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ド底辺から見下して

「いよいよだな」


 俺はそう言って靴紐をギュッとしめる。


「ああ」


「そうだね」


「う、うん」


 今、俺達は闘技場の入場口にいた。

 ウォーミングアップしている内に棒倒しは終わり、集合の放送がかかったのだ。


 俺は靴紐を結び終えて立ち上がった。

 さすがの俺も少し緊張している。

 しかし、俺がそんな様子を見せるわけにはいかないので余裕っぽい笑みを顔に張り付かせた。



「わざわざ醜態を晒しに来たか」


 ふと横からそんな声を掛けられたが、俺は振り向かなかった。

 さっきからずっと俺達のことを睨んでいたから分かる。あのときの風紀委員さんだ。


 俺が無視してストレッチをしていると風紀委員は俺の肩を掴んだ。


「バルジャンリレーは妨害もありだ。覚えておけ」


 それにもなんの反応もせずに俺は屈伸をする。

 さっきから周りでクラス0の悪口っていうか、けなすような言葉ばかり聞こえてくるので少し気分が悪いのだ。


 なので俺が無視を続けていると、風紀委員は舌打ちをしてAクラスの集まりの方へ戻っていった。


 俺はそれを横目で追う。

 すると、そこに生徒会長がいることに気付いた。

 奴と目が合う。敵意むき出しの視線だった。しかし、その敵意の意味合いは他の奴らとは違う気がする。

 俺が視線を逸らすと、今度は生徒会長が俺の方に歩いてきた。


「君、クラス0だったのか。

 名前を聞いてもいいかな」


 そんな生徒会長の姿を見て、周りがざわめき始める。

 俺は前を向いたまま答える。


「レイカイドー・レイヤです」


「……覚えておくよ」


 生徒会長はそう言うと、踵を返す。


「おい、お前なんで生徒会長に目付けられてんだよ」


「ああ、ちょっとね……」


「ちょっとね、じゃねぇよ。あんな攻撃的な目をした生徒会長、初めてみたぜ」


 さっきの俺と生徒会長のやりとりを見てか、周りの奴らもひそひそそんな話をしていた。


「てかそろそろ入場じゃね?」


 俺はそう言って闘技場をのぞき込んだ。棒倒しで使った棒などは片付けられ、新しい白線も引かれている。


『それでは入場してください!』


 思った通り、そんな放送が流れた。

 前にいる列がゆっくり進んでいく。俺達も、それに続いた。


『さぁやってまいりましたバルジャンリレー!

 毎年多大な盛り上がりを見せるバルジャンリレー!

 一応ルールの説明をしておきますと、この闘技場に引かれた白線の外側を一人に付き一周、アンカーは2周を走り、より早くゴールに辿り着いたクラスが勝ちです!

 しかしこのレース、3学年合同で、しかも妨害あり!

 どんなアクシデントが起こってもおかしくない!! つまりどのクラスが勝ってもおかしくないと言うことです! 去年はなんと3年のCクラスが一位でゴールしました!

 今年も白熱した戦いをみせてくれぇ!!」


 俺達が入場すると、実況が闘技場を盛り上げる。

 バルジャンリレーは魔法祭の目玉競技でもあるので、すごい盛り上がりだ。


 後ろの三人に視線を向けると、案の定ガチガチになっていた。

 俺は歩きながら振りむいて三人に声をかけた。


「大丈夫だ」


「なにを根拠に……。

 情けないけど、俺怖ぇぜ……。俺達はクラス0だからきっと妨害も狙われるんだ」


「大丈夫だ。死なない」


「そりゃそうかもしれねぇけどよ……」


 べバリーはすっかりビビってしまっていた。

 ランドとラルフの顔も見ると、緊張してしまっていて声も出せない様子である。


『さて、この競技の実況にはなんとゲストを呼んでおります!

