レイヤVSエクスカリバー
バルト……いや、エクスカリバーの最初の一撃はほとんど見えなかった。
だけど躱した。
「あ……っぶねぇ……!」
「すごいな。腕一本は貰うつもりだった」
そう言ったエクスカリバーの顔を見る。すぐに悟った。
こりゃどうやっても勝てないな、と。
構えてこそないが、隙なんて完全に消えてしまっている。
そうだ、殺しはしないらしいから大人しく半殺しで許してもらうってのはどうだ?
いや、それだとシャーラ達はどうなるんだろうか。
連れて行かれるのか?
否、絶対に連れてかれる。
連れて行かれない訳がない。
というか半殺しにされた後バルトに戻ったら俺即殺されるじゃん。
ん? 半殺し?
そう思った時には俺はティルフィングの柄を強く握り締め、体勢を低くしていた。
「ほう」
【ずりィぞエクスカリバー!!】
「ティルフィング、お前が出て来ればいいじゃないか。
……いや、そっちはリスクがあるのか」
なんだ? 口ぶりからしてエクスカリバーのチェンジにはリスクがないのか?
だとしたらなんだよそのチート。
【レイヤ! アイツのリスクはチェンジの時間が限られてるってことだァ! 3分! それ以降は2日くらいチェンジできねェ!!】
「なるほど。つまり」
【ああ! 逃げ切れ!! そしたら勇者フルボッコタイムだァ!!】
それにしてもエクスカリバーのそれはリスクと呼べるのだろうか。強すぎるじゃん。俺のリスクなんて生き残れる確率が1/4なのに。
「無理に決まっている。その気になれば秒で殺せるからな」
聖剣が振り下ろされた。
俺はそれを反射的にティルフィングで受け止める。
「なるほど、これは鍛えるのも随分楽しかっただろうな、ティルフィング」
俺がギリギリ受けれるレベルの剣撃を繰り出したのだ、エクスカリバーは。
俺は押し返そうと空を踏ん張ったが、全く動かせなかった。
バルトと入れ変わったエクスカリバーの顔を見ると、口元は少し釣り上がっている。
なんていうか……楽しそうだった。
【いぎぃ……!】
聖剣になったバルトが悲鳴を上げる。
【ギャハハ! 痛てェだろ小僧! オレもだァ!!】
「すまんがバルト、我慢してくれ。少し遊んでやりたい気分になってしまった」
【ぐぅ……、だい、じょうぶ……。レイヤを、倒して、くれ】
【強がんな小僧ォ!!】
エクスカリバーが殺気を放つ。
ルルパパの殺気、それと同じくらいのモノだった。
「……っ!」
【オイオイ! そりゃあねェぜ!!】
俺は一瞬で力が抜けてしまった。
が、それと同時に半身を少し横にずらし――――透過魔法。
ティルフィングは聖剣をすり抜け、エクスカリバーの頬をギリギリ、かすめなかった。
「……! 今のは惜しいな。すごくいい」
そう言った余裕しゃくしゃくのエクスカリバーの目に、俺はこんにゃくをペーストする。
「……なっ!」
最強の不意打ち。いきなりシャットされた視界に、エクスカリバーは声を上げた。
「目に……こんにゃくついてるぜ!!」
俺は体を一回転。そのままティルフィングをバルトの綺麗な顔めがけて振るった。
しかし視界を奪ったはずなのに、エクスカリバーは少し体を逸らしてティルフィングの軌道から逃れる。
が、今度は頬をかすめた。
【おお!! すげェぜコンニャク戦法!!】
「っシャァ!!」
とりあえずエクスカリバーレベルの強者にも通用することが分かった。
実際頬をかすめただけだけど、それでもかなりすごい。
俺はティルフィングを流れるように鞘に戻し、そのままエクスカリバーに背を向け逃げ出した。
と、思ったんだけど一瞬でエクスカリバーに回り込まれた。
「……!」
【逃げられる訳ねェだろ! だが選択肢も逃げるしかねェんだけどなァ!】
クソ、俺も気軽にティルフィングとチェンジできたらどれだけいいことか。こんなのに勝てるわけねー。
