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俺だ俺だ俺だ

 勇者が来たことはすぐに町中に広まって、色んなところで祭りの準備を始めだした。

 俺達が今いる町の広場にもキャンプファイアの準備が行われている。


 もうすでに町はお祭り騒ぎだが、それだけ勇者には魔王討伐を期待されているのだろうか。

 というより魔王はそんなにヤバイ奴なんだろうか。

 魔王による被害とかを知らない俺は、いまいち魔王討伐の重要性が分からない。

 魔王のせいで魔物が活発になった、とかいう迷惑話すら聞いたことがない訳だし、実際俺達が旅をしている間に襲ってくる魔物が現れたことなんて一度だってない。

 

 まあ異世界に来たばかりの俺が考えても仕方がない。

 というかぶっちゃけシャーラに聞いた方が早いことに気付いた俺は、そうすることにした。


「なんで魔王は倒さないといけないの?」


「人間を滅ぼそうとしてるからですよ。現に町や国が滅ぼされたりしてるらしいですし。

 この辺りは魔王の被害は直接なくて魔物も大人しいみたいですけど、それでもやっぱり魔王は怖いんじゃないですか?」


「なるほどね」


 めっちゃ普通な理由やん。


「……レイヤってなんかすごい無知ですよね」


「田舎者だから」


「それにしても無知すぎますよ」


 そういやシャーラすら俺が転生して来たこと知らないんだっけ。

 まあ言っても信じなさそうだし言う意味もないか。

 どこかの屋根の上で語ろうとしたこともあったけど。


「まあいい、そろそろ婆さんの所に戻るか」


「そうですね。あのお婆ちゃん、もしかしたら起きてるかもしれませんし」



ーーー



 薬屋に戻ると、婆さんは起きていた。ベッドから出て椅子に腰掛けている。


【やっと戻ってきたかァ!】


 ティルフィングのうるさい声が部屋に響いた。


「婆さん、目が覚めたのか。まだ寝とけよ」


「覚めたも何も、この魔剣に叩き起こされたんだよ。話し相手になれってね」


「は? 何やってんのお前?」


【暇だったんだよォ!】


 話を聞くと、俺達が薬屋を出たらすぐにティルフィングは婆さんを叩き起こしたらしい。

 つまり、婆さん全く寝てない。



「ティルフィングをここに置いて来たのは失敗でしたね」


「ああ、大失敗だわ……」


【ケッ! オレを置いていく方が悪りィ!】


 俺は婆さんに謝ったが、なんとこの婆さん、ティルフィングとの世間話は結構楽しかったとか言い出した。

 熱の方ももう大丈夫だとか言っている。

 痩せ我慢バレバレとは言え、もう立てる所を見ると多少は回復してるようだ。ほんの少ししか寝てないのにとんだ回復力である。


【薬屋は眠らないってよく言うだろ?】


 いや知らねぇよ。



「そういやその娘っ子の方は治ったんだね」


「迷惑かけました……」


 シャーラは本当に申し訳なさそうにペコリと頭を下げる。


「その割にはまだベタベタしてるね」


 婆さんは俺達の無駄に近い距離を見てニヤニヤしながらそう言った。

 何を勘違いしてるのかしらないが、これには訳があるのだ。


「あのね、これね。驚かないでね。

 実は、繋がってるんだ」


 俺はそう言って婆さんに夜空の鎖によって繋がれた手を見せる。その鎖は見えないんだけども。


 そして何があったかを長々と事細かに説明してやった。俺はその時寝ていたので、所々ティルフィングの補足も加えて。


 シャーラはそれを黙って聞くことしかできず、俯いてまた顔を赤くしていた。


「アッハッハッハッハ! それは傑作な話だねぇ!」


 俺がそのエピソードを話し終えると、婆さんはケラケラと笑いだした。


「だっしょー?」


「……レイヤ、恥ずかしいからほんとにやめてください……」


 それはできない相談である。なぜならシャーラのこの反応が愉快だからだ。


「仕方ないなぁ、じゃあよしよししてあげようか?」


 そう言って俺は片手を広げて俺の胸を空ける。


「……お婆ちゃん、記憶を消す薬とかないんですか?」



ーーー



「そういや外が騒がしいね。何かあったのかい?」


「ああ、勇者が町に来たんだよ。それで今日は祭りだとさ」


【勇者か、今も昔も変わらねェな】


 ティルフィングの口ぶりからすると昔から勇者という存在はあったようだ。昔って言っても大昔だが。

 

