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ピッカピカの一年生

 あれから5日が経った。


 俺とシャーラは2日ほど前から、ギルドの4階の一室で寝泊まりをしている。

 というのも、すぐに家を買えるわけではないので、その間宿で暮らすとなると金もかかる、パドルにそのことを話すと、なんと家を買うまでの間ギルドで住まわせてくれるという話になったのだ。

 その代わり、この5日間、俺はギルドの雑用とか、パドルやレスタさんの仕事の手伝いをさせられた。

 まあ雑用や仕事と言っても、掃除とか届け物とか荷物運びだったから、そこまで苦じゃなかったけど。



 その時にパドルから聞いたんだが、ここのギルドの主な仕事は、魔王軍による被害が激しい最前線の地域に赴いて、魔物を討伐することらしい。

 最前線に行く時は、基本的に15人以上の隊を組んで行くようだ。

 しかし、最近は魔王軍の動きが大人しいので最前線に行く必要がないとパドルが言っていた。

 今は大丈夫だけど、動きが荒くなりだしたら俺も戦地に赴くことになるらしい。


 この5日間、他に何をしてたかというと、シャーラと良い物件を探したり、街を回って食い歩きしたりしたくらいで、特にこれと言ったことはなかった。



 それはさておき、とうとう今日から俺達は魔法学校に通う学生になる。


 新品の魔法学校の制服にコスチュームチェンジした俺はギルドの前で、シャーラを待っていた。


 ちょうど「あいつおせーな」なんて考えてた時、ギルドの扉が開いてシャーラが現れた。


「お待たせました」


「おせーよ」


「すいません……、用意に手間取っちゃいまして……」


 用意なんてすることがあっただろうか。

 俺は手ぶらでティルフィングすら持ってきてないというのに。


 なぜティルフィングを連れて行かないかというと、今回はうるさいからとかロクなことにならないからとかそういう理由ではない。


 ティルフィングは持っていってはいけないのだ。


 というのも魔法学校は許可をとった武器以外持ち込み禁止らしいので、許可が取れるまでティルフィングはギルドでお留守番という訳である。


 ほんの少しティルフィングに申し訳無さを感じたが、そんな時、ギルドの中からティルフィングの甲高い声とそれに合わせてギルメン達の笑い声が聞こえてきた。

 ありがたいことに、ギルメンのみなさんが相手をしてくれてるようだ。

 これならティルフィングも暇じゃないだろう。

 まあそのうちウザがられるだろうけど。


「さて、行くか」


「はい。

 緊張しますね……。うまくやっていけるでしょうか……」


 そう言ったシャーラは、本当に緊張してるようで、顔が強張っている。


「大丈夫、シャーラは容姿がいいから」


「理由になってませんよ……」


 あーだこーだ言いながらも俺達は歩き出した。



ーーー



 魔法学校に着いて、まず職員室に来るように言われてた俺達はさっそくそこに向かった。

 地図は学園長から貰っているので道は分かる。


 それにしてもこの魔法学校、デカイ。

 驚くほど高い天井に、果てしなく続きそうな廊下。

 外からでも見渡せない全貌で、かなりデカイことは分かっていたが、中に入ると更に広く感じた。

 慣れるまで地図は手放せなさそうだ。


 しかしそんなことよりさっきからすれ違う生徒たちの視線が気になる。


 そう、めちゃくちゃ見られてるのだ。


 今日は普通の制服を着ているし、特段目立つようなことはしていないので注目を浴びる理由はないのだが、なぜだろうか。

 俺の黒髪か?


