決着、そして
『クラス0、ボロボロになりながらもここでアンカーにバトンタッチ!!
しかし2周以上の遅れをとっています! これはツラい!! そしてその後ろからは生徒会長! すでに後続と差をつけていてあと一周強!!』
駆け出した俺は大きく息を吸う。
そして息を吐き出すのと同時に俺が本気で地を蹴ると、土が高く宙に舞い、周りの景色が高速で過ぎ去った。
『……え?』
歓声が止む。
誰もが唖然としているのだろう。
俺は加速に合わせて体を前に倒し、風を切って土を踏む。
比喩で一瞬と呼べる速度で、俺はコーナーに差し掛かった。
バルジャンリレー最大の難関は、他クラスがゴールする前に、ある程度の余裕を持って俺にバトンを託せるかどうかだった。
そう、あいつらはやってくれたのだ。
アンカー達は全員速いが、身体強化を使った俺が全力で走れば、奴らが1周する間に3週くらい抜かすことだってできるはずだ。
実際、もうあの生徒会長をかなり引き離している。
俺は二個目のコーナーに、創造で硬い土の突起を創り出し、それを蹴って減速せずにコーナーを曲がり切った。
直線、目の前に見えた集団の外側を秒で抜き去る。
『あ、……ありえない!!
クラス0!! レイカイドー・レイヤ選手!! ここに来て別次元の速さをみせている!! 思わず私も一瞬仕事を忘れてしまいました!!
いや、しかしこれは速すぎる!! 何者なんでしょうか彼は!!』
そこで闘技場が沸いた。今までに無い程の盛り上がりを見せ、その歓声はもはや轟音と言っても差異はないくらいだ。
俺はその先に見えた生徒会長すらも抜き去り、一周の遅れを取り戻す。
事の最初に気付いたのは生徒会長だった。
速度を計算してこのままだと俺が優勝することを悟ったのか、生徒会長は俺に向けて魔法を連発した。
が、魔法の飛来速度より俺の方か速いのが現実。全て当たらず闘技場の壁に突っ込んだ。
『速い速い!! かつて彼より速い人間を見たことがありません!! 目で追うのもギリギリだァァァ!!』
他の奴らも俺を止めるべく魔法を乱発射させてきた。
前横後ろから飛んでくる魔法を全て躱し、俺は前に進んでいく。
俺を止めれないと分かった生徒会長含む他クラスの奴らは、魔法のレベルをどんどん上げていき、最終的に光線のような魔法をビュンビュン飛ばしてきた。
『上級魔法の連発だァァァ!! その全てがレイカイドー選手に集中砲火!!』
俺はその光線すらも、速度を落とさず全て紙一重で躱した。
コース外でランド達が俺を声を張り上げて応援していた。
その期待に答えるべく、俺はさらに加速する。
『まだまだ速くなる!! 誰も彼を止められないのか!!!』
横からまた新たな火の玉が飛んできた。今度のはかなり速い。その先に走っていたのは生徒会長。あの人の魔法だろうか。
だが、かわせないことはない。俺はそれをくぐり、地を蹴る足の力は緩めない。
しかし、躱したはずのその魔法は俺を追尾するよう戻ってきた。
躱すたびに速くなって俺を追うもんだから、俺はそれを生徒会長目掛けて蹴り返した。
パンッと音がなる。今のは俺の蹴りが音速を超えた音だ。
少し減速することになったが、蹴り返したそれは何倍もの速さになって生徒会長の元へ飛んでいった。
生徒会長はそれを本当にギリギリで躱す。それのせいでよろけてかなり減速していた。
飛んでいった魔法は闘技場の壁にぶち合ってその壁に大きな穴を開ける。
『ああー!! ここで3‐D脱落ゥゥ!! 1‐Bもだァァ!!』
魔法を俺に向けて放っていく内に魔力を無くして脱落していく選手が現れだした。
俺が2周目の遅れを取り戻す頃には、残った選手は俺を含め、6人ほどになっていた。
勿論、俺を妨害する魔法も少なくなっていくので、俺の速さを抑えることはもはや不可能となっていた。
たまに生徒会長が繰り出す魔法だけがかろうじて俺の妨げになるくらいだ。
生徒会長はは後半周弱でゴール。俺はあと一周。
順位的にいうと、すでに2位だ。
『生徒会長!! このまま逃げ切ることができるか!!』
後ろではどんどん脱落していき、今残っているのはたったの三人。
全ての選手が生徒会長を一位にする為に散っていったが、優勝はクラス0だ。
俺の体力的にも限界が近付いている。だけど、あと一周はまだ加速できる。
俺は太ももが鉢切れそうになるが、さらに加速した。
『ここでまた加速するかレイカイドー選手!!!』
俺は呼吸を荒くしながら全速力を超えて走る。
ぐんぐんと生徒会長との距離が縮まっていく。
その時、地面が爆発した。
抜かった。そんな魔法の使い方もあるのか。
俺は生徒会長の背中を見る。
『爆発!! 生徒会長のトラップかァァァ!! さすが生徒会長です!! 最後に魅せる!!
