旅行プラン
「ステージ」
「じ? じ……、じぃ……、あっ、ジレンマ」
「○○○」
沈黙の中、俺こと霊界道零矢は激しく後悔していた。
しりとりを、していたのだ。
シャーラと、俺と、ルルと、セラで。
ティルフィングはブリッジゲートの部屋でぺっちゃくってる。
俺達が今いる部屋はセラの部屋だ。人間用で、小さい部屋。
俺がベッドを創造してやったから、セラの部屋にはベッドが3つある。
ちなみに俺はいつもブリッジゲートの部屋で寝ている。
部屋と言ってもドラゴンの部屋だ。
そりゃあもうデカイ。というかただの洞穴。
あんな広い場所で寝るのは正直苦痛だ。もう慣れたけど。
いや、まあそれはいい。
しりとりをしていた。
そして反射的にま○こって言ってしまった。
完全にやらかした。
「なっ……!」
「レ、レイヤそれは……」
シャーラはありえないと言った表情だった。……ルルもだった。
しかしセラは違う。
「○○○ってなに?」
来た……。
そう、この幼女セラは分からない単語は必ず意味を聞いてくる。
シャーラとルルとしりとりをしていたなら窘められるか軽く引かれるかだけで済んだだろう。
が、今は違う。
セラがいるのだ。
俺は自分の犯した罪を再認識する。
すでに、心理戦は始まっていた。
セラは俺達の空気を見て首を傾げた。
そしてセラは、俺の罪を再々確認させるかのように、今度は小さく聞いた。少し俯いていた。
「……○○○ってなに?」
「……ッ!!」
俺達が適当なことを言って誤魔化せないのには訳がある。
この幼女、ありえないくらい嘘に敏感なのだ。
「わ、私は知りませんね……」
セラはシャーラの方を向いた。
セラはシャーラをじぃっと見つめ、言った。
「教えて……、シャーラお姉ちゃん……」
「俺、ちょっとトイレ」
俺は立ち上がった。
が、ルルが俺の手を掴んでいた。
まるで……逃さないとでも言うように。
まさかルルに引き止められるとは思わなかった。
しかし、俺は投げ出したい。
ああ、素直にティルフィングとブリッジゲートに修行のダメ出しされとけば良かったんだ……。
「たまにはいいだろ!!」とか逆ギレして女性陣の中に入っていった俺が間違いだったんだ。
でも、仕方ないだろ?
朝昼晩修行で寝る前にはダメ出し喰らうんだ。
そんな中、女の子達が横で楽しくやっててみろよ。
もうさ、寂しくなるじゃん。
いくら世界最強目指してるって言っても、修行は俺が耐えれると分かったら厳しくなってく一方だし、俺の休まる時間がどんどん消えていくしで最悪なんだよ。
シャーラ達と話せるのもせいぜい飯の時くらいだしさ。
確かに、魔王倒すって決めたのは俺だよ?
だけどさ、違うじゃん。
なんでこんなにがっつし修行してんだよ俺。俺の異世界ライフほとんど修行じゃん。
俺って、こんなだっけ?
なんて愚痴を言い出したら止まらない。
今は現状を見据えよ。
とりあえず俺が撒いた種なのに放置するのはさすがにマズイと思い直して、俺は着席した。
「ま○こってなに?」
この好奇心旺盛の幼女は、三度もその卑猥な言葉を口にした。
卑猥……といったら失礼かもしれない。
しかし俺にはこの純真無垢な女の子にま○こを説明できるほどの精神力はなかった。
元々嫌われていて、シャーラ達の顔を立ててこの場に居させてもらっているのに、これ以上好感度が落ちるのは困る。
ここは本当に申し訳ないが、シャーラ達に任せるしか……。
待てよ? シャーラの口からま○この説明が聞けるのは、俺としては悪い話じゃなくないか?
