転生!異世界より愛をこめて
全てがどうでもよくなる程ではないが、気持ちいい空だった。青空ではない。
赤く染まった世界を俺は落ちていく。
そう、魔界の空に俺はいた。凄いスピードで落下している。
眩しいな、太陽が。
風が気持ちいい。
世界は俺を中心に廻ってる。そう考えてた時期が俺にもあった。
世界は俺の意志なんて関係なく勝手にクルクル回ってるつもりらしい。
だが、俺は勘違いしていた。
やっぱり俺が世界の中心だ。
それに気づいたのはついさっき。教えられた。
自分の小ささ? 現実?
そんなもん受け止めなくていい。真正面から見なくてもいい。
好きなようにやればいいんだ。
ティルフィング、ルル、ありがとう。
今度こそ俺は大丈夫だ。
――俺は創造する。
バサァと背中に現れたのは白い翼。
初めて転生した時は出せなかったよな。
というより、なんでまだ創造が使えるんだろう。
そんなことはどうでもいいか。
とりあえず、俺すっぽんぽんじゃん。
やばいな。裸で飛翔なんて相当のキチ野朗だ。
しかし俺は翼をはためかせ、地に向けて急降下する。
魔神に乗っ取られたシャーラが見えた。
随分と豪快に暴れている。
だけど聞こえるぜ。
シャーラの助けを求める声が。助けてくださいレイヤって、あの時みたいに。
まあそんなのは実際聞こえないけど、聞こえることにしておこう。
そこにいるんだろ、シャーラ!
着地。
というより、俺は魔神シャーラの目の前に落下した。
俺は某サイボーグよろしくかがんだ姿勢から俺は立ち上がる。
「俺、転生」
「お前……なぜ……」
「地獄から舞い戻ったぜ」
俺はいつか捨ててしまった学生服を創造して、身を包んだ。
ブレザーをバサッとはためかせ、ポーズを決める。
「シャーラの体を好き勝手使ってくれてるようだな、魔神。
だがまあ終わりだ。俺が来てしまったからな」
魔神は数歩後ずさった。俺は鋭い眼光で威圧する。
「フクク……」
「何がおかしい」
てかどんな笑い方だよそれ。
「お前は、この体を攻撃できないだろう」
「なるほど。
つまりお前はこう思ってるんだな?
俺が攻撃してこないと」
「そうだ」
「ククク、正解だ。可愛いシャーラちゃんを傷つけるなんて俺にはできない……。悲しいことにな」
ククク、マジでどうしよう……。
「無限の魔力を手にした余はもはや無敵。神さえ手に届く」
「はいはい」
俺は魔神シャーラの胸をムンズと鷲掴みにした。
ああ柔らけえ。久しぶりだね、シャーラのおっぱい!
魔神シャーラが俺の手を払ったが、一回転して今度は左胸を鷲掴みにする。
やっぱりこいつ、可愛いな。
魔神シャーラの攻撃を避けつつ、おっぱいを揉んでいる俺はそんな事を考えていた。
「ハァッ!」
魔神シャーラのパンチを片手で受け止める。
後ろに衝撃波。
透き通った肌の小さな手が、俺の手のひらの中にあった。すべすべじゃんこいつの手。
「シャーラの体であんまり無茶しないで欲しいな」
「なっ……」
魔神シャーラは手を引いた。
その手を掴んでいた俺は引きつけられる。
そして俺はそのままシャーラを抱きしめた。いい匂いだ。
中身魔神だけど。
俺はそのまま手を腰に回すと、今度はその可愛いおしりを撫で回してやった。
「な……な……、なにするんですか!」
どこ狙ってるのか分からないような、シャーラのパンチだった。
俺が一旦距離を取ると、シャーラは頭を抱えてうずくまった。
「うう……ぐぅ……なんだお前……!」
「まさか……」
体の中で魔神とシャーラが戦ってるんだ!!
