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新たな目標

 あれから一ヶ月の時を経て、俺の修行はやっと終了した。やっとだ。



「まさか一ヶ月も修行させられるとは思ってませんでした。

 シャーラさんとルルさんには迷惑かけましたけど、今日からやっと旅再開です」


 俺は太陽の光が浴びられないこの神殿で一ヶ月も待たせたことについて謝罪する。この謝罪ももう何度目か分からない。

 ここは良い場所なんだけど、長期の滞在はやっぱり人間である俺の肌には合わなかった。

 一ヶ月いただけで懲り懲りだ。


「そんなの気にしてないよ!」


「私もここの暮らしは案外楽しかったですし、構いません」


 二人はそう言うけど、シャーラに関しては絶対に嫌気が差してただろう。

 俺の修行中、シャーラ達は泳いだり、離れたところまで遊びに行ったりして毎日暇をつぶしてたらしい。

 そのおかげか、シャーラとルルの距離は俺の知らない内に縮まっているような気がする。


【本当は修行もまだまだ途中なんだがなァ】


「勘弁してくださいよ師匠。旅の途中でも修行は続行なんだろ?」


【まあ区切りのいいとこまでやったし、とりあえず旅は再開させてやろう!】


 はぁ、やっと太陽の光を浴びられる……。長かった。

 一ヶ月って現時点で俺の異世界生活のほぼ半分じゃないか。


「ガハハ! いっちまうのかお前達!! 寂しくなるな!! よし、大陸までワシが送ろう!! なに、すぐにつく!」


 神殿の空気と海の境界線の前に立つ俺達。

 神殿は俺の修行のせいでボロボロになってしまっていた。

 罪悪感はない。なぜなら、暴れてたのはほとんどルルのパパンなんだから。


「助かるぜルルパパ」


「構わん!」


 ルルパパはそう言うと、俺達三人をその大きな手で抱えた。


「じゃあ行くぞ」


「おけ」


 ルルパパは境界線を超えて水の中に踏み込む。

 そこからはもう速いのなんの。さすが海の王と言うだけある。

 俺とルルはルルパパの異常な遊泳速度を知ってたから大丈夫だけど、シャーラはびっくりして俺にしがみついてきた。それを見たルルも俺にしがみついてくる。


【相変わらず泳ぐのだけははえェなァ!!】


「ガハハハハハハハ!! 水中でワシより速い奴などいるもんか!!」


【リンガーデムが聞いたら怒るだろうよ!!】


 どんどんスピードが上がっていく。海の生き物達は焦ってルルパパを避けた。

 そしてそのまましばらく進むと、ルルパパは少しずつ速度をゆるめていくき、やがて止まった。


「着いたぞ!」


 そう言うと、ルルパパは一気に浮上して海面に近づいていく。

 太陽の光が段々と近づいてきた。

 そしてそのまま勢い良く海から飛び出し、陸の崖の上に着地する。


「ああ! 俺の太陽!」


「眩しいね」


「目がチカチカします」


 ルルパパは俺達を地に下ろすと、スゥと息を吸い込んで、俺達に思いっきり吹きかけた。

 海水でビショビショだった俺達は、それで大方乾く。


「ガハハ! よし行け!」


「ありがとーパパ」


「お世話になりました」


【ブルーダイン! 世話になったなァ!!】


「ああ! また会おう!!」


「じゃあな」


 俺がそう言うと、ルルパパはまた海に飛び込んでそのまま消えてしまった。早い。

 寂しくなるとか言っておきながら全くそれっぽい別れにならなかったな。そういうタイプではないのは分かっているが、ルルパパは俺の師匠でもあるので、俺としては少し心に穴が開いた感じだった。少しだけど。