 エゼグィー・グロワール先生です!』


『どうも』


 こいつらの緊張が解けなくて困っていたところで、実況から聞き覚えのある声が聞こえた。

 俺達は驚いて実況席を見る。

 するとそこには金髪がいた。


「あの人、なんであんなとこに」


「わかんねぇ」


 入場行進はグルッと闘技場を一周する。俺達はもう半分のところまで来ていた。


『グロワール先生はこの学校出身で、バルジャンリレーにも三年連続出場しています!

 そして最速と謳われており、グロワール先生の出した記録は未だに破られていません!

 グロワール先生、気になる生徒とかいますか?』


『うーん、そうだな』


『やっぱり生徒会長のトレイル・スパイク選手ですか?』


 実況に聞かれて、金髪は闘技場の大歓声に負けず劣らずの大声で言い放った。


『レイヤ! べバリー! ランド! ラルフ!

 見せてやれ!』


 それだけ言うと、金髪は実況席を立って、どこかに行ってしまった。


『え? ちょ! どこに行くんですか! グロワール先生!!』


 俺達は顔を見合わせる。


「や、や、やって、やろう」


「そうだね」


「あの人、案外人情厚いよな」


 ハハハと4人して笑う。

 今ので3人の緊張もある程度解けたようだ。

 金髪、ファインプレーだ。


『えーと、急遽用事が出来たらしいので、グロワール先生は帰ってしまいました』


 実況はそう言ったが、金髪が闘技場の2階席に上がっていくのが見えた。

 あの人、あれだけ言うためにゲスト受けたのか。


『それにしても、グロワール先生が呼んだ4人はクラス0の選手でしょうか。

 しかしクラス0の点数は未だ0。

 この競技で初出場。しかも4人。流石に結果が見えているように見えますが……』


 闘技場で笑いが起きる。

 俺達の周りも笑っていた。


『気を取り直して!

 私的にはトレイル・スパイク選手が注目の選手ですね。

 3年のAクラス。猛者揃いで他クラスはどんな対策を練っているのか!

 そしてどのようにして生徒会長を抑えるのか! その辺り楽しみでもあます!』


 歩いてる内に、俺達はとうとうバルジャンリレーのスタート地点に立った。

 行進は止まる。

 すると、見知らぬ教師が前に立って、俺達に競技の詳しい説明をした。


「ランド、頼むぞ」


 第一走者であるランドの肩をポンと叩く。


「任せて」


 ランドがそう言うと、第一走者はスタート位置に立つよう、教師から指示を出された。

 ランドは俺達全員とハイタッチすると、スタート位置へと向かった。


『選手達がスタート位置に立ちました!

 総勢16人! 笛の音でレースが始まります!』


 16人が2列になって並んだ。ランドは二列目の一番向こう。

 その顔にいつものへらへらした余裕はなかった。


 小さな台に、教師が立つ。


「位置について、用意……!」


 そして、ピィーと笛が鳴り響く。


 途端に全員身体強化の魔法を使った。



「エクスプロージョン!!」



『おぉーっと!? これはいきなり派手な魔法が炸裂です!!

 煙で選手達が見えない!!』


 誰かは知らないがいきなり爆発魔法を使いやがった。

 その辺りに土煙が舞って、全員が隠れる。


 すると、一つの影がその煙の中から飛び出した。

 ランドだった。その手にはしっかりとバトンが握られている。


「っしゃあ!!!」


「いけランド!!」


『煙の中から一番に飛び出したのは、スケイル・ランド選手!! クラス0です!