「祭りねぇ……。そんなことされたら勇者様も迷惑だろうに」


 俺なら大歓迎だけどな。まあ確かに困った顔はしていた。


「そういえば婆さん、薬の代金はどうしたらいい?」


 ふと薬の代金を払ってないことを思い出したので、俺は婆さんにそう尋ねた。


「そんなものはいらないよ」


「え? なんで?」


「こんな歳になって今更金なんて必要ないのさ」


「そんな、悪いですよ」


「久々に誰かと話せただけで楽しかったよ。看病もして貰ったし代金はそれで十分だ」


 そう言ってしわしわのその顔にさらにシワを作ってニカッと笑う婆さん。本当にお金は必要ないらしい。


「久々って客とかこないの?」


「……今時治癒師の魔法で大体は治せちまうもんだから薬屋に来る客なんてのも珍しい」


 それを聞いた俺はやっぱり金を渡そうとした。部屋の風貌や、婆さんのやせ細った腕を見ると、まともな物を食ってるとは思えないのだ。

 相当金がないとみた。


【レイヤ、無理にでも渡しとけ。この婆さん豚の餌食って生きてんだぜ。さっきそれを笑い話にしてオレに聞かせやがったんだ】


「え?」


「アンタもいらないことを言うねぇ……」


 一瞬ティルフィングの冗談かと思ったが、婆さんの反応を見るに本当らしい。

 横のシャーラも驚いていた。


「豚の餌も案外イケるもんだ」


「笑えないぞ婆さん。いいから受け取れよ」


 俺は財布から金貨7枚を取り出して机の上に置く。

 そして返せないように、俺達はそそくさと薬屋を出た。


「明日もまた来る」


 それだけ言い残して。



ーーー



 薬屋を出た俺達は賑わう町の中を歩いていた。


「あーあ、ほとんど金なくなっちまったよ」


 財布の中に残ってるのは金貨一枚に、銀貨数枚、後は銅貨がごちゃごちゃしている。


【後悔してんのかァ!?】


「いや全く」


 なんせほとんど苦労せずに手に入ったお金だし、あれで婆さんの生活がマシになるんだから後悔なんて少しもしていない。

 でもあの金を婆さんが使うかどうかで言うと怪しいな。変な意地で使わなさそうだ。

 婆さんは完全に元気になった訳じゃ無いから、明日も見に行くけどその時に色々買って行ってやろう。



「それにしても賑わってんな」


「勇者が来る前とは活気が違いますね」


 確かに全然違う。勇者の影響はそれだけ絶大だった。

 もしかしたら祭りを行うきっかけとして歓迎されてんじゃないかって思うくらいだ。


 俺は気を取り直して祭りを楽しもうと思ったが、まだ祭りの準備中なので楽しみようがないことに気付いた。

 町の人達が忙しくしている中、俺達は暇だ。


 夜まで何をして時間を潰そうか考えていたら、ふとシャーラが足を止めた。

 もちろん、シャーラが止まれば俺も止まらざるを得ない。


「どうした?」


「レイヤ……、あの……」


 俺が聞くと、なぜかシャーラはもじもじして中々用を言わなかった。

 だから俺はもう一度聞く。


「なに?」


「……あの、トイレに……」


 あ、来たわこれ。


「え? なんだって?」


「トイレに、……行きたいです」


「ああー、おしっこね! おしっこに行きたいのね!」


「そんなこと大きな声で言わないでくださいよ……」


 勝った……。

 実は俺もずっとトイレに行きたかったのだ。

 しかし、俺はその旨をシャーラに伝えたりしなかった。

 なぜならばシャーラに言わせたかったからだ。

 トイレに行きたいです、と。


