ギガンティックREIYA
「ここは一旦手を組むべきだな」
バーバルの提案は至極妥当なものだった。今は宝具を奪い合ってる場合じゃないのは、少しずつ近づいてくるギガースを見たら分かる。
だから俺もラインもその言葉に頷いた。
バーバルはギガースめがけて走り出す。それを見たラインも走り出したので、俺は乗り遅れた感じになる。
バーバルはを宙で一回転、そしてギガースの足の蛇に剣を斬りつけた。
スパッと蛇は切断された。その蛇はバーバルに向かって走り出すが、バーバルはその頭を斬り落とし、もう片方の手でなぎ払う。
そのバーバルの洗練された動きを見ていると、これ倒せるんじゃね?なんて思ったが、その次の瞬間にはギガースの足の蛇が再生していた。
「お前ら! こいつは体の何処かの核を潰さない限り不死身だぞ!」
マジっすか。
「わかってる!」
そう言って横から踊り出たラインの片手には短剣。
ラインはその短剣で数回ギガースを突き刺すと、その体を蹴って後ろに飛んだ。
……なんか俺だけで遅れてるぞぉ。それにこいつら武器とかずるい。
俺も何か得物が欲しくなったので、俺はなんでも出来ちゃうバット、エス○リボルグを創造した。
「で、こんにゃく……と。はいはい、大体わかってましたよ」
エ○カリボ〇グは諦めて、俺は大人しく身の丈ほどの大剣をイメージして創造する。
その創造は成功して、俺の手にはデカイ剣。
俺は鷹の団の切り込み隊長になったくらいの気持ちで走り出す。そして高く飛び上がり、ギガースの脳天めがけて大剣を振り下ろした。
しかし、その攻撃は通らず、大剣は大きく弾かれる。思わぬ反動に俺はそのまま地面に転がり落ちた。その時の俺の脳には、某狩りゲームで最強の硬度を誇る麒麟さんがフラッシュバックしていた。
「頭硬すぎだろこいつ……」
俺がそんなことを呟いた瞬間、今まで大した動きを見せなかったギガースがいきなり動き出した。
「来るぞ!」
そしてギガースは上体を大きくうねらせ、ラインめがけてその大きな腕を振り回した。
ラインは後ろに飛んだり身を低くしたりしてそれを躱すが、とうとう一撃を貰ってしまい、壁に吹っ飛ばされる。
ギガースはラインが吹き飛ぶと同時にシュルシュルと蛇をうねらせ走り出し、ラインに追撃を加えた。
しかし、ラインは横に転がってそれを回避、そしてこっちまで走ってきた。
「俺狙われてない!?」
「宝具持ってるからじゃね?」
「おそらくそうだ! 来てるぞ!」
ギガースは足が蛇だからか、動きが不規則かつ速い。
「レイヤ、パス!」
俺がギガースの動きを観察しながら逃げ回っていると、ラインが例の宝具を俺にパスしてきた。
俺がそれをキャッチすると、ギガースのターゲットは俺へと移ったのか、こちらに向けて突進してくる。
しかし、至って俺は冷静。
そう、実はさっきからこの瞬間を待っていたのだ。自分でも使えることを忘れていた例の呪文、俺はゆっくりと唱えた。
「リミレト!」
しかし不思議な力でかき消された!
