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魔法祭

 魔法祭当日の朝。


 俺達は今、教室で待機していた。

 魔法祭は街中の人々が見に来るので、行進もあるのだ。

 魔戦争以外の競技は校内にある闘技場で行うから、今頃闘技場の観客席は大勢の街人で埋まっている頃だろう。

 その中を俺達クラス0はたった4人で行進することになる。



 あれから9日間、俺達は死にものぐるいで場から魔力を掻き集める技術(俺達はアトラクトと呼んでいる)を練習した。


 その結果、俺達全員が身体強化を使えるようになった。

 それも本気で取り組んだことあっての結果だ。


 まさか金髪も本当にできるようになるとは思ってなかったらしく、初めて成功させた時はかなり驚いていた。


 魔法の使い方も知らなかった俺達が、身体強化まで使えるようになったのである。

 努力以前に俺らって才能あるんじゃね?みたいな話にもなったくらいだ。

 実際、金髪曰く俺達には才能があるらしい。


 だが、俺達がどんな進化を遂げたにしろ、この魔法祭が不利な戦いであることは変わらない。

 魔法を使えるようになって大喜びしている俺達だが、それはやっと戦える最低ラインに立っただけなのだ。

 勝てる確率が0じゃなくなっただけ。

 それは三人も分かっているだろう。


 そして俺達の目標はいつのまにか待遇を変える事じゃなくて、周りの奴らの度肝を抜くことになっていた。

 そのせいでなんとしても勝ちたいという気持ちが強いのだ。


 だから教室内は緊張した雰囲気になっている。



「お前ら、靴のサイズは合ってるか?」


 俺は靴紐を結んでいる三人にそう聞いた。


 今、俺達がはいている靴は、コーナーで差がつく“瞬足”。

 革靴なんかじゃ速く走れないだろうから、俺がさっき創造してプレゼントしてやったのだ。


【しっかりやれよォ!】


 背中のティルフィングの声が教室に響く。


 そういえば金髪にティルフィングの所持許可を取って貰ったので、気兼ねなくティルフィングを持って来れるようになった。

 魔戦争でティルフィングを使えるとなるとかなり有利になるだろう。

 使うといっても抜刀すると死者がでるので、鞘に収まったまま使うつもりだ。


 しばらく沈黙のまま円卓を囲んで座っていると、教室の扉が開いた。

 扉を開けたのは金髪で、どうやら俺達を呼びに来たらしい。


「お前ら、行進の時間だ。来い」


 ティルフィングを円卓の上に置いて、俺は立ち上がった。



ーーー



 闘技場の入り口で整列する俺達。すでにAクラスから順に行進は始まっており、クラス0である俺達は最後に行進する。

 闘技場の中からはすでに歓声があがっていて、音楽なども聞こえてきた。


『続いてEクラスの入場です!』


 そんな放送と共に、前のEクラスが闘技場へと入っていった。


「次だな」


「とうとうか……」


「緊張するね」


「お……お」


「お前ら、胸張って歩けよ」


 俺がそう言うと、三人は表情を引き締めた。

 しばらくしてEクラスの行進が進むと、とうとうクラス0が呼ばれた。


『続いてクラス0の入場です!』


「行くぞ」


 俺の合図とともに俺達は前に進んだ。

 そして太陽の光を浴びる。


 大歓声の中、俺達は進んでいく。

 闘技場の2階席は生徒用の席以外ほぼ満席で、凄まじい熱気だった。

 もちろん4人しかいない俺達なので、注目の的だった。

 笑っている奴らが多かったが、所々声援も聞こえる。


 しばらく行進してEクラスの横の列に俺達が並ぶと、そこから歓声は徐々に収まっていった。

 完全に静かになると、前に立てられた朝礼台に学園長が登ってきて話をし始める。


 それから選手宣誓など、体育祭のような一連の下りを終えると、そこでやっと解散になった。

 周りの生徒は散らばって、生徒用の指定席に戻っていく。


 しかし、そんなものを与えられてない俺達は、2階席にあがって空いてる一般席を探した。

 すると、2階席の一角を独占する天空の使者のギルメン達を発見した。



「おお、レイヤじゃねぇーか」


「レスタさんじゃないですか、来てたんすね」


「そりゃあな。アタシらは使えそうな奴を毎年ここでチェックするのさ」


「なるほど、スカウトするんですか」


 レスタさんとそんな会話をして、ギルメン達に挨拶をすると、後ろからちょいちょいと肩を突かれた。


「おいレイカイドー、この人達ってもしかして……」


 俺の肩を突いたのはべバリーだったようで、べバリーはレスタさん達に少し視線を向けて俺にそう言ってきた。


