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欺くペテン

 俺達は、さっきカジノに行って、すでにその帰路についていた。

 案の定だったと言っておこう。

 俺もこうなることはなんとなく予想していた。


【言わんこっちゃねェな】


 破産。

 カジノは甘くなかった。俺の手持ちに残ったのは銅貨がたったの5枚。


「ひどいですね……」


「いや、その……すいませんっした」


 これだけの銅貨で何ができよう。今や宿代も払えなくなってしまったのだ。


「こ、こんなこともあるよ!」


「そうだな、切り替えよう!」


 終わったことはもう仕方ない。俺達が今すべきことは現状の打開策を考えることだ。

 とは言ってもどうしたことか……。このままじゃあ船旅なんて夢のまた夢。

 何かパァーと稼ぐ方法でもあればいいのだが……。


「……お腹減りました」


「私も……」


「よし、じゃあとりあえず飯でも食うか」


 二人がそう言うのなら何はともあれまずは飯だ。

 てか金ないって言ってるのによく飯の話できたなこいつら。


【銅貨5枚じゃロクなもん食えねェだろ】


「その通りっすわ」



ーーー



 宿に戻ってきた俺達は、一階の食堂で食事をとっていた。

 俺を挟むようにして両サイドに座るシャーラとルルは買ったパンを齧っている。

 俺はそこまで腹が減っていなかったので、イスに座っているだけだ。

 でも金があったら食っていただろう。


 まあ部屋に戻れば昨日ルルが買ってきた果物などもある。だから食料問題について言うと、現状を維持することになっても今日のところは大丈夫そうだ。

 それでも多少の空腹を我慢することにはなりそうだが。

 いやいや、そうならないために今から話し合うんだった。


 俺はイスの背に持たれてイスを傾ける。そしてギーギーさせながら聞いた。


「なぁ、マジでどうする?」


【いらねェ宝具でも売ったらどうだァ?】


「おお、その手があったか!」


 そういえば使わないまま荷物化してる宝具がいくつかあるんだった。

 ラインから奪ったのはいいものの、ほとんどが一度も使っていない。

 それなら売ってしまった方がいいだろう。

 宝具って言うくらいなんだから高く売れるはずだ。


「何を売ろうか」


「ティルフィングでいいと思う」


「おお、いいなそれ」


「そうですね」


【ひでェ!】



 冗談はさておき、売るとするならやはり純真(クリアハート)辺りだろうか。

 純真(クリアハート)といえば、動かなければ他人から姿が見えなくなるという女性限定の宝具だ。

 使いようはあるが、ぶっちゃけいらない。


【惚れ薬なんかも高く売れるはずだぜ】


「うん、惚れ薬は結構希少価値高い」


「ふーん。でも惚れ薬は案外使えるから置いとこう」


「な、何に使うんですか?」


「あれはわりと便利なんだよ」


 誤魔化しておく。騎士長に使ったのは忘れたい過去なのだ。

 二人は食べ終わったらしいので、とりあえず宝具を持って、売り込めるところを探すことになった。

 せっかくなので、港の方に行ってみようとのことだ。港には市場もあるみたいだし。



ーーー



 町の港にある市場は活気にあふれていた。

 木材を運ぶ船大工や、並ぶ漁船、魚の臭い。

 そして開かれた店には色んな物が並んであった。


「よく考えたら宝具なんて買ってくれる奴いんのかな」


 そもそも相場が分からない。


「いるよ。宝具の需要は高いの」


「そうなのか、でも……」


 言いかけて止まる。俺の目にあるものがとまったのだ。

 それを見た俺は、考えるよりも先に駆け出した。

 唖然としてるだろうシャーラとルルをその場を残し、俺は人ゴミの隙間を縫って、そこにたどり着く。

 そして、地に落ちているそれを拾い上げて、すぐさまポケットにいれた。


【……何拾ったんだ?】


「聞いて驚くなよ? 銀貨だ」