 つまり俺とシャーラの間には、どちらが先にそれを言うかという見えない攻防戦が繰り広げられていたのだ。

 そう、シャーラが元に戻ってから今までずっと。

 お互いすごく我慢したと思う。

 その末に俺は勝ったのだ。


 ああ、長かった……。


「行けばいいじゃん。

 あっ、そういえば手が繋がってるからいけないんだった!」


 俺はまた下卑た笑みを浮かべて言ってやったが、シャーラはそれどころじゃないらしい。


「……もう、限界です……」


 そう言ったシャーラの切羽詰まった表情を見て、俺はおちょくってる場合じゃない事に気付く。


 そんなに我慢してたのかよ……。


 焦った俺はシャーラを抱きかかえて宿まで走った。



ーーー



「本当にごめんなさい」


 なんとか間に合って、大事にならずには済んだのだが、シャーラの機嫌が最高に悪くなった。

 絶対にこっちを向くなとシャーラに言われて、振り向いたのが主な原因だと思われる。


 さっきから、というか随分前から部屋でずっと謝っているのだが、すべて無視されている。

 どうやらかなりご立腹のようだ。それでも手は繋がったままなので、相当気まずい。


 俺は調子に乗りすぎたことを深く後悔した。


「ティルフィング、俺はどうしたらいい?」


【知らねェよ、自業自得だ】


 ティルフィングにすらそう言われる始末。

 ここで俺は仕方なく、最後のカードを切ることにした。


「シャーラさん。もう惚れ薬ネタは使いません、だから許してください」


「…………本当ですか?」


 予想通り、今まで俺を無視していたシャーラはこの話に食いついてきた。

 むしろこの条件を待っていたのかもしれない。

 俺は内心ほくそ笑んで答える。


「もちろんっす」


 俺としてはおいしいネタを失うことになるが、シャーラの機嫌の為なら仕方ない。


「……本当にもう言わないでくださいよ?」


「絶対に言いません」


「言ったらどうしますか?」


「なんでも言うこと聞きます」


「言いましたよ?」


 俺がコクリと頷いて、やっとシャーラも満足してくれたようだ。


 なんでも言うことを聞くとは言ったが、シャーラが俺にしてほしいことなんてあるのだろうか。

 あんまりシャーラにメリットがない制約に思えるが、満足してくれたならそれでいいか。


 そんなことを考えながら俺は宿の窓から外を見る。

 いつのまにか日は落ちかけていて、町からは祭りが始まりそうな雰囲気が出ていた。

 多くの町の住人達が広場へ向かって歩いている。


 俺達はベッドに腰掛けて、しばらくそれを眺めていた。


「私達も行きますか?」


「そうだな、そうするか」


 それをきっかけに俺達は立ち上がる。


【オレは今の勇者ってのが見てみたいぜ】


 なぜかこいつを連れて行くと面倒なことになりそうな予感がしたので、俺はティルフィングを壁に立てかけた。


【あ? オイ何してやがる!?】


 そしてそのまま黙って宿を出る。


 宿から甲高い叫び声が聞こえた気がした。いや、聞こえた。



ーーー



 広場ではすでにキャンプファイアが始まっていた。

 真ん中の積み木は燃え盛り、それを囲むように人々は踊りを楽しんでいた。

 周りには机と椅子が設けられ、そこでは飲み食いする人々で溢れている。

 そのさらに外側には色々屋台が出ていた。

 俺達も適当な食べ物を買って、空いてる席に座る。


「すごい盛り上がってますね」


 パチパチと燃える積み木を見てシャーラは言った。

 

