いてくれる優れものさ。魔力の消費が結構凄いけどシャーラちゃんなら余裕でしょ」


 あ、とラインは思い出したかのように続けた。


「シャーラちゃんは処女だよね? 処女じゃないと使えないんだこれ」


 その質問には俺が頷いて答えた。


 その後も宝具の選出は続いて、結局シャーラが身につけることになった宝具は4つ。

 あまり多く身につけてもシャーラが使い分けられない可能性が高いから最低限がいいとラインは言った。


 1つが女神の加護布。

 後は、いつもの純心(クリアハート)

 残るは引嫌還(サンセリング)とプルトーニャアルの首輪だ。


 引嫌還(サンセリング)はシャーラの小指にギリギリ入るくらいの指輪型宝具だ。

 指に嵌めて魔力を込めることによって、身近にある何かを数メートル引き離すという効果を発揮する。込めなければならない魔力が桁外れなのでシャーラ以外にはガラクタ同然らしい。


 そしてプルトーニャルの首輪は、対象の俺の血を垂らすことによって、それを付けている間は因果的に俺と離れ離れになっても戻ってくることができるらしい。

 しかしこれのデメリットは一度つけて外したら一ヶ月は効果が得られないことと、それを付けている使用者は、その間契約した者の肉と血しか飲み食いできないという中々呪われた宝具だ。

 効果だけ聞いた時は殺してでも奪ってやろうかと思ったけど、外されたりしたら因果も糞もないし、デメリットが厄介だ。

 俺は構わないが、シャーラに俺を食って生きろなんて言えない。


 対して俺が借りることになった宝具は一つだけ。

 無夢視のオーバーコートという厚地の衣服だ。

 どういう力を持つかというと、着ているだけで視界の焦点が早く定まるらしい。

 実際着てみると、かなり使い勝手がよかった。



「さて、いこうか」


 宝具を全て胸ポケットにしまい、さらに宝具で完全武装したラインが言った。

 ラインの胸ポケットのあれもおそらく宝具だろう。


「ああ……」


 俺はシャーラの手を取ってから返事した。

 そしてなんとなく腰にぶら下げたティルフィングを一瞥する。


「じゃあ、俺の後ろについてきて」



 言って洞窟に向けて歩いていくライン。

 俺もシャーラの手を引いてそれについていった。


 そんな時、ふと思った。


 ……なんでこんなことをしてるんだろうか俺は。

 ラインを殺して宝具を奪った方が明らかにてっとり早いしリスクも少ないだろう。

 手伝うメリットが俺にあるか?

 こいつは裏切るかもしれないんだぞ。

 俺自身少し信用してしまっているんじゃないのか?



 ――こいつ、殺してやろうかな。


 気づけば殺気を剥き出しにしてティルフィングを抜刀していた。


「わお。盟友の兆しを自力で破ったのか。すごいなレイヤは」


 盟友の兆し。宝具の名前だ。

 対象の心に気づかずに溶け込んでいく下劣な宝具。そんなもの使ってたのか。


 こいつはやっぱり殺しておこう。


「待って」


 その言葉と同時に一閃。

 ラインの手首が飛ぶ。

 首を狙ったのだが、躱された。


「レ、レイヤ……!」


「レイヤ、ちょっとタイム。落ち着いて」


 ラインは冷静だった。もちろん、俺も冷静だ。

 冷静に、こいつは殺さないといけないと思っている。


「ストップ! 話を聞いてくれ!」


 聞くわけがない。

 素早く踏み込み、ラインに剣撃を浴びせようとする。しかしそんな時、ティルフィングは言った。


【レイヤ、聞いてやれ】


 俺はラインの首元ギリギリで剣を止める。

 そして俺はティルフィングを鞘に納めた。

 まさか俺もラインがすでに裏切っているとは思っていなかったが、ティルフィングが言うなら話を聞くだけ聞いてやろう。


 ラインはそんな俺を見て話し出した。


「ふう。俺が盟友の兆しを使ったのは、今のレイヤだといつ俺を殺しにかかるか分からないからだよ。簡単に言うと保険さ。俺も死にたくないし」


「それはどうでもいい」


「そうだね。

 レイヤ、君は大人しくここの遺跡を攻略するべきなんだ。レイヤにもメリットがあるんだぜ」


 ラインは落ちた自分の手首を拾うと、その手を切り口にくっつけた。どうせ宝具の力だ。

 いや、そんなことより俺にメリットとはどういうことだろう。

 俺は聞き返す。


「……メリット?」


「そう、噂によるとこの遺跡に隠されてる宝具は、

 過去に遡ることができる宝具らしい。

 それを使えばレイヤの死んだ仲間だって助けられるんじゃないかな」


 それを聞いた時、俺の心臓がドクンと脈打った。


 ルルを助けられるかもしれない。


 暗かった道に光が灯されたような気分だった。

 俺は震えた声で聞き返す。


「……マジ、で?」


「ああ。あくまで噂だけどね。

 それで仲間を助けられたらさ。協力してほしいことがあるんだ。実を言うとこれが本当の目的なんだけど……」


「……言ってみろよ」


「魔王退治ってやつ、手伝ってほしいんだよね」


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