「ああ、天空の使者の人達だ。丁度無駄に席仕切ってるから座らせて貰おうぜ」


 天空の使者のギルメンが座る席の周りには空白ができていた。

 それもそうだろう。近くに座る度胸がある奴なんていないはずだから。


「マジかよ!」


「お、……お」


「こんな近くで見るの初めてだ……」


 俺はレスタさんの横に座り、ランドは俺の隣、べバリーとラルフは俺の後ろに座った。


「そういやパドルはどこいったんですかね?」


 あのギルドマスター、ここにはいないようだ。


「ああ、学園長の横に座ってるぜ」


 俺は学園長が座るVIP席を見る。

 するとパドルはその横に座っていた。


「というよりお前ら出るみたいだけど勝てんのか?」


 レスタさんは俺以外のクラス0をチラ見して、そんなことを聞いてきた。


「バルジャンリレーと魔戦争だけでるんすよ。

 つかそれ以外出れないっていう」


「どうあがいても総合最下位だな」


「そうなんですよね。

 その2つの競技だけはなんとかするつもりですけど」


 そう言って俺は闘技場にすでに引かれてあるバルジャンリレーの白線を見た。

 闘技場の壁すれすれまで大きく引かれた白線。

 デカイ。400mトラックはよりは確実にデカい。


 これをあいつらは2周、俺は3周か。それに妨害ありということは、俺はともかくあいつらにとってかなり厳しい戦いになりそうだ。



ーーー



 次々と競技が行われていく中、俺は2階席の後ろに貼り出された点数板を見た。

 表示される俺達クラス0の点数は勿論、0。

 しかし他のクラスは割と接戦だった。

 競技ではほとんどAクラスが高位をかっさらっていくのに、それでも接戦なのは、Aクラス以外のクラスには、元々の実力に合ったハンデ点が与えられているからである。

 確かに、ハンデでもないと魔法祭はAクラスの一人勝ちになる。

 もちろん、最下位が明白なクラス0にはそれが与えられていない。


 観客も、未だどの競技にも参加しないクラス0に首を傾げていた。

 しかしクラス0のことを知る観客も多いようで、俺達の事を馬鹿にしたような会話もよく聞こえてくる。


 しかし、もう騎馬戦の終盤。

 次の棒倒しが終わればバルジャンリレーで、とうとう俺達の出番な訳だ。


「ヤバイ、俺達の出番もうすぐだぜ……。あんな奴らに勝てるわけねぇ……」


「あ……あ、あ」


「やるしかないよ。勝てなくても」


 魔法演舞、魔格技、綱引き、騎馬戦、次々と行われていった競技の中で、俺達は他クラスの凄まじい戦いを見せられたのだ。

 そのせいで三人はすっかり自信をなくしてしまっていた。


 Aクラスがほとんど高位をかっさらっていくとは言え、ダントツで強いって訳でもない。

 つまり、A〜Eのクラス間には確かに力の差があるが、歴然って程でもないのだ。

 それもそうだろう。

 クラス0が特例なだけで、同じ学校でそこまで差がつくはずがない。


 クラス0の面々はE、Dクラス辺りなら割と良い勝負ができると思っていたんだろう。俺もそうだ。

 しかし実際のその2クラスは、思ったより強い。


 しかもバルジャンリレーは各クラスのトップクラスの奴らが出張ってくると聞いた。

 そいつらは勿論今までの競技で活躍してきた奴らだろう。

 そんな中に俺達も混ざるわけだからこいつらの気持ちもわかる。


 だが、何のために魔法を練習したと思っているんだ。


「お前ら、この9日間を思い出せ」


「……そうだね、勝ちにいかないと」


「ああ、そうだったな」


「……う、うん」


 俺は三人の背中を順番に叩いて活を入れる。


「いってぇ! なんで俺だけそんな威力強いんだよ!」


「お前は肉厚があるからなぁ……」


 そんなこんなで言い合っていると、急に大歓声が上がった。

 何が起こったんだと思って闘技場を見ると、歓声の原因である人物を見つけた。


「ああ、またあの人か……」


「あの人もバルジャンリレー出るんでしょ?」


「そ、そ、そう、らしい」


 こいつらが言うあの人は、生徒会長、トレイル・スパイクだ。

 魔法演舞、魔格技でもかなり目立っていて、多分今日一番注目されているのが生徒会長トレイル・スパイクである。

 もちろんのごとくAクラスで、学年も最上級の3。細身に高い身長。ジャニーズ系の顔で、ファンクラブもあるらしい。

 天空の使者のギルメンも、奴には賞賛の言葉を与えていた。


 闘技場の雰囲気を見るに、騎馬戦も生徒会長の勝利で締めくくられたらしい。


『これにて騎馬戦を終わります!