「そういや、勇者来てないな」


 見渡しても勇者の姿は見当たらない。主役だと言うのに何をしているのだろうか。

 まあ俺的には全然来なくていい訳だが。むしろ来るな。

 来るとフードを被らないといけなくなる。


 そんなことを考えてる矢先、周りに人だかりを作りながら勇者が広場にやってきた。

 噂をすればなんとやらだ。


 俺はため息をついてフードを被った。シャーラも同じようにフードを被る。


 勇者が来たと知ったら、先程まで踊り食いしていた人々もそちらに集まっていき、たちまち勇者の周りは人で埋め尽くされた。


 椅子に座っているのは俺達くらいだ。

 俺は隣に座っていた人が買った食べ物を一口もらう。


「お、うまいなこれ」


「ダメですよそんなことしちゃ……」


「バレないって」


 俺はそう言ってもう一口。

 勇者の人だかりの方を見ると、人だかりはどんどん増えていく一方だった。

 勇者は演説でもさせられてるのだろうか。


 結構長い間その状態が続いて、やっと人々がバラけだした。

 中心にいた勇者の姿が見えるようになる。

 両サイドに例の二人を携えていて俺のこめかみが思わずひくついた。


 その時、俺と勇者の目が合った。

 俺はすぐに逸らしたが、視線を戻してみると勇者はこちらに向かって歩いて来ていた。


「……こっちに来てません?」


「ああ、来てるな。逃げよう」


 そう言って俺は立ち上がる。シャーラも遅れて立ち上がった。


 そのまま歩き出そうとすると、肩をぐっと掴まれた。


「ちょっと、いいかな?」


 振り向くと案の定、勇者だった。もうこうなると逃げられないので、俺とシャーラはぐるっとぎこちなく振り向いた。

 気づけば周りの人々の注目も俺達に集まっていた。


「フードとってもらっていいかな。

 僕はちょっと人探しを頼まれていて、丁度君たちの外見がそれと重なっているんだ。遠くから君の黒髪も見えたしね」


 その時、俺はあたふたしながら「えっ? えっ? なんの話ですか!?」とか言って全くの人違いを演じる予定だったんだ。


 だけど、勇者の両サイドで腕におっぱいを押し付ける金髪美少女と、小さいけど頑張っておっぱいを押し付けようとする桃髪美少女を見てイラッと来てしまった俺は、思わず全く違うことを言ってしまう。