 それを追って続々と選手が現れる!!』


 ランドは全速力で第一コーナーを駆け抜ける。

 すると、その横から無数の槍状の炎がランドに向かって飛んでいった。


『スケイル・ランド選手に襲いかかる無数のファイアーランス! やはり一位は妨害の最優先対象だ!』


 ランドはそれを飛び上がって回避。しかしその間に一人に抜かされた。

 後方から追いかける選手達は魔法を撃ちまくる。

 ランドはそれを躱していく内にどんどん順位が落ちていった。


 そして7位でランドが一周目を通過した。


『ここで、2周目バトンタッチ! しかしクラス0はこのまま2周目です!』


 他クラスはここでバトンタッチ。

 7位で通過したランドだが、一気に最下位まで落ちる。

 やはり一人2周が辛い壁だ。


 しかし最下位なら他クラスの妨害も受けない。

 後から奴らを追いかけた方が安全なのだ。


 そう思っていると、前方からランドに炎の玉が襲いかかった。

 ランドに避ける余裕は無く、顔にヒットして転がる。


「なぁッ!?」


 しかしランドはすぐに立ち上がって走り出した。

 顔半分は傷だらけになって、片目もつむっている。苦しそうな表情だった。


 後からゲラゲラと笑い声が聞こえたので、俺はハッとなって振りむく。

 ゲラゲラ笑っていた奴らは2年のAクラスだった。

 その中心には例の風紀委員。奴はこっちを見ていて、下卑た笑みを俺に向けていた。

 あいつがランドを妨害するように仕向けたのか。


「クソッ! 最下位を妨害する意味なんてないだろ!」


 べバリーが歯を鳴らす。

 俺も拳を強く握ってランドに視線を戻した。


『3周目バトンタッチだ!

 現在トップは3‐A、次に2‐A、その次に1‐Aです! 今年はAクラスが圧倒的だァ!! しかし他クラスもそこまで離されていません!』


 ランドは前方から来る妨害のせいで、かなり差が開いてしまっていた。

 しかしあと少しでラルフとバトンタッチだ。


「ラルフ、行ってこい。

 2周しっかり走れ」


 俺はラルフの背中をバシンと叩く。


「うん」


 はっきりとそう言って、ラルフはスタート地点に立った。

 ひょろひょろな背中だけど、なぜか頼もしく感じた。

 ランドは、最後に加速を見せてラルフにバトンを手渡す。

 そしてコース外に出ると、その場で倒れ込んだ。


『トップと半周の差が開いてクラス0、やっと一回目のバトンタッチ!』


 俺とべバリーはランドの所まで駆けつける。


「大丈夫か!」


「ハァ、ハァ、ゴホッ……!」


 ランドは話すのもままならないくらいに息を切らしており、目をキツく閉じてゼェゼェと呼吸していた。


「良くやった」


 俺はタオルを創造して、汗だくのランドの顔に被せる。

 そして俺はラルフの方に視線を戻した。


 ラルフは安定した走りだった。前から飛んでくる妨害の魔法にも冷静に対処して、しっかりと走る。

 前の方では爆発が起こったり、竜巻が起きたり雨が降ったり雷が落ちたりで大変なことになっていた。


『ここで3‐B、1‐Aを抜いたァァ

!! そのまま2‐Aも抜くか!?

 ここに来て接戦です! しかしまだまだ前半戦! 勝負はわかりません!』


 前方がクラス0の妨害どころじゃなくなったらしい。

 それを見たラルフは少しペースを上げた。

 しかしあのペースで2周目持つのだろうか。


 魔法の撃ち合いのせいで、コースはボコボコになっているのか、ラルフは何度も転びそうになっていた。


 観客は上位の接戦に大盛り上がりだ。常に歓声が上がりっぱなしである。


『3‐A、トップで4周目のバトンタッチです!

