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「なんだ結局戻ってきたのか!」


「いや、色々ありましてね。やっぱ乗せてもらっていいっすかね?」


「一向にかまわん」


 あの後なんとかジャック号まで追いついた俺達は、船に引き上げてもらった。

 甲板が俺達のせいでビショビショになってしまっている。


「後ろのお二人がさっき言ってた連れか?」


「そうっす」


「二人共すげぇ上玉じゃねーか!」


 上玉なんて失礼な言い方だぜ。

 そう思ったが口には出さない。


「とりあえず部屋1つ貸してくんね?」


 シャーラ達を着替えさせてやらないと。風邪でも引いたら大変だ。

 着替えも荷物もビショビショになってしまったけどそれは創造で凌げるだろう。

 その間に乾かしておけばいい。


「ああいいぞ、部屋ならあまりまくってる! おいお前、案内してやれ。なるべくキレイな部屋にな」


 ジャックは近くの男を呼び付けてそう言った。



ーーー



「私が寝てる間にそんなことが……」


「お前は寝過ぎ、マジで」


 二人に何があったかを説明し終えた俺は、シャーラとルルの睡眠欲にうんざりしていた。

 こいつらはまたベッドに入って寝る態勢に入っているのだ。


「シャーラは寝過ぎ」


「お前も寝てただろ、ルル」


 下っ端っぽい男に案内してもらった部屋は、かなりゴージャスだった。今度はベッドが三つある。

 全員分の着替えをジャックが配慮してくれたので創造も必要なかった。

 女物の着替えもあるってことは、女もいるのだろうか。見当たらないけど。


「……おやすみなさい」


「おやすみ……」


「え? お前らマジで寝るの?」


「うん……、だって眠い」「はい」


【寝過ぎだろ!】


 結局、シャーラ達はそのまま寝ついてしまった。


 またため息をつく。

 ここは周りが男だらけなんだからもう少し緊張感を持ってほしいものだ。

 まあやることがないんだから仕方ないっちゃ仕方ないんだが。


「俺は眠たくないしなぁ……」


 かといってこいつらを放って部屋の外に出る訳にもいかない。

 先程の旅客船とは訳が違うのだ。

 ぶっちゃけ俺はあいつらの事を信用していない。 


「困ったな、暇だ」


【そうだな】


「もういい、俺も寝よう」


 見張りはティルフィングがやってくれるだろう。


【あ!?】




 結局その日は全員でダラダラした。

 ジャック達が出してくれた晩飯は、すこぶる美味かった。



ーーー



 さて、ジャック号での航海が始まってから3日が経っていた。

 海賊のみなさんは釣りやら喧嘩やら博打やらで毎日を謳歌している。

 俺達三人は、ジャックに竿を貸してもらって釣りをしていた。


「あ、ひいてる」


「またルルですか……」


 俺とシャーラは一匹も釣れてないと言うのに、さっきからルルばかり魚を釣り上げる。


【釣り運のある奴は海に愛されてるのさ】


「えへへー、すごい?」


「ああ、すごい」


 すごいけど、ルルばっかりズルいという気持ちの方が強い。やっぱりルルは水帝だったから海に愛されてるのだろうか。

 なんでもいいけど俺の竿にもかかれ、魚。


 それからしばらく経っても釣り上げるのはルルだけ。いい加減飽きてきて、俺は空を見上げた。



 すると、そこにはなんかいた。


「なんだあれ」


 それは人のような形をしていた。というか形状は人だ。

 だけどその肌は黒く、背中には翼。

 頭には2本の角が生えており、明らかに「悪魔」と呼べるようなものだった。

 ばいきん男を擬人化したらあんな感じなんじゃないだろうか。


 まあいい、とにかくそいつは遙か上空から俺達を見下ろしていた。


 俺が空を見上げてるのに気づいたのか、シャーラとルルも空を見上げる。

 そしてそれぞれそれに対する反応を見せた。


「ま、魔族……! それも、角が2本……!」


「……!」


【あー、ありゃかなり高位の魔族だわ。……マズイな】


 やはり魔族ってやつか。明らかに俺たちを見ているが、なんのようだろう。好意的ではないのは一目瞭然だ。


 俺は釣り竿を引き上げて、立ち上がった。

 視線は奴から離さない。するとその魔族は急速に降下して、甲板へと降り立った。


 近くで見るとその悍ましさがよく分かる。醜いという訳じゃない。

 純粋に種族が違うから凄い違和感のような物を感じた。

 ジャックやその他の男達もこの魔族が降り立ったのに気づいたのか、わらわらと集まってくる。

 あっという間にその魔族は取り囲まれたけど、なぜかこちらが優勢という感じはしなかった。


「な、なんで魔族がこんなところに……」「しかも2本角……、側近クラスだ」「やれるか……? この人数で」「無理に決まってんだろ」


 そんなざわつきは急に止まる。魔族の目の前に立ち塞がったのはジャックだった。


「……魔族がなんのようだ? まあ人間を襲うのに理由なんて無いかもしんねーがな」


 ジャックの額には汗、いつもの余裕はなかった。


「……安心しろ、お前達には用はない」


「俺達に、か。

 つまり後ろのレイヤ達に用があると」


 その魔族はジャックを避け、無言でこちらまで歩いてきた。

 俺はそっとティルフィングに手を添える。


「野朗共、剣を抜けッ!! 恩を返す時だァ!!」


 叫ぶジャック。 

 が、次の瞬間、ジャックを含むクルー達は吹き飛び、海へと吹き飛んだ。

 魔族の一撃、衝撃派のようなものを放ったのである。

 それで船の甲板もところどころ崩壊した。

 海に沈んだ男達に視線を移す。

 海面に上がってきたのは、沈んだ人数に比べて少なかった。


「……やべぇよ」


【ああ、お前じゃキツイなこりゃ。魔族と人間じゃやっぱり格が違う。人間は数で押すしかねェのさ】


「レイヤ、2本角の魔族はS級ギルド一個総出でやっと倒せるレベルなの……」


「マジか」


「……」


 俺は俺の体より一回りは大きいその巨体を見上げる。

 どうする? 戦うか? 初撃に掛ければ何とかなるかもしれない。

 いや、ルルに転移魔法を頼むか? 無理だ。正確な現在地を分かっていない可能性が高い。


 戦うしかないか。

 そう思った時、その魔族はすでに俺を通り過ぎていた。


「なッ!?」


 見えなかった訳じゃない。純粋に初動が速すぎたのだ。

 振り返ると、その魔族はシャーラの前に跪いていた。

 俺は目を見張る。



「迎えに上がりました、王がお待ちです」


「シルディア……、私は……」


 シャーラと、知り合い……?