なんというベタな展開……。だがよろしい。無理やりにでも魔神を引きずりださねば。
「ぐぅァ!!」
苦しむ魔神シャーラの頭を俺はよしよしする。
すると、魔神はその手を払って大きく後退した。
が、俺はすでにその背後にいる。
可愛く俺を探してる魔神シャーラの頭を、俺はまた撫でた。
「なっ……!?」
なんていうか。シャーラだと何しても可愛いっていうかね。
魔神の威厳がないっていうか。
魔神の振るった腕を避ける。
その瞬間、魔神シャーラの白いワンピースの肩紐が少しズレた。
俺は能力を使ってまたも魔神シャーラの背後に回り込む。そしてその肩紐を優しく直してあげた。
「これでよし、と」
魔神シャーラはぷるぷる震えていて可愛い。
「なんなんだお前は……!」
「なんなんだろうね、俺って」
フーと息を吐いた所で、シャーラは飛び上がった。
俺はその無駄なあがきをあくびしながら見上げる。
起死回生からの熱いバトルを展開したかったのだけど、やっぱりシャーラが相手だとそうもいかないなぁ。
「この大陸ごと消し去ってやる!」
魔神シャーラの叫びと共に、空をあり得ないサイズの魔法陣が覆った。
魔法陣の中心に、光が凝縮されていく。凝縮された光はどんどん巨大化していき、やがてそれは太陽を思わせるような巨大な球体へと変貌を遂げた。
「終世界!!!」
光が落ちてくる。
ゆっくり、しかし確実に近づいてくるその巨大な球体はが、魔界を白く照らした。
それに触れた木々は、溶けて消えていく。
眼前まで迫ったそれを前に俺は右手を天へかざした。
そして触れる。
パリィィン、とガラスが割れるような音がなった。
そう。
「そ げ ぶ」
構成された光球は、無へ。
「なァッ……!?」
「まだやるかね?」
俺の勝ちは確定している。
だけど、魔神にシャーラの体から出ていって貰わなければならないのだ。
「余は勝てないようだな。貴様に」
「そうだ。良く分かってるじゃないか」
「だがお前は解っていない……! 余は魂として生き続けることが出来る! 故に余に勝つことなど不可能だ!
勝てないのならお前の寿命を待てばいいのみ!」
俺は衝撃を受けた。魔神の行動にである。
結論を言おう。
魔神が逃げた。
「ちょ、待てゴルァ!!」
高速で上昇していく魔神。あいつまさか星の外に逃げるつもりかよ!
しかも無駄に速い!!
「ちょ! マジで待てや!!」
俺も魔神シャーラを追って、どんどん上昇していく。
冗談じゃねぇ! 逃げるならシャーラ以外の体使えや!!
「カイオー拳!」
俺は加速して、魔神シャーラの手前に回り込んだ。
急ブレーキをかけてとまる魔神。
「早く返せやシャーラの体」
「断る。そしてお前が余をこの体から追い出すことも不可能だ」
再び飛翔を試みたシャーラの腕を掴んだ。
振り返り、俺に向かって殴りかかってきた拳も受け止める。
今、完全に目が合い、向かい合っている。
「シャーラの体から、出ていけ」
魔神シャーラの瞳を見つめ、俺は言った。
創造能力で無理矢理シャーラと魔神を切り離すことは可能だ。
だけど、俺はシャーラの意思を問うていた。
俺の手を振り払おうと、暴れまわる魔神。
無駄だ。俺はこの手を離さない。
「レ、レイヤ……! 私は……! ぐぅ……!」
「シャーラ……」
「ぐ、ぐぬぅ、貴様ァ……! 大人しく……!」
「シャーラ、お前はどうしたい? 教えてくれ」
「わ、私は……!」
「うん」
「死にたい……!」
その言葉と同時に、シャーラの背から黒いもやが浮き出てきた。
魔神の魂って奴だろうか。
煙はゆっくりと地上へ向かっていく。
『ゴォォォォォォ!!!』
俺はそのもやを手で掴み、そして握り潰した。明らかに触れる感じじゃなかったのだが、そう念じたら触れた。
手から漏れたもやが、霧散して消えていく。
そして、空が晴れた。
俺は改めて、死にたいなんて抜かした、シャーラの方を見る。ぶっちゃけ魔神なんてどうでもいい。
今はこっちが問題だ。
しかし、そこにシャーラはいなかった。
あいつ、落ちていってやがるっ!
俺は落ちていくシャーラをすぐさま追った。
頬にぴちゃりと何かが当たった。
雨ではない。それはシャーラの涙だった。
俺は手を伸ばす。
「触らないでください……!」
「本気で死ぬ気かよ!」
こいつはまた何を言いやがる。
「私のせいで……! 色んな人が死にました!
ルルも……! ティルフィングも……! レイヤだって!
世界が私を許すはずが……ありません!」
「世界なんて関係ないだろ!」
「……私はレイヤみたくに強くないんです……っ! 分かってくださいよぉ!」
「なんでだよ! それでも俺はお前に!」
叫ぶ。くそ、くそ!
こいつは何もわかっていない!
「だって私は……!」
「うるせぇなお前!!
ゴタゴタゴタゴタゴタゴタと!!
俺に惚れられてるからって良い気になってんじゃねぇ!!
もう魔王とどんな関係だったとか何がしたかったのかとか興味ねぇ!!