 まあ海にさえ行けばルルがいつでも呼んでくれる。その気になればいつでも会えるのだ。


【いっちまったなァ……】


 ティルフィングは寂しそうだった。


「さて、これからどうするよ」


「え?」


「決めてないんですか?」


【ホントにいきあたりばったりだなァ!】


「いや、だってこの大陸の事全く知らねーし。ルル、なんかいいとこないの?」


「私も知らない、ごめん……」


 あれ? どうしよう。


「……あ。あれってもしかして町じゃないですか?」


 三人して黙りこくってたその時、シャーラはそう言って指さした。

 それを目で追うと、そこには小さな町が見えた。


「おお、ホントだ。シャーラってすげー目いいよな」


「私見えないよ……」


【よくあんなの見つけたなァ!!】


「うし、とりあえずあそこ行ってみるか」


 俺達は歩き出した。



ーーー



 町はすごく寂れていた。

 外を歩く人なんて一人も見当たらないし、町に活気そのものが全くなかった。人の気配もない。


「なんだこれ」


【人ッ子一人いやしねェ!】


「不気味、ですね」


 確かに不気味である。

 町としては普通なんだけど、人だけがいない。


「とりあえず人探してみようよ」


「だな」


 俺達はとりあえず歩を進めて、町の中に入っていく。

 そして色んな店に入ってみたが、店主も客もやっぱりいなかった。


 最初の方はギャーギャー騒がしく町を歩いてたんだけど、そのうち本当に気味が悪くなって、俺達の口数は減っていた。


「本当に人っ子一人いねーな」


【まるで神隠しにでもあッたみてーだ!!】


 神様はそんなことしないけどな。


「あ、あそこに酒場があるよ。行ってみよう」


 ルルは見つけた酒場を指さして言った。


「どうせ誰もいませんよ」


「まあ行くだけ行ってみようぜ」


 もしかしたら人がいるかもしれない。可能性を消すのは良くないだろう。

 そう思って俺達はその酒場に向かった。



 いつでも賑わってるイメージのある酒場に入ると、ぱっと見ガランとした風景が広がったが、そこには人がいた。

 奥のテーブルに座って、一人寂しく酒を飲んでる老人がいたのだ。


「いましたね……」


「おお、話しかけてみよう」


【ボケたジジイじゃなきゃいいんだがな!!】


「き、聞こえるよティルフィング……」


 俺達はその老人のところまで行くと、その肩を叩いた。

 この距離まで近づいて俺達に気づかないんだから、もしかしたら本当にボケてるかもしれない。

 と、思ったのだが、ボケてはいなかったらしく、その老人は俺達に一瞥をくれて言った。


「こんなご時世に旅の方か」


 老人は片手に持つジョッキを口に持っていき、それをまたテーブルに置くと立ち上がった。


「酒ならいくらでもあるが、飲むかね?」


「いや、この通りガキ御一行なんだ。酒は飲めない」


「ふ、そうか」


 老人はどこか寂しそうな顔をしてまた椅子に座った。

 もしかして一緒に飲んで欲しかったんだろうか。


「老人、なんでこんなに人いないんだよ」


「知らんのか?」


 老人は驚いた顔をして俺の顔を見た。

 俺が頷くと、しばらくの沈黙の後に老人は話し出した。


「大人しかった魔王の動きが一ヶ月くらい前から急に活発化したんだ。この大陸はもうダメだ。遠からず落ちる。

 だからみんな逃げたのさ。だけど金のない貧しい者は取り残された。俺の場合はここを離れたくないから残ったんだが」


「そんな……」


「……ふーん」


【…………】


「……」


 俺達が海底にいる間に地上ではそんな変化があったのか。

 魔王は本気で人間滅ぼしにかかってるのかな。

 というより可哀想だなこの老人。


「老人、やっぱり酒をもらおう」


「……すまないな」




 待てよ?

 魔王の動きが活性化したのって、もしかして……俺達が絡んでる?