「帰りましょう、魔界へ。どうせ人間には酷い目に合わされたんでしょう?」


「……シルディア、違います……私は……」


 俺はあらゆる思考の前に、シャーラがまたどこかに連れて行かれてしまうんだと、そう思った。


 駄目だ。そんなのは、駄目だ。

 こいつがシャーラの何であろうと、それは俺が許さない。

 シャーラが俺のこの独占欲を知ったらどう思うだろう。

 いや、独占欲というよりは、純粋にそばに居て欲しいという恋心かもしれない。


 とにかく、気付けば俺はシャーラがシルディアと呼んだその魔族のこめかみに、唸りをつけて思いっきり拳を叩き込んでいた。

 もちろん、身体強化済みだ。


 吹き飛ぶシルディア。船べりを横から突き抜け、何度か海面をバウンドした。



「シャーラ、行かせないからな」


「……レイヤ、行くつもりもありませんよ」


 安心した。こいつが魔族側についたらどうしようなんて思っていたのだ。

 が、後で事情はしっかりと聞かせてもらおう。


「ルル、転移ってできるか?」


「ごめん……、ここじゃ無理だ……」


 やっぱりか。一応聞いておいたんだけど無理らしい。


「おけ、なら下がっててくれ」


「レイヤ、私も……!」


「いい、俺一人でやる。ルルはジャック達を助けてやってくれ」


 足手まといになるし、殺されてしまうかもしれない。

 そう思った俺はルルを手で制止した。


「……分かった」


 ルルが頷いたのを見てから、俺はシルディアが沈んだ辺りを凝視する。

 なんとなく分かる。おそらくもうあそこにはいないだろう。


【今の一撃は正解だぜ。オレを使ってたらオレの強い殺気で躱されてた】


 なるほど。

 俺がそれについて感想を述べようとすると、船体が大きく揺れた。


【下だァ!!】


 俺はその場を飛び退く。

 するとそこからシルディアが甲板を突き破って出てきた。

 シルディアは着地すると、言った。


「人間、まずは貴様を始末するとしよう」


「……こいよ、ばいきん」


 挑発するが、この戦いは圧倒的に俺が不利だ。

 まず足場の問題。

 シルディアは空を飛べるが、俺は船が壊れたりでもしたら終わりである。

 それに空中から遠距離魔法を連発されても終わり。これに関してはシャーラがいるからしないと思うが、なんにせよ機動力の面でかなり分が悪い。

 そしてなによりも、俺の本気のパンチを受けて無傷っていうのが痛い。

 これは、本当にヤバイかもしれない。

 明らかに格上だ。

 シャーラが連れて行かれる。


 本気で、やらないと。


【あー、こんなことになるなら共有率上げとくべきだったなァ! レイヤ君よォ!】


 実は、船旅の最中で何度かティルフィングにそんな提案をされたことがあったのだ。

 共有率をあげよう、と。

 しかし俺は暇すぎてやることもなかったのにも関わらず、ことごとくそれを全部断った。

 なぜなら、しんどいのが嫌だったから。

 ティルフィングは別に40%を求めてる訳じゃないらしいのだが、それでも俺は面倒くさかった。

 まさか後悔することになるとは……。

 備えあれば患いなしとは良く言ったものだ。先人の言葉はいつも偉大である。


 しかし時すでに遅し、シルディアは脅威の初速で俺に突っ込んでくる。


 それを見た俺は右足を一歩前に踏み出し、ティルフィングの柄に手をかけ、その状態で静止した。


 居合。


 間合いに入ってきたら、すぐさま抜刀し、相手を両断するイメージを強く持つ。


「……ッ!」


 その殺気を見たのか、シルディアは俺の間合いに入る前に静止した。