「どこへいく。ティルフィングを抜け。後2分は遊べるぞ」
また殺気を飛ばされ、俺は反射的にティルフィングを抜いてしまう。
修行のせいでもう条件反射だ。
俺はティルフィングを構えなおす。
そしてエクスカリバーを睨んだ。
それは衝撃。
エクスカリバーは聖剣で俺を切らずに、グーで顔面を殴ってきた。
「ぶぅべ!!」
確信する。鼻の骨が折れた。
そして例にもれず吹き飛ぶ俺。今度は俺が森の中を騒がせた。
俺は吹っ飛びながら鼻を抑え、悶絶した。
痛すぎる。鼻は痛い。
鼻血も出ていた。
しかし立て直さないとマズい、そう思った俺はティルフィングを地面に突き刺し、地面を引っ掻くように衝撃を殺していった。
やっと止まり、俺は鼻を抑えながら息も絶え絶えティルフィングを杖にして立ち上がる。
すると、目の前にはすでにエクスカリバーがいた。
――もう一撃来る
頭でそう分かっていても体は動きについていかない。
なら、どうするか。
そう、創造だ。
頭で分かっているなら創造が使える。
こんにゃくが出せるのだ。
俺はエクスカリバーの踏み込み地点にこんにゃくを数個創造。これで踏み込みは甘くなる、うまく行けば、転ぶ。
「……っ!」
予想どおり、エクスカリバーはこんにゃくを踏んでしまって体勢を崩した。
が、そこからは予想外だった。
その体勢から蹴りが飛んできたのだ。
その蹴りは俺の鳩尾にモロに入った。
しかし俺の体が吹き飛ぶことはなかった。
エクスカリバーが俺の腕を掴んだからだ。衝撃が集まった肩に激痛。ミシミシと悲鳴を上げ、千切れそうだった。
「あがァ……!」
悲鳴を上げそうになったのを押し殺す。
「得体の知れないことをするな、レイヤは」
【エクスカリバー! 代わってくれ! トドメだけは、トドメだけは僕が刺す!!】
バルトが騒ぐ。
「バルト、時間はまだ少しある」
【お前本当にその糞勇者鍛えたのかァ!? なんでそんなに甘メェんだよカス剣!!】
「確かに、お前と比べたら鍛え方がぬる過ぎたかも知れない」
【糞にも程があるぜそいつはよォ! お前はそのカスの何が気に入ったんだァ!! オレだったら死んでも契約はゴメンだ!!】
「お前にバルトの何がわかる!」
エクスカリバーが声を荒らげた。
そこで俺は気づいた。
ティルフィングは、わざと挑発をして隙を作ってくれてるんだ。
それに気づいた俺はすぐに掴まれた腕を引き寄せた。
そして逆の手で顔面を捉えようとしたが、それは逆効果で俺の顔面がエクスカリバーの拳に捉えられた。
片目が失明した。
「うぐぅ……」
【チィッ!】
目が熱い。
やべぇ。こりゃあやべぇ。右目は完全に死んでる。
時間は……あとどれくらいだろうか。
一分切っただろうか。
まあいい、立とう。
俺は震える足で立ち上がった。片目でエクスカリバーを見据える。
「お前のような未来ある芽を摘むのは本当に口惜しい。……きっと、誰よりも強くなれただろう。そう感じる。残念だ」
今度は右腕が舞った。
「あがァァァ!!」
両腿も切られてその場に倒れ込む。
右腕から流れる血が地面に染みていった。
エクスカリバーは俺の左腕に聖剣を突き刺して、左手も切断した。
「あぎゃぁァァァァ!!」
「時間だ。丁度半殺しといったところだろう。
バルト、代わるぞ」
【わかった……!】
エクスカリバーと、バルトが元に戻る。
「レイヤ、終わりだ……! 君を、殺す!」
バルトの声が聞こえる。
それと同時にティルフィングの笑い声が響いた。
【ギャハハハハハハハハ!! わりィレイヤもう我慢できねェ!!】
告白しよう。
実はこの戦い、最初から俺の勝ちは決まっていた。
なぜなら、エクスカリバーは知らなかったからだ。
そう、俺の創造能力を。
そしてエクスカリバーは言った。
手を下すが、あくまで半殺し、と。
半殺し?
