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パパン

 身体を返してもらった俺は、その時動けなかった。

 1つ目のリスクがこれだ。

 あんな動きをしたから、身体がボロボロになってる。

 俺はこの事態を多少予想していたんだけど、やはり予想外の苦痛だった。


 予想外というのは、ティルフィングが涼しそうな顔をしていたからだ。

 だから身体的にダメージってのはないんだろうなぁって思ってたけど、いざ身体を返してもらうと俺はその場で崩れ落ちた。

 ティルフィングがなんで立ってられたのか分からないレベルで、全身が悲鳴を上げていた。


 とりあえず、俺はそれを某最強の回復魔法さんに頼って治癒させる。

 という訳で、治る。

 つまりこれは大したリスクではないのだ。


 だけど、その後にティルフィングに聞かされたリスクはヤバかった。

 ティルフィングと入れ変わる前の【大量にある!!】という言葉を思い出す。

 その通り、大量にあった。量という意味じゃなく、リスクとしての質が大量だった。



 まず、寿命が10年死んだらしい。

 これについてはそもそも寿命がいくつなのか分からないし、実感も湧かない。だけど、どれだけあるか分からない寿命を削られたというのは何か恐怖を感じた。


 まあつまり、ティルフィングと入れ変わると、その間に寿命がゴリゴリ削られていくらしい。さっきの時間だけでも10年。パない。

 俺の寿命が削られていってるってのにティルフィングは随分楽しそうだったなぁ。


 そして、次のリスクがヤバかった。なんていうか、ヤバかった。

 もうそれを聞いた時、身の毛が立つような思いをしたくらいだ。


 それは、戻れなくなる可能性が半分もあるということ。

 切り替わりに失敗すると、戻れなくなるらしい。一度でも失敗すると、二度と戻れない。

 失敗ってのが良くわからないんだけど、今回はそのリスクを知る前に成功していた。

 ティルフィングと俺がチェンジするのは、元に戻る時を含めて2回あるわけだから、戻れなくなる可能性は実質半分よりもっと大きい。


 さて、これをさっきの矛盾と組み合わせると、戻れなくなった場合は寿命が尽きてすぐに死ぬ。


 今考えただけでも肝が冷える。


 だから今、俺とティルフィングは毎度の通り口論になっていた。


「死ぬとこだったじゃねーか!!」


【ああ! オレがいなきゃお前は死んでただろうよォ!!】


「で、でもリスクやばすぎだろ!!」


【許可したじゃねェか!!】


「ぐぬぅ……」


 俺が劣勢だった。まあそうだ。俺は許可した訳だし、リスクの事は自分でも後回しにしたんだから。

 ティルフィングに非はない。

 それに、ティルフィングがいなけりゃ命乞いでもしない限り俺は助からなかった。

 生き伸びられる可能性が高い選択肢を選んだんだ。


「でもティルフィングってそんなに強かったんだね」


 俺が劣勢なのを見たのか、話題を変えたのはルル。


【だろ? オレにかかりゃあんなもんよ!】


 ティルフィングは偉く上機嫌だ。


 甲板の上には海賊のみなさんが転がっている。マストなども折れ、ボロボロになったジャック号はもう船として機能しないだろう。


「レイヤ、これからどうするの?」


「船壊れてるってのが痛いよな」


「その点は問題ねぇ! すぐに直せるさこんなの!」


 俺達の話を聞いてたジャックがそんな声を上げた。しかしそうは言ってもピンピンしてるのはジャックだけだ。


「ほら! 起きろてめえら!」


 ジャックは叫んだが、やはり無理があった。怪我人も大量にいるのだ。


【駄目だなこりゃ】


「すまねぇレイヤ。しばらく立ち往生しちまいそうだ。だが食料については心配しなくていい。腐るほどあるからな、酒も肉も」


 そこはあんまり問題じゃなかった。

 ここで立ち往生なんかしてしまうと、また新たな刺客が来るかもしれないし、もしかするとシルディアが戻ってくるかもしれない。それが問題だ。


「悪いけどあんまり留まりたくないんだよ。またあの魔族が来るかもしれないし」


「あー、それもそうか……」


 沈黙。

 しかし、ルルが何か閃いたのか、声を上げた。


「あっ、パパを呼べばいいんだ」


【あ?】


「はい?」


 ルルは今なんて言った? パパ?

