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惚れたが因果

「げホッ!? ゲホッゲホッ!!?」


 夜中、俺はむせて飛び起きた。

 気管に異物が入ったような苦しさだ。

 驚いた俺は体を起こす。


【どうしたァ?】


 そんな俺にティルフィングは気づいたようで、俺に声をかけてきた。

 ティルフィングの質問には、しばらくむせた後、呼吸を整えてから答えた。


「……なんか気管に入った。口の中が変な味する」


【だせェ!】


「静かにしろ。シャーラもルルも寝てるんだから」


 俺は隣でスヤスヤとルルの寝息が聞こえる。


 それはともかく、異世界生活始まって、というか人生始まってこんな事は初めてだ。

 あきらかにおかしい。

 てか、なんか体が熱くなってきたぞ。

 胸も苦しいし、体がおかしい。


 とりあえず俺はベッドから下りて、テーブルの上のローソクに火を灯した。

 テーブルの上にはなぜか開けられた酒瓶が置いてある。


 それに首を傾げたのだが、顔がどんどん火照っていって、心臓の脈動も間隔が短くなっていき、それどころじゃなくなった。

 俺は胸を抑える。

 やっぱり体がおかしい。


 とりあえず顔でも洗ってこようと思って、俺は歩き出すと、足に何かが当たった。


「……?」


 俺はその何かを拾い上げる。


 それは、ペットボトルサイズの瓶。

 中には少量の液体。

 床に溢れているのもあって、ほとんど残っていない。


 俺はその瓶を知っていた。その中に入っている液体についても。


 そう、惚れ薬だ。

 俺は体がおかしい理由を一瞬で悟った。


 そして俺は無言でシャーラの布団をひっぺがす。


「……」


「うう……ん……」


 寝たフリ下手くそすぎだろ。

 そう思いながら俺はシャーラの胸に少しだけ耳を当てて心臓の音を聞いてみた。すると、シャーラの心臓はバクバクと元気に脈打っていた。


「シャーラ、お前……」


【あーあ、バレちまったなァ!】


 シャーラは未だに狸寝入りをしている。

 仕方ないから起きるまでおっぱい揉み続けてやろう。

 そう思ったんだけど、気付けば俺はそのままシャーラの唇に自分の唇を近づけていた。


 もう少しで触れる……というところで俺は床を蹴ってシャーラから飛び退いた。


「!? ……??!」


 自分でも驚く。

 なんだ今のは?