……やっべ。ここリミレト使えないダンジョンっすか。
そう思った時にはギガースはすでに眼前、俺はギガースのタックルをモロに受けた。
吹き飛ぶ俺。俺は手に持った大剣を地に突き刺して、壁に叩きつけられるのを防いだ。
そこに再びギガースは突進してくる。
「バーバル! パス!」
そう言って宝具をバーバルに向けて投げる。しかし、バーバルはそれを避けた。
「なんでやねん」
「これで標的は絞られない! 俺達が共闘しやすくなるはずだ!」
なるほど、でもそれって宝具を持ってなくても結局こいつは止まらないってことか。
宝具を大人しく返したら止まるなんて考えてたけど甘かったか。
そんなことを考えている間にもギガースの足の蛇が俺を襲った。
俺は跳んで避けるが、上から手で叩き落とされ、地面に落ちる。
そんなところに足の蛇が俺の肩に噛み付いた。
「いてぇえええええ!!! ヘルプ! ちょ、お前らなんで見てるの!?」
俺が攻撃を受けているというのにあいつらはまだ動いていなかった。俺がそう叫んでやっと動きだす。
バーバルが蛇を叩き斬って、俺は開放される。まだ噛み付いたままの蛇を何度か殴ると、息絶えたのかポロリと地面に落ちた。
肩を見ると、服は破け、肩の肉は抉れていて血が流れ出している。
「ベポイミ!」
とりあえず何度もお世話になってる回復魔法を使うと、俺の肩の傷はスゥと癒えていった。
「すごい回復魔法だな」
その回復していくところを見てバーバルがそう言ったので、俺が自慢しようとすると、上からギガースの腕が降りてきた。
俺は横に飛び退いて、そのままギガースに接近する。
そして大剣を太もも狙ってなぎ払うが、その瞬間にギガースは後ろに後退していってその攻撃は空振りとなった。
「つか核はどこにあるんだよ!」
「分からない! 多分体中を常に移動してる!」
運ゲーじゃねぇか。この巨体だと攻撃しにくい部位の方が多いわけだし。
「逃げた方がよくね!?」
「どこに出口があると思う?」
ラインはそんな質問しておきながら上を指さした。
そう、落ちてきたんだから上に逃げないといけない。しかしその間にギガースに攻撃されないわけがないし、追いかけてこない保証もないのだ。
つまりそれはこいつを倒すしか選択肢がないことを示していた。
「え? これって結構ヤバイ状況なん?」
その疑問には少し離れたとこにいるバーバルが答えた。
「最初から言ってるだろーが」
ーーー
あれから俺達を狩ろうと暴れまわるギガースを、いなしては攻撃、躱しては攻撃、そんなことをひたすら繰り返していた俺達だが、そろそろ疲れが見えてきていた。
俺もギガースの不規則な攻撃を全て避けれるわけでもないので、何度か創造を使って回復した。だから精神力的にも結構消費してしまっているのだ。
それは俺だけの話ではなく、先程まではバーバルとラインにもそれなりの余裕は見えていたのだが、一向に攻撃が核に当たらないので、面構えが変わってきている。
そう、このまま消耗戦になれば殺られるのは俺達で、そろそろ本気で潰しにいかないとマズい訳である。
「バーバル、どうせ何かとっておきがあるんだろ? 勿体ぶらずに使っちゃいなよ」
会話がすっかりなくなっていた俺達だけど、ラインがそんな言葉をバーバルに投げかけた。
「……お前も何か隠し持ってそうだな」
「……まあね。レイヤもそうなんだろ?」
いきなり俺に話を振られたので驚いたが、俺はニヤリと口角を釣り上げることでそれに答えた。
勿論、俺はそんな奥の手みたいなのは持ってない。
「仕方ない、俺がやろう」
そう言って前に出たのはバーバルだった。
「その代わり、詠唱の為の時間を稼いでもらうぞ」
「詠唱か……。階級は?」
「最上級魔法だ」
それを聞くや否やラインは走り出した。
「渦巻く混沌の礎……逆巻く慟哭の時雨……背反せよ……」
バーバルはさっそく詠唱を始めだす。バーバルの周りには魔法陣が浮かび上がり、その体には薄い光の膜のようなものが覆っている。
それを見た俺は地を蹴り、駆け出す。
「レイヤ、俺達で時間を稼ぐよ!」
「オーライ!」
ギガースの手が俺に迫った。俺はそれを避けるために横に飛び、その間に腕を斬りつけた。
その横でラインが飛び上がり、俺が斬りつけた場所と同じ場所に短剣を突き刺す。
そしてそのまま腕を蹴って後ろに飛んで逃げた。刺した短剣はそのままだ。
なるほど、どうせ再生されるから刺したままにしといた方がいいのか。
「レイヤ! 足を狙おう!」
「りょ」
俺はギガースの足の蛇、腕の攻撃、それらを避けながら足の蛇に攻撃を加えていく。
