ノンストップ俺
「こいつが昨日話してたシャーラだ」
「よろしくお願いします」
シャーラはペコリとパドルに頭を下げる。
今日は髪をくくっておらず、俺があげたヘアゴム2個は腕に着けてある。
昨日言われた通り、俺はシャーラを連れてギルドに来ていた。
「おお、可愛い娘じゃねぇか!」
「だろ? 俺の嫁だ」
「違います」
「ハッハッハ! 仲良いな!」
【ずっとイチャイチャしてるもんだからオレも困ってんだよ!】
そんな風にギルドのエントランスで談笑してると、周りにギルドメンバーのみなさんが集まって来た。
丁度いいからと言って、パドルは俺を紹介した。
俺も軽く自己紹介をして何人かと握手を交わす。
集まって来た周りの人達は明らかに年上しかいないので少し対応に困ったが、みんな気さくでいい人だった。
だけど、一人一人の自己紹介はぶっちゃけいらない。
つーかそんなに一気に覚えれる訳がないだろ。
それにモブ共の名前なんていちいち覚える気にもなれない。
なんてことを思いながらも俺は適当に笑顔を振りまいておく。
そして一段落して、パドルに本題を切り出した。
「パドル、そろそろ連れてってくれよ」
「そうだな、じゃあ行くか。ほら、お前ら散った散った」
パドルがシッシッと手を払うと、周りに集まってたギルメン達はバラけていく。
そしてその後、唐突にパドルがパチンと指を鳴らすと、足元に半径2メートルくらいの魔法陣が現れた。
「なんの魔法?」
【転移魔法っぽいな】
「おお、やっぱ転移魔法とかあんのか」
「便利ですね」
「お前も使えるようになるだろ」
俺は一生使えないんですけど。
「うし、直で学園長の部屋まで行くぞ」
パドルがそう言うと、俺達の体は光に包まれる。
そしてその光は視界を覆った。
どうでもいいことだけど、さっきの指パッチンはした意味あるのだろうか。
視界を覆う光はそんな疑問と共にすぐに消え、気づけば周りの景色は変わっていた。
「着いたぞ、ここが学園長の部屋だ」
本当にここ学園長の部屋なのか? そう問いたくなるような部屋だった。
部屋のはずなのに床がふかふかの土なのはどういうことだろう。
あらゆる植物がそこらに生い茂り、見上げると高い天井まで壁を伝って草木は伸びていた。
そして虫のなく声まで聞こえてくる始末。
一体ここのどこに学園長がいるの言うのか。
辺りを見渡してみたけど、どこにもそんな影は見当たらない。
【すげェ部屋だな】
「パドル、転移する場所間違えたんじゃね?」
「いや、そんなことねぇよ。多分あのジジイ、そこらの草木に化けてる。
あの木とか怪しいな」
パドルは指さした木の所まで歩いていく。
そこに辿り着くと、パドルは木の幹を少し強めに蹴った。
すると木から声が聞こえた。
「ぐむっ!」
驚いたけど、パドルの予想はヒットして、それが学園長の化けた木だったようだ。
パドルは何度かその木を蹴る。
「起きろジジイ」
パドルがそう言うと、木はうねりながらどんどん小さくなっていき、最終的にハゲた小さなお爺さんへと変貌を遂げた。
学園長と言ったらひげもじゃ白髪のイメージがあったので(主にダンブ○ドアのせいで)こんなハゲた小柄な爺さんが出てくるとは思わなかった。ヒゲだけ立派だ。
「お前かパドル、人が寝てるのを邪魔しおってからに。
しかもまた転移魔法で来たじゃろ」
「あー、すまんすまん。
いや、今日はちょっと頼みたいことがあって来たんだよ」
パドルは俺達の方をチラリと見る。それに合わせて学園長も俺達の方をチラリと見た。
「あいつら魔法学校に入りたいんだってよ。
入れてやってくれ」
「そんなことか、構わんよ」
話は一瞬で終わった。
コネなんていらなかったんじゃないかと思わせるほどの適当っぷりである。
「サンクス、んじゃ俺帰るから。二人のことは頼んだぞジジイ」