 俺はニヤリと笑ってそう言った。


【なんだ、あれだけの動き見せといて銀貨かよ】


「銀貨一枚だぞ? めったに落ちてないって」


 俺は何事もなかったかのようにシャーラ達のもとに戻ると、シャーラ達にも銀貨を拾ったことを自慢した。


「おお、すごい!」


「よく見つけましたね……」


「よし、宝具売るのはやめだ。これを資本に荒稼ぎしよう。すごい方法を思いついた」


 俺は荒稼ぎできそうな凄い方法を思いついてしまったのだ。

 こんな奇抜な方法を思いついた自分に脱帽。


「どんな方法?」


「またカジノとか言わないでくださいね」


【見てろ、どうせロクなことじゃねェぞ】


「まあ耳かせよ」



ーーー



「ほ、ホントにやるんですか……?」


「当たり前だろ」


「成功するのかな……」


【な? ロクなことじゃなかったろ?】


 俺達は今、市場の通りを歩いている。

 市場は広い。特に売られている物は統一されておらず、食べ物から雑貨品まで色々ある。


「じゃ、作戦開始だ」


 作戦開始って言っても基本的に俺一人でやる訳だが。


 俺は適当に客の少ない店を見つけてそこに向かっていく。シャーラとルルもそれについてきた。


「らっしゃい!」


 どうやらこの店は置物などを扱ってる店みたいで、ガラクタのような物が大量に並べられていた。

 中々興味深くて、俺は思わず一つ手にとって魅入ってしまった。


「どうよあんちゃん、買ってくかい?」


「うーん、どうしようかな」


「後ろの娘らに買ってやりなよ」


 俺は唸る。

 置物屋のおっさんも客が少なくて必死だ。

 そんな時、俺の目についたのはある土偶のような不格好な置物。


 ……アレにするか。


「……え? これって……」


 俺は驚いた表情を作ってその不格好な置物を手に取る。

 そしてそれを目の前に近づけて食い入るように見つめた。


「……まさか、いやでも……」


「おい、あんちゃんそれがどうかした……」


「ちょっと静かにしてください!」


 怒鳴る。

 そしてしばらくしたあと俺は呟いた。


「やっぱり本物だ……」


 俺は続ける。


「おじさん、これいくらですか?」


「え? え、えーと、銅貨……いや、銀貨一枚?」


 内心ニヤリと笑う。ふぅ、危ない危ない。


「買います」


 俺はポケットから銀貨一枚を取り出して、それをおっさんに手渡した。

 そして俺はその置物を手にとって、自分のカバンに収めようとする。

 その際に後ろにいるシャーラ達に向かって俺は言った。


「凄い掘り出し物見つけた! これでしばらく遊んで暮らせるぞ!」


 カバンに収め終えると、俺は踵を返して歩き出す。

 すると、後ろから声がかかった。


「待ってくれ! やっぱそれは売れねぇ!」


 俺はニタァと口角を吊り上げる。シャーラの半眼が突き刺さったが気にしない。

 振り返って、俺は言う。


「え? そんなぁ! 今更遅いですよ!」


「ダメだ! 返してくれ!」


「いやだ!」


「頼むぅ! 返してくれぇ!」


 置物屋のおっさんは店の椅子から立ち上がり、俺の前まで来ると地面に頭をこすりつけてそう言った。

 その姿に俺は少し引く。同時に人間の醜さの一面を垣間見た。


「……そこまで言うなら」


「ほんとか!?」


「……もちろん、タダって訳にはいきませんよ」


「払う払う! いくら払えばいい!?」


「そうですねぇ……。銀貨10枚くらいは……」


「じ、10枚!? そんな……」


「あ、ならいいです」


「わ、分かった! 払う! 払うから待ってくれ!」


 こうして俺はゴミを銀貨10枚で売りつけたのだった。



ーーー



「いやー! 愉快愉快!」


「最低ですね」


 銀貨10枚が手に入った俺の懐は暖かい。笑いが止まらなかった。


【いや、すげェわお前! ちょっと感動したくらいだぜ!】


「でもあの人可哀想……」


 それは少し思う。だけど見破れない方が圧倒的に悪いのだ。


