アタックオブレイヤ
「すまんね、迷惑かけちまって」
「いや、いいんだ」
【元はと言えばレイヤのせいだしなァ】
婆さんを二階のベッドまで運んで、俺は今婆さんを看病してやっている。
ティルフィングの言うとおり、俺が無理させてしまったせいで婆さんは倒れてしまった訳だ。
これくらいはして然るべきである。
看病といっても、婆さんいわく「熱を出して倒れただけ」らしいので、濡らした布を額にのっけるくらいの簡単なことしか俺にはできない。
まあシャーラと手が繋がってるせいで、この単純作業にすら俺は手こずっているのだが。
「で、その娘が惚れ薬を飲んじまったって娘かい?」
ベットに横たわる婆さんは俺の隣のシャーラに視線を移して言った。
「ああ、そうなんだよ。見ての通り俺から離れない」
「そうか、実は薬の方は出来上がってるんだ。一階の机の上にあるから取りに行きな」
「え? マジ?」
「ああ、赤い小瓶に入っている」
それを聞くや否や、俺はシャーラを連れて一階に下りてその薬を探した。
すると机の上には婆さんの言っていた通り赤い小瓶があり、俺はそれを手にとると、また二階に上がった。
「婆さん、これ?」
「ああそれだ。その娘に飲ませてやりな」
俺はシャーラにその赤い小瓶を手渡して、飲むのを促した。
しかしシャーラはそれを拒否。ぷいとそっぽを向いた。
婆さんはそれを見てよくあることだと笑う。
【それ飲んだらレイヤがなんでもしてくれるッてよ!】
さて、どうやって飲ませようかと考えているところ、ティルフィングがそんなことを言った。
「……ちゅー、とかでもですか?」
シャーラが俺を見上げて聞いてくる。
「おい糞。勝手に何言ってくれてんだ」
【オイオイ糞はひでェだろ!! 飲んだら治るんだから結局そんなことしなくていいんだよ!!】
なるほど、この薬をシャーラが飲めばこの症状っていうか発情モードは治るわけだから、結局しなくてよくなるわけだ。
「おっけ、それ飲んだらなんでもしてやる」
それを聞いたシャーラの動きは素早く、すぐに小瓶の蓋を開けて中身を飲み干した。
やっとだ……、やっと元のシャーラに……。
「飲みました、ちゅーしてください」
治って……ない?
俺が予想外の展開に驚いていると、婆さんが言い放った。
「いきなり治るわけがないだろ、惚れ薬を中和するのにしばらく待たなきゃいかん」
「それは先に言ってくれよ……」
【ザマァ!!】
すでにシャーラは俺に顔を近づけて目を閉じている。
ほんとにキスしてやってもいいのだが、それだと治った後のシャーラをおちょくれないので、俺は治るまで適当にあしらって時間を稼ぐことにした。
ーーー
シャーラが元に戻った。
「で、シャーラさんよ? 言いたいことある? ねぇ? 今どんな気持ち? ねぇ? ねぇ?」
【こいつァひでェ!!】
すでに俺の猛攻撃は始まっていた。
シャーラは顔を真っ赤にして俯いている。
「まずこの手を見てほしい」
俺はシャーラと繋がれた方の手を持ち上げた。俺が手を持ち上げたら勿論シャーラの手もセットでついてくる。
「あれ? この手繋がってね?」
俺はわざとらしく手をぶらぶらさせてそう言った。シャーラは何も答えない。
「シャーラさん、これなんで繋がってるんですか? なんか知ってる? 黙ってちゃあわからないよ?」
「……私が……繋ぎました……」
罪を告白するようにシャーラがボソリと呟いた。
それを聞いた俺の顔はさらに下卑た顔へと変貌を遂げる。
なんていうか今めちゃくちゃ楽しい。
「あちゃー! 繋いじゃった? 宝具まで使って? あー、そういえば俺と離れたくなかったんだよねー。もう可愛いなぁシャーラちゃんは」
そして俺はニヤニヤしてシャーラの顔を覗き込む。
シャーラは何も言わず、いや、何も言えずにただ俯いている。顔だけじゃなくて耳まで真っ赤だ。
さて、俺達はまだ薬屋にいる。
婆さんはベッドで寝息を立てていた。先程眠ってしまったのだ。
俺は金も払ってないし、しばらく婆さんを看病しようと思っている。
なんにせよ婆さんが起きるまではシャーラいじりなんかで時間を潰すつもりだ。
シャーラは俯きっぱなし。
今は穴があったら入りたいといったところだろう。
惚れ薬のせいとはいえ、あんな姿を見せてしまったなら恥ずかしいなんてもんじゃないはずだ。
しばらくシャーラいじりを続けていると、シャーラはとうとう耐えきれなくなったのか、無理やり話題を変えようとしてきた。
「そ、そんなことよりお腹すきません?」
シャーラにとってはもうやめてくれという懇願みたいなものだろう。
まあ俺も十分楽しんだし、度を過ぎてシャーラを怒らせてしまうと敵わないのでこの辺りで引き上げることにしよう。
昼飯にはまだ早いが、朝飯を食べてないのでお腹が減っているのも事実だし。
「そうだな、婆さんは一旦ティルフィングに任せて飯でも食べに行くか」
俺がそんな返答をするとシャーラはホッとした表情でため息をつく。
【剣に何を任せるって言うんだよ! 俺も連れてけェ!】
騒ぐティルフィングを壁に立てかけて、俺達は薬屋を出た。
ーーー