悲劇のヒロインごっこはもういいだろ!!!」
「なっ……!」
俺はシャーラを追いかけるのをやめた。
その場に留まって、創造する。
ああ、しゃーねーな。
シャーラがゴタゴタうるさいから仕方ない。赤面じゃ済まされないことしてやるよ。
マイクを片手に。
『全世界のみなさん聞こえますかァァァァァ!?!?』
俺の声が世界に轟く。
ティルフィングがここにいたなら大笑いしたことだろう。
ルルは……、ごめんな、やっぱ俺シャーラが好きだ。
お前は「知ってた」なんて言って笑うんだろうけど、ルルのことも大好きなんだぜ、俺。
『この度世界を救わせて貰った霊界道零矢と申しまァァァァァす!!』
聞いてんのかシャーラ。
俺の愛の告白、世界に聞いてもらうことにした。
『実は俺!! シャーラという女の子が大好きだァァァァァ!! 愛してるゥゥゥ!!
抱きしめてぇぇぇぇ!!! むしゃぶりつきてぇぇぇぇぇ!!!』
自分で言ってても恥ずかしいよ。
現に顔真っ赤だもん。
『もう一度言う!! 銀髪で!! 白いワンピースが似合うシャーラのことが俺は大好きだァァァァァ!! 俺の名前は霊界道零矢だァァァァァ!!』
シャーラをちらと見ると、顔を真っ赤にして耳をふさいでいるのが見えた。
『初めて会った時からぶっちゃけ好きだった!! 強気な態度とっても内心ドキドキして接してた! お前の飲み差しのコップ舐めたこともある!! お前の顔が好きだ! おっぱいがすきだ!! 匂いが好きだ!! 髪が好きだ!! 背中のホクロ気にしてる所が好きだ! 枕を畳んで使う所が好きだ!! 何を思ったのかこんにゃくで体洗ってたところとか好きだ!! こっそり意味不明なポエム書いてる所が好きだ!! 恋愛長編しか読まないところが好きだ!! 海底神殿にいた頃のマイブームが泥団子だったこととか好きだ!! 結構な頻度で俺のパンツを間違って履いちゃうとこも好きだ!! たまに一人でニヤついてるとこも好きだ!! ほとんど大好きだァァァァァ!!!』
さて、やばいカミングアウトを今からするか。
リアル死ぬほど恥ずかしいってのを見せてやる。
『カミングアウトします!!
実はこの俺……!! シャーラの残り湯を飲んだことがあります!!!
シャーラのワンピースを夜な夜な一人で着たこともあります!!
他には……』
「やめてください!! バカですか!?」
シャーラの叫び声が下から聞こえた。
俺はマイクを投げ捨て、シャーラの元へと駆けた。
「なんだよ! 死ぬつもりならどうでもいいことだろ!」
「それは……!」
「な!? そんなもんなんだよ!!」
「だからってあんなこと言う必要ないじゃないですか!!」
「うるさいな! 俺だって恥ずかしかったんだ!」
「バカです! バカ!」
「ほら、来いよ! 俺の胸に飛び込んで来い!!」
「……!」
泣きそうになってやがる。そんなにさっきのがこたえたかな。
「シャーラ! 世界がお前を嫌ったって関係ねぇ!!
俺が好きだからそれでいい!! お前マジで勝手に死んだら俺も全世界巻き込んで自殺するからな! 俺は全人類を人質にとった! とにかく! お前のことが好きだから俺はシャーラに死んでほしくない!
結婚しよう!!」
「……話が、飛びすぎですよ……」
シャーラが俺へ、手を伸ばした。
「……!」
俺はその手を強く掴み、引き寄せた。
そして抱きしめる。
「私も大す……んぅ!」
キスしてやった。
一瞬シャーラは目を見開いたが、すぐに瞳を閉じる。
やべぇ、唇柔らけえ。
いい匂いする。シャーラの髪の毛がくすぐったい。
ああ、生きててよかった。
俺達は唇を重ねながらどこまでも落ちていった。
ーーー
この世界。
素晴らしく美しい。
崩れた魔王城の上で俺とシャーラは寄り添い合っていた。
「夕日が綺麗ですね……」
しばらく、風に吹かれて俺達は夕日を見ていた。
「これからどうする? また二人になっちまったけど」
「レイヤに任せます。あとドサクサに紛れて胸触らないでください」
「え? だって俺らもう恋人だろ?」
いたずらっぽく笑ってみせる。
「そ、そういうのはベッドの上で……」
「マジで!?」
「そ、それより今はこれからの話でしょう?」
「ああ、そうだったな。
また世界中テキトーに旅でもするか?」
「あ、いいですね」
学園にまた行くってのもありだな。
うーん、全部やればいいか。
強い風が吹く。
シャーラの髪が靡いた。俺はそれをぼーっと眺める。
「どうしたんですか?」
「ああ、なんでもない」
「そうですか」
そう言ってシャーラはまた前を向く。
そんなシャーラの横顔を、俺は思わず二度見して――
もう一回おっぱい揉んだった。




