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飛べない竜の子

 レインギーナはまだ小さいけれど、俺達を背に乗せて飛ぶには十分だった。

 速かった。

 子供といえど、さすが空の王である。空を飛ぶ魔物は他にもいるが、レインギーナが飛ぶと皆避けた。


 俺達はまたたく間に大陸を北に進んでいき、海を超え、そして北の孤島に着いた。

 寒い。その島は雪で覆われていた。


 海の上に山がそのままそびえ立っているような島である。

 見上げると、天辺はまさしく天に届きそうで、雲に隠れて見えなかった。

 山は綺麗に雪で化粧されていたが、空はほとんど快晴。

 山の天辺だけ雲が隠していた。


「すげぇ」


【変わってねェな!】


「高いですね……、頂上が見えません」


『竜の里の入り口は山の頂上にあるんだ』


「そうなんだ」


 レインギーナの先頭に跨るのはルル。

 次に俺、そしてシャーラだ。

 荷物等は俺が持っていて、かなりのスピードが出るので、シャーラは身体強化を使って俺にしがみつく。


『じゃ、いっきにいくよ』


 そう言うと、レインギーナは今まで一番速い速度で上昇していった。

 このドラゴン、どうやら上昇がかなり得意らしい。


 竜の里に着くまで数分も掛からなかった。

 竜の里はイメージと違っていた。

 俺は里を見下ろしてそう思う。


 山にまとわりつくように大きな洞窟が複数あり、その中からドラゴン達が出入りしている。

 レインギーナ曰く、山の中に里があるらしい。それはどういうことかと尋ねると、山の中は空洞になってるらしい。ドラゴンが暮せるほど広い空洞に。


 どうやら今度の俺達の家は山の中のようだ。



ーーー



 さて、サーペンタイン・ブリッジゲートという竜の話をしよう。

 彼とはこの里で再会した。

 そのおかげで、俺達は竜の里のみなさんから快く受け入れてもらい、ここに来てからすでに一ヶ月経った今じゃ、すっかり馴染むことができている。

 レインギーナの紹介のおかげもあったが、子どもの推しはやはり弱い。

 しかしレインギーナを助けたことを話すと、俺達への好感度は一層上がったようだ。


 それはともかく、修行のことを話すと、里の戦士達が俺の修行相手になってくれることになった。

 その中には俺が全力で戦っても勝てない強い竜が複数いた。


 その中の一匹がブリッジゲートだ。

 ブリッジゲートは寝込みを人間に襲われて死にかけていたのに、里で一番強かった。

 まあ寝込みを襲われたらいくら強くても勝てないか。俺だって無理だ。


 ティルフィングは強い修行相手が出来て喜んでいた。



 竜は魔法を使う。

 もちろん身体強化もだ。

 当初驚いたが、魔物だって魔法を使うこともあるのでそんなに不思議ではない。


 ただちょっと反則臭がするなぁ、と思ったけど、それは俺が言えたことじゃなかった。

 しかし強い修行相手がいることは、俺としても嬉しい限りだ。


 それとは無関係なところで、問題もあった。

 そう、竜の生活と人間の生活が違いすぎて、俺はともかくシャーラ達が住みにくいということだ。

 そんな問題を解決してくれたのが、ブリッジゲートだった。

 いや、正確にはブリッジゲートではない。

 彼の同居人だ。

 彼の同居人は、人間だった。


 俺もビビった。

 まさか人間のょぅι゛ょがこんな所にいるとは思ってなかったからな。


 その幼女の名は竜の言葉でセラフィーナというらしい。愛称はセラ。

 彼女は赤ん坊の頃、ブリッジゲートに拾われてからずっとここで育てられたらしい。

 どうやって育てたんだよ、って思った。



 セラの金の髪は肩で切り揃えてあり、目つきはキリッとしていて、幼くも将来は期待できる顔立ちだった。というか今でもすでに可愛い、なめ回したいくらいには。

 身長は俺の半分くらいで、8歳らしい。


 彼女は竜の言葉しか話せず、最初は俺達を怖がっていた。

 しかし性格は大人しく、ここでの人間の暮らし方を不器用なりにも教えてくれた。シャーラとルルにね。


 そう、残念なことにこの幼女、俺には全く懐かない。

 シャーラとルルとはめちゃくちゃ仲良くなってるのに、俺には全くだ。

 むしろ凄い眼光で睨まれる。

 なんていうか、完全に嫌われていた。理由はティルフィング先生に聞いても分からなかった。

 多分純粋に気に食わないんだろう。残念だ。


 それはともかく、セラはめちゃくちゃ強かった。 


 この前、ブリッジゲートの提案でセラと模擬戦をすることになった時のことだ。

 もちろん幼女相手に本気は出せない。