……いや! 爆炎の中から再びレイカイドー選手!! 減速どころか加速している!! あれでも止まらないのか!!』
驚いた様子で生徒会長が振り返っていた。
俺は爆発の勢いも利用したのだ。
結果、爆発は俺をさらに加速させる事になった。
破けた靴を脱ぎ捨て、裸足でコースを駆ける。
闘技場は絶頂。歓声の中、俺達は駆ける。
だが、この勝負はギリギリの熱い勝負なんかにはならない。
ゴールまでの距離を考えると、俺の独走は決定しているのだ。
『レイカイドー選手!! とうとう生徒会長を追い抜いたァァァ!!』
激しく息をする。汗を手で拭き捨て、その手を振り地を踏む。
が、急に体から力が抜けた。
「……あ?」
理由は一つ。
身体強化が切れたのだ。
『レイカイドー選手、突然の減速ゥゥ!!
これは身体強化の魔法が切れたかァァァ!!?』
俺の減速の隙に生徒会長が俺に追いついた。いや、少し抜かされる。
俺は抜けていく力に構わず、足に力を込めた。
なんとか生徒会長に並ぶ。
『接戦だァァァ!! レイカイドー選手!! 身体強化なしでこの速度!! どうなっているんでしょうかァァァ!!
しかし激戦!! これは熱い!!!』
口の中の肉を噛み切って、全身の筋肉を奮起させる。
ゴールまであと直線。
俺が生徒会長より少しリードしている。
するとその時、俺のコースの目の前に大きな土の壁が現れた。
『2‐A!!! ここで土属性の中級魔法!! ウォール!! 生徒会長にとってはファインプレーだァァァ!! しかしここで力尽きる!!』
2‐A、残った三人目は風紀委員のクラスの奴だったのか。
ゴール直前の妨害。しかも接戦の中。
こうなったら俺も生徒会長の妨害をするしか……いや、ここはやはり速さで差をつけるべきか。
俺は最後に全身全霊を振り絞って、両腕を振り子のごとく振る。
猟犬のように、一筋の弾丸になって走った。
心臓が張り裂けそうに脈打つ。肺も急速に膨縮を繰り返し、悲鳴をあげていた。
壁が近付いて来るが、構わず加速する。
そして突き抜けた。
『レイカイドー選手!! 壁を突き破ってリード!!
ゴールは目の前!! 生徒会長との差も僅か!! どちらが勝つのかァァァ!!』
生徒会長も加速し、俺の横に再び並ぶ。
あと10mもない距離。
そして白いテープを先に切ったのは。
俺だった。
「ッシャオラァァァ!!!」
拳を強く握る。
『一位は……、一位は!! クラス0ォォォォォ!!!!!』
大歓声。
べバリー、ランド、ラルフが俺の元へ駆けつけて来た。べバリーに関しては足を引きずっている。
「やったなァオイ!!」
「さすがレイヤ!!」
「お、お!」
三人と強いハイタッチを交わし、俺はその場に座り込んだ。
「ハァハァ……、やっべぇ……、ゴリ疲れた……」
『誰がクラス0が勝つと予想したでしょうか!!
闘技場に鳴り響くはクラス0コール!!
凄い戦いでした!! そして同時にレイカイドー選手は、大会新記録を大幅に更新しました!!』
どこから広がったのか知らないが、いつのまにか闘技場ではクラス0コール。
生徒達は悔しそうな顔をしていたが、一般席ではスタンディングオベーションの嵐だった。
それに答えるべく、俺は立ち上がって手を振る。
そんな時だった。
「レイカイドー・レイヤ!
