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ルルハート

 ルルがゴネて仕方なかったので、結局おぶって走っている俺。


 荷物が邪魔だったから、宝具と貴重品が入ったカバン以外は捨てた。

 そして残ったそのカバンもルルが背負ってくれているので俺はかなりのスピードで走ることができている。


 俺は身体強化が切れるたびにアトラクトして全力で走る。

 その度に、身体強化の持続時間が少しずつ増えていった。


 金髪が言ってた通り、魔法は熟練度によってその威力が変わってくるようだ。


【ファァァァァァァァ!!!】


「あーーーーーー!!」


 何が楽しいのか、こいつらは声を張り上げて叫んでる。

 大草原を駆けているうちに、俺も叫びたくなったけどやっぱりやめた。


 それにしても速いな俺。

 周りの景色がどんどん後ろへ消えていく。


 俺は川も何度か飛び越え、日が真上に来るまでひたすら走り続けた。




「ハァ、ハァ、ちょっと休憩……」


 流石に疲れた俺は、次に現れた川のほとりで止まって休憩することにした。

 ティルフィングとルルを下ろして俺も地面に座り込んだ。


【かなり進んだんじゃねェか?】


「でも王都まではまだ遠いよ。

 あの山越えないといけないし」


 ルルはそう言って前の目の前の山を指差す。


「マジかよ……」


 俺は額の汗を拭ってから立ち上がると、川に向けて歩き出した。

 そして川の水をいくらかすくって飲み、また戻ってくる。


【ここら辺りからなら転移魔法使えるンじゃねェの?】


「んー、ここじゃ無理かも……。

 どこかの村にいけば使えると思うけど……」


 さっき通り過ぎた時に言えや……。


 しかしかなり前に通り過ぎたし、わざわざ戻るのも面倒だ。もうあの山を超えるしかない。


 そんな時、俺の腹がグゥーと鳴った。

 そういえばいつからか分からないけど何も食っていない。


「腹減ったな……」


「私もだぁ……」


【川の魚でもとったらどうだ?】


 ナイスアイディア。


 俺はティルフィングを手にとって、川まで再び歩いていった。


 川はそんなに深くなくて、膝まで浸かるくらいだ。

 水温は冷たいなんてもんじゃないが、魚をとるために耐える。


 俺はティルフィングで水の中の魚を一刀両断して捕まえる予定だったが、ちょっと無理っぽいのでネットを創造した。


 これで囲い込み漁という訳だ。やり方知らないけど。


「ルル、そこで見てないでちょっと手伝えよ」


「うん、でも私ならそんなことしなくても捕まえられるよ?」


 ルルはそう言ってこちらまで歩いてきて、ネットを持つ俺の横に立った。


「……どうやって捕まえるんだよ?」


「こうするの」


 なんとルルはすぐ下を通った魚をいきなり手づかみした。

 そして掴んだ魚を陸に放る。


「すげぇ!」


【おお!】


 なんだ今の早業は。

 見えたけど、俺にはできそうにない技術だった。


「どうやったんだよ?」


「水流を操って魚を誘い込むの。

 こんなこともできるよ」


 ルルはそう言って得意げに水芸を俺に披露した。

 ルルが操る水は宙に綺麗に舞ったり、いろんな形になったりして芸術的だった。

 すっかり魅入ってしまった。

 さすが水帝なだけある。


「マジですげぇ……」


 なんか感心してしまった。

 どうしてかはわからないけど、すごい魔法を見せられるより、こういった魔法を見せられた方が凄いと思えるのだ。


「えへへ……」


 ルルは頬を赤らめて照れくさそうに笑った。

 その笑顔はちょっと可愛かった。


「あと数匹捕まえてくんね?」


「分かった」



ーーー



「うまいわこれ、シャーラにも食わせてやりたいぜ」


 俺は焼いた魚を骨ごとバリバリいきながらそう言った。

 ルルは小さい口で魚を頬張っていたが、急にその口を止めた。


「ん、どうしたよ?」


「……シャーラって、あの宝具のこと?」


「ああ、そうだけど。それがどうした?」


「レイヤ、その人のことしか考えてない……」


 いや、そんなことねぇよ。

 と言いかけた口が止まった。


 ルルに言われて気づいたが、俺はシャーラのことばっか考えてるようだ。

 こうしてる今もこんなことをしてていいのかとか思えてきた。

 シャーラが苦しい思いをしてるかもしれないのに、俺は魚なんか食ってる。


「……そうだ、行かないと」


「……」


【大変だなァ、レイヤも】




 次の日の、丁度朝日が登る頃に俺達は王都に着いた。



ーーー



 王都周辺は兵士の見張りが強化されていた。

 俺は城から少し離れたところの丘からその様子を見ていたのだが、中々難儀しそうである。