むしろメリットだ。ルルでもいい。
最高じゃないか。
ならばシャーラかルルに説明を求めるよう、セラを誘導すれば……
「レイヤのせいだよ」
珍しくルルの言葉が強かった。
先ほどの案は一瞬で俺の脳内から削除された。
「うーん……。そうだなぁ」
そろそろ答えてやらないと、セラはすねてしまうかもしれない。仲間はずれにされてる、と。
色々考えた挙句、最善策を導き出した俺は言ってやった。
今思えば、その時の俺は修行で疲れてどうかしてたのかもしれない。
俺は至って真面目な顔で言う。
冗談とかじゃなくて、ガチで。
「シャーラ、見せてやれよ」
シャーラのパンチ (身体強化付与)が飛んできた。
もちろん、避けていいわけがない。
そしてシャーラのパンチの威力はとてつもない物で、俺は壁を突き抜けて吹き飛んだ。
シャーラもまさかそんなに威力があるとは思ってなかったらしく、あんなことを言った俺が明らかに悪いのに、後で謝りに来た。
その日、シャーラのパンチを見たセラは、「ま○こ」が聞くのも憚られる凄くやばい物だと勘違いしたらしい。
だがまあなんだかんだで結局誤魔化せたみたいだ。
いつか本当の意味を知る時が来るだろう。
ーーー
昨日そんなことがあって、俺はティルフィング先生から3日の休暇を貰った。
ティルフィング先生も俺は疲れていると判断したらしい。
俺としては通常運転のつもりだったが、一線を超えてしまったのはやはりミスだったみたいだ。
やっぱり疲れてるんだよ、俺は。
しかし休暇がここまで嬉しいとは。
修行のモチベがどん底だった俺にとって、突然訪れた休暇は女神のようなものだった。
ビバ、ホリデー。
『どうだ! まだついてこれるかレイヤ!』
「まだまだァ!!」
俺はブリッジゲートと競争していた。
ブリッジゲートの背中にはシャーラとルルとセラ。
俺は羽ばたくブリッジゲートの隣を、空中歩行で走っていた。
「すごーい! はやーい!」
ルルは大はしゃぎだった。
最初はドラゴン達にビビっていたルルだけど、今一番馴染んでるのはルルだ。
その後ろのシャーラは顔を真っ青にしてルルにしがみついていた。
セラは尻尾ぎりぎりの場所にしがみついている。
あれ、怖くないのかな。
さて、俺の休暇の使い方は「3日で世界一周」に決まった。
俺達の世界一周旅行は比較的安全なルートを進む。
魔族にも人間にも見つからない飛行ルートとスポットをドラゴン達は知ってるので、ブリッジゲートが案内してくれるのだ。
ちなみに、ブリッジゲートの飛行速度なら一日もかからずに世界一周が出来るらしい。
言わずもがな、それにはついていけません。
【重心ブレてるぞォ!!】
「オラオラァ!!」
あれ? これ修行と変わらなくね?
と思ったけど、こんな休暇でも俺はいい。
そう、変化がほしいのだ俺は。
毎日同じことをするってのはどうも性に合わない。
俺は肉体的に疲れてるんじゃなくて、精神的に疲れてるのだ。
だから、こんなのでも気晴らしになる。
なによりシャーラ達が一緒ってのが大きいな。
そんな考え事をしてると、ブリッジゲートとの距離がどんどん広がっていった。
「ちょ! ブリッジゲート! それは速度上げ過ぎ!」
【限界超えろォ!!】
「無茶言うな!!」
ブリッジゲートは一瞬遠ざかったが、すぐにペースを俺に合わせてくれた。多分俺がペースダウンしただけなのに。
そのまましばらく走った。
しかしそろそろ疲れてきたので、休憩させてもらうことにしよう。
「ブリッジゲート! 休憩! タイム!」
【あ!?】
『そうだな、乗れ』
俺はブリッジゲートの背に飛び移る。
ちょっとくらい楽したっていいだろう?
ルルはいつの間にかブリッジゲートの頭の上に移動していた。楽しそうに笑っている。
後ろを見ると、セラはもはや尻尾の先っちょに捕まっていた。めちゃくちゃ危なっかしい。
ルルに置いていかれたシャーラは、ブリッジゲートのゴツゴツの皮膚に大の字でガッシリと捕まっていた。
マジビビリの顔だった。
なんか可愛かったので、手をとってやる。
するとシャーラは俺にしがみついてきた。
俺はドギマギして胸の高鳴りを感じたが、シャーラにそんな余裕はないらしい。
とりあえず手を滑り込ましておっぱい揉んどいた。
「や、やめてください……!」
離れると怖いシャーラからしたら、俺に抵抗できない。
罪悪感を感じないこともなかったが、なぜかこの状況はめちゃくちゃ興奮した。
「ぐへへ……」
「や、やめてください……! 怒り……泣きますよ……!」
「それは困るなぁ」
まあそれでもこの手は止まりませんけどね。
「ほんとに……もう……!」
最近シャーラへの欲情が爆発しそうなレイヤでした。
ちなみに、ブリッジゲートが翼を休めるために降りた島で、俺はシャーラに怒られると思ったんだけど、案外そうでもなかった。
「ダメですよ」と意味の分からない注意をされたが、可愛いだけでちょっとシャーラの心情は分からなかった。
ふむ、やっぱり…………両想いなのか? 脈あり?
そんな童貞らしい妄想をしておこう。