【おお!! おお!! お前! 大丈夫なのか!?】


 ティルフィングがはしゃぐのも無理ないだろう。

 俺は今、相手を殺す気で柄を握っているのだから。


 相手が人間だったらこんなことはできやしない。俺の良心が邪魔をして、殺そうなんて到底思えないのだ。

 だが、こういうのなら別だ。ギガースの時と一緒である。

 シルディアは見るからに格上だ。俺に命の危険があるということは、手加減なんてしていいわけがない。

 ましてやシャーラが狙われてるのである。


 そして俺は思った。

 こんな強い相手が人間じゃなくて良かった、と。



「勝てるかな」


【分かんねェ! ほんの少し希望は見えたがなァ!】


 シルディアが動いた。

 その瞬間、俺はティルフィングを抜刀する。


 が、斬ったのは奴の皮一枚。

 リーチをほとんど完全に読まれたのである。


「チィッ!」


 シルディアは俺の剣を躱した後、俺の懐に入ってきた。


「人間は、図に乗るな」


 鳥肌立った。同時に、その威圧で退きかけた。が、踏みとどまる。

 無表情で、拳を振りかぶるシルディア。


 躱せない。これは躱せない。

 シルディアの大きな拳は俺の鳩尾に食い込んだ。


「かッ……は……ッ!」


 今度は俺が海に吹き飛ばされた。ティルフィングを手放しかけたが、なんとか強く握る。



 さっきのシルディアより多く、海面をバウンドする俺。

 そして、そのバウンドの勢いが落ちない内に、視界の中にシルディアが見えた。

 追撃だ。


【クッソ!!】


 シルディアは俺の頭をグッと掴み、そのまま空高く飛び上がった。


 そしてどれくらい上昇しただろうか。

 とにかくかなり高いところでシルディアはその翼のはためきを止める。


「……、くそ、が……っ!」


 鳩尾のダメージがでかく、まともに呼吸もできないが、俺はそう言ってシルディアに唾を吐きかけた。


 というより完全にこいつを見誤っていた。

 強すぎる。シルディアは予想の倍以上強かった。


 俺は状況打破の方法を必死に考えた。


 シルディアは俺の頭を掴み直すと、いっきに急降下した。

 このまま海面に叩きつけられるのだろう。

 俺はこの状況でなんとかアトラクトし、身体強化を更新した。

 切れたりしたら死ぬ。


 そしてどうしようかと考えて、浮かんだ方法はやはり一つ。


「きょ、共有率を……あげて、くれ!」


【待ってましたァ!】


 そんなティルフィングの返事と共に、俺は海面に叩きつけられた。

 海面寸前で急ブレーキをかけて、その反動で投げ付けられた為、衝撃は大きい。

 海水を大量に飲んでしまった。


 俺は海面に上がろうとしたが、その時、頭痛が俺を襲う。

 共有の同期的なアレが始まったのだ。


 水中でジタバタする。強烈だった。

 知識が頭に刻み込まれていく。

 肺の中の空気は全部吐き出してしまった。


 視界が霞む。

 キラキラと輝く海面の上ではシルディアが俺を見下ろしていた。


 そのうち俺は足掻く力を失う。


 いつまで続くんだよこれ。

 もう、限界が……。


【もう少しだ!! 耐えろ!!】


 そんなティルフィングの声で、俺は切れかけた意識を一度繋ぎ止めた。




 そして、ドンと心臓が跳ね上がり、力が溢れ出る感覚に包まれる。

 知識を刻み終えたのか、あまりの爽快感に軽い興奮まで覚えた。


【すげェぜ! 50乗りやがった!!】





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