それだけ言って、パドルはまた転移魔法で消えてしまった。
「……入学って実は結構簡単なんでしょうか?」
「……分かんね」
学園長はパドルが消えると、こちらまで歩いてきた。
そしてなにか言葉を二言三言呟くと、俺達の周りの植物達が絡まっていき、そこに3つの草の椅子ができた。
「わしがバルジャン魔法学校の学園長じゃ。
まあ座りなさい」
「失礼します」
草の椅子は見た目からは想像できないくらいふかふかだった。凭れると、反発してくる。
「まず名前を教えてくれ」
俺が草の椅子に夢中になっていると、学園長が話を切り出した。
「レイヤっす」
「シャーラです」
【ティルフィングよ】
「お前は喋んな」
ティルフィングが喋ったのを見て、学園長は目を丸くしていた。
俺は苦笑いする。
「お主ら、ただの若者じゃあなさそうじゃな……。
まあどちらにせよこの学校に入るのならルールは守って貰わねばならん。
バルジャン魔法学校の長い歴史では、心技体の3つの言葉を元に……」
そこから学園長の長い話が始まった。
懐かしき校長先生の話を思い出す。
しばらく聞き流していたが、中々学園長の話は終わらない。
チラリと横を見ると、隣のシャーラはそれを真剣な眼差しで聞いていた。
「じゃから、お主らに学んてほしいことは、魔法ももちろんそうじゃが、バルジャン魔法学校生としての自覚、誇り、志じゃ。
確かにお主らの年齢じゃと誘惑も多い、じゃがそれに負けてはならん。それに打ち勝ってこそ偉大な魔法使いになれるのであって……」
【これいつ終わるんだよ……】
「……分かんね」
ーーー
学園長からは魔法学校に入学するに当たっての説明なども聞かされた。
もちろんそれは必要な情報なのでしっかりと聞いておいた。
その後、魔力測定や学力測定などもした訳だが、勿論俺は最低の成績を叩き出した。
相反してシャーラはかなり優秀だったらしい。
そしてある程度することを終えた俺達は宿に戻ってきている最中なのだが、実は今、ある問題に直面していた。
「マ、マジでどうしたんだよ? 俺なんかしたっけ?」
「……いえ」
そう、シャーラのテンションがこれでもかってくらい下がってるのだ。
それに気づいたのは魔法学校を出てすぐのこと。
その時の俺は、入学できることにテンションが上がってたわけだ。
きっとシャーラもそうだろうと思ってテンションの高い絡みをしまくったんだけどこれが全部適当に流された。
ここで、いつもなら俺が勝手にテンション上がっても、もうちょっと合わせてくれるのにと疑問を感じる俺。
それに、あれだけ魔法学校に入りたがってたこいつが、なぜ故ここまで元気ないのだろうか?
俺は考える。
シャーラの元気がなくなるようなことは起きていないし、してもない。
とにかく俺には全く心当たりがないから、どう接していいかわからなかった。
かといって隣で無言で歩くのも何か気持ち悪いので、さっきからシャーラちゃんを元気付けようとしてるのだ。
「シャーラ! サルコプルがあるぜ!」
「……いりません」
「シャーラ! お前に似合いそうな可愛い服があるぞ!」
「……いりません」
総じて撃沈。もうどうしたらいいか分からなくなってた頃に、ティルフィングが口を開いた。
【オレには分かるぜ、シャーラが萎えちまった理由】
「教えろや」
【自分で考えろ】
「なんだよそれ」
期待させやがって、腹立つなこの魔剣。
シャーラから少し離れた後ろを着いていく俺。
シャーラのとぼとぼとした歩みを見ていると、こっちまで下がってきた。
本当に訳が分からない。最後にもう一回だけシャーラに聞いてみるか。
そう思った俺はシャーラに追いついて隣に並ぶ。
「おい、マジでどうしちまったんだよ」
「……レイヤは私のこと全然分かってないです」
え? なんかちょっと怒ってね?