「誰だよテメーは。

 いきなり現れて好き勝手言ってんじゃねーぞ」


 言い終わると同時に、俺はやらかしたことに気付いた。

 この様子を見ていた周りの人々も唖然とする。

 しかし勇者の対応は大人だった。


「確かにまず名乗るのが礼儀だった、すまない。

 僕の名前はシュバルツ・バルト。勇者だ」


「そっちの二人の名前は?」


 俺はバルトに少しキレ気味で聞く。


「それは聞かなくてもよくないですか?」


 シャーラはそう言ったが、バルトはきっちり二人も紹介した。俺としては本人に自己紹介して貰わないと意味がなかったのだが。


 金髪巨乳がアイリンという名前で、桃髪貧乳がルーシェというらしい。

 バルトに偉そうな態度をとった俺はさっそくその二人に嫌われてしまったようで、睨まれている。


「で、フードとってくれるかな?」


 見れば分かった。この勇者、なんだかんだで臨戦態勢だ。

 そしてこの状況で俺が取れる行動はひとつ。


「はぁ、仕方ないなぁ」


 そう、フードを取るしかないのだ。

 シャーラも俺がとったのを見てそうした。


 はぁ、絶対にバレるよなぁ。面倒くさいなぁ。


 そう思いながら、俺はどうやってこの場を切り抜けるか考えていた。

 シャーラと繋がっているので戦闘だけは避けたいんだが、良い方法が思いつかない。

 とりあえずバルトがどうでるか見ることにした。


 俺は半ば諦めながらバルトの顔を伺う。

 見てみるとバルトは俺なんか見てなかった。その視線の先はシャーラ。


 そう、バルトはシャーラの顔に見とれて呆然としていたのだ。


 これには俺も驚いた。だけど一番驚いていたのはバルトの両サイドの二人だろう。シャーラにみとれる勇者の表情をみて目を丸くしている。

 当のシャーラもバルトを見ているが、どういう状況か分かってなさげで、きょとんとした顔だ。


 やれる、そう思った。


「で、俺達になんの用だよ?」


 シャーラに見とれるバルトに俺は尋ねた。

 バルトはハッとなって答える。


「えっ、あ……。

 僕はアーバンベルズ王に頼まれて、銀髪の少女と黒髪の男の二人組を探しているんだ。丁度歳は僕と同じくらいらしい。

 君達がそうじゃないかな?」


「そうじゃないかなって言われても分からねぇよ。

 王様はなんでその二人を探してるんだ?」


 すっとぼけ。絶対俺らやんそれ。


「彼ら、というよりその黒髪の男の方の首には金貨54枚がかかってる。  いわゆるお尋ね者なんだ」


 俺は金貨54枚という単語で驚いたふりをする。ラインから聞いていたので今更驚かない。

 横のシャーラは実際に驚いていた。



 さて、これは押し切れそうだ。

 俺達をそのお尋ね者だと判断できる材料をバルトが持ち合わせていないとは思っていなかった。

 似顔絵くらい出してくると思ったんだが、これはラッキーである。


 ここで俺が違うと言い張るより、シャーラに弁明して貰った方がバルト的にも効果がありそうだ。

 そう思った俺はシャーラの手をちょいちょいとつついてその旨を伝える。


 するとシャーラもそれを理解したようで口を開いた。


「確かに風貌は私達とそっくりですけど、人違いじゃないですか?」


 シャーラにそう言われてバルトは唸った。

 まあ銀髪と黒髪の二人組なんてめったにいるものじゃないし、信用しきれないのもわかる。

 現に俺らがその大罪人な訳だし。



「じゃあ、試させて貰ってもいいかな。アイリン、ルーシェ、下がっててくれ」


 いきなりだった。

 バルトは一歩前に出て腰の剣に手を添える。

 俺は思わず剣の間合いから飛び退こうとしたが、(すんで)のところで堪えた。


 こいつはおそらく俺の実力を見るために今から剣を抜く。

 俺の反応を試そうとしているのだ。


 ここまでの思考がおよそコンマ五秒。


 次の瞬間にバルトは踏み込み、剣を抜いた。

 その勢いでバルトの本気度が伝わってくる。マジで斬りに来てた。


 バルトは俺がこれを避けれるかどうかでことを判断するつもりなんだろう。

 この勢いだと最悪本当に斬られるかもしれない。

 しかし、それでも俺は全く反応せずに立ち尽くした。


 俺の頬を剣がかすって通り過ぎる。ギリギリで剣筋を変えたのだろうか、それだけで勇者の実力が尋常では無いことが伺えた。


 バルトが剣を振り抜き切る。そこで俺はやっと反応した。


「えっ? えっ?」


 切れて血が流れる頬を押さえて何が起こったのかわからないと言った表情をした。

 その様子を見ていた周囲にも沈黙が訪れる。

 聞こえるのは積み木がパチパチと燃える音だけで、しばらく誰も声を発しなかった。


「い、いきなり何するんだよ!?」


 まず最初に言葉を放ったのは俺だった。名演技である。


「す、すまない。僕の勘違いだったみたいだ……。本当にすまない……」


 バルトは申し訳なさそうな表情で俺に頭を下げた。


「なんなんだよいったい!!」


 俺がそんな感じでプンスカしていると、シャーラが勇者に言った。


「よくわからないんですが、私と兄さんの疑いは晴れたんですか?」


 新設定、兄妹。


 シャーラの妙なアドリブに笑いそうになったが堪える。


「君達……、兄妹だったのか……!」


 その設定を聞いてにバルトが嬉しそうな顔した。

 しかしまたハッとなって勇者はコホンと咳払い。


「ああ、疑いは晴れたよ」


 そう言ってシャーラにイケメンスマイルを向けるバルト。

 俺斬っといて何笑ってんだこいつ。


「もういいだろ、行こうぜ」


 そう言って俺はシャーラを手を引いて、その場から離れようとする。


 するとまたバルトはまだ何か用があるようで、俺達を引き止めた。


「待ってくれ!」 


「んだよ?」


「君の……、君の名前を教えてくれないか?」


 バルトの視線の先はもちろんシャーラ。

 しかし、それには俺が答えてやった。


「レイヤだ」




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