「じゃあつぎいってみよー!」


「……まだやるんですか?」


「どんどんいこー!」



ーーー



 馬鹿そうな奴を選んでも、成功率は五分五分ってところだった。

 だから今、俺の手元にはいらないゴミがいくつかある。

 しかし、手持ちの銀貨も増えたわけだ。

 こんな詐欺まがいのことをやってて思ったんだが、あんなバカみたいなやり方に騙される大人にはなりたくない。

 仮にも商人なら、俺みたいなガキに騙されるなよとも思う。


 だがそんな人達がいてくれたおかげで俺達は潤っている。感謝しないと。


「いやー、これでしばらくは安泰だな。船旅もできる」


 宿に帰っきた俺達は、机の上に銀貨を重ねて数えていた。俺達と言っても、部屋には今俺しかいない。

 シャーラとルルは風呂に入っているのだ。


 市場を駆け回ったので、日はすかっり暮れてしまっていた。


【明日には出入り禁止だろうよ!】


 だろうな。俺の噂が広がって、もう市場にいけなくなってる可能性が高い。

 だから早急にこの町を出た方が良さそうだ。船に乗ってしまえばそんなことも関係なくなるだろう。


【で、船に乗ってどこに向かうつもりなんだ?】


「決めてないんだよね」


【あ?】


「ゲーテは言った。

 人が旅するのは到着するためではなく、旅行するためであるってな」


【馬鹿か、それでも目的地は必要だろうが】


 ぶっちゃけ土地勘がなさすぎて、目的地が決められないだけである。

 適当でいいっしょ、って感じだ。


 そのことについてティルフィングと話してると、部屋の扉が開いた。


「ただいまー」


 部屋に入ってきたのはルル。その姿は宿貸し出しのバスローブ一枚だった。

 やけに薄いバスローブは、ルルの肢体、そうボディラインを綺麗に強調していた。

 俺はそれをガン見しながら言う。


「早く服着ろよ。風邪ひくぞ」


「レイヤがあたためてー」


 ルルが抱きついてきた。ベッドに腰掛けていた俺はそのまま押し倒されてしまう。

 濡れた髪が俺の頬をかすめた。


「レイヤあったかーい」


「オウフ……」


 顔をスリスリしてくるルル。ルルの慎ましくも柔らかい体が押し付けられて、言わずもなが俺の魔剣は反応してしまう。

 が、俺はそれを脛毛をイメージすることでなんとかギリギリ鎮めた。


 そんな時、部屋の入口の方から「チッ」と舌打ちのようなものが聞こえた気がした。

 見てみると、そこにはシャーラが立っている。

 その表情は決しておおらかとは言い難い。むしろ怒っているように見えた。


 シャーラはもう着替え終えていて、ルルのようにバスローブではない。シャーラのエロいバスローブ姿も見たかったのだが、そんなことを言ったら怒られるだろう。


 シャーラは自分のベッドに腰かけて、櫛で髪をときはじめた。俺達には背を向けている。

 俺はそのしぐさに思わず少しときめいてしまった。女の子のそういうしぐさには潜在的な魅力があるのだ。


 その時に気づいたのだが、シャーラの手首には2つのヘアゴムが巻かれていた。俺が前にあげたやつだ。

 まだ持ってたのかあれ。


「レイヤ、今日は寒いから一緒のベッドで寝ていい?」


「もちろんいい……」

「ダメです、ルル」


 俺の言葉を遮るようにシャーラはそう言った。俺達に背を向けていたはずなのだが、いつのまにかこっちに体勢を入れ替えている。


「どうして?」


「襲われますよ、レイヤに」


「レイヤになら襲われてもいいもーん」


「っ……! だ、ダメですそんなの!」


「どうして?」


「ど、どうしてって……」


 沈黙。シャーラの言葉は続かなかった。


【シャーラ……】


「三人一緒に寝ればよくね?」


 なんか揉めてるので、俺が打開策を提供してやった。

 どっちみち今夜、俺はシャーラとルルが寝ているベッドにルパンダイブするつもりだったし。


「へ、変なことしないなら……」


「え? するよもちろん。最近シャーラのおっぱい揉んでないし」


