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ショットシェルのレイヤ

 遺跡に着いた。俺の目の前には、そびえ立つ高い塔がある。


 こんなのゲームでしかみたことないょ!


「本当にこんなのが今まで発見されなかったの?」


 辺りが木々で囲まれている森の中とはいえ、この塔が見つかっていなかったてのは不自然だ。


「その塔は昔からあったよ。遺跡は塔の地下だ」


 ああ、なるほど。



 ラインは荷馬車をとめて、近くの木に馬を繋ぐ。


「シャーラちゃんにはここで待っててもらうことになるな」


 そう言って、ラインはポケットから何か指輪のような物を取り出した。


「なんぞそれ?」


 俺が聞くと、ラインは説明しだした。


「宝具、純心(クリア・ハート)、これを着けてじっとしていれば、他人からは見えなくなる。女性しか使えない宝具さ」


 ラインはそれをシャーラに手渡す。


「ありがとうございます。こんな大切な物貸して貰ってなんか悪いです……」


「いやいや、ここでただ待ってるのも危険だからね」


「シャーラ、それ着けてみてくれよ」


 俺がそう言うと、シャーラがそれを指にはめる。すると、シャーラの姿はパッと消え、見えなくなった。


「おお、すげぇな」


 俺はおもむろにシャーラのいたところへと手を伸ばす。


「きゃ!」


 そんな声が聞こえたと同時に、ムニっと何か柔らかいものを掴んだ。


 あ、これシャーラのおっぱいや。


「何するんですか!」


 突如、俺の目に衝撃が走った。


「いってぇぇぇ!!」


 見えない攻撃ェ……。今の仕方ないやん……。




 さて、シャーラに一時の別れを告げて、俺達は塔に入った。


 塔の一階の間には、大きな穴が空いており、そこから地下に行けそうだ。


 とりあえず覗いてみる。



「ちょ、下見えねぇ……」


「うん、いこうか」


 言って、ラインは迷わず穴に飛び込んだ。俺もそれに続く。



 落下していくと、そのうち地面が見えた。この高さなら着地しても痛くない。


 瓦礫の上に着地すると、俺は上を見上げた。


「穴があんなに小さいぜ……」


「そうだね。塔の床が抜けて発見されたのか」


 俺達が落ちた場所は丁度空洞になっていて、その先を見ると明らかに人工的に作られた広い道が続いていた。


 灯りもなにもないのに、なぜか遺跡内はそれなりに明るい。上からは見えなかったが、なぜだろう。


 俺がそんな疑問を感じていると、それを読み取ったのか、ラインが解説してくれた。


「壁に光が貯まっている、明るいのはそれのおかげだ」


 ラインを先頭に道をしばらく進むと、俺は後方に異変を感じていた。


 誰かが着いてきている。かなり後ろから、音を消してついて来ているのだろうけど、俺の強化された耳からは逃れられなかった。


「おい、ライン」


「うん、囲まれてる」


 このやり取りかっけぇ、そんな事を思っていると、後ろの歩調が速まった。


「……来るよ」


「あいつら何者なんだ?」


「トレジャーハンターをさらにハントする奴らさ。トレジャーハンターハンターってところかな。簡単に言えば盗賊」


「なるほど、賢いやり方だな」


「俺は前の奴らをやるから、レイヤは後ろのやつらを頼むよ」



 了解、そう言って俺は踵を返して一気に走り出す。


 一歩で格段に距離を詰めていく俺。そしてすぐに足音の持ち主達のところまで辿り着いた。


 俺は態勢を低くして、地面の砂利を両手で拾う。

 一回転、そして踏み込み、渾身の力でそれを投げつけた。そのままもう一回転し、もう片方の手にある砂利も投げつける。


 俺の手によって投げられた砂利は拡散して放たれ、散弾級の威力を発揮した。


「ギャァ!!」「クソがァ!」「手練だ、お前ら退くぞ!」


 そしてそんな悲鳴が響く。


 なんのテクニックもない、ただ石を投げつけただけなのに俺を手練だと判断するや否や、すぐに盗賊達は逃げていった。


 それを見届けて、俺はラインの元へと戻る。

 すると、ラインもちょうど終わったみたいで壁に持たれて俺を待っていた。盗賊達はその辺りに倒れている。


「そっちも終わったか」


「ああ、所詮は盗賊だよ」


「いつもこんなの?」


「たまにかな。俺みたいに若いと狙われやすい」


「ふーん」


 そういや、こいつ俺と同年代くらいなのにめちゃくちゃ手慣れてる感じあるな。


「いつからトレジャーハンターやってんだよ?」


「うーん、かなり小さい頃からお父さんと行ってたなぁ……」


 うわぁ、とんでもねぇ親父だな。それのせいで今もこんな生活してるのかこいつは。


 俺は同情の視線をラインに向けるけど、ライン自身楽しそうだからいいのかもしれないと納得しておく。


 俺はここの世界出身じゃないからラインみたいな生活は憧れだけど、ここの世界出身の奴らならこんな生活は偏見の対象じゃないだろうか。



 そこで会話は途切れて俺達は再び歩き出す。


 進んでいくうちに道はどんどん狭くなっていって、ある点を堺にそこから一定の広さで道が続いていた。


 そこから溢れ出るトラップ臭。



「絶対罠とかありますやんここ……」


「だね。それよりレイヤ、これを見てくれ」


 そう言ってラインが指さしたのは、壁の横に刻まれた謎のマーク。


「これは先客が来ている証拠だ。ここを通るってことはその先客に攻撃されてもいいってことになる。トレジャーハンター達のルールさ。有名なトレジャーハンターのマークがあったら、見ただけで帰る奴だっている。