 だが、その前にしとかないといけないこともあった。


「ルル、お前はどうすんの?」


 後ろに立つルルの方を向いて、俺は尋ねる。


 ルルは水帝だ。

 ここでお別れになるのは確実なんだが、ルルはこれからどうするのだろうか。

 やはり、改めて俺の敵となるのだろうか。

 成り行きとはいえ、ちょっと仲良くなってしまったわけだから、そうなるのは俺としても不本意だ。


 ルルは俯いている。


 もしかすると俺と同じことを考えてるのかもしれない。


「私は……」


 ルルは口を開いてそう漏らしたが、その後の言葉は続かなかった。


「この際言わせてもらうけど、お前んとこの国、大ッ嫌いだわ」


 その理由のほとんどはシャーラ連れてかれた怒りからきていた。

 魔法祭、学園生活が強制シャットされたことにも腹が立っている。


 俺の直球にルルは俺の顔を見上げて悲しそうな顔をした。

 その表情のせいで俺の心には罪悪感が生まれる。だから俺は耐えきれずフォローを入れた。 


「ルルのことは別に嫌いじゃないぜ?」


【卑怯だなァ】


 ルルはまた俯いてしまった。

 ぶっちゃけこの状況はどうしようもない。

 お互い割り切るしかないのだ。


 そう思っていた所で、ルルからとんでもない言葉が発せられた。


「私は……、レイヤを手伝う。

 レイヤの、力になりたい……」


 俺は耳を疑った。

 まさか最初の問に対して、そんな返事が返ってくるとは思わなかったからだ。


【ヒュー!】


「うるさいティルフィング。

 ……本気で言ってんのか?」


 俺はティルフィングを軽く小突いて、ルルの目を見た。

 ルルはすぐに目を逸らしたが、確かに頷いた。


「……なんで?」


 俺はさらに尋ねた。

 たった二日くらい一緒にいただけで、そこまでされる絆ができたとは俺には思えなかったし、実際俺にはそこまで打ち解けたつもりもなかったのだ。

 だからルルの決断は本当の本当に驚きで、少し疑っている。


「だって、レイヤと一緒にいるの楽しかったし……」


「それだけ? それだけで国を捨てんの? その自覚あるか? 国を捨てようとしてんだぜお前?」


「……うん」


「顔上げろ」


 俯いたルルにそう言って、俺はルルと目を合わせた。


 国と俺を天秤に掛けて俺を選んで……、そしてその理由が一緒にいて楽しかったからときた。


 確かにルルが俺の味方をしてくれるってのはありがたいし、そう言ってくれたのは嬉しいんだけど、正直そんな理由だと困るのだ。


「悪いことは言わない。やめとけって」


「でも……」


「なに? ホントに俺に惚れちゃったの?」


 ルルが食い下がるもんだから俺はちょっと茶化してそう言ったんだけど、ルルは黙り込んでしまった。


 しばらく沈黙が続いた後、ルルは頬を赤らめて口を開いた。

 そして俺はまたルルの言葉に驚くことになる。


「……うん、好き……」


【ヒュー!】


 信じられなかった。俺は思わず聞き返す。


「……マジで?」


「……うん。だからレイヤの役に立ちたい……。一緒にいたい……」


 その言葉に、不覚にも俺は心臓の高鳴りを感じた。

 断言しよう。こんな可愛い娘に、そんなことを言われてドキッとしない男はいない。

 そしてここで「それ吊り橋効果だよ」とかデリカシーの無いことは流石の俺も言えなかった。


 一緒にいたいってことは、シャーラを助けた後も俺と旅をしたいってことだろうか。


「この後、俺がシャーラを助け出せたらお前はどうしたい?」


「……連れてって欲しい」


 すっかりしおらしくなってしまったルル。

 俺はなんて答えたらいいかわからなかった。

 俺に加担することがバレたりしたら、ルルも当然追われる身になる。

 国を捨てたことで汚名も着せられるだろう。


 俺の返事次第でルルの人生が変わるのだ。

 だから、俺は言ってやる。


「オーケー、ついてこい」


 その言葉でルルは顔を上げた。信じられないと言った顔だ。


「……ほんと?」


「ああ」


 俺が笑顔を見せると、ルルの顔もパァと明るくなる。

 そしてそのまま勢い良く俺に抱きついてきた。


「レイヤありがと!」


 ハーレムも夢じゃないかもしれないな。

 俺は腕の中のルルの髪を恐る恐る撫でて、そんなことを思った。


 だが、なによりもとりあえずはシャーラだ。

 国内に簡単に入ることができ、その上水帝という立場にあるルルが手伝ってくれるなら救出のリスクもかなり減るだろう。


 俺は城を見据える。


「じゃあルル、さっそく作戦会議をしよう。手伝ってくれるんだろ?」


「うん!」


 そして俺達はシャーラ救出の手立てを立て始めた。

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