 シャーラの唇に吸い込まれそうになった。

 ヤバイ。心臓が暴れてる。


【やっぱ効いてんのか!】


「おい、ど、どういうことだよシャーラ!」


「……レ、レイヤ、こ、これはその……あの……違うんです」


 シャーラが観念したように体を起こしてそう言った。

 俺はさっとシャーラから視線を外す。今目を合わせたら絶対にヤバイ。

 そう直感したのだ。


 シャーラの声が耳に入ってきただけでも胸が締め付けられているのである。


「こ、これ……! ま、マジで……! っ!」


 言葉にならなかった。それに、思考も段々回らなくなっていく。

 ショート寸前だ。

 頭の中をどんどんシャーラが支配していく。


【シャーラ、これはチャンスかもしんねェぞ】


「……そうですね」


 シャーラはベッドからが下りてこちらまで向かってきた。

 俺は足で地を押して後ろに下がる。


「レイヤ……!」


 その一言で、俺の顔は燃え上がり、沸騰しそうなくらい赤くなった。

 そして俺は壁に追い詰められる。


「レイヤはルルとベタベタし過ぎです!」


 俺はシャーラの言う内容がほとんど聞き取れなかった。

 ただシャーラの声が聞こえてる。

 それだけで体が浮いてしまいそうなくらい幸福に包まれる。


「……わ、分かってるんですか?」


「い゛っ!!?」


 シャーラが俺の顔をのぞき込んできたので、思わずそんな悲鳴を上げてしまった。

 そこでとうとう俺はシャーラの裾を思いっきり引っ張り、そのまま抱き締めてしまう。


「きゃ!」


「お前が悪いんだぞ……!」


 俺はシャーラを床に押し倒す。


 このままじゃ本当に大変なことになってしまう。

 かろうじて残った理性がそう叫んていたが、俺は止まらなかった。いや、止められなかった。


【マジか!!】


 俺はシャーラの服の中に手を入れる。左手ではシャーラの髪をかきあげそっと頬擦りした。

 もう、例え目突きされてもビンタされても止まれない。


「や、……あ……」


 シャーラはされるがままになっている。

 しかし、そんな中シャーラは呟いた。


「せ、せめてベッドで……、してください……」


 その言葉で、俺の理性は完全に吹っ飛びそうになったが、俺は目を見開く。

 そして口内の肉を噛み切った。


「……っ!」


 理性が少し戻った俺はまたシャーラから飛び退く。

 壁に立て掛けられたティルフィングを手に取ると、俺は宿の窓を蹴り開け、外に飛び出した。


 着地、すぐに走り出す。

 俺は全力疾走で駆け出すと、雄叫びを上げながら夜の冷たい海にダイブした。



ーーー



【よく理性保ててるなお前】


「気を抜けばマジで飛ぶ」


 シャーラが近くにいなければ大丈夫なようで、俺は今なんとか正常を保ててる。

 それでも気を抜けばシャーラの元まで走り出してしまいそうなくらいには、キテる。


「さて、事情を説明してもらおうか」


【……ああ】




 ティルフィングから全ての経緯を聞いた俺は、このクソ魔剣を地面に叩きつけた。


「お前のせいじゃねぇか!」


 ティルフィングに聞くところによると、シャーラは夜中に起きてきて、部屋においてあった酒を水と思って飲んでしまったらしい。

 それで少々酔ってしまったシャーラはティルフィングに愚痴を垂れ始めたらしいのだ。主にルルのことで。


 それを受けたティルフィングは、ならレイヤに惚れ薬飲ませてみたらいいぜ! という訳のわからない提案をしたらしい。

 で、この状況である。


【あんなに効くとは思ってなかったんだよォ!】


「うるせぇ!」


【お前にも悪い所はあんだろ!】


「……それは認める」


 ……さて、真面目にどうしよう。



ーーー



 俺は浜辺に座り込み、海を眺めながらあの時のシャーラのセリフを思い出していた。

『せ、せめてベッドで……、してください……』


「〜〜ッッ!!」


 俺は悶絶する。あの時のシャーラを思い出しただけで鼓動の脈打ちが加速していくのだ。

 理性を保ちつつも、俺は脳内でシャーラとイチャイチャする妄想を繰り広げていた。

 シャーラのことを考えていないと、心が苦しくなって泣き出しそうになってしまうのだ。


 しかし、シャーラの事を考えたら考えたで会いたくなる。それでまた泣き出しそうになってしまう。

 このスパイラルが、俺を苦しめた。


「シャーラって、俺のこと好きなのかな……」


 俺を受け入れようとしたシャーラを思い出してはその可能性を鑑みる。

 少なくとも嫌われてはいないのは確定的だ。そう考えたらなぜか凄く安心感に包まれる。


 というより、好きな人以外にあんな事をされたら拒絶しようとするだろう。好きな人でも拒絶する人も少なくないはずだ。


 ルルの件でシャーラは嫉妬してた。

 つまり、これはまさか……両想い、なのか?


 …………。


 絶対両思いだ。

 そう区切りをつけて、この事について考えるのはよそう。

 今はそうでもしないと、どうにかなってしまう。


【辛そうだな】


 無理もない。

 というよりもう限界かもしれない。

 シャーラに会いたすぎる。

 シャーラシャーラシャーラシャーラシャーラシャーラ。

 もう百年は会ってないんじゃないだろうか?