 ……いや違う。

 すれ違う人々の視線の先を追ってみると、俺の胸に刺繍されたマークみたいなのに向けられていたのだ。


 気になってシャーラのと見比べて見ると、俺の刺繍はシャーラのと色が違っていた。

 シャーラのは金の刺繍だけど、俺はなんか薄汚い茶色で、あるかどうか分からないような刺繍だ。

 すれ違う生徒たちの刺繍にも目を向けてみると、いろんな色を見かけたが、俺と同じ色は見かけなかった。


 そこで俺は大体の事情を把握する。


 多分これはアレだ。

 なんか差別っていうか分類的なやつだ。


 おそらくこの刺繍でクラスを見分けることができるんだろう。

 俺は最低の成績を出したから勿論落ちこぼれクラス。

 シャーラは凄まじく優秀だったらしいから最上級クラス。

 こいつらの視線は「なんであんなカスが最上級クラスの人と一緒に歩いてるんだ!?」的な疑問のこもった視線だろう。


「さっきからレイヤめちゃくちゃ見られてますね」


「イケメンすぎるってのも辛いよな」


「……そうですね」



 それからしばらく歩くと、俺達は職員室に辿り着いた。

 さっそく俺はノックして中に入る。


「失礼しまーす」


 中では教師らしき人が何人かいて、寝てる教師、本を読んでる教師、なんか食ってる教師、とにかく様々だった。


 そしてその中の1人が俺達の姿を見てこちらまで歩いてきた。


「君たちか、話には聞いてるよ。

 外で待ってて、担当の先生呼ぶから」


 その人はそれだけ言って奥に戻っていく。


 俺達が職員室の外で待っていると、すぐにその扉が開かれて2人の教師が出てきた。

 片方男で、片方は女だ。


 男の方はボサボサの金髪でだらしない格好、よく見ればさっき職員室で寝てた人だ。

 その瞳は充血してて、まだ眠たそうである。


 女の方は、おっぱいがでかい。

 それ以外で特筆すべき点は目つきが鋭くて、怖そうって雰囲気ってだけだ。

 美人だけど、俺のタイプではない。

 つか歳の差離れ過ぎ。さすがに許容外。

 しかしこの二人で選ぶなら、迷わずこの女の教師だろう。


「レイヤだっけ?

 お前は俺のクラスだ。ついて来い」


「あ、ウィッス」


 でしょうね。やっぱり男の方ですよね俺の担当は。


 その男教師はそれだけ言うと、名も名乗らずにポケットに手を突っ込んで歩いていってしまった。

 さて、ここでシャーラとは離れ離れになる訳だ。

 俺が振り返ると、シャーラはかなり不安そうな顔をしていた。


「シャーラ、これ飯代」


 俺はポケットから銅貨を数枚取り出してシャーラに渡す。


「ありがとうございます……」


 シャーラがそれを受け取ると、俺は踵を返して歩き出そうとする。

 だけど、やっぱりシャーラに一言掛けとこうと思って足を止めた。


「がんばれよ」


 そう言って最後にイケメンスマイルを向けると、俺はあの金髪のやる気なさそうな教師の後を追いかけた。



ーーー



 俺は目の前の現状に驚愕していた。

 この教師についていく内に、俺はいつのまにか俺はゴミだらけの廊下を歩いていたのだ。


「先生、ここはゴミ置き場ですか?」


 さすがにそう聞かずにはいられなかった。

 しかし俺の前方を歩く金髪教師は俺の質問を無視して無言で進んでいく。



 ミシミシと音を立てる床、カビの生えた壁。蜘蛛の巣張った天井。

 ボロボロになって廃れた教室をいくつも見かけた。


 なんて言うか……、廃墟?


 というか先程までかなりゴージャス感漂う雰囲気だったのに、さすがにこれは格差が激しすぎるだろう。

 まあこの人が地下に向かって階段下り出した時からうすうす感じてはいたんだけど……。


 そしてこの先に我が教室があるのだと思うと、一週回って楽しみになってきた。


「着いたぞ。ここが今日からお前の教室だ」


 いきなり金髪教師が、ある教室の扉の前に立ち止まってそう言った。

 そしてその扉をガラッと開けて中に入っていく。


 地下に下りてしばらく歩いたけど、なんでこの教室を使うのだろうか。

 確かに他に見た教室よりはまだ小マシな汚さだけど、ぶっちゃけ俺からしてみると変わらない汚さである。

 せめて綺麗な教室を使わせようという配慮なら無駄に歩かせる分ありがた迷惑だ。

 いや、まあそこまで気にすることでもないか。


「なにやってるんだ、入ってこい」


 俺が思考フェイズに入ってると、教室の中から金髪教師のそんな声が聞こえたので、俺は教室の中に入ることにした。


 教室の中に入ると、俺はその人の少なさに驚かされた。

 そう、席に座っている奴が3人しかいないのだ。

 空いてる席も一つしかないので、そこに俺が座るとすると全員出席していることになる。つまりクラス人数4人。

 無駄に広い教室の中に、机が4つだけ。

 教室の後ろに出来た広い空間が、この現状を寂しく物語っていた。


「今日からお前らの新しい仲間になる、レイカイドー・レイヤだ。仲良くするように。

 ほら、自己紹介しろ」


 金髪教師はそう言って俺に自己紹介を促す。

 俺が披露する予定だった自己紹介もこんな少人数の前でやっても仕方ない。

 だけど第一印象は大切なので、俺は大きな声でハキハキと自己紹介することにした。


「レイカイドー・レイヤです! 分からないことばっかりだと思うので、色々教えてくれると嬉しいです!」


 沈黙。

 つか3人とも寝てるし。

 俺は一体誰に自己紹介したんだよ……。


「お前はあそこの空いてる席な。

 じゃ、俺戻るから」


 金髪教師はそれだけ言うと、教室から出ていってしまった。結局担任であるあいつの名前もわからないままだ。


 立ち尽くしていても仕方ないので俺はとりあえず席に着くことにした。


 椅子に腰を下ろすと、椅子の足がミシミシといって今にも折れそうな感じだった。

 まあこれくらい我慢してやろう。

 落ちこぼれクラスの待遇が悪いのはテンプレだし。


 それはともかく魔法学校ではどんな授業が行われるんだろう。

 魔法だけ学ぶってことはないだろうから、楽しみである。



ーーー



 それから少一時間ほどの時が流れた。

 いつ授業が始まるのかと思って、俺はずっと待っていたんだけど誰も来る様子がない。

 周りの奴らもずっと寝てるし、これは一体どういうことだろうか?