君に、決闘を申し込む!!」
俺が後から掛けられたその声は、生徒会長のものだった。
振りむいてその姿を見ると、生徒会長はもう息切れなんてしてなくて、あれだけ走ったというのに余裕の表情でそこに立っていた。
回復魔法かなんかでも使ったのだろうか。
とにかく俺も立ち上がった。
この体、やはり回復が早くて俺もすでに呼吸は整っている。
「決闘? なぜですか?」
「今負けたからとかそういうのではないよ。
勝敗がどうであれ、バルジャンリレーが終われば君に決闘を申し込もうと思っていたんだ。
君が強いのは知っていたしね」
そう言って生徒会長が俺の方に歩いてくる。
『えーと? これはレイカイドー選手と生徒会長の間に不穏な雰囲気が……
一体どうしたんでしょうか……』
俺は三人を下がらせて、ついでになぜか近寄って来た風紀委員を眼力で牽制した。
「俺はなぜ決闘をしたいのか聞いたつもりだったんですけどねぇ……」
「それなら君もわかってるだろう?
シャーラちゃんを賭けて、だ」
生徒会長のその一言で、周りにいた選手たちがざわついた。
その一方で俺はため息を吐く。
そして闘技場を見渡して、シャーラを探した。するとすぐにシャーラを見つける。
シャーラも俺の方を見ていて目が合った。
この距離で目が合うとは思わなかったが、シャーラもズバ抜けて目が良いのを思い出す。
『たった今、情報が入ってきました!!
どうやら生徒会長は1‐Aの女子生徒、シャーラさんを賭けて決闘を申し込んだらしいです』
謎の歓声。そしてなぜか実況の人が実況席を超えてこっちまで走ってきた。
その手にはマイクのようなもの。拡声器だろうか。
『引き続き戦況は私が伝えさせてもらいます!!』
俺達の近くまで走り寄ってきた実況は手を空高く掲げてそう言った。
そして近くの実行委員みたいな生徒を呼び寄せて、なにやらコソコソ耳打つ。
しかし俺の耳にはそれが聞こえてしまった。
実況が耳打った内容は「シャーラという生徒を探して、その近くに拡声器を持ってスタンバっとけ」との事だった。
「で、決闘を受けてくれるのかな?
まあここで受けない男はいないと思うけど」
生徒会長はだんまりだった俺をそう言って挑発する。
だが、俺はこの決闘を受けるつもりはなかった。
「悪いけど遠慮しときますわ。
なんせ女は賭けるもんじゃない」
つか賭けってのは所持物を賭けるもんだろう。勝手に賭けられるシャーラの身にもなれってんだ。
いや、むしろこんなイケメンに勝手に賭けられら、女は嬉しいのかもしれない。
『聞きましたか皆さん、今の言葉を!!
女は賭けるもんじゃない!!』
一般の観客席からは拍手。生徒サイドからはブーイング。
俺は一般客を完全に味方にしたらしい。
でもさすがに生徒達の間では生徒会長の人気が根強い。
「逃げるのかい?」
踵を返して魔戦争の準備をしに教室に戻りかけたけど、やっぱり俺は生徒会長に向き直った。
「ハァ……、仕方ないなァ」
観客たちも何か期待してるだろうし、エンターテイナーな俺は期待に答えることにしたのだ。
それに、言い分はあってもやっぱり逃げてるようなもんだ。
そんなのはカッコ悪い。男としてここはキメておこう。
俺は実況からマイクを奪う。そして大きな声でシャーラの名前を呼んだ。
『シャーラ!!』
『は、はいっ!』
驚いたことに、返事が返ってきた。
シャーラを見ると、その手にはマイクが握らされている。
なるほど、さっきの実行委員、仕事が早い。
『ここで噂の美少女シャーラさんの登場です!! 皆さん注目!! 彼女は生徒席の手前から三段目、右の第一ゲートから横に三列目の位置に立っています!!』
実況はどこから取り出したのか、また拡声器を手にしていた。
実況のおかげでシャーラに注目が集まる。
シャーラはあたふたしていた。
「なにをするつもりなんだい?」
生徒会長のその問いには行動で答える。
俺は息を吸い込む。
その時だった。
上空に2つの魔法陣が現れたのだ。
喉元まででかかっていた言葉を止めて、俺は空を見上げる。
『上空にいきなり2つの魔法陣が現れました! 型からして転移魔法でしょうか! こんな時に誰だァ!?』
「……誰か来る」
後ろの生徒会長の呟きと実況の言葉からして、あれは転移魔法に間違いないのだろう。
しかし一体誰が……。
そう思って凝視していると、そこに現れたのは見覚えのある真紅のローブと深緑ローブを着た二人組だった。
気づけば俺はシャーラの方へと走り出していた。
拡声器を投げ出し全力疾走。
『帝……! 帝です! 風帝と炎帝が来ました!! しかしなぜ!?』
「見つけたぞ! 大罪人!!」
上にからそんな怒声が聞こえたと思ったら、何かが俺の頬をかすめた。
スパッと頬が切れて、そこから血が流れる。
ヒュンッと言う音で、何かが近づいてきているのが分かった。
俺は体を逸らしてその何かを避ける。
今ので攻撃の正体が分かった。
風だ。
風をするどい刃にして放ってきているのだ。
そんな真似ができるのは風帝しかいない、俺は上空を見上げた。
すると再び襲い掛かってくる無数の風の刃。
目を見開く。
風の刃はほとんど見えないため、感覚を頼りにそれを躱していく俺。
しかし全部は完全に躱し切れず、いくらか俺の体を切り刻む。
「チィッ!」
次に飛んできたのは小さな炎の玉。
いや、飛んできたと言うのは語弊がある。
雨のごとく、それらは降ってきたのだ。それも恐ろしいスピードで。
驚いた俺は横に飛び退く。
「……っ!」
衝撃。俺が飛び退いた瞬間を狙って、いつのまにか地上に降りてきていた風帝の飛び蹴りをもらう。
それは横腹にモロにヒットし、俺は吹っ飛ばされる。
闘技場の壁まで吹っ飛ばされた俺は、体をひねって壁を蹴り、華麗に空を舞って元の場所に着地した。
そして炎帝風帝と睨みあう。
『これは……どういうことでしょうか!