「あ、サルコプルがありますよ」
そう言ってシャーラが指さした先を見ると、サルコプルを売っている店があった。
「本当だ。俺も実はあれ食ってみたかったんだよ」
現在、俺達は昼飯のために食い物屋を物色中である。
昨日徹夜した婆さんは多分まだ起きてこないので、昼飯だけじゃなくてしばらく町を回ってみるってのもありかもしれない。
「これ2つください」
俺はサルコプルが売ってる店の前まで来ると、サルコプルを指さしてそう言った。
お金を渡して、紙包みに包まれたサルコプル2つが手渡される。
シャーラが片手でそれを受け取って、一つを俺に手渡した。
手が繋がっているせいでいちいち動きがぎこちなくなる。
俺は左手でなんとか紙包みを広げてサルコプルを一口食べた。
「結構美味しいな、これ」
だけど結構ボリューミーで、中々腹に来る。
横のシャーラも紙包みを開けてサルコプルを頬張っていた。
シャーラは食べるのが遅いので、俺が食い終わった後もしばらくサルコプルを食べていた。
その後、俺達は腹がいっぱいになるまで食い歩きすることになったのだが、興味のあるもの全てを食って回ったので、すぐに腹一杯になった。
すぐに、と言っても太陽が真上まで昇っているところを見ると、時間的には結構経っている。
「もう食べれません……」
「俺もっすわ……」
胃袋の中身を消化させる為に、俺達は今、町をだらだらと歩いている。
丁度、町の入り口に来たところで、俺達は人だかりを発見した。
「なんだありゃ、大道芸でもやってんのか?」
「町の入り口で、ですか?」
「見に行ってみるか」
俺達はそこまで行って、その人混みの後ろの方からその中心部の様子を背伸びして見てみた。
すると、そこにいたのは老人と、腰に剣を差した青年だった。
二人は何かを話しているが、周りが騒がしくて聞こえない。
だから俺は近くにいた人に聞いてみた。
「いったいなんの騒ぎですかねこれは?」
「ああ、最近召喚されたっていう勇者様が来たんだよ。
今夜は祭りだな」
なるほど……。え?マジ?
「おいシャーラ、あれ勇者だってよ」
「あの後結局召喚できたんですね……」
どうやらラインの言っていたことは本当だったようだ。
俺は勇者である青年をもう一度まじまじと観察する。
なるほど、勇者っていうだけあってイケメンだ。整った顔立ちをしていて、茶髪がかった髪の色をしている。服装に特色はないが、着こなしている感じがして腹立たしい。
見た目は俺と同じくらいだけど、どうせとんでもない力とか持ってるのだろう。
あの老人の方は大方町長かなんかだろうか、さっきから勇者にペコペコしている。
勇者はなんだか困った表情をして、拒否するように手を振っていた。
その様子を見ると、なんて話しているか想像できた。
「すぐに祭りの準備をしますので!」
「いや、わざわざそんなことしなくていいですよ……」
おそらくこんな感じのやりとりだ。
そういえば勇者様には仲間はいないのだろうか、仲間らしき人物が一人も見当たらない。
そう思っていると町の外にドラクエチックな馬車があることに気づいた。
もしかするとあの中に仲間が待機していたりするのだろうか。
憧れの眼差しで馬車を見ていると、そこから人が二人出てきた。
出てきたのは金髪でおっぱいが大きくて可愛い少女と、ピンクの髪をしたそれまた可愛い少女(おっぱい虚無)だ。
あんな綺麗な金髪もピンク髪も初めて見る。
その少女達は勇者の所まで歩いて行ったと思えば、いきなり勇者の引っ張り合いというか奪い合いをおっ始めた。
それを見た俺は絶句する。
「あ……あ、……あ」
「ど、どうしたんですか?」
「あ、あいつ……、もうハーレムを……」
そう、すでにハーレムを形成しつつある勇者に俺は驚いていたのだ。
シャーラはハーレムという単語を聞いた途端やるせなさそうな表情になったが、俺にとってこれはかなり衝撃的だった。
しばらく絶望していたけど、段々と腹が立ってきた。
「あのルックスなら俺でもすぐにハーレム作れるしぃ!」
「……それでもレイヤには無理だと思います」
なんでそんなこと言うのかなぁ、この銀色は。
「チッ、俺にはシャーラがいるからハーレムなんていらないしぃ!」
「な、なに言ってるんですか」
俺がそう開き直ると、シャーラが少し予想とは違う反応をした。
少し驚いたが、俺はすかさず追い打ちをかける。
「ん? 何照れてんだよ」
「照れてません」
シャーラはそう言ってそっぽを向く。
「ぎゅーってしてやろうか?」
「……っ、それはほんとに忘れてくださいよ……」
閑話休題。
「なあ、勇者って俺らのこともしかしたら知ってるんじゃね?」
ラインも俺たちを追ってくる云々言っていた。勇者が追ってくるってのも変な話だが。
「多分知らされてると思います……。
バレたら捕まえられるかも知れませんね。
銀髪と黒髪の二人組ってだけでかなり絞られますし……」
「フード被っとくか」
「そうですね」
そうなると勇者の近くにいるのも危険なので、ここから離れた方がいいかもしれない。
そう思った俺達は、その人だかりから離れた。