 そんな考えが頭に浮かんだ時、ルルが呟いた。


「バレたんだ……」


「……」


「え? 何が?」


「……私の、ことです……」


「そういうことだったんだ……」



ーーー



 俺達はしばらく老人の話し相手になってやった後、適当な民家に入ってくつろいでいた。

 人がいないからこんなこともできるのだ。

 しかしくつろいでいるとは言えない雰囲気でもある。


「話してもいいよね、シャーラ?」


「……はい」


 ルルはシャーラの賛同を得ると、話し出した。

 何について話すかなんてのはもう決まっているだろう。


「多分だけどシャーラには、魔王に対して、人質としての効果があったの」


【あー、そういうことか】


「私達には知らされてなかったけど、王都がこの前急にシャーラ捜索に力を入れだしたのは、そういうことだったんだ」


 ルルは続ける。


「きっとアーバンベルズ王も、他の偉い人も知らなかったんだよ。

 シャーラという存在が知らない内に魔王の抑止力になっていたなんて。

 魔王にとって、シャーラが重要な存在だったなんて。

 だからみんな、それに気付いた時にシャーラを探して躍起になった。どうして気付いたのかはわからないけど、多分魔王の方から何かしらの接触があったんだ……。

 でも、結果的にレイヤが取り返したから……」


 その時、俺は全てを理解した。

 バレた、とはそういう意味か。

 一ヶ月前、おそらくシルディアが帰還したんだろう。それでシャーラが俺個人の元にいるということが、魔王にバレた。

 魔王は王都がシャーラを人質にとってると思っていたから、下手に動けなかったんだ。だから大人しかった。

 だけど全てバレてしまった今、魔王は解き放たれたという訳か。

 つまり、魔王はシャーラを全力で探している。そして、人間サイドもシャーラを全力で探しているだろう。


「……シャーラはこのこと知ってたのか?」


「……はい」


 沈黙。


「……お前な」


 俺はガタッと椅子から立ち上がる。


【オイ……!】


「……れ、レイヤ?」


 俺はシャーラの方に向かって歩き、その前に立った。

 シャーラは目を瞑る。


「なんで言わなかったんだよ!」


 ビクッと震えるシャーラ。

 そして俺はシャーラのおっぱいを鷲掴みにしてやった。そのまま数回揉みしだく。


「あ、……え?」


 シャーラはされるがまま。


「よし」


 堪能した後、俺は椅子に戻って足を組む。


「そうかー。ならかなり動きにくくなったな。人間にも魔王にも狙われてるんだろ? やべー。旅どころじゃねー。どうするよ?」


「あの……レイヤ?」


「なに?」


「怒ってないんですか……?」


「いや、怒ってないけど」


 まあ教えて欲しかったとかの話は今更すぎる。このことを話すとなると、シャーラは自分の過去のこともセットで話さないといけなかった訳だし、言いたくなかったのなら仕方ないのだ。シャーラ的にもずるずる行ってしまったってのがあるんだろう。


 つーか、久しぶりにおっぱい揉めたからもうなんでもいい。


「びっくりしたよ……」


【雰囲気利用して乳揉んだだけかテメェ!!】


「てへ☆」


 シャーラの顔を見ると、その頬はなぜか赤かった。ちょっと演出が過ぎただろうか。

 まあいい。


「うーん。とするとこの大陸に来たのは失敗だな」


【引き返すか? ブルーダインをまた呼び戻せばいい】


「パパならいつでも呼べるよ」


「いや、いい。どうせどの大陸にいっても人間と魔族が両方敵なら変わんねーよ」


【変わるだろ。この大陸じゃあ魔物やら魔族を相手にしなきゃなんねェんだぞ】


「なんていうか、人間の俺が言うのもアレだけど、人間の方が小賢(こざか)しい気がするんよね。だから敢えてこの大陸を突き進む」


【あー、それもそうかもな】


 一ヶ月も経ってしまったんだから、俺とシャーラは全世界ですっかりお尋ね者のはずだ。

 しかし一ヶ月も海底にいたもんだから俺達の行方の目処は全く立ってないと予想される。

 なら、どこにいたって一緒のような気がする。

 俺的には、人間より魔族を相手にする方がやりやすい。


「さっきの爺さんが言ってたように、この大陸はこれから本格的に戦地になっていくだろうな。もう各国では戦争始める準備も出来てるだろうし」


 ただ、シャーラが手に入れば戦争しなくていいってだけで。


「でな、これってさ。

 ぶっちゃけた話、このままだと俺達ひたすら逃げる逃亡劇になっちまうだろ?

 だからさ、さすがにこの件に関しては根本的な解決が必要なわけよ」


「そうだね。レイヤのいう通りだと思う」


【ああ、そうだなァ】


「……」


 俺は全員の反応を見たあと、話を続ける。


「規模がデカすぎて正直俺1人じゃなんともならない話なんだけど、その前にシャーラに確認をとっておきたい」


 人間と魔族、どちらをメインの敵に回すかって言ったらやっぱり俺が人間なんだから魔族だろう。


「なんですか?」


 俺はシャーラと目を合わせて言った。




「俺さ。魔王倒していいの?」


 これだ。

 シャーラは関係を持つ魔王をどう思ってるか、って話である。

 少なくとも、俺は気に入らない。純粋にシャーラ関連で敵視している。


【ギャハハ!! お前じゃ倒せないだろォが!! でも面白れェ!! 最高だぜ!!】


 シャーラとしては複雑な気分だろう。シルディアの態度とかを見ても、シャーラは魔王に酷い目に合わされてた訳じゃあ無さそうだし。


「それは……」


「いや、やっぱり答えられないよなこんなの。言い方変えるぜ。

 俺、魔王倒します」


【ギャハハハハハ!!!】


「……ルルは巻き込んじまうな」


「私は大丈夫!」



 勇者の役目を奪ってしまうことになるが、俺達の異世界ライフに魔王は邪魔すぎる。

 そして魔王を倒せばシャーラは人間サイドにとっても必要なくなるわけで、魔力源泉(エターナル・スペル)としての利用価値は残ったままだけど、確実に追手は減る。

 いや、そもそも魔王を倒したらその時俺は世界最強で、英雄だろう。そんな俺に楯突いてくるバカもいないか。


 ……。

 取らぬ狸の皮算用とはこのことか。

 魔王を倒す実力もないのに何をそんなに考えてるんだ、俺は。

 とにかく魔王をどうやって倒すかってことから考えないといけないな。

 仲間も必要になってくるかもしれない。


 そうこう考えてると、シャーラが何か呟いた。

 聞き取れなかったので、俺は尋ねる。


「どうした?」



「私も……、私も戦います……!」


「え?」


「あ、私もー!」


【こりゃ傑作だ!】



 こうして、俺達の魔王討伐の旅が始まったのだった。


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