 俺はいきなり出てきた予想外の単語に驚愕する。


「パパって、つまり、どういうこと?」


「私のパパは海の上ならいつでも会いに来てくれるよ。ちょっと待ってて呼んでくるから」


 ルルはそう言うなりタタと駆け出して、海の中に飛び込んでしまった。

 混乱する俺。


「え? え?」


【何やってんだあいつ!】


 ルルは電波だったのか? いや、こういう場合は放っておくに限る。すぐに冷静になるはずだ。


「すげぇ娘だな」


 ジャックは言った。


「だろ? 電波系なんだ」


 さて、冗談はともかく本当に何しに行ったんだろうか。

 パパとやらが海の中にでもいるのだろうか。

 しかしルルが行ってしまった以上待つしかない。


 そう思って俺はシャーラに視線を向けた。

 シャーラは、俺達と少し離れた所で海を眺めていた。今は近寄りがたい雰囲気である。


「……うーん」


【今はやめとけ】


「そうだな、分かった」


 シルディアをフルボッコにされてシャーラはどう思ったんだろうか。

 厳密に言えばシルディアをフルボッコにしたのは俺じゃなくてティルフィングだけど。

 シャーラの事情が分からないから、心情を読むこともできない。

 ティルフィング先生もそう思って俺にああいったんだろう。


 しばらく俺も海を眺めてると、いきなり目の前に水柱が立った。

 驚く。

 先程シルディアの時にも見た水柱だけど、今度はそれの何倍もデカかった。


【なんだァ!?】


 甲板の上で寝転がっていたクルー達も驚いて警戒態勢に入る。

 俺もシャーラの元に移動して、臨戦態勢に入った。

 そして、ザバァと海水がめくれていく。

 そこに現れたのは、デカイおっさんだった。その頭の上にはルルがちょこんと座っている。


「パパ連れてきたよー」


【おお!!】


「ガハハ!! 久しいな!! 海の上で暴れてたのはやはりお前かティルフィング!!」


【ひっさびさじゃねェか、ブルーダイン!!】


「その名で呼ばれるのもいつぶりか!! 今は海を統べる!!」


【あのションベンタレのガキンチョがかァ!?】


 ギャハガハと笑い合う二人。

 俺は色々と全くついていけてなかった。


「え? コレどういうことっすか?」


 あのデカイおっさんは、ルルのパパで、ティルフィングの知り合い?


「話は聞いたぞレイヤ! 娘のルルが世話になってるらしいな!」


 駄目だ。シャーラだけじゃなくルルも謎キャラ謎過去になってしまった。水帝とかやってたじゃん、なんでだよ。何が起きてるんだよ。

 意味がわからなさすぎる。


 混乱した頭で色々考えた挙句、とりあえず俺は言っておくことにした。


「いえ、ルルちゃんはいい娘ですよパパン」




ーーー



「すげーな」


 思わず呟いた。

 俺達が今いる場所は、海底神殿。

 空気もある。

 外の景色では、魚が楽しそうに泳いでるのが見えた。太陽の光は届かないけど、灯された火が神殿内を明るく照らしている。そして大理石の床、白い石で構築された柱、まさにゲームでしか見たことないような神殿に、俺達はいた。