いや、なるほど……そういうことか。
「分かった。分かったよシャーラ。
言いにくいけど……、生理なんだろ?」
【全然わかってねェ!!】
シャーラの重い溜息がなぜか心にのしかかった。
ーーー
宿に戻ってもシャーラのテンションは低いままで、部屋の空気は重かった。
シャーラはベッドにぐてっと寝転がっており、俺は頭を抱えて椅子に座っている。
「シャーラ、俺ちょっと出かけてくるわ」
「……分かりました」
俺はティルフィングを持って部屋から出る。宿からも出た。
そして俺はしばらく歩いて路地裏に入る。
「ティルフィングさん教えてください」
【ハァ……、仕方ねェなァ】
「頼むわ」
【お前は魔力もなけりゃ学力も無いわけだ。
あのジジイがさっきしてた説明聞いてなかッたのか?
圧倒的な差がある為に、お前とシャーラは魔法学校では別クラス。そして寮に入る訳だからそこでも別々。
つまり実質ほとんど会えなくなる。
シャーラはそれが嫌なんだろ。
頼れる奴がお前しかいないんだから】
「え? そんな話してたっけ?」
【やっぱり聞いてなかったのかよ】
初耳だ。
確かにそれは寂しいな。
つかそれでテンション下がってたんだとしたら可愛い奴だ。
シャーラの前の境遇から考えたら、一人で他の人と打ち解けれるかわからないし、不安だろう。
しかもシャーラの性格だ。そんなことを言い出せるはずもない。
ということはここは俺が一肌脱ぐべきなのか。
ーーー
「シャーラ、家を買おう」
部屋に戻った俺はシャーラのベッドに腰を下ろして、さっそくそんな案をシャーラに投げつけた。
シャーラはベッドに寝転がっていたけど、俺のその言葉を聞いて体を起こした。
「……はい?」
「だから、家を買おう」
シャーラは唐突すぎる俺の言葉を飲み込めてないようだ。
「……えーと?」
「言い方変えるわ。
俺、家買うけど一人じゃ寂しいから、お前も一緒に住まね?」
いや、そんなことを聞かれて「うん」とも言いづらいか。
なら強制力を持たせたほうがいいかもしれない。
ふぅ、……どんたけシャーラに気を使ってるんだ俺は。
「一緒に住もう」
俺がそう言うと、シャーラはじっと俺の瞳を見つめてきた。
なんか求愛してるみたいで恥ずかしくなって視線を逸しかけたけど、耐える。
「……もしかして私のためですか?」
「それもあるけど、寮って色々制限されてそうじゃん。 そんなの嫌だろ。
あとはシャーラと一緒に住みたいっていう下心かな」
俺のイケメンスマイル。
シャーラの真顔。
「……お金はどうするんです?」
「ギルドで稼ぐ」
再び沈黙。
目は合わせたままだ。
すると、シャーラが目を逸らしてボソッと言った。
「……い、一緒に住まわせて貰ってもいいですか?」
俺の頭には「レイヤが一緒に住みたいならいいですよ」とか「仕方ないですね」とか、そんなツン混じりの具体的な回答が浮かんでたんだけど、シャーラからはそんなしおらしい返事が返ってきた。
いや、返事というより質問か。
おそらく、俺が気を使ってるのが分かっているから、逆に俺を持ち上げようとしてくれたんだろう。
その辺りを見るとシャーラは喜んでくれてるのだろうか。
とりあえず俺はそれに甘えて調子に乗ることにした。
「あー、どうしようかなー!?」
【お前が一緒に住もうッつったんだろ】
うるさいなこの魔剣。
一瞬詰まるが俺は続ける。
「シャーラがご褒美とかくれたらなー!! 例えばおっぱいとかァ!?」
俺は首を曲げてシャーラの胸をガン見する。
そして俺は恥じらいながらもおさわりを許すシャーラの姿を妄想した。
すると、シャーラは俺の横に擦り寄ってきて、俺の頬にその唇をそっと当てた。
「……え?」
何が起きたかわからなかった俺は顔を上げてシャーラの顔を見ようとしたが、シャーラはその前にベッドに倒れ込んで、ガバッと布団を被ってしまった。
ようやく脳の整理が追いついた俺は、急速に顔が火照るのを感じた。
【やられたなレイヤァ! どうした? 顔が真っ赤だぞォ?】
「うるさい」