 ……しかしこのマーク、まさかあの人が来てるとはね」


「へぇ。あの人って?」


「天獄の暦のバーバルだよ。あの人トレジャーハンターもやってるんだ。バーバルこそ有名なトレジャーハンターってやつ」


「あのおっさんが?」


「ああ、これは激戦区になりそうだ」


「あのおっさんそんなに強いのかよ」


「少なくとも俺じゃ絶対に勝てない」


 こいつがここまで言うか。


 そう思って俺はラインの顔を一瞥する。


「それでも引き返す気はなさそうだな」


「そりゃね」


 ラインはニヤリと白い歯を見せた。



ーーー



「これ進んでる? どこまで続くんだよこの道」


「進んでないねこれは。同じところをグルグル回っている」


 どうやらさっきからうすうす感じてた通り、俺達はテンプレ無限回廊にハマっているらしい。


 同じところをグルグル回っているとは言っても、俺達はまっすぐしか進んでいない。


 それなのに同じところをグルグル回るってのは、おそらく遺跡の力だろう。さすがの異世界の遺跡というだけある。


「どうするんだよ?」


「ある地点を堺に、振り出しへと強制的に戻らされているっぽいね。

 とりあえず、そのある地点をさっきからずっと探してるんだけどこれが全然見つからないんだ」


 目印でもつければいいじゃん、とは言わない。多分そうしない理由があるんだろう。


「一回引き返してみねぇ?」


「いや、それはダメだ」


「なんで?」


「このタイプの仕掛けは引き返したらダメ。経験則だけどね」


「なるほど」


 こいつの言うとおりにしといた方が良さそうだな。帰れないなんて話になったら笑えないし。



 そこから俺達はしばらく無言で歩き続けた。


 そんな中、俺が足元の石ころをどこまで蹴り進めれるかゲームをしながら歩いていると、地面になにか光るものを発見した。


「おいライン、これみてみろよ」


 そう言って俺は前に進んでいくラインを呼び止めて、振り向かせた。そして地面の光るものを指さす。


「これは、石?」


「多分ここだぜ、その境目ってやつ」


「なぜわかるんだい?」


 ラインにそう問われたので俺は胸を張って答えた。


「この周辺だけほんの少し土の色が違う。

 それにその金具……なんか怪しい」


「なるほど、金具はともかく前者は良い着眼点かもしれない」


「だろ?」


 ラインはしゃがんで少し土を拾い上げた。土の質を確かめてるのだろうか。


 ラインはしばらく指の上で砂を転がした後、いきなりその砂を口に含んだ。


 俺は驚いたが、ラインはすぐにそれを吐き捨て、地面に耳をつけた。


「あ、この下だ」


「なんで分かるんだよ」


「水の流れる音が聞こえる」


 それを聞いて、俺も同じように耳を地につける。


 確かに、水の流れる音が聞こえた。


「どうやって下に降りるんだよ。やっぱり穴でも開けんの?」


「うん、ここは俺に任せてくれ」


 そう言ってラインは懐から何かを取り出す。そこから出てきたのは腕輪サイズの小さなリング。それは綺麗な白色をしていた。


 ラインはそのリングに指を引っ掛け、ゆっくりその輪郭を撫でた。


 するとどうだろう、リングはみるみる大きくなっていき、やがてそれは人が通れるくらいのサイズになった。


「かっこいいなそれ、宝具か?」