馬鹿言っちゃいけねぇ。
ルルパパのパンチのせいで、これぐらいの瀕死はもう慣れっこ。
いや、痛いけどさ。その度にね、使ってきたのよアレを。
まあ何が言いたいかって言うと
「ぎゃあああああベポマァァァ!!」
全 回 復 です、はい。
俺は立ち上がる。
「な……!?」
【!!?】
【ギャハハハハハ!!!】
エクスカリバーは失敗した。
まあ仕方ないのだが、俺の創造能力を知らなかったことが決定的な敗因だ。
このデタラメな回復魔法を知らなかった。一回半殺しにしたらそれで済むと思ってた。
それに気づいてからはね、もうね、全部演技。
本気で俺を半殺しにするつもりなら、何度も痛ぶって回復させてを繰り返させるはずだ。
言ってしまえば、半殺しを公言した時点で、それが嘘じゃない限り俺の勝ちだったのだ。
「ンンッ! ン゛ン゛ンッ!!」
【ギャハハハハ!! ダメだ笑いが止まんねェ!!!】
すこぶる上機嫌の俺。
でも俺の創造能力の情報がこいつらに渡ってたらヤバかった。デタラメな回復魔法を使うことはバレてるはずなんだが、どうやらこいつらは知らなかったらしい。
「ま、なんにせよ勇者フルボッコタイム突入っすわ」
俺はティルフィングに手をかけた。
【エクスカリバーなんてぜいたくな練習相手だったなァ!】
「ああ、ボコられただけだけどな」
【オイオイ、それでも良い練習にはなったろ!】
【いまのは……なんだ……?】
エクスカリバーの驚愕の声が響いた。
勿論説明なんてするわけがない。
俺は下卑た笑みをバルト君に向けた。
「ンンんんん!!」
まずエクスカリバーを持つ腕を切り払った。
バルトはすぐには気づけなかった。
斬られたことに。
ワンテンポ遅れて、肩から腕が切り離された。
噴き出す血、バルトの悲痛な叫びが森に木霊する。
【クソ……! なんてことだ!】
【ギャハハハハハ!! どうですかァ、エクスカリバー!? 気分はよォ!!】
バルトの斬り落とされた手は未だにエクスカリバーを離していない。
俺は数歩歩いて、その手に持つエクスカリバーを手にとり、それを……
【な、なにをするつもりだ……!】
思いっきりどこか遠くに投げ飛ばした。
ボコられた仕返しである。
【ザマァァァ!!】
「さて、バルト君」
バルトに視線を戻す。腕は止血したようで、すでに肩を抑えて立ち上がっていた。
「ぐぅ……、あがぁ……」
「今後二度と俺達の目の前に現れないって誓うなら許してやろう」
「こ、断る……!」
もう片方の腕も切り落とした。
「あが! あ゛ぁぁごぁぁあ!!」
「生かしてやるんだぞ? ここで死ぬか、もう俺達に関わらずに黙って世界守るか。選択肢あるか?」
バルトを蹴倒し、踏みつけてティルフィングを首に突き付ける。
実際、やっぱり人を殺すのが嫌なだけなんだが。
「答えろ。もうシャーラ奪いに来んな」
「……ぐ、がぁ……、ことわ、る……」
【……おお】
「…………」
ティルフィング同様、俺は感心していた。
涙を流して喘ぎながらそう言ったバルトは、案外生半可な覚悟の持ち主ではないのかもしれない。俺なんかより凄い奴なのかもしれない。
ウザいのはどうしようもないけど。
そして同時に、こいつは将来的にかなり邪魔な存在になるんじゃないだろうか?
そんな疑念も頭によぎった。
じゃあこいつはここで始末しといた方がいいのでは?
俺の考えを読み取ったのか、ティルフィングは言った。
【そろそろ経験しとけ】
経験しとけ。
殺しを、ってことだろうか。
つまり、殺れってことだろうか。
でも、こいつが死んだらハーレムの面々は悲しむだろう。是が非でも俺に復讐しにくるはずだ。
いや、関係ない。
俺は決めたじゃないか。
「……、そうだな」
俺がティルフィングを振り上げた、そんな時だった。
「待って……」
俺は振り返った。
すると、そこにいたのは緑髪メガネ。
傍らにはルルが髪の毛を引っ張られて、首元にナイフを押し付けられていた。
緑髪メガネの足元には転移魔法の魔法陣。
維持をしていて、いつでも発動できる状態だった。
シャーラは?