レイカイドー選手がいきなり二人の帝から攻撃を受けています!』
ざわつく闘技場。
俺もまさかな展開に驚いていた。
シャーラに視線を向ける。シャーラは立ち尽くしていて、どうしていいか分かってなさ気な様子だった。
だけど、今どういう状況かは分かっているみたいだ。
そう、帝達が俺とシャーラを追ってここまで来たことである。
「やはりここに来ていたか、大罪人。どうやら情報は本当だったようだな。
魔力源泉はどこだ。あれは貴様が持っていていい物ではない。
それと、お前の首にフィオリーノ金貨50枚強がかかっているのは知っているか?」
『大罪人!!? 今、炎帝は確かにレイカイドー選手のことを大罪人と言いました!!
それも! フィオリーノ金貨50枚強の賞金首!!
SS級犯罪者クラスです!!』
舌打ちをする。
大罪人ということがバレればもうここにはいられない。
いや、そんなことよりこの場をどうやって切り抜けるかが問題だ。
VIP席に座る学園長とパドルも俺の顔を見て驚いた顔をしていた。
炎帝と風帝の動きに気を付けながら俺は思考を巡らせる。
どうすればいい?
シャーラを連れて逃げるにしても、あの二人の追撃から逃れられる可能性は低い。
生徒会長を使うか?
いや、ダメだ。何となくわかる。あいつは使えない。
俺がなんとかするしかない。
俺は身体強化を使う。
そして駆け出した。炎帝と風帝を置き去りにする。
二人は俺のスピードに反応していたが、体がついてくるのは一歩遅れたようだ。
俺はそのままシャーラの元へと駆ける。
その時、俺の目の前に瞬間的に移動してきた人物がいた。
パドルだった。
「悪いなレイヤ、仕事だ」
「どけェ!!」
俺は体を捻って、パドルの首めがけて蹴りを放つ。
パドルはそれに反応して手で受けたが、威力的に横へ吹き飛んだ。
俺は地をけって二階席に飛び上がる。周りの生徒は悲鳴を上げて逃げ出した。
「シャーラ! どうやら学園編は終わりらしい!」
シャーラの所までたどり着くと、俺はそのままシャーラをお姫様だっこする。
「レイヤ! 後ろです!」
すぐに振り向くと、後ろから何かが飛んできていた。
俺はそれを打ち返すべく足を振り抜く。
しかし、その“何か”に触れた瞬間、景色が変わった。
「……あ?」
驚愕。俺は闘技場のど真ん中に立っていた。
手の中にシャーラはいない。
『動きに全然ついていけません!!
今何が起きたのか私にも全くわからない!!』
俺はシャーラのいた二階席を見た。
すると、そこにいたのはシャーラを抱える風帝。
「なッ……!?」
入れ替わっている、場所が。
すぐに直前のことを思い出した。俺が蹴ったあの“何か”は、宝具か。
気絶させられたのだろうか、シャーラの手はだらりと垂れていて意識はないようだ。
風帝の立つ足元に魔法陣が展開される。
そしてその体は光の膜に覆われる。もちろんシャーラもだ。
「……おい、やめろ……! 頼む、待ってくれ!!」
そしてその姿は光に包まれ、やがて消えた。
「あ……」
「魔力源泉は返してもらったぞ。後は貴様を殺すだけだ」