ラインも同様のことをしていた。
そのまま壁際まで引き付けると、大剣のツバに肩を押し付け、切っ先をギガースの方へ向けた。
そして壁に大きなロイター板を創造する。俺はそれを両足で思いっきり蹴ってギガース目掛けて突っ込んだ。
「オラァァァ!!」
重い抵抗。だけど、大剣はしっかりギガースの太ももを突き破った。血しぶきがあがり、俺の顔にかかる。
だけどそんなことは気にせず、俺は突き刺さった大剣の柄を足場にして上に跳んだ。
ギガースの腕が俺を追いかけたが、ラインが新たに取り出したいくつもの短剣を投げつけて阻止してくれた。
そして俺は上からギガースを見下ろし、そのままギガースの元へ落下していく。
その間に手に短剣を創造して、狙いを定めた。
勿論、狙う場所は眼球だ。
俺は空中でカッコつけてクルクルと短剣を回す。
が、それが失敗だったようで短剣が手から滑り落ちた。
「あ」
思わぬ誤算。
俺は短剣で目を攻撃するつもりだったが、急遽予定を変更。創造ももう間に合わないので、手刀で目を攻撃することにした。
俺は腕を振り被り、ギガースの目に手刀を突き刺した。やはり頭は硬くてもさすがに目まで硬いってことはなかったようで俺の手はズブリと刺さっていく。
『オオオォォォ!!』
そこで初めてギガースが悲鳴をあげた。
ギガースが猛烈に暴れまわったので、俺は地面に振り落とされるが、すぐに立ち上がる。
「おいライン! こりゃ効いてるぞ!」
「みたいだね、痛覚はあるみたいだ」
俺達は暴れまわるギガースから少し距離を置く。
俺は振りむいてバーバルの様子を見てみたが、雰囲気からしてまだ詠唱は終わってないようだ。
次にギガースを見た時には目は再生し終わったようで、またこちらに向かってきていた。
「時間を稼ぐなら目だな、回復が遅い」
二手に分かれて跳ぶ。ギガースは俺の方を追いかけてきた。
俺は蛇が地を這って俺を襲う、俺は顎めがけてアッパーを繰り出す。
そこに隙が出来て、俺はギガースの手によって薙ぎ払われてしまった。
「っつぅ……!」
壁にたたきつけられて、地面に膝をつく。
その次の瞬間、ビーム的な何かが俺の頬をかすめた。後ろの壁に穴があく。
びっくりしてみてみると、ギガースの口から煙が上がっていた。
こいつ……、そんなことできたのかよ……。
俺は横に転がりながらラインの近くまで駆け寄った。
「今の何?」
「どうやら魔法も使うみたいだね」
「マジかよ」
「だけどもう大丈夫、あれを見てごらん」
そう言ってラインはクイクイと親指で後ろを指した。
俺が振りむくと、そこにいたのはバーバル。周りの魔法陣の発光が美しく、纏っている光のオーラの輝きもさっきと比べ物にならなかった。
「もしかして、詠唱が終わったのか?」
「そう、離れたほうがいいよ」
「待たせたな、お前ら」
バーバルがそう言ってこちらまでゆっくり歩いてきた。魔法陣ごと移動するその姿はどこか神々しかった。
ギガースもそれを警戒しているのか動きが止まっている。
「詠唱維持なんてしてないで早く発動したらどうだい?」
「ふん、ちょっとくらいカッコつけたいんだよおっさんは」
バーバルは手のひらを宙に向けた。
すると、バーバルの茶色の髪は重力に逆らうかのように逆立ち、その手の上にはオーラが圧縮されていき、やがてそれは小さな玉となった。
バーバルの手の上にふわふわと浮いている。
「終わりだ、消失星印」
バーバルがそう呟くと、その玉の輝きはいっそう強まる。近くにいる俺達が思わず目を瞑ったくらいだ。
そしてバーバルはその玉をギガース目掛けて投げつけた。
玉は物凄いスピードで飛んでいき、ギガースに着弾。
そして、着弾した場所を中心に綺麗な球体が現れ、消える。
同時に球体内にあったギガースの体も消失した。
「す、すげぇ」
残ったのは球体外にあったギガースの巨大な両腕のみ。
それはゴトリと音を立てて地面に落ちる。
しばらくの沈黙。そしてラインが呟いた。
「……やったか?」
その言葉に俺は目を見開く。同時に絶望。
気づけば俺はラインを本気で殴っていた。
「なにするんだ!?」
「こっちのセリフだ! それは生存フラグだろ!?」
俺は残った二本の腕の元まで走り出す。
そしてそれに拳を何度も叩き込んだ。
が、遅かった。
腕の断面がいきなりぐにゃぐにゃ動き出したと思えば、ゆっくりとそこからギガースの体が構成されていき、やがてそれは完全なものとなった。
つまり、復活した。
俺は振りむいて叫ぶ。
「どうしてくれんだよライン!」
「嘘……だろ?」
「……おいおい、さっきのをもう一発撃てる魔力なんてもうないぞ」




