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予測不能ミートアゲイン

 ルルが最初提案した作戦は、ルルが1人で乗り込んでシャーラを助け出し、そしてここまでシャーラを連れて戻ってくるというものだった。


 もちろん、そんな案は却下した。


 確かにルルなら1人で助けれるかもしれない。

 しかしそれじゃダメなんだ。

 ただのわがままなんだけど、シャーラは俺が助けたい。


 その旨を伝えると、ルルはスネてしまって完全に逆パターンになってしまった。

 つまり、救出作戦は俺一人での実行になる。

 シャーラが捕まってそうな場所だけ教えてくれたけど、ルルはあの場で待機である。


 当初一人で行く予定だったんだし、これでルルの危険性も減るから俺としては好都合だ。


 だから俺は今、1人で城の地下水路を進んでいた。


 地下水路からの侵入なら誰にもバレずに忍び込めるだろう。

 そう思った俺は、またも地を掘ってここまで来たのである。



【オイ】


「なんだよ」


 地下水路に声が響く。


【本当にアイツ連れて行くのかァ?】


「それなんだよなぁ……」


 さっきはノリでオーケーしちゃったけど、俺は目先のハーレムに囚われていたのだ。

 よく考えると安請け合いにも程がある。


 なにより、ルルを連れて行くってことは、シャーラとのラブラブ二人旅ができないってことなんだ。


 そんな俺の思考を読み取ったのか、ティルフィングは言った。


【置いていけばいいんだよ】


「男が連れて行くって言ったのに?」


【連れて行くとは言ってなかったぜ? ついてこい、だ】


 なるほど、でもそれで置いていったら最低の野朗だな、俺。


 据え膳食わぬは男の恥。

 今までモテたことがなかった俺だが、この言葉を信条にしている。


「もう連れて行くしかないっすわ」


【好きにしたらいいけどよ】



 しばらく進んで、俺は上に続くハシゴを見つけた。

 俺はそれに登り、上のマンホールではないが、蓋っぽいのを開けて少しだけ顔を覗かせた。

 すると目の前には長い廊下が広がっており、どうやら俺は城の中の侵入に成功したようだ。


 後ろから足音が聞こえた、俺は慌てて中にひっこむ。

 その上を慌ただしく、何人かが駆けていった。


「侵入者を探しだせ! 絶対に逃してはならん! まだ城の中にいるはずだ!」


 上からそんな叫び声が聞こえる。

 俺は驚いた。まさかもう俺の侵入がバレているのだろうか。


 いや、そんなハズはない。俺はここまでフリーで来たし、バレるようなことは少しもしていない。


 もしかして、俺以外の侵入者がいるのか?