 とりあえず俺は隣で寝てる青髪の男の肩を揺さぶった。


「おい起きろお前」


「ぅ……うーん」


 なかなか起きないので、俺はベシっと頭を叩く。


「ウェイクアップ!」


 するとそいつは机に突っ伏していた体を起こして、ぐーんと伸びをした。

 そして目を擦ると、俺と目が合った。

 しばらく目をぱちぱちとさせると、そいつは口を開く。


「誰?」


「だよね」


 もちろんさっきの自己紹介を聞いていないこいつが俺のことを知るはずもなく、俺は二度目の自己紹介をした。


「レイヤっていうのか、よろしく。

 俺はスケイル・ランド。ランドって呼んでくれ」


「よろしく。

 さっそくなんだけど授業はいつ始まんの?」


「始まらないよ」


「は?」


 俺が首を90度に捻ってそう言うと、ランドは笑って答えた。


「だって俺達はクラス0じゃないか」



ーーー



 説明しよう! バルジャン魔法学校には大きく分けて5つのクラスがある!

 それはクラスA〜Eまでで分けられているのだが、そのどれにも当てはまらないクラスがあった!

 それが、クラス0!

 クラス0は、才能なし、魔力なし、見込みなし、学力なし、そういった雑魚が集まる肥溜めクラスである!

 もちろんこのクラスのために授業をしてくれる教員もいないし、十分な教材や環境も与えられない!

 ただ、そこにいるだけ! 催事も全て自由参加!

 生徒達からも差別の対象であるクラス0の人間は、表に出ず魔法学校を卒業することだけが目標の、超学園級の底辺であった!


 という説明をランドから受けた俺は、そのひどい内容に思わず笑ってしまった。


「だから俺達は人目につかないように、誰よりも早く学校に来て、誰よりも早く学校を去るのさ」


「ランド、じゃあお前らいつも一日中寝てんの?」


「基本的には」


 ダメだこいつら。


 早くも魔法学校に来た意味がなくなりつつある。

 俺が魔法学校に来た理由は美少女と戯れることが第一の目的で、他はこの世界のあらゆることを学んだり、まあ適当にエンジョイすることだったのだが、これじゃ無理だ。


 寝ている残りの二人も、デブ男とガリ男だし、美少女の影すらない。

 勉強に関してもこの環境だし、その上教材なし、教師なしと来た。


 こんなのってないよ……。


 俺は絶望して、机に勢いよく突っ伏す。

 机にミシッとヒビが入った。


「とりあえずさ、あの二人起こしてくれね?」


 クラスメイトとの交流はやはり大事だろう。

 そう思った俺はあの二人とも早めに自己紹介をすることにしたのだ。


「なんで俺が」


 面倒臭そうな顔をするランド。


「しゃーねぇ、やっぱ俺が起こす」


 俺は立ち上がって寝てる残りのデブとガリの机の間に立った。

 そして両方の机を掴んでガタガタと揺らす。


「ちょ、誰だよお前。何揺らしてんだよ」


 先に起きたのはデブの方だった。

 それを見た俺はデブの方の手を離し、ガリの方の机を揺さぶり続ける。

 するとガリの方も体を起こした。

 こっちは何も言わず、驚いた顔をして俺の顔を凝視していた。


 とりあえず自己紹介をしないと始まらないので、俺は本日三回目の自己紹介をガリとデブにする。



「で、お前らの名前は?」


 沈黙の後、先に答えたのはガリの方だった。


「ぼぼ、ぼ、僕はエストリーデ・ラルフ」


「ラルフか、よろしく」


「よ、よ、よろしく」


 ラルフはコミュ障、と。

 俺心のメモ帳にそう書き綴った。


 次に俺はデブの方を見た、こっちの方は少し不機嫌そうな顔をしている。


「俺か? 俺はアンドルノ・べバリー。呼び方はなんでもいい」


「じゃあデブ、よろしくな」


「待って、デブはやめて」


 二人の名前を聞いた俺は、一旦自分の席に戻る。


 さて、思い描いてた事とは真逆のどうしようもない学校生活が始まってしまった。


 この逆境の中だからこそ楽しめる何かがあるのではないだろうか?


 なんにせよくだらない学校生活を送らないためにも方針を決めないといけない。


「ランド、ラルフ、べバリー。

 集合」

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― 新着の感想 ―
「じゃあデブ、よろしくな」 「待って、デブはやめて」 くそわろた
[良い点] 「じゃあデブ、よろしくな」 面白い笑笑
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