 だから俺は身体強化使わず枷も外さずに、遊びがてら相手をしてやったのだが、瞬殺された。

 まさにぅゎょぅι゛ょっょぃだった。


 手加減してたとは言え、さすがにその時は俺のプライドが少し傷ついた。

 しかしずっと竜の里で暮らしていたならあの強さも頷ける。それなら仕方ないな。言い訳だけど。

 余談だが、その日からティルフィング先生の修行は一層ハードになった。セラがあんなに強くて自分も驚いてたくせに。



 俺の日課はほとんど修行だが、シャーラ達は随分と遊び呆けているらしい。

 レインギーナの背に乗ってどこか連れて行ってもらったり、主にセラと三人で行動している。

 セラは伊達に8年ここでくらしておらず、色んな遊び方を知ってるようだ。

 まあシャーラ達の暇をつぶしてくれるならありがたい。


 楽しそうで羨ましいけど。



 さて、一見絶対安全に見えるこの竜の里だが、案外危険は多い。

 なぜなら、魔族の襲来とかが結構あるからだ。

 魔族と竜種は本当に仲が悪いらしい。

 しばらくは魔族の襲来が途絶えてたらしいんだけど、俺達が来てから少しずつそれが増えていった。

 もしかしたら、シャーラがここにいることがバレているのかもしれない。

 しかし竜種とも戦争になると魔王側にとっても痛手になるだろう。それだけドラゴンさん達は平均的に強い戦闘力を誇る。

 魔王は人間との戦争も控えているのだ。

 だから、ここに送ってくる魔族達はジャブ程度なんだろう。


 その時自覚したのだが、なんていうか今、俺達が世界を動かしてるっぽい。

 竜種のみなさんにもさぞかし迷惑掛かってるだろうなぁとか思いながら修行に励む毎日。


 そんなある日、今日は俺も修行で、山麓から山頂を走って往復していた。朝のランニング。朝ランってやつだ。

 身体強化? リミット解除?

 勿論なし。

 そんなものなくても基礎体力は鍛えられる。むしろ、ない方が良いらしい。


【オラオラァ! おせェぞ!!】


「ハァッ……! ……ハァッ!」


 雪の上を走る俺。

 限界だっつーの。


 これを毎朝3往復。終わればブリッジゲート達を交えた模擬戦だ。



 しかし今日の朝ランではちょっとしたイベントがあった。

 それは、山麓の往復地点でセラと出会ったことだ。

 セラは傾斜のかかった雪の上に突っ立ってどこかを見ていた。

 その顔はすごく輝いている。可愛い。


 この時間はいつもシャーラ達と寝ているはずなんだけど、どうしたのだろうか。

 ティルフィングの許可を得て、朝ランを一時中断し、俺はセラの所まで行ってみた。


 すると、俺に気づいたセラはあからさまに嫌な顔をした。うげぇ、って感じだ。

 それに対して俺はイケメンスマイルで近づいていく。


「なにしてたんだ?」


「……」


 俺が聞くと、そっぽを向くセラ。好感度なんてあったもんじゃない。

 つーかマジで何してたんだろう。

 そう思ってセラの視線の先を見る。


 ここから見えるのは、もちろん海。

 そしてその海には一隻の船が浮かんでいた。

 それは少しずつ進んでいく。


 なるほど、セラはあれを見てたのか。

 前の大陸と違ってここらは魔王の魔の手が伸びていない地域だから、船の一隻くらいは別に不思議じゃない。

 この時間に船が通るのを知っていたから、セラはここにいたのだろう。

 船が通る周期のようなモノもあるかもしれない。


 まあなんにせよ、セラはあれに興味があるっぽかった。

 無理もない。セラはこの島を出たことないらしいし、興味も沸くだろう。


「あれ、乗りたいんだろお前。俺なら連れていけるんだけどなぁ……」


 微笑ましかったので、俺は意地の悪い感じでそう言った。

 多分顔もニヤニヤしてたことだろう。


「……いい」


 セラはまたしても素っ気なかった。

 しかしその興味は隠しきれてない。


「連れてって欲しいな、お兄ちゃん!

 って言えたら連れってやるぜ」


 修行の途中だけど、ティルフィングもこれくらい許してくれるだろう。


 セラは押し黙った。

 どうやら本気で悩んでるみたいだった。


 やはり子どもは単純だ。

 さぁ言え。


 俺がワクワクしながら待っていると、ティルフィングは言った。

 どうやらうちの魔剣は敵だったらしい。


【こりゃあシャーラに報告だなァ】


「悪いセラ、また今度連れてってやるよ!」


 俺は山を駆け上がった。

 そのあと身体強化を使ったセラに簡単に追い抜かれてしまったけど。



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