 なんにせよ、ここから今出るのは面倒な事になりそうなので、俺はハシゴを下りて別の出口を探すことにした。


 そして枝分かれする地下水路をしばらく歩くと、またハシゴを見つける。

 俺はそれに登って、蓋を開け、また少し顔を出した。

 今度はよく分からないが、樽がたくさん置いてある部屋に出た。

 人の気配もないので、ここから出るのが安全かもしれない。


 そう思って俺は地下水路から出て、その木の蓋を閉じる。


 とりあえず俺は近くの樽を持ち上げて、それを地面に投げつけた。

 ガシャンと云う音と共に樽は割れ、中から赤い液体が飛び散った。

 匂いからしてワインだろう、地面はワインでビショビショになってしまった。


【何やってんだ!】


「一回やってみたかったんだよ」


 おっと、そんな場合じゃなかった。

 シャーラを探さないと。


 俺はとりあえずルルに教えられた、シャーラが捕まっている可能性のある場所を、虱潰しに回っていこうと思う。

 ルルによると、あの場所で例の箱にシャーラが閉じ込められてる可能性は低いらしい。

 なぜなら俺が助けに来ることは考慮されているはずだから。

 なので、シャーラは比較的守備の厚くできる場所にいる可能性が高いらしい。


 その点を考えると、ルルに頼んだ方が明らかに良かったのだがそれでも俺は自分で助けに行くことを選んだ。


 まあここでぶっちゃけると、理由もなくそんなハイリスクなことをする訳じゃない。


 二度とシャーラを誘拐しようと思えないくらい、とんでもないことをしてやる。

 そんな密かに立てた計画を実行するためだ。


 俺はその部屋を出て、城の廊下を気配を消しつつ進んでいく。


 それにしても城の中が慌ただしい、兵士達の怒声や叫び声が度々聞こえ、廊下を走っていく兵士達も多い。


 その度に俺は隠れないといけないのだ。

 今も兵士達から隠れるために、俺は城の食品庫らしき巨大な部屋に身を潜めていた。

 干されていた干し肉を齧りながら、俺は扉の隙間から通り過ぎていく兵士達を見る。


【なんかあったっぽいぜこりゃァ】


「だろうな。でもおかげでシャーラ救出が楽になるかもしれない」


 兵士達が通りすぎるのを確認すると、俺は食品庫から出ようとした。


 そんな時、ふと後ろから声が掛かった。


「やあ」


 鞘からティルフィングを即座に抜き、俺は振り返る。

 するとそこにいたのはあまりにも予想外な人物だった。


「……よぉ、ライン」


 積まれた袋に凭れながら立っていたのはリョナ専のトレジャーハンター、ビンセント・ラインだった。



「レイヤ、久しぶりだね。そして奇遇だ」


 相変わらずのスカした態度と、そのイケメンスマイル。

 すぐに分かった。

 侵入者ってのはこいつだ。


「なんでこんな所にいるんだよ。リョナ野朗」


「宝物を狩りに来たのさ」


 宝物……。もしかしてシャーラを狙ってたりするのだろうか。


「そんな構えないでくれよ。俺のターゲットはレイヤの目的とは被ってないから」


 ラインは両手を上げて言った。

 言葉からして、俺の目的……シャーラ奪還のことをやっぱりラインは知っているみたいだ。

 そしてこいつは別の目的でここにいるらしい。


「信用できねーよ」


 俺はそう言ったが、ティルフィングを鞘に納めた。

 ここで争う意味もメリットもないからだ。

 それに、こいつならシャーラの居場所だって知ってるかも知れない。


「だろうね」


 ラインは苦笑して肩をすくめる。

 そしてラインは続けて言った。


「こんなところで会ったのも何かの縁だ。

 レイヤ、またちょっと俺と組んでみないかい?」



ーーー



「で、俺達の現在地がここ」


 ラインはそう言って、広がる城の地図の、丁度俺達がいるらしい食品庫を指差した。

 俺が頷くと、ラインは続けた。


「で、おそらくシャーラちゃんが囚われている場所が、ここだ」


 次にラインは城の地図の2階にある小さな小間に指を持っていく。


「なんでここにシャーラがいるって分かるんだ?」


 地図を見ていた俺はラインの顔に視線を移す。


「俺は一度見つかっちゃったんだよね。

 その際逃げ回ってると、その部屋だけやたら守備が厚かった。

 それだけ守りたいものと言ったらもうシャーラちゃんしかいないだろ?」


 ラインの言葉には強みがあった。それだけ自信があるということだろうか。


「分かった、続けてくれ」



 協力してお互いの目的をクリアすることになった俺達は食品庫の奥にしゃがみ、こうして作戦会議をしている。


 協力してお互い目的をクリアするとは言ったが、俺はシャーラの居場所さえ分かればそれで良いので、ラインの目的とやらを手伝うつもりは当初少しもなかった。


 だが、やっぱり俺はこいつの目的を手伝うことにしたのだ。

