会いたいアイアイ
「シャーラ、僕と一緒に旅をしないか?」
「嫌です」
「なぜ?」
「私にまた利用価値ができた今、それは王の意向とは違うんじゃないですか?」
「僕が魔王を倒したら王も文句はないはずだよ。そうすれば君は本当の意味で自由になれる。
僕は君を開放してあげたい、守りたいんだ」
何度もしつこくそんな事を言ってくる勇者バルトに私はうんざりしていた。
私はベッドに腰掛けていて、バルトも私の横に座っている。
「バルト、なんでその娘にこだわるのさぁ」
桃色の髪をした私と同世代くらいの女の子、ルーシェは反対側からバルトにもたれ掛かって、甘い声でそう言った。
「だって、こんな酷い目に合ってるのに可哀相だ」
バルトはルーシェの方に振りむいて言った。ルーシェはバルトと目が合い、そのまま顔が赤くなって硬直してしまった。
「まあ、バルトのそんなところが好きなんだけど……」
「え? なんだって?」
私は驚く。
わざとだろうか、私は思わずバルトの顔を見上げてしまう。
バルトは至って真剣な表情だった。
後半は確かにゴニョゴニョしていたけど、今のが聞き取れないとなると、この人も難儀してるんだななんて安直な感想を私は抱く。
私は今、アーバベルズ城の三階、そこの一室に閉じ込められている。そしてレイヤと離れ離れになってからもう2日が経っていた。
いくら私に新しい利用価値ができたとはいえ、本来なら箱に詰められていてもおかしくなかったのだけど、こうして優待遇を受けることができているのはバルトのおかげだった。
バルトが偉い人に頼み込んで、なんとか私を箱詰めになるのを防いだらしい。ルーシェがそれを教えてくれた。
「たっだいまー!」
いきなりドアが開いた。駆け込んできたのは金髪で胸が大きいアイリン。
アイリンはやけに上機嫌だった。
「アイリン、持ち場を離れたらダメじゃないか」
「それがねー! レイヤって人がこの城に攻めてきたんだよー!」
「なんだって!」
バルトは勢い良く立ち上がる。
「でもねー! その人なら私がもう殺しちゃったよー! バルト褒めてー♪」
アイリンはバルトにそのまま飛びつく。
そして私はアイリンが言ったその言葉に目を見開いていた。
「それ、本当ですか……?」
私は震える声で聞く。
「ホントホント♪ 疑いもせずに私を完全にシャーラだと思ってたよー!
それまで全然隙がなかったからちょっとヤバイなーと思ったんだけど、私を抱きかかえてからはそれはもう隙だらけ!
サクッと首元をいっちゃった♪ 今頃出血死かなぁー」
「う、嘘です……」
「ホントだぜー♪」
私は、アイリンが魔法を使って私に変装していることは知っていた。
だけど、レイヤなら絶対に見破ってくれると思っていたのだ。
「そ、そんな……」
「シャーラ驚いてるー! 」
勿論、レイヤが生きているということに疑いはない。
レイヤが私を助けてくれるのは知っているのだ。
だけど、アイリンと私を見破れないのは予想外だった。
見破って欲しかったのに。
助けてもらったらちょっとした仕返しをしてやろう、密かにそんな決意をする。
「シャーラ残念!」
バルトがアイリンを一睨みする。すると、アイリンはぐっと黙り込んで俯いてしまった。
「怒られてやんのー」
「うるさいルーシェ!」
しばらくの沈黙。
バルトは何か考え込んでいるようだったが、その口をいきなり開いた。
「……シャーラ。そんな顔しないでくれ。
レイヤが死んでも僕はそばにいるから」
顔が近い。
確かにバルトの容姿は街を歩けば女の子達は誰もが振り返るくらいに整っている。レイヤよりも断然にカッコいい。私もそう思う。
だけど、私はこの勘違い男に言ってやった。
「いえ、間に合ってます」
またも沈黙が訪れる。その沈黙は、私にとって清々しいものだった。
ーーー
「なんか外が騒がしくない?」
私もそう思っていたところで、ルーシェが言った。
「そうだね、なんだろう」
「あー、そういえばもう一人侵入者がいるらしいよー。シャーラ狙いじゃないらしいけどー♪」
外の騒ぎ声を聞くために、部屋は静かになる。
そんな時、透き通った女の人の声が部屋に響いた。
【バルト、感じる】
今の声は壁に立てかけてある聖剣エクスカリバーだ。
当初私は驚いたのだけど、バルト曰く、二度目の覚醒でエクスカリバーが心を開いてくれて、話すようになったらしい。
よく意味がわからなかったけど、エクスカリバーは前に見た時より白い装飾が輝いているように見えた。
だが、その聖剣が今言ったことには同意できる。
レイヤが来る。なんとなくそう思ったのだ。
「エクスカリバー、誰が来る?」
【私の強敵だ。遙か昔から、ずっと】
ふと、ドアの向こう側から声が聞こえてきた。
「この部屋であってんだろうな?」
「おそらく」
【何でもいい!! ブチ破れ!!!】
「OK」
【ファァァァァァ!!!】
そして聞き覚えのある甲高い声……というかティルフィングの声と同時に部屋の扉が吹き飛んだ。
大きな音を立て、それは壁にぶち当たる。
「……あれ? あれ? 殺したはずなのに!」
アイリンの混乱したような声。
【お、いるじゃねェか!】
私の役目は「遅い」って悪態をつくことだ。もちろん見破れなかったことも忘れてない。
だから私は敢えてムスッとした顔を作った。
「あーもう会いたかったぜシャーラ」
レイヤのその言葉で思わず私の顔は緩んでしまった。