 次の競技、棒倒しに出場する選手は入場口へ集合してください』


 そんな放送がかかると、俺は立ち上がる。


「これの次だな。

 そろそろウォーミングアップしに行こうぜ」



ーーー



 一階席に下りると、そこでシャーラの後ろ姿を見かけた。

 

「悪いお前ら、先にアップしといてくれ」


「どうしたんだ?」


「ちょっとトイレ!」


 俺は三人にそう伝え、シャーラの方へと走る。

 そしてシャーラの所まで辿り着くと声をかけ……るのは勿体無いので、後ろからその胸を鷲掴みにした。


「きゃ! 何するんですか!」


 シャーラはそう言って振り向きざまにエルボーを放ってきたので、俺はそれを飛び退いて躱す。


「ああ、やっぱりレイヤですか……」


 シャーラは俺見るなりそう言ってため息を吐いた。

 そういやシャーラの出場種目は魔戦争だけのはずだ。なぜここにいるんだろうか。


「よう。こんなところで何してんの?」


「生徒会長の人に騎馬戦が終わったらここに来てくれないかって言われたんです」


「マジかよ。絶対告白じゃん」


「やっぱりそうなんですかね……」


 シャーラは魔法学校に入学してから、すでに10人近くに交際を申し込まれたらしい。

 全て断ってるらしいけど、生徒会長にも狙われてるとなると結構有名人なんじゃないだろうか。


「なら俺がいたらちょっとマズイな……。

 ってことで俺そろそろ行くわ」


 ウォーミングアップもあるし、俺もそろそろ行かないといけないので、そう言って俺は踵を返す。

 すると後からシャーラが俺を呼び止めた。


「ま、待ってください!」


「どうした?」


 俺が振りむいてそう言った瞬間、シャーラの後方から歩いてくる一人の男に気付いた。

 生徒会長だった。

 シャーラも足音でその存在に気付いたらしく、振り向く。


 俺は空気を読んでその場を去ろうとした。


「待ってくれ!」


 すると、またしても俺は呼び止められる。

 しかし今度はシャーラの声ではなく、男の声。

 まあ生徒会長の声だろう。


 なんか面倒なことになったぞ、とか思いながら俺は再び振り向いた。


「なんでしょう?」


「君はシャーラちゃんのなんなんだい?」


 なんでシャーラに聞かずに俺に聞くんだよ。

 俺は小さく溜息を吐き、答える。


「夫です。愛しています」


「っ! ……ほんとかい?」


 驚いて生徒会長はシャーラにそう尋ねる。

 最初からシャーラに聞けや。


「………違います」


 シャーラがなぜかしばらくの沈黙を置いて答えると、生徒会長はキッと俺を睨んだ。

 乗ってくれてもいいのに、そう思ってシャーラを見ると、顔を真っ赤にしていた。


 ……あいつ、照れてやがる。


「はっきり言おう。

 僕はシャーラちゃんに一目惚れして、初めての恋をしている。誰よりも好きな自信がある。

 それがわかった上でもう一度答えてほしい」


 俺はそう言った生徒会長に驚いて視線を戻す。

 目を見ると、生徒会長がわざわざそんなことを俺に聞く理由がわかった。


 こいつ、本気だ。

 本気で男として質のある質問をしてきている。

 それも敢えてシャーラのいる前で。


「質問を変えよう。

 君にとって、シャーラちゃんはなんだい?」


 ここでふざけようと思ったが、俺の男の質を落とすのもアレだし、さすがに生徒会長に悪いので、真っ向からねじ伏せてやることにした。


「嫁です」


 俺がそう言うと、シャーラはなぜかガッカリしたような顔をしていたが、生徒会長の方は至って真面目な顔をしていた。

 それを見ると、俺は踵を返して走り出す。今度は呼び止められなかった。



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