 後方もそれに続く!』


 上位がバトンタッチをする瞬間は、魔法の発動密度があがる。


『ここでバトンタッチミスを狙った魔法多発だァァ!!』


 そこで何人かがバトンを落としたり、転んだりする。ラルフは少し追い上げたが、すぐに離された。


 ラルフは半周離された状態を維持して2周目に突入した。

 しかし2周目に入った途端、やはりペースが落ちる。


「ラルフいけぇ!!」


 少し回復したランドが立ち上がってそう叫んだ。ランドはまだ肩で呼吸していた。寝てなんていられなかったらしい。


「あいつ大丈夫かよ……」


 べバリーはラルフのフラフラした走りを心配そうに見ている。

 待機している他の選手達も、白熱して白線ギリギリのところまで出て声を張り上げていた。


 周りを見て気が付いたんだけど、今あの風紀委員は走っていた。

 それも結構速い。


 しかし自分が妨害を回避するのに必死で、ラルフに妨害を加える程の余裕はないらしい。


「べバリー、そろそろだ。準備しとけ」


「ああ……」


「お前にかかってる。俺まで絶対にバトン届けろよ」


「任せろ」


 べバリーの背中をバシンと叩く。


「いってぇ!!」


「行ってこい!」


 そう言ってべバリーがスタート位置に向かうのを見送った後、俺はラルフに視線を入れ替えた。


 ラルフのペースはどんどん落ちていき、後からどんどん追い上げて来る上位陣との距離がみるみる縮まっていく。


『クラス0、これは一周遅れか!?』


「ラルフ! あと少しだ! 頑張れ!」


 ランドの叫びを聞いてかラルフのペースは上がる。

 しかし後ろのペースも上がり、とうとう抜かされてしまった。


 そして風紀委員にも抜かれる……と思った次の瞬間。


 ラルフは拳を思いっきり振りかぶって、風紀委員の顔面にその拳を叩き込んだ。


『っ!?』


 横に大きく転がっていく風紀委員。

 どこかから悲鳴があがったのが聞こえた。


『2‐A!! クラス0の妨害を受け、転倒!!! 後方のクラスにどんどん抜かされていきます!!』


 多大なブーイングが観客席の生徒陣から上がった。

 しかし俺はガッツポーズをする。


「ナイスだラルフ!! そのまま走れ!!」


 ラルフはそのままさらにペースをあげ、べバリーにバトンを届けた。

 そしてラルフはコースアウトし、そこで力尽きる。


 そこに真っ先に駆けつけたのは、ランドでも俺でもなかった。


 なら誰か? それはあとからバトンタッチした風紀委員だった。


「キサマァァァァァァ!!!」


 雄叫びを上げながら、風紀委員は倒れているラルフに殴りかかる。

 それを見た俺は地を蹴り、横から風紀委員を殴り飛ばした。もちろん本気で殴った訳じゃない。


「ぐぅ……!」


 吹き飛ぶ風紀委員。しかしすぐに立ち上がって、俺をキッと睨んだ。殺気がこもった目だ。


 地面に転がるラルフの激しい呼吸音が聞こえる。

 しかし奴もまた相当息を切らせていた。

 それでもラルフに殴りかかろうとしたのは、それだけ腹が立ったんだろう。


「こいつ! こっちは真剣にやってんだぞ!? 2位だったんだ!」


「お前だって妨害しまくったろが」


「関係ねぇ! ぶっ殺す!」


 風紀委員の足元に広がる魔法陣。

 風紀委員に加勢しに来たのか、他の2‐Aの奴らも沸いてきた。

 俺も構える。


『コース外で乱闘が起ころうとしています!! 誰か止めてください!!』


 ハッとなって俺は我に返った。

 今もべバリーは走ってるんだ。こんなのを相手してる場合じゃなかった。


「やめないか、君達」


 ちょうど俺が構えを解いた時に、後ろからそんな声が聞こえた。

 振り向くと、そこにいたのは生徒会長だった。


「生徒会長! しかし!」


「やめるんだ。ほら、魔法陣も消して」


 生徒会長にそう注意された風紀委員達はしばらく唸った後、魔法陣を消して引き下がった。


 あれだけ怒っていたというのにえらく簡単に引き下がる。それだけ生徒会長には逆らえない何かがあるということだろうか。


 俺は風紀委員達を一睨みすると、ラルフを抱えてランドの所に戻った。


「嫌な奴らだね」


「ああ」


 そう言ってラルフを下ろすと、俺はべバリーに視線を移す。

 べバリーは一周遅れのままで、多少遅れてるとはいえ必死に前の奴らを追いかけていた。


 あいつは元々足が遅くて体力もない。 

 だからすでにゼェハァしてて、よだれを垂らしながら腕と足を動かしていた。


 離されては追いつき、離されては追いつきを繰り返す。


『現在、トップは3‐A! 続いて3‐B、その後に1‐Aが続きます!!