「そう、これはエンジェルリングっていう宝具で、これを使えばどんな所でも通り抜けられるのさ」


 ふーん、まんま通り抜け☆フープみたいなもんか。


 ラインはさっそくその大きくなったエンジェルリングを地面に置いた。するとその輪っかの中だけ空洞になり、下を見渡すことができた。


 ラインはそれを見るやすぐに飛び降りる。


 俺はそれに続こうとするが、ふと視界の端っこにさっきの金具が映った。

 なんとなくそれが気に入った俺は、それを拾ってポケットに突っ込んでから穴へと飛び込んだ。






 着地。いや、着水というべきか、俺達が落ちたのは地底湖みたいなとこだった。その水はかなり冷たくて、いきなりのことに心臓がドクドクなっている。


 俺達は泳いで岸まで辿り着く。



「服びっちゃびちゃっすわ」


「俺もだ」


 ラインは髪の毛を掻き上げて、服の端を絞っている。


 それがなんていうかサマになっていたので、俺も真似してみたが悲しくなってすぐにやめた。


 俺は喉が乾いていたことに気づき、地底湖の水をいくらか飲んだ。


 その時に気づいたのだが、この地底湖、かなり透き通っている。


 さすがに底は見えなかったが、泳いでる魚くらいは見えた。


 しばらくそれを見つめていると、地底湖の底の方で何かが動いた。

 気になって、目を凝らしてみてみると、それはデカイなんてもんじゃないサイズの魚。

 とにかくでかい。ヤバイ。

 

「おいライン! やべぇよあれなんだよ」


 ラインを呼んでそれを見せると、ラインも驚いた様子でそれを凝視した。



「……あれは陸に上がる前の竜種の祖先だよ……。驚いた、とっくに絶滅してるはずなのにまだ存在しているなんて……。おそらく数千年、下手すると数万年単位で生きてるに違いない」


「そんなすげぇのか……」


 なんにせよあれを刺激するのは得策とはいえなさそうだ。

 水の中の生物にはなんていうか底知れぬ怖さみたいなのがある。


 俺も深海の生物の本とかは良く読んだものだけど、あれほど怖いものはないぜ。


「ふう、どうしたものか」


「え? どういうこと?」


「周りを見てみなよ」


 言われて俺は見渡すが、とくに変わった様子はない。


 変わった様子がない?


 そうか、こいつの言いたいことが分かったぞ。


 周りにはこの先続く道や、それらしきものがない。

 つまり、俺らに残されたルートがこの地底湖の水の中を進んでいく道だけってことだ。


「え、ヤバイじゃん」


 あんな意味分からない生物のいる水の中になんて入りたくないお。


「そもそもバーバルはもう先に進んでるんだろ? どうやってここクリアしたんだよ、あんな怖いやつがいるんだぞ」


「多分あの人は別ルートで進んでるんだ。というよりこの道が正規のルートじゃないっぽい。ま、諦めて泳ぐしかないよ」



 なんでお前そんな冷静なんだよ。あれまじでヤバイやつだって、お前マジで水の中の生き物ナメすぎてるって。


 ジュラ紀辺りの魚図鑑を今俺が所持してるなら今すぐこいつの顔面に叩きつけてやりたいところだ。それくらいにアレからはやばさを感じる。




「提案がある」


「なに?」


「引き返そう」


「却下」

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