 ジャック達とは、ルルパパが海流を操って、大陸まで流してくれることになったので別れた。

 しかし俺達がここにいるのは、海底神殿という単語を聞いて純粋に俺が行きたくなったからだ。行きたいって言ったらルルパパは快くここまで連れてってくれた。



 さて、ここに来るまでにルルは自分の過去を俺に語ってくれた。

 まず、ルルは人間と人魚のハーフで捨て子だったらしい。

 だから海の王であるルルパパが引き取って、養子にしたらしい。

 それから8歳まではここで育ったらしいんだが、海底の暮らしが合わないと思ったルルは、海を飛び出した。

 有り体に言ってしまうと、家出。

 そう、ルルはただの家出娘だったのだ。


 ギルドに入って色々していくうちに気づけば水帝になっていた。ルルはそう語る。


 本当によく水帝になれたな。実力だけはあるからだろうか。

 というよりパパンとは約7年ぶりの再会だったことに驚きだ。パパンは怒ってないんだろうか。

 そう思ったんだけど、養子が独立して離れていくのはルルパパにとって、もはや普通だったらしい。今までの養子もそうだったからだ。そういう意味で、ルルパパの子は多い。


 まあいい、色々とぶっとんだ話だったが、ルルさんは中々アクロバティックな人生を歩んできたようだ。

 まあ俺なんかに惚れて水帝やめてるところを見るとそれも頷ける。


「ガハハ! どうだ! ワシの自慢の神殿は!」


【偉そうな口調になったなァテメェも!! そういやリンガーデムにあったぜ!!】


「ガハ、リンガーデム!?」


【ああ! しぶとく生きてやがった!!】


 ルルパパの後ろを俺達はついていく。ティルフィングとルルパパは楽しそうに昔話をしていた。

 ルルは俺の横を歩いているが、シャーラは俺の少し後ろを歩いていた。

 話しかけようと何度も思ったんだけど、やっぱり放っておく。ティルフィングの助言に背いてはいけないのだ。



 神殿の中を進んでいくと、外の景色が変わっていった。

 そう、街が見えてきたのだ。街が。

 海底都市ってやつだろうか。

 石で出来た家々。街の至るところを明るく照らす灯る光の球は魔法だろうか。


 俺はそれを見て無性にワクワクしていた。幻想的すぎる。

 街では人魚達が泳いでるのも見えるし、これは後で行くしかない。


「うわぁ、久しぶりだなぁ。懐かしいなぁ」


「後であの街案内してくれよルル」


「もちろん!」


 ルルはそう言って俺の腕にしがみつく。

 そういえば俺達が水中で呼吸するには“人魚の涙”という劇薬がいるわけだけど、これはルルにも必要らしかった。

 ルルは人間の血が強くて人魚にはなれない。

 水の中では呼吸できるらしいんだけど、呼吸ができるだけで、ルルにとって水中の生活は本当に辛いらしい。寒い時期は凍え死にそうになるし、視界は悪いしで大変なようだ。それが家出の理由の一つでもある。

 だからルルも“人魚の涙”を服用しなければならない。まあここでは“人魚の涙”なんて簡単に手に入るからそんなに困る訳でもないわけだが。



 またしばらく神殿を進んでいくと、十本の柱に囲まれた広間についた。真ん中には巨大な椅子のようなものがある。

 ルルパパはそこにどっかりと座った。


「ガハハ! あいにくここには客人を持てなすような場所は一つもない!  ワシが普段生活してるのもここじゃないんでな!」


【じゃあ用意しろォ!】


「ガハ! 空気があるのがここだけなんだ! すまんが泊まるならここで我慢してくれ客人!」


「ああ、それなら仕方ないな」


 そんなに長く滞在するつもりもないし、観光目的みたいなもんだ。そもそも泊まるつもりもなかったんだけど、色々あったからしばらくここで身を潜めるってのもアリだ。

 ベッド等の生活必需品は俺が創造すれば問題ない。


「シャーラもルルも少しの間くらい我慢できるだろ? どうせそんなにここにいるわけじゃないんだし」


「……はい」


「うん、いいよ」


 やっぱりシャーラは元気ないな。

 シャーラが元気ないとこっちまで気分が下がってくる。

 シャーラ、やっぱり……

 俺がシャーラ思考に入りかけたそんな時、ティルフィングが騒ぎ出した。


【はァ!? 少しの間!? 何言ってんだテメェは!!】


「急にどうしたんだよ……」


【分かんねェか!? お前は雑魚なんだよ!!】


「そりゃお前に比べたらそうだけど」


【そんなんじゃあこの先すぐにおッ死んじまう!!】


「何が言いたいんだよ」


【お前はしばらくここで修行だァ!! ブルーダイン、手伝ッてくれるよなァ!?】


「え?」


「ああ構わん! 暇してたところだ!!」


 俺は修行することになった。



ーーー



 俺とシャーラは今、二人で人魚の街を歩いていた。いや、泳いでいた。

 街の人魚達は案外人間に慣れてるみたいで、俺達のことをそんなに気にしてないみたいだった。


 ティルフィングは神殿でルルパパと古代トークをしており、ルルは友達と良くしてもらった人……いや、人魚に会いに行くらしい。

 両方邪魔できないので、俺はシャーラを連れて人魚の街を観光していた。

 無言の観光だったんだけど、思わぬことにシャーラから俺に話しかけてきた。


「修行っていつまでするんですか?」


「わかんね。ティルフィングに聞いてくれよ。

 しかしお前にはまた迷惑かけそうだな」


「いえ、そんな……」


 修行とかぶっちゃけしたくないけど、この先シルディアのような奴と戦うことになるのは確定的だ。その度にティルフィングに頼るわけにはいかない。そんなことをしてると絶対に死ぬ。

 そう考えると俺の修行は必須なのだ。シャーラを守る為には。


 さて、そんなことより。


「シャーラ」


 やっぱり聞くべきだ。

 デリカシーがないけど、知りたいもんは知りたい。それに情報源が違うとはいえ、ルルでも多少知ってるのだ。

 このままウダウダしていたらシャーラは結局教えてくれない気がするし、俺がアクションを起こさないと始まらない。

 というか、いい加減教えろってレベルである。

 ティルフィング先生はため息をつくだろうな。


「…………なんですか?」


 俺はシャーラに向き直って言った。


「お前って何者なの?

 そろそろシャーラの過去を教えてくれよ」


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