 まあ手伝う手伝わないと言っても、ラインは俺がシャーラを救出する際に起きる騒動に乗っかればいいだけなので、俺がどう動くにしてもラインには好都合となるのだが。


 それでも進んで協力しようと思ったのは、ラインは丁度この国に対する仕返しになりそうなことを企んでいたからだ。


 そう、それはこの城の宝物庫に隠されてる大量の宝具のトレジャーハント。

 ラインによると、この国の主戦力は宝具らしい。

 宝具にもよるが、ティルフィングや必滅雷撃神槍(グングニル)のような攻撃特化の宝具も少なくない。それを奪われたらひとたまりもないだろう。


 宝物庫に隠されてる宝具の量は並大抵ではないらしいが、ラインはそれを根こそぎ頂くと言っていた。


 二度と俺に関わろうと思えなくなるような仕返しではないが、この国のお偉いさん方の神経をごっそり削ることはできるだろう。

 そう考えると口元が吊り上がってしまう。



「んじゃあ、とりあえずシャーラ助けてくるわ。お前的には俺が派手に暴れてくれたらそれでいいんだろ?」


 一通り城の中の説明と状況の説明を終えたラインを見て、俺は立ち上がってそう言った。

 それを見上げて、ラインも立ち上がる。


「そうだね、だけど俺もやっぱりシャーラちゃんの救出は手伝うよ」


「なんで?」


【二人で動いたほうがやりやすいんだろ】


「バレてたか」



ーーー



 俺達は今、城の廊下を堂々と歩いていた。

 そんなことができるのも、そこら辺にいた兵士から装備を奪ってそれを身に着けているからに他ない。

 兜も被っているので顔も見えないのだ。

 すれ違う兵士達は多いが、今のところバレてない。


 俺達は一直線にシャーラの捉えられてる部屋に向かっていた。


 そして2階の階段を上がろうとした時、ふと後ろから声が掛けられた。


「そこの二人、待て」


 俺とラインは「はっ」と返事して振り返る。

 すると、そこにいたのは騎士長だった。

 立派だった赤い髪の毛は丸められて坊主になっている。


「ぶふっ!!」


 俺はバリカンで刈り取ったことを思い出して、思わず吹き出してしまった。


「……お前の方、その腰の剣は支給されているものとは違うようだが……」


 騎士長は俺の腰のティルフィングを指差してそう言った。

 俺はなんて言い訳しようか考えたが、なんか無駄な気がしてきて考えるのをやめる。

 そんな俺を見たのか、ラインは小さな声で俺に言った。


「俺に任せて」


 ラインは言って、一歩踏み出した。


「支給された剣が切れてしまいまして、彼はあのような粗末な剣を使っております」


【誰が粗末な剣だァ!!!】


「おま……」


 ティルフィングが叫んだ瞬間、一瞬で状況を察したラインは胸元から短剣を取り出して、それを騎士長目掛けて投擲した。

 ティルフィングから声が聞こえたことに驚いていた騎士長はその短剣を肩に受けてしまう。


「レイヤ、行くよ!」


「了解!」


 俺達は邪魔な兜を脱ぎ捨てて、一気に階段を上がる。


「貴様かァァァァァァ!!!」


 騎士長は俺に気付いたのか、いきなり覚醒モードに入って俺を追いかけてきた。

 肩に刺さった短剣を抜き、俺に投げる。

 俺はそれをひらりと躱し、階段を数歩で駆け上がった。


 2階のシャーラのいる場所目掛けて俺とラインは走る。

 騎士長が俺達を追いかけてるのを見て、兵士達がわらわらと沸いてきた。


 俺は身体強化を使う。


 ラインを置き去りにして、俺は一瞬でシャーラのいる部屋まで辿り着いた。


 部屋の前にいた見張り達をふっ飛ばし、俺は鍵のかかったその部屋を無理やりこじ開ける。


 そしてそこで目にしたものは、少し俺の予想とは違っていた光景だった。


 確かにシャーラはそこにいた。

 だけど、シャーラはベッドでゴロゴロしながら本を読んでいたのだ。


「あっ、レイヤ」


 シャーラは入ってきた俺に気付いたのか、本から顔を上げた。

 囚われてるのだから、てっきり酷い目にでもあってるのだと思っていたのだがなんだこの優待遇は。


 俺は張り詰めていた気が抜けてしまった。シャーラを見つけたら抱き締めてやるくらいの勢いだったのに……。


「ハァ、なんだよこれ……」


「助けに来るの遅すぎです」


 シャーラはそう言ってベッドから下りて、俺の所まで来た。

 部屋の外からドタドタと兵士達の足音が近づいてくる。


【かァーなり心配してたんだぜ、こいつ?】


「ホント心配したぜ……」


「……ごめんなさい」


「何であやまってるんだよ。

 まあいい、とりあえず逃げるぞ」


 俺はシャーラを抱き上げる。シャーラも分かってたかのように俺の首に手を回した。



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