真っ先に頭に浮かんだ。
が、ルルは言った。
「大丈夫! シャーラは私が逃がした!」
ほっと一息。
ルルは顔中傷だらけで、戦闘形跡があった。
戦って、おそらく負けたのだろう。服もボロボロだった。
一方緑髪メガネの方は無傷だった。
ルルに無傷で勝てるレベルとは恐れ入る。
だけど俺は緑髪メガネを睨んで言った。
「人質のつもりか?」
この距離なら、全力疾走でルルを助け出すことが可能だ。
「……バルト、を、返して……」
【嬢ちゃんいいの出せるじゃねェか!!】
前言撤回しよう。
あの殺気からして、俺がルルを無傷で瞬時に助け出すことは出来なさそうだ。
それに奴の足元に浮かんだ魔法陣。
どこに飛ぶつもりか知らないが、いつでも離脱できるようにしてある。
こいつ、少なくともバルトよりは強い。
俺は地面に転がるバルトの髪を引っ張って、持ち上げた。
「ぃぎ…………」
「分かった、取引をしよう」
「……助かる」
俺はバルトを差し出して、相手はルルを差し出す。
しかしどうやって交換するかが問題である。
俺自身あの緑髪メガネを騙すつもりはないが、あいつは何を考えているか分からない。
だから俺は言った。
「先にルルを渡せ」
「……分かった」
あっさりだった。
奴はルルを離して、こちらに向かわせた。
ルルがこちらまで着くと、俺は緑髪メガネを見た。
「……」
緑髪メガネは俺から視線を外さなかった。
これには俺も卑怯なことは出来ない。
俺はバルトをその場に放った。
「……恩に切る」
緑髪メガネのその言葉を聞くと、俺はルルを抱えて地を蹴った。
ーーー
馬車の元まで着くと、まず最初に俺はルルの傷を治してやった。
「無事で良かったぜ」
俺はルルの頭を撫でてやる。
ルルは頬を赤らめて「えへへ」と幸せそうに笑った。
「シャーラは?」
「馬車の中にいるよ」
逃がしたんじゃなかったのか?そう思いながらも俺は車内を覗く。
しかしシャーラはいなかった。
「え? いないんだけど」
ちょっと焦ってルルを見る。
するとルルはいたずらっぽい笑みを見せて言った。
「いるよ」
もう一度車内に目を向けると、目の前にシャーラがいた。
「うお!?」
驚く。
「うふふ、びっくりしました?」
【純心か!】
ティルフィングの言葉で気づく。
なるほど、純心か。
女性限定の宝具で、身につけると、じっとしてる間は誰からも見えなくなる便利な指輪。
「それで隠れたのか」
「はい、ルルがいなかったら捕まってました」
緑髪メガネにとって人質は一人で良い訳だから、二人とも捕らえていたらシャーラだけ王都送りにする、なんてことがあり得た訳だ。
というか俺ならそうする。
おいおい……めちゃくちゃ危なかったじゃないか。
「良くやったぞルル!」
思わずルルを抱きしめた。
「ふぇ? え?」
寝てたはずだから、一瞬で状況を判断し、適切な行動をとったのだろう。
馬鹿な娘なイメージがあったけど、ルルさん凄い!
今日のMVPはルルだ。
俺は気が済むまでルルを抱きしめてから、やっと離した。
するとルルは耳まで真っ赤にして、呂律の回っていない言葉でなにやらゴニョゴニョと言い、足取りおぼつかず馬車の中に戻っていってしまった。
「マジで二人とも無事で良かった。
さて、気を取り直して行こうか」
俺はまた馬車馬になるべく、先頭に向かおうとする。
そこでシャーラが俺をじっと見つめてることに気づいた。
「どうしたよ?」
「……レイヤはとんだ悪党ですね」
「はい? なんで?」
「いえ、なんでもありません」
シャーラはそう言って馬車の後ろ戸を閉める。
「あいつ、嫉妬してんのか?」
【馬鹿か】