 いや、マジで。


「あ゛あ゛!!」


 俺はまた海に飛び込んだ。



【……大変だな】


「……ああ」


 俺はビショビショになった体のままでまた浜辺に座り込む。

 冷たい夜風が俺の体を吹きつけた。

 本来なら凍えるくらいの寒さなんだろうが、それ以上に体が火照っていてあまり寒さは感じなかった。


「マジで胸が痛い」


【……その、わりィ……】


 俺が苦痛に顔を歪めていると、ティルフィングがそう言った。

 こいつが謝るのもなかなか珍しい。


「いや、いいんだ……」


 俺は言う。


 元はといえばシャーラを不安にさせてしまった俺が悪いんだ……。

 こんなにも愛しているのに、なんて馬鹿なことをしてしまったんだ俺は。


「クソッ!!」


 俺は砂浜に拳を叩きつけた。


【……どうした?】


「自分が許せない!」


【お前……、もう一回海入ってこいよ。

 大分飛んじまってる】




 思考がバグる度に俺は海に飛び込んだ。

 そうこうしてるうちに、太陽が水平線の向こうから顔を出し、朝になってしまった。


 幸い、強化されている俺の体は惚れ薬にも抗体があったみたいで、薬の効果の方は多少マシになっている。


 だからそろそろ宿に帰るつもりだ。もしかしたらもうシャーラ達は起きてるかも知れない。


「お前とこんなに話すのは初めてだな」


【シャーラのことしか話さなかったけどなァ!】


 それは仕方ない。

 しばらくの沈黙の後、俺は立ち上がり、宿へ向けて歩を進めた。



ーーー



 部屋の前で何度か深呼吸する。

 やっとだ、やっとシャーラに会えるのだ。

 しかし、理性はちゃんと保たなければならない。


 今でも惚れ薬の効果は結構残ってるから、シャーラに会うとどうなるか分からないのだ。


 俺は扉を開け、そろっと中に入った。

 まず目に入ったシャーラは、椅子に座って本を読んでいた。

 ルルはまだ寝ている。


 シャーラは俺に気づいて振り返った。


「……あ、おかえりなさい」


 目があったが、二人して同時に逸らす。

 俺は理性維持の為、シャーラは恥じらいからだろうか。


 しかしまあ俺が犬なら、しっぽをぶんぶん振ってシャーラの周りを駆け回っただろう。

 そう思ってしまうくらいシャーラに会えたことが嬉しかった。

 同時にずっと抱き締めていたいほど愛おしい。


 俺はティルフィングを壁に立て掛けて、椅子に座った。


「……その、昨日はすいませんでした……」


「ああ、いいよ……そんなの」


 顔がびっくりするくらい熱くなった。俺、今、シャーラと話してる。


 シャーラの顔をチラと見ると、その頬は朱色に染まっていた。

 そのほっぺがまた可愛らしすぎて、もう頼むから普通にしててくれよと思ったくらいだ。

 普通にするってのも良くわからないが。

 とにかくどうしようもないくらいシャーラに恋してる。


 惚れ薬のせいだと分かっていてもこの胸のドキドキは止められない。

 シャーラともっと話したい触れ合いたい。

 俺はさながら恋する乙女のようだった。


 しばらく続く沈黙。ルルの寝息だけが聞こえる中、シャーラはなぜかしおらしい声で言った。


「レ、レイヤ……怒って、ますか?」


 その破壊力に、ギュンと心臓が締め付けられる。

 だがなぜそんなことを聞いてきたのか分からなかった。


「な、なにを?」


「惚れ薬を……、飲ませたことです……」


 怒っていない。そもそも惚れ薬が効いてるわけなんだからシャーラに怒れる訳がない。

 普通に考えたら分かるはずだが、そんなことを聞いてきたということは、もしかして惚れ薬の効果が切れてるとでも思ってるのだろうか。


 俺が黙り込んでいると、シャーラは続けた。


「でもレイヤも悪いんですよ……?

 ルルばっかり……」


 ヤバイ。

 本当にそういうことは言わないでほしい。

 マジで襲ってしまいそうだ。


 またシャーラの顔をチラと見ると、シャーラの顔は先ほどとは比べ物にならないくらい赤くなっていた。耳まで真っ赤である。


 元々肌が白いシャーラだ。それが目立つ。


「だって私……」


 その先の言葉は、しばらく訪れなかった。


 シャーラが唾を飲む音が聞こえた。


「私……」


 シャーラが口を開いたその時。


「ふぁぁぁ、よく寝たぁ。

 あ、二人共起きてたんだ」


 ルルが起きた。

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