「そ、そんなの……」


「なんていうか、シャーラ不足なんだよ」


 俺がそう言うと、一瞬シャーラの口元が緩んだ気がした。


【ニヤけたな】


「に、ニヤけてません!」



「レイヤ、小さいけど私のなら好きに触ってもいいよ?」


 ルルはまた体を寄せてきた。ルルは大胆なことを言う時だけ顔が赤くなる。

 やっぱり無理してるんだろうか。

 それが分かっていても、おっぱいの話となれば俺も食いつかざるを得ない。


「マジで!?」


「うん、レイヤだったらいいよ」


 ルルがそう言ったので、俺は手をワキワキさせた。

 俺の手で女性ホルモンを分泌させてやろうじゃないか。


「だ、ダメです!」


 シャーラの声でハッとなる俺。

 確かに、好意を利用してそんなことするのは良くないかもしれない。

 だけど触りたい。

 その理性と性欲の狭間で悩まされた挙句、俺はその手を下ろした。


 よく考えたらこんな形で触るのも余裕がない男みたいだし、どうせ触るなら唐突にイタズラで触った方がいいだろう。

 俺としても、そっちのが興奮する。


 俺が手を下ろすと、ルルはガッカリしたようなため息を吐き、シャーラはどこか安心したかのようなため息を吐いた。


 そしてそのままルルは俺のベッドの布団に潜り込んでしまう。


「ルル、ほ、本当にレイヤのベッドで寝るんですか……?」


「うん。シャーラはレイヤと一緒に寝たくないんでしょ?」


「そ、それは……」


 口ごもるシャーラ。やっぱり抵抗があるみたいだ。


 さっき変なことしないならって言っていたから、俺がするって言わなかったらシャーラと一緒に寝れてたんだろうか?

 だとすれば俺は大きなミスを犯したのかもしれない。


【シャーラ、まあその……頑張れや】



ーーー



 俺は風呂に入った後、宿の食堂で菓子パンのようなものを買って部屋に戻った。

 晩飯は食べたのだけど、小腹が減ったのだ。


 部屋に戻ると、ルルは俺のベッドでゴロゴロしていて、シャーラはルルとの兼用ベッドで本を読んでいた。


「ふー、さっぱりしたぜ」


「おかえりー」


【帰ったか! こいつらちっとも相手してくれねェ!】


「俺ももう眠いし相手する気ねーよ」


【オイオイそりゃあねェぜ!】


 俺は買ってきたパンの包みをおもむろに開け、ベッドに腰かけてそれを食べ始めた。

 それを見たのか、ルルは起き上がり、俺の肩にもたれかかって言った。


「あ、レイヤのそれ、おいしそう。一口ちょうだい」


「ああ、いいけど」


 そう言うと、ルルは大きく口を開けて待機しだした。

 食べさせろってことだろう。

 俺はパンを一欠片千切って、ルルの口に持っていく。


 するとルルは、いきなり俺の指ごとそれをはむっといった。


「うおっ!」


 俺はワンテンポ遅れて手を引く。


「えへへ、レイヤの指おいしい」


 えへへじゃねーよ。

 だけど可愛いからどうしようもない。

 そんなことより俺はルルの唾液で濡れた指をどうしていいか分からなかった。


 そんな中、シャーラの視線……というより鋭い眼光に気づいた俺は尋ねた。


「……シャーラも食う?」


「いりません、もう寝ます!」


 シャーラは本を強く閉じて、ゴロンとベッドに寝転がり、勢い良く布団を被った。

 銀色の髪が枕に散らばっている。


 なんで怒ってるんだよ……。


「……ティルフィング先生?」


【知らねーよ、オレに聞くな!】


 ……まあいいか。シャーラの機嫌について考えたてたらキリがない。

 明日も継続ならその時になんとかしよう。


「じゃあレイヤは私と一緒に寝よ?」


「仕方ねぇな。今夜は寝かさねーぜ?」


 俺が冗談めかしてそう言うと、ルルは「きゃー!」と言ってまた抱きついてきた。


 シャーラのベッドがドシンと揺れた。


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