 しかしほとんど接戦! 広がる魔法陣も無数! これはどのクラスが勝ってもおかしくない!!

 そう言っている内にトップ、7周目だ! 次はとうとうアンカーです! 全クラス頑張ってください!』


 べバリーは必死に食らいついていたが、一周目を通過したその時、急激にペースダウンした。

 べバリーはそのまま足を引っ掛け、転ぶ。

 すぐ立ち上がって走り出したが、そのペースはすごく遅かった。

            

「あいつ、身体強化が切れてやがる……」


「ホントだ……」


 ランドは地に膝を着く。

 身体強化なしで妨害でも受けたりしたら、大怪我どころじゃ済まない。


『どうしたクラス0! ペースが落ちてるぞ!!』


 そんな時、べバリーの元に大きな火の玉が飛んでいった。


「あ……」


 直撃。

 吹っ飛ぶべバリー。


 そしてそのまま、動かなくなった。


 火の玉を放ったのは2‐Aの奴だ。

 俺がまたしても振りむいて例の風紀委員を見ると、やはり俺に下卑た笑みを向けていた。


『クラス0、アンドルノ・べバリー選手! 動きません! これはリタイヤか!?

 っとそんな所を見ている場合じゃなかった! こっちでは激しいトップの奪い合いだァァァ!!』


 俺達は動かかないべバリーから視線を外さない。

 そう、全員がまだやれると思っている。


 多分、べバリーもそうだ。


 そう思っていると、べバリーが立った。

 しかし同時に笑いも起きた。


 服は破れ、傷だらけのだらしない体が露出し、片方の靴は脱げてしまっていたのだ。

 闘技場の各地で、べバリーを指さして笑う奴が見えた。

 後ろのカス共もゲラゲラ笑っている。


 べバリーは片方の靴を脱ぎ捨て、再び走り出した。


「なぁ、あいつ今最高にカッコよくね?」


「そうだね、なんでみんな笑っているのか分からない」


「う、うん」


 俺はぐっと拳を握って前に進んだ。


「スタート位置でべバリー待つことにするわ」


 振りむいてそう言うと、俺はさらに前に進んだ。

 そしてコース内に入り、べバリーを待つ。


 べバリーはとうとう2周目も抜かされてしまう。

 ついでと云わんばかりに2‐Aの奴がまたべバリーに火の玉を放った。


 べバリーはそれをモロに受ける。

 が、倒れなかった。踏ん張ったのだ。

 ズボンもすっかり燃えてしまって、パン一で走り出す。

 その顔は苦痛に歪ませていて、涙すら流していた。

 べバリーと他クラスの奴らの距離はどんどん開いていく。

 そしてそいつらはアンカーにバトンを託して行った。


『ここで8周目バトンタッチ!! とうとうアンカーだァァ!! ラスト2周です!!

 速い! 生徒会長が速い!

 ダントツの速さだァァ!!』


 べバリーは何度も転んで、バトンを落としては拾い、それでも前に進む。

 ヒューヒュー言いながら、体中に火傷を追いながら、笑われながら前に進んだ。


 そんなべバリーを見て、俺は目を閉じる。

 そのまま神経を研ぎ澄ませて、空間と一体化したかのようにだらりと力を抜く。

 魔力が俺の体に入りこんでいくのが分かった。


 その魔力を体中に巡らせ、血にも混じらせる。

 そして、9日間練習した身体強化の魔法を使った。


 目を開くと、べバリーはもう俺の目の前にいた。すぐ後ろから生徒会長が迫っているのも見える。


 べバリーは目で俺に「頼む」と言ってからバトンを託し、そのまま崩れ落ちた。



「お前最高にカッコ良かったぜ。

 だから、あとは任せろ」



 そう言った後、俺がその場に残したのは地を蹴った音だけだった。


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